FC2ブログ




エマから連絡が来たのはジェフリー・ホワイトを訪ねた翌日の土曜日、21時も過ぎたころだった。

《ツカサ!ジェフに会ったって!?》

挨拶もそこそこに、いきなり本題を突きつけてきた。

『ああ、会いに行った。いけなかったか?』
《何のつもりなのよ!道明寺の重役と友達になるには身元調査が必要だってわけ!?》
『落ち着け。そんなわけないだろ。詳しい話は会ってしよう。これから空いてるか?今どこだ?』
《いいわ。そっちに行くわよ。5番街でしょ?セント・パトリックの前で待ってる!!》

それだけ言うと通話は一方的に切られた。

やべぇ。相当怒ってるな。

怒られているのに、何故かワクワクしてしまう。
生き生きとしたつくしに接して、司は久しぶりの高揚感を抱いた。



*****



エマは後悔していた。

こんなとこに呼び出すんじゃなかった。

セント・パトリック教会周辺は5番街57丁目に近く、有名ショップが立ち並ぶ繁華街だ。
いくら営業は終了していても、まだ人通りは多い。
そんな場所にこの男を呼び出すなんて、自殺行為だった。

『エマ!』

リムジンから降りて走り寄ってきた男は、その秀麗さで一瞬にして周囲の視線の全てを集めていた。

マズイ。

司をモデルと勘違いした人々が、一斉にiPhoneのシャッターを切る音がする。

ひぇぇぇーー

『ちょ、ちょっと、リムジン乗せて!』

エマは司に捕まる前に、うつむいて自分から司の腕を掴むと、リムジンに乗り込んだ。
リムジンは司の指示で適当に動き出した。





『はぁぁー、ごめん。』

司の向かい、運転席側に座り、リムジンの背もたれに体を預けて謝ったのはエマだった。

『なんで謝るんだよ?』
『いや、あんなとこに呼び出して。ツカサを晒し者にした気分。』
『フン、慣れてるよ。』
『今日はあの近くで仕事だったから、つい。今度から気をつける。』

“ 今度 ”と言われて、司は思わず頬が緩む。
次があることが嬉しい。

『で?言いたいことがあったんだろ?』

その言葉にエマがハッとした。
みるみるうちにその目には怒りが宿り、黒い大きな瞳がキラキラと輝いた。
それは9年前に見た、牧野つくしの目だった。
ある種の感動が司を包んだ。

『そうだった!ツカサ!どうしてジェフに会いに行ったりしたのよ!私がどこの馬の骨とも知れないから育てた人を見てみたくなったわけ!?』
『ちがう。そうじゃなくて、お前が見つかった土地が道明寺の別荘地だったんだ。』
『・・・は?・・うっそ・・・』
『本当だ。9年前、うちのバンクーバー郊外にある別荘地の監視小屋から女性用の靴が見つかったんだ。でも誰のものかは分からなかった。この前エマの話を聞いて、もしやと思って調べたらビンゴだったわけだ。それでジェフに会いに行った。真相を知りたくて。』
『・・・そ、そんなことがあるんだ・・』

エマは気が抜けたように呆然とした。

『じゃあさ、私が何者かもわかったの?』
『・・・いや、それはわからない。』

司にチクっとした罪悪感がよぎった。

『そっか。ま、それはいいや。それで?ジェフに余計なことは言ってないわよね?』
『余計なことって?』
『その、男と暮らしてる、とか。』
『秘密かよ。』
『心配かけたくないから。ジェフは都会が嫌いだからNYには来ないのよ。だから言わなきゃバレないでしょ?』
『大丈夫だ、言ってない。ったく、とんだ不良娘だな。』
『不良にならないために男と暮らしてるのよ。』
『どういうことだよ?』
『ウィルは大学時代の同級生なんだけどね。私に近寄る男がいちいち寝たがってうるさいから相談したら、「だったら男と住んでるってことにしたらいい」って言われて。それで暮らし始めたの。お陰でウザいお誘いはなくなったわけ。』
『で、ミイラ取りがミイラになったんだろ?』
『あはは、まあそうだね。』
『チッ、そろそろプロポーズか?』
『は?ウィルが?まさか、ありえないっ!わはは〜』
『部屋がバラでいっぱいになってたり、サプライズで指輪をくれたり、そういうことはなかったのかよ?』
『・・・・え?あれ、プロポーズなの?』
『・・・・』

鈍感は相変わらずか。
ウィル、甘いぞ。
そんなもんでこいつが気づくわけねーだろ。

『えぇぇぇーーーー!!!』
『うるせぇ・・・』
『うっそ!マジで!?えー、どうしよう。』
『どうするんだ?結婚するのか?』

なんでこんなことを俺が聞いてんだよっ!

『するわけないでしょ!愛してないもの。』
『愛してない男と同棲なんてするからだ。今すぐ別れて家を出ろ。』
『・・・・今、ウィルが応募してるコンテストで優秀賞取ったら大きな家に引っ越そうって。もしかしてあれもプロポーズ?』
『だろうな。鈍感だな。』
『あーー、それよく言われる。そっか、私って鈍感なんだぁ。』

鈍感だって気づいてくれただけマシかもな。

『どうしよう、どうしたらいい?』
『俺に聞くな。』
『だよねー。ああー、合わせる顔がないわ。』
『お前はどうしたいんだよ?結婚しないならハッキリ言ってやれよ。相手の時間を無駄にさせちゃ可哀想だろ。ウィルの運命の相手が待ってるぞ。』

こいつは人に迷惑をかけるのを極端に嫌うから、本質が変わってなけりゃこの攻略法で合ってるはずだ。

『そっか、そうだよね。わかった!別れる。』

よっしゃーーー!!

『こういうことは早い方がいいぞ。』
『わかった。今夜、話す。』
『あのアパートメントを出るのか?今夜からどこに行くんだ?』
『うん、あそこはウィルの部屋だから。今夜はモーテルかな。明日になったら適当に探すよ。』
『・・・部屋なら余ってるぞ。』
『ツカサのとこの物件?ムリムリ!道明寺が扱う物件なんて、私に払えるわけないでしょ。』
『男除けのために男と暮らしてたんだろ?だったら次もそうすりゃいいだろ。俺の部屋には部屋が余ってる。お前の言う“ 持ち腐れ ”ってやつだ。』
『は?私、ツカサと暮らすの??』
『そうだ。セキュリティも万全だし、リリーんとこのVOGAも近いぞ。』
『近いってどこよ?』
『アッパーイースト』
『ア、ア、ア、アッパーイーストォォォ???』
『だから、うるせぇって。』
『そ、そんな超!高級住宅街に暮らせるわけないでしょぉぉ!?』
『なんでだよ?部屋が無駄に余ってるんだぜ?』
『いや、無駄って、だって』
『友達、なんだろ? 友達が困ってたら、お前ならどうするよ? 助けるだろ? それとも、放って置くのか? 』
『いや、そんなことしないわよ! そりゃ、私にできることならなんでも協力したいわよ! 』

ニヤリ。
司はもう勝利を確信した。

『だったら決まりだ。俺のとこに来い。俺はウィルみたいなミイラ取りにはならないから安心して来い。』
『ハァ、はなっから疑ってないわよ。』

エマは片手で頭を抱えながら、自分はどこをどう間違ってツカサと暮らす話になったんだろうか?と狐につままれたような気分だった。



*****



リムジンはブルックリンのエマのアパートメントの前に到着した。
エスコートして降ろす。

『待ってなくていいから。タクシーで向かうわよ。それに今夜、出るとは限らないし。』
『土曜のこんな時間にタクシーなんて捕まるかよ。夜道は危ないし。お前、明日の朝にはセントラルパークで全裸なんて嫌だろ。』
『だから今夜、部屋を出るとは限らないでしょ!いいから帰って。明日には必ず連絡するから。』
『・・・・わかった。何時でもいいから、揉めたら連絡しろよ。』
『ウィルは優しい人だから大丈夫よ。』

フン!相変わらずのお人好しか。
ウィルがそんな簡単にお前を離すわけねーだろうが。

『じゃ、今夜はありがとう。』

そう言ってエマは司にチークキスをした。

『・・・香り、変えたの?』
『ああ。昔の男を思い出されちゃたまんねぇからな。』
『もう!こんな時に冗談ばっか!じゃーね!』

エマはアパートメントに入っていった。



…冗談なんかじゃねーよ。
昔の俺を思い出されちゃ困るんだよ。
お前には今の俺だけ見て欲しいんだ。



司は付き従っていたSPにエマの部屋を見張るように命じた。

『少しでも争うような声が聞こえたら俺を呼べ。』
『はい。』








にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト
2018.11.08
コメント記入欄

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| 2018.11.09(Fri) 11:47:01 | | EDIT