FC2ブログ




真っ暗なベッドルームを照らすのは東京タワーのインフィニティ・ダイヤモンドヴェールだ。

司は湧き上がる強い衝動を抑えることができない。
この女を抱きたい。
そのことしか、もう考えられなかった。

女をベッドに投げ出すように横たえ、オーダーのジャケットを脱いで投げ捨て、もどかしいネクタイをグイグイと抜き取り、白蝶貝のボタンを弾くようにシャツを肌蹴ると、引き締まった無駄のない肉体が現れた。
そして半身を起こして呆気に取られたような、それでいで幻でも見るかのような顔つきで司を見ている女に被さった。
女の脚の間に陣取れば、集中した血液がスラックスの中に形づくった雄の猛りが、女の布越しに湿り気を帯びた秘部に当たる。
すると司の中の雄が、この布の先の自分の番に早く会わせろと急いてくる。
司は堪らず自分でも無意識に腰を擦り付けていた。

司は女にキスを繰り返しながら、その髪を梳いて見えた耳に舐りついた。
女を抱いたことなどないのに、抱き方など知らないはずなのに、本能が次に何をすべきか教えてくれる。
カーマインレッドの上から胸を撫でていた手が背中に回ってファスナーを下ろした。

一度ベッドの上に起き上がって、女からワンピースを剥ぎ取った。

その白磁の如き肌に纏うのは同じカーマインレッドのランジェリーだ。
レースだけのブラの向こうには桃色の頂が見え、ウエストにはガーターベルトが巻かれ、ショーツは小さな布を紐で結びつけただけのものだった。


「きゃっ」


女が咄嗟に胸を覆い、スラリとしなやかな脚を引き寄せ、丸くなった。


「処女のくせにすげぇエロい下着だな。」


言いながら、司は自身も残っていた衣服を脱ぎ、ボクサーブリーフ1枚になって再び女に被さった。
女は真っ赤になった顔を目一杯に逸らして目をギュッと閉じた。


「お前、名前は?」


女は閉じていた目を開け、横目で司を見ながら、ゆっくりと正面を向いた。
女の顔の半分だけが夜景に照らされていた。


「あたしの名前…は、…シズク…」

「シズクか、今夜だけはその名前だな。」


女はただ司を見つめていたが、やがて呟いた。


「あんた…は?」


“ あんた ”

司をそう呼ぶのは姉の椿しかいないはずなのに、なぜか懐かしく響いた。


「俺は、ツバサだ。明神ツバサ。」

「明神……ツバサ…?」


その時、司はダイヤモンドよりも価値のあるものを見つけたと思った。
シズクがくしゃりと微笑んだのだ。


「いい…名前だね。」


そして女は胸を抱きしめていた腕を解き、司に伸ばした。


「抱いて…」


ザワッと何かが肉体の芯を貫き、司は総毛立った。
シズクに被さり、額を撫でてその瞳を覗き込んだ。


「一生忘れない夜にしてやる。」


そして二人のレクイエムが開演する。











二人は長いキスに没頭した。
抱き合い、唇を重ね合う。
いくらしてもし足りない。
こんなにキスを貪ったのは初めてだった。

息継ぎに少し離してシズクの顔を見れば、目が潤み、その表情が司を煽り、またキスがしたくなる。

まさかこんな夜になろうとは。
もっと事務的に終わると思っていた、終わらせると思っていた。
なのに、今はこの女に最高に感じて欲しくて、悶えさせたくてたまらない。


「キスが好きか?」


何を聞いてんだと自嘲が漏れるが、それでも答えを待った。


「…あんたのキスが好き…かも…」


ドキンッと心臓が跳ねて、ドクンッとオスが昂る。
女を必要としなかった司は、オトコの生理現象を専ら自己処理してきたが、それも週に一回程度、性的興奮からというよりも溜まったものを出してしまうためだった。
なのに今夜はシズクのランジェリー姿を見ただけで血液がソコに集中し始め、キスの合間に漏れるシズクの吐息にそれは完全に異形を成していた。


「じゃあ、もっとしてやる。舌出せ。」


言われるがままにシズクが出した赤く薄い舌に吸い付いた。
そのまままた唇を合わせ、舌先を絡め、口内を嬲っていく。


「ン……は…ぁ…」


粘膜を擦り合わせても嫌悪感はない。
それどころか、シズクの喉から漏れる喘ぎに、キスでは足りなくなってきた。
レース1枚のブラの上から胸を揉みしだきながら、司はシズクの首筋に顔を埋めた。
そこから香り立つ甘い匂いに目眩がする。


「お前、これ何をつけてんだ?」


これまで嗅いだことのない扇情的な香り。
他の女とは違う、麻薬のように中毒性のある、体の芯が痺れるような香りだ。


「何って?」

「どこのパルファムだ? それともオリジナルか?」

「そんなの…何もつけてないよ。」

「嘘つけ。すげぇいい匂いすんだけど。」


まるで獣のように、司はシズクの耳の後ろから首筋に沿ってクンクンと匂いを嗅いだ。


「やだ、ちょっとやめて。何もつけてないって。ボディソープの匂いじゃない?」


違う。
これは彼女自身から香る匂いだ。
ひとつ吸い込むたびに、安らぐような、それでいて急き立てられるような匂いだった。

その美味しそうな首筋をキスでたどり、手はいよいよその柔らかさを直に感じようと背中に回った。


「あっ…待って」

「なんだよ。」


ブラのホックを外そうとしたその時、つくしが体を起こした。
つられて司も起き上がった。


「今更やめるとか言うなよ。」

「そんなこと言わない。」


つくしはベッドの上に座り、司に向かい合った。


「あの、あたしもあんたに触っていい?」


暗がりでもわかるほど頬を染め、上目遣いに司を伺うその表情にまたドキリと胸が高鳴った。

また…
俺はなんで、さっき会ったばかりのこんな女に…

そう思うのに、夜景が照らす彼女の表情がやけに艶っぽくて司は目が離せない。


「別に、いいけど。」


そう答えたら女はベッドの上をズイッと進み出で、膝を立てて座る司の脚の間に陣取った。
彼女の瞳に映る自分が見えた。


「髪、触っていい?」


いいわけない…と答えようとしたのはただの習性だ。
その証拠に心は別の答えを用意した。


「…かき混ぜんなよ。」

「プッ、そうだね、かき混ぜたらすごいことになりそうだもんね。」


シズクを笑顔にした。
そのことがなぜか誇らしい。

つくしは司の髪に手を伸ばした。
そう言えば触ったことがなかった、と思い当たった。
クルクルの巻き毛に触れるとそれは思いの外柔らかい。
ポンポンと手を弾ませると弾力があった。


「予想より柔らかいんだね。」


そう言った手が下りて耳介から耳たぶを撫でた。
司は反射的に首を竦め、耳を押さえた。


「耳、感じるの?」


昔、同じセリフを誰かに言われた。
ああ、そうだ、あれは騙し討ちの見合いで大河原滋に言われたんだ。
メープルを飛び出した時に間違えてあのサルの手を掴んでて…
間違えた…?
誰と…?

しかし思考はそこで寸断された。
シズクの手が頬を撫でたからだ。
細い指が優しく司に触れる。
女に触れられることに不快以外は感じたことはなかったのに、今夜は甘美だった。

手はさらに首を撫で、肩線を撫で、指先が鎖骨をツーっとなぞった。


「すごく、綺麗な体だね。肌も筋肉も、骨さえも。」


そう言ってシズクは手をスッと胸に落とし、薄く隆起した胸筋を撫でた。
司は淡く光の差す暗い部屋で、真剣に自分を観察する女を見下ろしていた。

この女は本当は俺が誰だか知っている。
そしてあれだけ驚いて泣くってことは、俺を憎からず思ってるってことだ。
そんな男に抱かれるという幸運に浴しているのに、この女からは生々しい欲望が伝わってこない。
処女だからか?
セックスを知らないからか?
では、それを知ればこいつも俺に群がる女たちのように、眼を血走らせ、舐め回すように俺を欲しがるようになるのか?

でももしもシズクが自分をそんな目で見るようになっても、やっぱり不快には思わないだろうという予感が司にはした。
なぜなら、今こんなにも求めているのはむしろ自分の方なのだから。

早くその滑らかな肌に触れたい。
布の上からでも十分に柔らかい乳房を直接、愉しみたい。
身体中にキスをして、そして愛撫で濡れた秘めたる場所で繋がりたい。

そんな妄想でシズクを見つめていたら、胸を通過して腹筋を撫でていた指先に力が入った。


「……こうやって触れてみたかったの。」


ヘソまで下りてきたシズクの手の熱が下腹部に伝導する。
それは限界ギリギリまで司を追い立てていたが、余裕のない姿など見せたくなかった。
だから司はグッと拳を握りしめ、静かに答えた。


「男に?」


司の声が耳に届き、シズクは顔を上げた。
そして曖昧にフフッと微笑んだ。


そのとき、今夜だけはシズクと名乗るつくしの脳裏に浮かんだのは、滋に拉致されて辿り着いた無人島の夕日だった。
司と眺めながら、世界に今二人だけだと感じた。
そしてこの人に触れたいと、触れて欲しいと初めて沸き上がった思いが今、つくしの心に蘇った。
だから、もし次にチャンスが巡ってきたのなら、必ず伝えようと思っていたことを実行に移した。

つくしは司の胸にトンと額を当て、囁いた。


「もう怖くない。待ってくれてありがとう。」


それは6年前の出来事。
すんでのところで怖くなって泣き出したつくしに「待つ」と言って止めてくれた司への感謝の言葉だった。
だがもちろんそんなことは今の司の記憶にはない。
それでもいい。
どう解釈されてもいいから、もう後悔しないように伝えたかった。
すると司の腕が背中にまわり、抱き寄せられた。


「覚悟が決まったんなら、もう待った無しだからな。」


そうして再びベッドに横たえられて見えた司の目は、6年前と同じ欲情に光った男の目だった。
その光が近づいてきて、再び唇が重なった。
ランジェリーが全て取り去られ、手が這い、肌が重なる。
その温もりに、つくしの中で長年堰き止められていた司への恋情が溢れ出した。

会いたかった。
抱きしめてもらいたかった。
ずっと好きだった。

その想いを今夜だけは解放し、つくしもまた司を抱き寄せた。











にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

スポンサーサイト



2021.05.03
コメント記入欄

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| 2021.05.04(Tue) 16:04:51 | | EDIT