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皆様、こんにちは!
今日は神尾葉子先生のインスタグラムに最近アップされたイラストから妄想した短編をお届けします。
これは複数のつかつくサイトマスターさんが参加されている企画でして、ひとつのイラストで多くのバージョンが読めるというとても豪華なゲリライベントです(*^▽^*)

こういったイベントは初参加ですが、とても楽しく書けました。
それでは早速、nona version をどうぞ!










「これ食いたい。」


道明寺が珍しくテレビを見ていたかと思ったら、おもむろに呟いた。
食に興味のない男が、自分から何かを食べたいなどと滅多にないことで、あたしは学校から帰って洗濯物を片付けていた手を止めてソファに座る道明寺の背後からテレビ画面を覗き込んだ。
そこには商店街を歩くレポーターが映し出されており、その手には紙に包まれたコロッケが握られていた。


『アツアツ、揚げたてのコロッケをその場で頂ける。街ブラの醍醐味ですね〜。いただきまーす!…モグモグ…わぁ〜、ホクホクで美味しいですぅ』


まるで台本があるかのようなセリフだが、その表情は本物で、レポーターはコロッケ一個を3口で平らげた。


「これ、ってコロッケ?」

「あ?」


背後のあたしを仰ぎ見た。
相変わらずの三白眼は何を考えているのか読み取りづらい。


「だから、さっき『これ食いたい』って言ったでしょ? それってあのコロッケのこと?」


コロッケなら晩ご飯にでも作ってあげられる。


「ああ、あれ食いたい。」


ほんっと、珍し。


「ん、わかった。晩ご飯はコロッケね。中身はなにがいいかな? やっぱり牛肉コロッケ? それとも変わったところで鮭のコロッケとか。まさか道明寺がポテトコロッケじゃないよね。」


コロッケなんていう庶民のご馳走に興味を持ってもらえたことが嬉しくて、あたしはひとりではしゃいでいた。


「あれならなんでもいい。」

「ふーん…わかった。やっぱり牛肉コロッケにしよう!」


せっかく道明寺がリクエストしてくれたんだもん。
いつもよりもちょっと贅沢したっていいよね。

あたしと道明寺は今、『1年の猶予』の真っ最中。
あたしは英徳高等部、道明寺は大学部にそれぞれ通いながら、今はお隣さんとして暮らしてる。
お隣さんてあのボロアパートか?って?
それが、記憶が戻った道明寺が「慰謝料だ」って言ってマンションの一室を買って、あたしに「住め!」と言ってきた。
もちろんあたしは何度も断ったけど、「隣には俺が住む! 俺の社会勉強にお前も付き合え!」って強引に隣人にさせられたんだ。
荷物の少なさが仇になって、引っ越しはあたしが学校にいる数時間で完了してた。
風呂なしの6畳一間だったあたしの城は、80平米2LDKに姿を変えた。
そのタイミングで高校に進学した進は両親と暮らすことになり、あたしはこの落ち着かないほど広い部屋で一人暮らしをすることになったんだ。

そして隣に引っ越してきた道明寺は、ボロアパートの時みたいに夜中だけの通いじゃなくて、本当にそこに住んでいる。
「これも修行だよ」って言ったのはタマ先輩だった。


「奥様がね、「道明寺を捨てる気になったのならいい機会だから社会を知りなさい。」と屋敷を出ることを容認なさったのさ。あたしゃ驚いたけどね、それも奥様の愛情だと思えば、涙が出るねぇ。」


…なんてタマ先輩は感動していたのだけど、先輩、あの道明寺が社会を知るなんて殊勝なことできるわけないじゃないですか。

結局、道明寺は身の回りのことを通いの使用人に任せ、食事をあたしに任せて毎日、こっちの部屋に入り浸ってるわけ。
あ、もちろん、寝るときは追い返してるけどね。

記憶が戻った道明寺に、魔女が猶予をくれたことを話したら、


「よっしゃ! ンなもん、ブッちぎるだろ。牧野、ガキ作ろうぜ。」


と言った道明寺の顔面にパンチを喰らわせたのは3ヶ月前のこと。
あたしたちはまだまだ清い交際を続けている。

道明寺と手を繋いで商店街に買い物に行き(遠巻きにSPさん付き)、手作りコロッケにキャベツの千切りとカットしたトマトを添え、手羽元の甘辛煮、菜の花のお浸し、お味噌汁に昨夜仕込んだ浅漬けも並べて、さて、晩ご飯の出来上がり!


「道明寺、晩ご飯できたよ。手を洗ってきて。」


最初はいちいち反抗していた道明寺も、今じゃすっかりあたしのペース。
だって、人の家で食事をよばれるんだから、郷に入れば郷に従えでしょ?
手を洗った道明寺と向かい合わせに座って「いただきます」の号令をした。


「どう?…美味しい?」


まだまだ庶民メシに慣れない道明寺からは3回に2回は「ビミョー」と言われるのに、あたしは性懲りもなく毎度、聞いてしまう。
・・・うっ、今夜もやっぱりビミョーなのかな?


「………別に、食えるけど…」

「あ、そうなんだ。よ、よかった。」


思ってた反応と違う。
「これじゃねぇ!」って怒り出すか、「おう、美味いな!」って喜ぶか、どっちかだと思ってたんだけどな。
それでも完食してくれて、あたしはホッと一息ついた。
でも、事はそれで終わらなかった。







それから4日後、休日の朝食を終え、デートの準備をしていた時だった。


「これ、食いたい。」


朝一番から押しかけてきた道明寺が、またテレビを見て呟いた。
今度はなんだろうと、画面に目を向けると、そこには東京郊外にある商店街のお肉屋さんにできる行列が映し出されていた。
レポーターが列に並ぶカップルに手にしたマイクを傾けた。


『これ、なんの行列ですか?』

『松坂牛のメンチカツの行列なんです。安くて美味しいって評判で、いつもデートの時は並んじゃうんです。』


女の子が少し照れたように笑いながら答えた。
デートでメンチカツの行列に並ぶ……理想じゃん!
いいなぁ、あたしもそんな庶民デートがしたいなぁ、とチラリと相棒を見遣るけど、本人はあたしのそんな素振りには気付かずに画面に見入ってる。
その後は行列の先で何個も買ってパックに詰めてもらうお客さんや、食べ歩き用に揚げたてを紙に包んでもらうお客さんが映し出され、その場で食べたレポーターも「美味しい!」を連呼してそのコーナーは終了した。


「これが食いたい。な、牧野。」


あたしに向けた三白眼には明確な意志が浮かんでる。
でも待って、松坂牛のメンチカツ!?
いやいやいや、いくらなんでも無理だから!


「あ、あのね、道明寺、メンチカツ自体は何とかできると思うけど、松坂牛のメンチカツとなると、ちょっと…」

「あ? だったら何ウシならできるんだよ。」

「何ウシでも無理だから! 無名の国産牛が精一杯だから!」

「じゃ、無名でいいが、俺はあれが食いたいんだよ!」

「わ、わかった! 作る、作るから!」


豪勢なリムジンに乗せられたデートの帰りにスーパーに寄ってもらって(駐車するのに縦横合わせて4台分のスペースが必要!)国産牛の挽肉とポテトサラダの材料を急いで買い込んだ。

キッチンに入って晩ご飯の準備に取り掛かる。
まずはポテトサラダのためにジャガイモの皮を剥く。
と、そこに道明寺が入ってきた。
料理中に入ってくるなんて珍しい。
と、思ったらいきなり背後から抱きついてきた。


「ちょっと! 危ないじゃん、離れて!」

「今日はお前が間違えねぇように見張ってんだよ。」

「間違う!? あたしが何をいつ間違ったのよ!」

「この前、俺が食いたいって言ったもの、間違えただろ。」

「はぁ???」


この前って…コロッケの時?
間違えたって、何を間違えた??
だって、あのリポーターは確かにコロッケを手にしていて、他のものは映ってなかったわよ。

その後も道明寺はずっとキッチンであたしを監視していた。
いや、あれは監視なんて可愛いもんじゃないわよね。
邪魔よ、邪魔!
きゅうりの小口切りしてたら「俺にもやらせろ」って言うから任せたら乱切りになってるし、玉ねぎのみじん切りで泣いてたら大笑いしてくるし、メンチカツのタネを捏ねてたら「スプラッタになった肉片だな」だって!
挽肉を言い換えなくていいのよ!


「もう、あんた、あっち行ってて! これから揚げるから危ないし。」

「バカ言え。こっからじゃねぇか。見てるから早くやれ。」


んっとにムカつく!!


「じゃ、離れててよ。そっちの後ろで見てて。」


ムカつくけどあたしも大概、甘いよね。
道明寺に監視されながらタネにバッター液とパン粉を付けていく。
そして熱した油の中へ。
ジュワー!と最初は大きな音で油の中を泳いでいたメンチカツはそのうちシュワシュワと細かい泡を吐き出し始めた。


「そろそろいいかな。」


あたしは最初の一個を網の上に掬い上げた。
その時だった。


「ほら! 紙! 紙出せ!」

「へっ?」

「へ? じゃねぇよ! 冷めちまうだろ! 早く紙出せ!」

「え、紙? あーっと、じゃ、じゃあこれ。」


あたしは天ぷらの時に敷く天紙を取り出して道明寺に渡した。
すると道明寺はその紙で今揚がったばかりのメンチカツを包み、その場でパクリとかぶりついた。


「熱ぃ! でも旨っ!」


その顔はあたしの好きな、子供みたいな無邪気な笑顔で、あっという間に1個目を平らげた。


「ほら、どんどん揚げろ。」


呆気にとられてボーッと見ていたあたしは道明寺に言われるがままに次々とメンチカツを揚げていった。
結局、道明寺はキッチンで5つのメンチカツを完食し、「満足した」と言ってキッチンを出て行った。

ど、どういうこと??
揚げたてが食べたかったの?
キッチンで立ったままなんていう、およそ道明寺の育ちからしたらタブーみたいなことをして??


「あの、道明寺?」


リビングのソファに座ってご満悦な道明寺にあたしはキッチンから顔を出して恐る恐る問いかけた。


「もしかして、あんたが食べたかったのって…」

「庶民てさ、買い食いが好きだよな。」

「は?」

「貧乏だからいっつも腹減ってんだろ? だから待ちきれずに店先で食っちまうんだろ? 俺にはあり得ねぇけど、でもそれがすげぇ旨そうに見えることがあってさ。」


これ、怒った方がいいところ?
いや、もう少し話を聞いてみようか。


「お好み焼きは昔、姉ちゃんに作ってもらったけど、揚げ物は食ったことなかったんだよな。」

「そんなに食べたかったんなら、今日でもお店に行ってみればよかったじゃん。」


その方がリアルに希望が叶ったんじゃないの?


「アホ。どこの誰だか知らねぇヤツが作ったモンなんか食えるかよ。」

「ハ…ハハ…」


そういうことか。
だからコロッケの時、ビミョーな反応だったんだ。
そうならそうと言ってよね。
まさか「これ、食いたい」の「これ」が揚げたてを指してるなんて思わないじゃん。


「なぁ、ちょっと口ん中火傷したみてぇ。」

「え! 大丈夫?」

「イテェ…」

「えっ、えっ!」


あたしは冷水と氷をコップに注ぎ、リビングに入って道明寺に差し出した。


「氷を口に含んで冷やしなよ。でもそれじゃ今日は他のもの食べられないね。」

「…食う。」

「お腹もいっぱいでしょ? 無理しなくていいから、っと、」


片手にコップを持った道明寺は、傍に立つあたしの腕を引いて隣に座らせた。


「なに? あたしまだ料理終わってな、…っ!」


道明寺のひんやりとした唇があたしの唇を塞いだ。
そしてその奥から氷がスルリとあたしの口に移された。
それを今度はあたしの舌ごと絡め取って、溶かして、唾液と混ぜて、吸い取り、道明寺の喉がゴクンと嚥下した。


「お前は別腹。」

「〜〜〜っ!!」


そう言った道明寺の甘い声とあたしを見つめる優しい瞳にクラクラとして堕ちていきそうになる。
昔は大嫌いだった三白眼なのに、恋のフィルターがかかればそれさえも甘く見えるなんて。

ヤバイ…
あたしはいつまでこいつを追い返せるだろう。
この部屋が愛の巣になる日も近い!?・・・かな?





愛の巣 nona ver. 【完】











nona version はいかがだったでしょうか。
他のサイト様の作品も是非、読んでみてくださいね。
私も読ませていただきまーす!


お誘いくださったメンバーの皆様、素敵な時間をありがとうございました^^


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2020.05.03
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| 2020.05.03(Sun) 15:15:51 | | EDIT

Re: タイトルなし

koma 様

コメント、ありがとうございます!
こちらこそ、今回のイベントに参加を許してくださってありがとうございます!
イベント初参加でしたが、自己完結の短編ということもあり、とても楽しく参加させていただきました。
直接、お声かけくださったくるみぼたん様とつくしんぼ様にも感謝です^^

感想、ありがとうございます。
というかあれしか思いつかなかったです。
イラストの二人が私には若く見えたので、愛の巣になる前の時期を描きました。
そして今日、皆様のお話を読ませていただいて、それぞれの方のイマジネーションの素晴らしさに圧倒されました。
そして読者としてもとても楽しかったです。
こんな機会を本当にありがとうございました!

nona | 2020.05.03(Sun) 17:01:36 | URL | EDIT

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| 2020.05.03(Sun) 19:23:42 | | EDIT

コロッケ食べたい

コロッケ〜!メンチカツ〜!
私も、揚げたてを食べたくなりましたよ!坊っちゃん〜。

カオカオ | 2020.05.03(Sun) 22:29:40 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

スリーシスターズ 様

コメント、ありがとうございます!!
あのイラストの司が私にはとても若く見えて
(私の好みの司はもう少し大人っぽい司なんですが)
それでまだ10代の二人になりました。
つくしが、くっつかれただけで照れるのもまだまだ清いのかな?って。

ジャガイモのとなりにニンジンがあったので私もカレーかな?とは思ったんですが、
ポテトサラダにもニンジンて入るな、と思って無理やりポテサラの設定にしました。
それを言えば、コロッケの4日後にポテサラってジャガイモ率高いですよね(笑)

司って意外なところで庶民の暮らしに興味を持つ御曹司なので、
買い食いにあこがれたことがあるなら、他の物も「おいしいのかな?」と思ってそうだな~と妄想しました。

俺様の司に、結局は甘やかしちゃうつくし。
そう遠くない未来につくしの部屋が愛の巣になりそうです♡

nona | 2020.05.07(Thu) 10:55:49 | URL | EDIT

Re: コロッケ食べたい

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!
揚げたて、おいしいですよね~
そういう庶民の姿に坊ちゃんは興味を持ったんでしょうね!
これからも「〇〇たて」をつくしといっしょに楽しんでほしいです。

nona | 2020.05.07(Thu) 11:24:36 | URL | EDIT

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| 2020.05.10(Sun) 20:03:40 | | EDIT

Re: タイトルなし

kachi 様

コメント、ありがとうございます!
『1年の猶予』が問題なく履行されたら、という設定で普段から妄想することがあり、
そうしたら平和で楽しいつかつくライフだったんだろうな、と思ってます。

男性ってイモ類があまり好きじゃないイメージがあって、それでジャガイモを見たときに
正直、悩みました。
司なら何を食べるかな?って。
それでお好み焼きの買い食いを眺めてた坊ちゃんの絵が浮かんできて、これだ!となりました。
コロッケが食べたいわけでも、好きなわけでもない。
ただ、美味しそうにしてるのが本当に美味しいのか経験してみたい、という好奇心を利用しました。

結果、楽しんでいただけてよかったです^^
イラストの中ではこれからも二人の楽しい生活が続いていくと思います。

nona | 2020.05.11(Mon) 10:18:02 | URL | EDIT