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ゆらゆらと揺れる感覚で目を開けたつくしは、見上げて見えた司の顔のアングルから自分が抱き上げられ、何処かへ運ばれていることがわかった。


「司…」


呼びかけるとその顔がこちらを向いた。


「洗い流そう。立てるか?」

「…ん」


下ろされて見回すとそこは邸よりは狭いがバスルームの脱衣スペースであることがわかった。
そこでつくしはハッと意識が覚醒した。
司が全裸になり、つくしのネグリジェを脱がせようと片方だけ残っていた肩紐に手をかけたからだ。


「い、いい! 自分でする! ひとりで入れるから!」


と、胸元の布を押さえた手がヌルついた。


「え…? なに?」


見つめようとした手を司が素早く掴み、そのまま手を引いてバスルームに連れ込んでシャワーを勢い良く出した。


「キャッ! 冷たい!」


さすがに道明寺邸のようにはいかず、水で始まったシャワーは程なくして心地よい湯に変わった。
なにもかもが湯に溶けて流されていく。
汗も唾液も…それから……

手のヌルつきの正体に気づいたつくしは頬を染めた。
今更ながら、自分がしたことが、その姿を見られていたことが恥ずかしくて堪らなくなり、司に背を向けて膝を抱えてしゃがみこみ、膝頭に顔をうつ伏せた。


「つくし」

「…なに?」


頭上から呼ばれ、返事だけは返したが顔を見ることはできない。


「つくし」


今度は背後から声がした。
つくしはまだ違和感の残る首を回して自分の肩越しに後ろを伺った。
すると降り注ぐ湯の中で同じ目線に司の顔が見える。


「っ!」


急いでまた俯いた。


「怒ってるか?」

「え?」

「怒ってんだろ?」

「……怒ってるのは司でしょ。」

「こっち向けよ。」

「無理。…きゃっ!」


背後から抱き上げられ、無理やり立たせられ、振り向かされ、そして抱きしめられた。


「悪かった…」

「………」

「お前も悪いけど、俺も悪かった。」

「……なにそれ…あたしの何が悪かったのよ…」

「悪いだろうが! 俺にはしない笑顔をあの男には見せやがって。」

「は?……ま、まさかそんな理由?それだけの理由?」

「それだけじゃねぇよ! 二人っきりでイチャついてただろうがよ!」

「だからそれが意味わかんないから!! イチャついてなんかない! 友達と話してただけでしょ!」


二人はシャワーに打たれながら抱き合い、つくしはいつしか恐怖も忘れて司に向き合っていた。
その司はシャワーコックを捻って湯を止めると、濡れてストレートになった髪をかき上げ、自分に沿うつくしの柔らかい体の感触を確かめるように抱きしめていた。


「お前はまさか、男女の間に友情が成立するとか考えてんじゃねぇよな!?」

「考えてるわよ! 悪い!?」

「ああ、悪りぃよ! ンなもん、成立するわけないだろうが!」

「じゃあ司は知り合う女性、全員をヤラシイ目で見てるってわけね!」

「はぁ?? なんでそうなるんだよ! 見てねぇよ!」

「友情が成立しないなら、全員が恋愛対象なんでしょ? あたしにそう言ってるも同然なんだから。」

「俺は他の女に恋愛感情なんて抱いたことはない!」

「嘘ばっかり! 彼女がいたくせに!!」


思わず口を吐いた言葉につくしは「しまった!」と思い司から顔を背けた。

つくしはこのことを知っているのは秘密にしようと思っていた。
自分ががこの件について何か発言すれば、司の古傷を抉ってしまうと考えていたからだ。
しかし弾みとは言え、触れてしまった。
このまま知らないフリはもうできないと観念し、つくしは語り始めた。


「ごめん。たまたま知っちゃたの。あのパーティーの人なんでしょ? 華園さんだっけ。素敵な人だね。」


司の顔を見ることはできない。
もしそこに華園公子に向ける悔悟や愛しさを見つけてしまったら、もうつくしは道明寺つくしとして立ってはいられないだろうから。


「ダンスもお上手だったし、何よりすごく綺麗な人だし、きっとお人柄も素晴らしいん、」


しかしつくしはそれ以上、語らせてもらえなかった。
なぜならその口は司によって塞がれたから。
今夜はまだ一度も与えられていなかった司からのキスだった。


「ん……んっぅ…」


息継ぎをしながら、それは長い絡み合いだった。
唇と唇、舌と舌、膝を割って脚を絡ませ、胸を合わせ、全身で相手の存在を請うような、そんなキスだった。

つくしには先ほどの口淫で生じた下腹部の熱が蘇り、再び下肢の間を濡らしていくのがわかった。
抱かれたい…この人に今すぐに、抱かれたい。
濡れて身体に張り付いた薄いシルクの布越しに司の昂りを感じ、その熱はますます高まり、唇が離れ、自分でも分かるほどに潤んだ瞳にはもう司しか映っていなかった。

司はつくしを強く抱きしめた。


「あんなもん、嘘に決まってるだろ。お前は女たちに騙されたんだよ。」


つくしの目が見開かれる。


「嘘?」

「俺があんなシキタリも守らねぇ低俗な女、相手にするわけないだろうが。あんな女が綺麗だと? お前に敵うわけねぇんだよ!」


瞬間、司の言葉が理解できずに、つくしは顔を上げた。


「え…?」


見えた司の顔は湯で上気したように朱が刷かれ、泳ぐ目に昼間見えた冷たさはなかった。
司はつくしの視線を遮るように温かく大きな手で額にかかる濡れた前髪をかき上げ、現れた白い額にひとつキスを落とした。


「これじゃ風邪引くな。出ようぜ。」


そうして体を離して司は棚にあったバスローブを手に取った。


「お前、それ脱げよ。」

「え?…あ、ああ。じゃ、先に出てて。」

「…フンッ」


そして司は手にしたバスローブを自ら羽織ると出て行き、つくし一人が残された。


「なん…だったの…?」


嘘?
華園さんが司の恋人だったって話が嘘だったの?
え、待って、女たち?
なんで司はあたしがその話をされたのを知ってたの?
司はあたしがレストルームで浅井さんたちに会ったことを知ってるってこと?
どうやって??
いや、それより、話の内容をどこまで知ったの?

頭に浮かぶ幾つもの疑問に動揺しながら、つくしは着ているものを脱ぎ、そして首に巻かれた白い布も取り去った。


「!」


バスルームの鏡に映るその首には、くっきりと5本の指の跡が残っていた。
司が圧迫したのは頸動脈だったため、脳への酸素が滞り早々にブラックアウトしたのだ。
圧迫されたのが喉の前面にある甲状軟骨だったら、本当に死んでいたかもしれない。

ゾクっとつくしの背を恐怖が駆け上がった。
ただ健太と畑で話していただけだった。
友達として、少しじゃれついたのはあるかもしれない。
でも本当にただそれだけの場面だったのに、これほどの怒りを司が抱いた原因はなんなのか。
先ほどの言葉が過る。


“ どこにも逃げられない。お前はずっとこの腕の中にいるんだ ”


フッと、つくしから自分を嘲笑うかのような笑いが漏れた。
司の自分への執着に対する喜悦が死への恐怖に勝り、肌が粟立った。
つくしは首に残る司の指の跡に自身の指先を這わせた。

どんな理由でもいい。
ただ、妻として夫を独り占めしていられるならそれでいい。
この指の跡がずっと消えずに残るほど、何度でもあの人の執着を感じたい。

司がまだ誰も愛したことがないという事実が明かされた今、その喜びはつくしの中に仄暗い独占欲となって水面に落ちた一滴の墨液のように広がった。









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2020.05.16
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| 2020.05.16(Sat) 19:15:57 | | EDIT

Re: タイトルなし

Sor 様

コメント、ありがとうございます!
ちょっとダーク司が出てきちゃいましたが、今作の司は基本がピュアなのですぐに自分を取り戻しました!
2人の幸せに向かって難題をひとつずつ乗り超えていきたいです。

nona | 2020.05.17(Sun) 17:13:31 | URL | EDIT