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花沢邸に到着したつくしは、「坊ちゃんから伺っております」と恭しく礼をした使用人に応接室に通されていた。
程なくして類が帰宅し、玄関からそのままつくしもとへやってきた。
ほぼ同時に飲み物の給仕に来た使用人頭に類が告げる。


「河瀬、人払いして。」


“ 人払い ” とは主の許可があるまでは、誰もこの部屋に近づくな、という指示だ。
これを受けると河瀬は、応接室に通じる廊下の利用禁止を使用人に徹底した。


「忙しいのにごめんね。」


うつむいたまま、つくしが申し訳なさそうに言った。


「いいよ。気にしないで。で? 今日はどうしたの? 急に俺に会いたくなったってわけ?」


何も知らないことになっている類は、わざと軽い調子で話しかけた。


「うん…そうだね。類はあたしの道しるべだからね。」

「ふーん。道しるべが必要なの?」

「…道明寺が、えっと、道明寺財閥の今の窮地を五条院が助けてくれるって話、知ってる?」

「らしいね。昼間さ、司のオフィスに居たんだよ。あきらと総二郎も。それでおばさんから聞いた。」

「そっか。それで、今日ね、あたしも五条院邸に呼ばれたの。」

「牧野も!?」

「うん。それで五条院が道明寺を助ける条件を出されたの。」


司の結婚だろう?
わざわざ恋人まで呼び出して言い渡したって?
悪趣味な連中だな。


「条件って?」

「道明寺と五条院のお嬢様、蝶子さんの結婚、そして…」

「そして? 条件に続きがあるの?」


コクンとつくしはうなずいた。


「あたしに道明寺の愛人になって一緒に住めって。」


予想だにしなかった言葉に類の目が見開かれる。
声が出ない。
言葉だけがぐるぐると頭の中を巡り、話の理解ができない。


「愛…人……?」

「蝶子さんには恋人がいるの。でもその人は使用人の息子だから結婚はさせられないって五条院の総帥が仰って…それで蝶子さんはその人を連れて結婚するから、道明寺にもあたしを連れて来いって。」


類は思わず立ち上がった。


「なんだよそれっ! そんな条件、呑めるわけないだろ!」

「でも、」

「牧野!」

「あたしが断れば結婚はなし。五条院は道明寺に手を貸さないって。」


!!


司が言ってたのはこのことか!


“ あいつに自分の幸せ以外のことを考えさせないでくれ。 ”


司、でもそれは無理だよ。
牧野の瞳はもう決断してる。
この女はひとりで決める女なんだよ。

類は切ない思いでつくしを見下ろした。


「類…とにかく座って。話を聞いて。」


つくしに促され、類はもう一度腰掛けた。


「話を聞くって、なんの?」

「あたしは…」

「どうすればいいかわからない?」

「ううん、違う。あたし、もう決めてる。でもそれがどれだけ苦しい道なのか、わかってるつもりでも実はまだわかってないんだと思う。」


つくしの決めた道。
それはわかりきっていた。
そしてそれはもう一つの道よりも過酷な選択だろうことも類にはわかった。


「道明寺が蝶子さんと結婚するって聞かされた時は終わったって思った。この場で別れさせるために呼ばれたんだって。でも糸は切れなかった。そのことに安堵してる自分がいた。」

「でも牧野、公式に発表はされてなくてもあんたは司の婚約者なんだ。正式な妻になる女なんだ。なんでわざわざ愛人になる必要がある?道明寺なんてあんたが愛人にならなくてもどうにかなる。俺たちも大河原だっているんだ。みんなで救えるよ。あんたは自分の幸せを考えろよ。司だってそれを望んでる。」

「考えてるよ。」

「いや、考えてない。考えてるなら、今なんでここにいるの? なんで司のそばにいないの?」

「え?」

「あんたはどうせ自分が司といっしょにいたいからだって言うんだろう。だからこっちの道を選んだって。でもそのことで司は苦しむ。その姿を見てあんたも苦しむよ。だから牧野、ひとりで答えを出しちゃダメだ。あの雨の日に何を学んだ? ひとりで答えを出して何を犠牲にした? また司を犠牲にするの?」


つくしは眉根を寄せ、類を凝視した。

あの日、私は道明寺を切り捨てた。
巻き込まれた友人たちを救いたくて、道明寺がどう感じるかなんて頭の片隅にもなかった。
本当の気持ちに嘘をついて別れを選んだ自分に酔ってた。
類は私がまた同じことをしてるって言うの?
私が選ぶ道が道明寺の気持ちを切り捨ててるって?


「あんたの選択をきっと司は受け入れない。だからこそ、2人で決めないとダメだよ。帰りな。司が待ってる。」


類は立ち上がり、つくしのそばに寄り、つくしの手を取って立たせた。


「これが道しるべからの答えだよ。」


そうしてつくしの背を出口に向けてそっと押した。










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2021.01.14
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| 2021.01.14(Thu) 17:33:45 | | EDIT

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