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あれから数日が経った。


司は朝食の席で新聞を読むフリをして、実は昨夜のことについて考え込んでいた。

つくしとの関係が前進するきっかけになれば、と出席したあの創立記念パーティーの日からつくしの様子はさらにおかしくなった。
帰りの車の中で「疲れているから」と渡りを断られたのは百歩譲って許そう。
確かに初めて連れて行った場だ。
そりゃ疲れもするだろう。

でもその翌日からの渡りでは、あきらかにつくしは司に対して引いた態度になった。
近づくと退くし、手を伸ばせば避けようとするし、抱き込めば体を固くする。
顔を覗き込めば視線を合わせようとしないだけじゃなく、顔を見ようともしない。
日を追うごとに強張る体とやっと繋がり、その高揚感からキスをしようとしたら顔を逸らされた…気がする。

そんなつくしの態度に焦燥感が募って、毎晩触れていないと不安でしょうがない。
肌と肌を直接合わせてその温もりを確かめて、つくしの心にも自分への温かいものがあるんだと信じたかった。
でも抱けば抱くほどつくしの反応は硬化するという悪循環だ。
こんなことで告白なんてできるはずがない。
だって体が受け入れないのに、気持ちは受け入れてくれるなんてことあるか?


ページを繰りもせず、同じ紙面を開いたままでグッと握りしめている司を、森川はダイニングルームで朝食のコーヒーを給仕しながら見つめていた。


旦那様の眉間のシワが日に日に深くなっている。
その苦悩する姿さえも美しいという稀有な人なのだが、新聞を逆さまに持っていることにさえ気づかず、紙面を凝視するのを呑気に観察している場合じゃない。


まずは探りを入れるべく、日常会話から振ってみようと、森川はコーヒーサーバーを片手に司の横に立った。


「旦那様、今夜から久しぶりのNY出張ですね。」

「ああ…」


上の空の返事が返ってきた。


「荷造りは済んでおります。一度、ご帰宅されてから、18時のご出発です。」

「ああ…」


余程深く考え事をしているようだ。


「奥様には伝えてらっしゃいますか? 奥様はなんと?」

「つくし?」


つくしは…




『明日から10日ほどNYに出張だ。』


睦み合った後の気怠ささえ心地良さに変わるそんな時は、つくしに腕枕をして背中から抱きしめる。
汗を含んでしっとりとした黒髪が司の腕に落ち、耳の後ろからうなじの白さが露わになる。
その肌を見つめていると、愛液の艶かしい匂いとつくしの甘い匂いが混ざって、もう一度と司を誘っているような錯覚を覚える。
ウエストに回した腕を少し捻れば控えめながら形の良い乳房に触れることができるのだが、つくしの枕になっている方の腕の先、その掌につくしが手を添えてくれていて、今は乳房よりもその手に触れていたくて欲情しそうな出来心を抑えていた。


『NYに10日?』


司の手を弄ぶのをやめてつくしが振り向いた。
腕の中の妻がその瞳で司を見上げた。


『ああ。お前と結婚してから泊まりがけの出張は控えていたがもうそうはいかなくなってきた。明日の夜、出発だから、当分会えないな。』


司は妻の顔に寂しさを見つけたかった。
会えなくて寂しい、早く帰ってきて欲しい、そういう表情を見つけたかった。
しかしそのどちらも見つけることはできなかった。


『そっか。お仕事、忙しいんだね。あっちではパーティーなんかもあるの?』

『パーティー?』


クリスマスシーズンでもなければパーティーなどそう頻繁にあるわけではない。
でも秋のNYにはファッションウィークがある。
メゾンが催すレセプションパーティーくらいはあるだろう。


『ああ、一つくらいはあるだろうな。親父の名代として出席するかもしれないな。』

『ふーん…頑張ってね!』


その時、つくしが笑顔を見せた。
行為の最中の強張りとは打って変わったつくしの混じり気のない笑顔が司を不安にさせた。




険しい表情になって再び黙り込んだ主人に森川は切り込んだ。


「旦那様、何か悩み事でもあるんですか?」


森川の声かけに司は新聞を畳み、テーブルに置いた。


「森川、」

「はい。」

「前に言ったよな。女は心と体が直結してて、心が受け入れないと体が受け入れないって。」


朝から何の話だと思ったが、その問いに答えることが今、従者として求められている務めならいつものように真剣に向き合おうと森川はコーヒーサーバーを置いて背筋を伸ばした。


「はい、申し上げました。」

「それはヤってる最中にも…その、出現する現象か?」

「現象…?」

「仕草とか……反応…とか。」

「ああ、なるほど。ええ、そうでしょうね。心と体と理性。理性は切り離せますが、心と体は切り離せませんからね。」


真面目に丁寧に答えたのに、主人の表情はさらに険しさを増した。


つまり、身体が強張るのはつくしの心が俺を拒否しているから?
だから笑顔を見せたのか?
俺に抱かれなくて済むと思って?

一体、あのパーティーで何があった?
何がきっかけだ?
あの時、強引にダンスをさせたから?
いや、違う。
その後、レストルームから戻ってきてからだ。
あの短時間に何かあったのか?
誰なら知ってる?


司は立ち上がった。


「森川、つくしに付けてる野村を俺の部屋に呼べ。」


野村はつくし付きの女SPだ。


「野村ですか? 何かあったんですか?」

「それを知るために呼ぶんだ。早くしろ!」


程なくして警備部に出勤していた野村が、ダイニングから戻っていた司の部屋をノックした。
入ると司は森川に身支度を手伝わせているところだった。
着替えながら司は野村を一瞥した。


「お呼びでございますか。」

「野村、お前は先週の土曜日、パーティーの時につくしに付いてたよな?」

「はい。」

「途中でつくしは会場を出た。その時のことを報告しろ。」


野村は30代前半でつくしよりやや背の高い痩身の女だ。
黒いパンツスーツにいつもローファーを履いている。
髪はベリーショートにし、前髪は短く整えられ、職業意識の高さを感じさせる。
常に無表情だが、道明寺夫人付きとして最低限の身嗜みといえる化粧も怠らず、無骨さはなかった。
そんな野村の一重の目は司を前にしても感情を見せない。


「つくし様は大広間を出た後、東側のレストルームに入られました。その後、3人の女性がお入りになられ、中でつくし様と会話をされていたようです。つくし様のお声が廊下にまで漏れていました。そして出てこられたつくし様はお顔の色が悪く、表情も固くなっておいででした。」

「その3人て誰だ。」

「調べはついておりますが、皆様、英徳のご出身者でパーティーにご出席の方々です。招待状も正式なものです。」

「その会話の内容はわからないのか。」

「私は外で待機しておりましたので詳細は。しかしつくし様は何やら穏便ではないお声でした。」

「今後は中まで付き添え。」

「かしこまりました。」

「その3人の身元の調査結果を俺の仕事用のアドレスに送っておいてくれ。」


一礼をして野村は退室した。
扉が閉まるのを待って、司にジャケットを着せ掛けた森川が話しかけた。


「どういうことですか? パーティーで奥様がどうかなさったんですか?」


司はジャケットのボタンを留めながら大きく息を吐き出した。


「あの時からあいつはおかしくなったんだ。俺から離れようとして、目を合わせなかった。帰りのリムジンの中でも一言も話さないでずっと窓を見てるし。挙げ句が渡りを断りやがった。とにかく、俺を拒否…してた。」

「それが今も?」

「………」


つくしに拒否されている…。
その可能性について、考えては否定してきた。
拒否するなら渡り自体を拒否するだろう、と。

しかしふと、もしも本当にそうなれば、それはつくしが完全に心まで閉ざしてしまうことなんじゃないかという考えが生まれた。
そうなってしまえば、つくしの愛を得ることはできないのか…?

今日からしばらく会えない。
もう、ただ不安を持て余している時間はない。

司は現状を打開すべく出勤の車に乗り込んだ。









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2020.05.09
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| 2020.05.09(Sat) 17:28:52 | | EDIT

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| 2020.05.09(Sat) 22:45:54 | | EDIT

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| 2020.05.09(Sat) 23:00:15 | | EDIT

再開待ってました〜!
そして、速攻、司様動く!
坊っちゃん流石でございます。カオカオも嬉しゅうございます。

カオカオ | 2020.05.10(Sun) 05:45:07 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
そうなんですよね、その行き違いから司の一途さの暴発が待ってる展開です。
つくしも一筋縄ではいかない女ですからねぇ・・・

自分勝手に動きたがる主人公2人ですが、ハッピーエンドは目指しております(^^;)

nona | 2020.05.10(Sun) 12:30:54 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

M 様

コメント、ありがとうございます!
お気遣いありがとうございます〜(泣)
つかつくワールドで少しでも気分転換していただけたら嬉しいです。
頑張りまーす!

nona | 2020.05.10(Sun) 12:32:08 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

うさぎ屋 様

コメント、ありがとうございます!
そうですね〜NY出張がミソになるのは確かです〜ムフフ〜どんなふうに鍵になるかはお楽しみ、です。
森川さんは相変わらず活躍してくれますよ!
あと、菱沼も。

新作も順々にお届けしますので、これからもよろしくお願いします^^

nona | 2020.05.10(Sun) 12:36:16 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!!
今作の司はイマイチ(精神的に)剥けきらないところがありますが、どうなるのかな〜?
怖い司も見たい?見たい?
見せちゃおっかな〜

nona | 2020.05.10(Sun) 12:39:14 | URL | EDIT

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| 2020.05.10(Sun) 14:20:57 | | EDIT

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| 2020.05.10(Sun) 14:22:43 | | EDIT

Re: タイトルなし

瑛里 様

コメント、ありがとうございます!
まとめての返信、ご容赦ください。
それにしても、こんなにも情熱的に語っていただけるほど読んでくださってありがとうございます!
受け止め方、楽しみ方は読者様それぞれですので、つくしに寄り添えなくても大丈夫です。
私の能力の問題もありますし、つくし自身の性格もあります。
恋愛関係とは違う、夫婦ってものの特性もあると思います。
そういうものすべて含めて瑛里様なりに楽しんでいただけていたら私は嬉しいです。

今回は互いを知らないままに夫婦になってしまったから、が原因のすれ違いもあると思います。
尊敬や信愛が遠慮になってしまうことも。
その距離感を二人がこれからどんな風に埋めていくのか、その点にもご注目いただきたいです。
ま、司のことなんで一気に詰めるかもしれないですけどね^^;

nona | 2020.05.11(Mon) 10:09:25 | URL | EDIT