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『御招き』をしたのは月曜日だった。
障りが明けたのが木曜日。
そして今日は約束の日曜日だ。

木曜日から昨夜まで3夜連続で御渡りが行われていて、つくしは経験がないまま結婚した男の性衝動にほとほと疲れていた。
昼間は顔を合わせなくて済むはずなのに、今日は午後から行動を共にしなくてはいけない。
もしもそのまま今夜も御渡りになるようならば、今日こそ文句を言ってやろうと思っていた。

ただ、外出はうれしかった。
結婚から1ヶ月。
初めて屋敷の外に出る。
同じ外の空気でも、雑多な街の空気というものを感じたかった。

島田が身支度を手伝ってくれる。
本当は手伝いなどいらないが、島田から仕事を奪うわけにもいかない。
島田といっしょに服を選び、着せ付けられ、髪を梳かれ、つくしがした化粧の手直しをされる。
司と出かけるのは初めてのことで、島田からは様々な注文がついた。


「森川から旦那様の装いにはグリーンが使われると報告がありましたので、奥様もグリーンのアイテムをお選びください。」

「お化粧が簡単すぎるようでございますね。マスカラぐらいはお使いください。」

「いえいえ、髪を一つに括るだけなどいけません。毛先を巻きますので下ろしましょう。」


あー、もう、うるさーーいぃ!!
と、つくしは叫びたかった。

たかが夫と出かけるのに、なんでこんなに気を遣わなきゃいけないのよ!
服の色とか合わせる必要ある!?
髪だって暑いから結びたいのに。


「では仕上げに、アクセサリーは先日、旦那様より贈られたものからお選びください。」


島田がベルベットのジュエリートレイに2週間分の贈り物を並べてつくしの前に差し出した。
そこには指輪以外のアクセサリーが並んでいる。
どれも今日の装いにマッチするものばかりだったが、その中でつくしが選んだのはクローバーチャームにグリーンの宝石があしらわれたの華奢な金鎖のペンダントだった。
それはつくしの鎖骨に沿って輝きを放った。


島田を伴い、約束の時間の10分前に北棟エントランスに行くと、ポーチに黒塗りの大きな高級車が入ってきて、その後ろには黒いセダンが連なっていた。


「つくし、待たせたな。」


司が森川を伴って車から降りてきた。
先日のスーツ姿とは一変し、まるでコレクションから抜け出たモデルような出で立ちだった。
ボトムスは麻素材でリラクシングなシルエットの淡いグレーのストレートパンツの裾をくるぶしまで捲り、足下は裸足にブラックのスリッポンだ。
トップスはクロムグリーンの綿ニットで腕にはロレックスのダイバーズウォッチ、シードゥエラーが見える。

司のクロムグリーンに合わせるつくしは淡い黄色地にエメラルドグリーンのストライプのフレアスカートを履き、トップスはコットン素材でオフホワイトのクルーネックアンサンブルに同系色の刺繍が施されていた。
オープントゥのパンプスはクリームイエロー、バッグはコスメしか入らないような小振りのものを合わせた。
そして首元では先ほど選んだクローバーペンダントの細い金鎖がつくしの白い肌に映えていた。


「いえ、私も今来ました。」

「そうか。…じゃ、行ってくる。」


司は、つくしに返事をし、森川に振り向いて告げた。
そしてつくしの背に手を添え、運転手が開けた後部座席に乗り込んだ。
その刹那、つくしはチラリと後ろの島田を振り返った。


『奥様、くれぐれもご自分が道明寺若夫人であることをお忘れなきよう。旦那様に恥をかかせるような言動は厳にお謹みください。 』


つくしは部屋で島田に言われた言葉を思い出して頷き、島田もまたつくしに頷いた。






運転手とSPの座る前席とつくしたちの後席の間には仕切りがあるが、窓のように透明でフロントガラスからの景色も見えた。
後部座席は独立シートになっていて、まるでファーストクラスのような座り心地だ。

走り出した車は屋敷の外へ出た。
1ヶ月ぶりに見る街並みに、つくしの顔は自然と綻んでいた。
司を振り向き、問いかけた。


「旦那様、今日はどこへ?」

「ん…決めてない。お前はどこに行きたい?」

「え…私ですか?」


つくしはうーん、と考え込んだ。

あたしの行きたいところ?
公園…は、お屋敷の広大な庭園で十分だし。
映画…は、お邸のシアタールームでいつでも好きな時に観られるし。
スーパー…は、行く必要ないし。
カフェ…は、この人と話すことなんてないし。
ゲームセンター…いやいや、ないでしょ。

うーん、うーん…正直、目的地はない。
ただ、街をブラブラしたい。


「なんだ、なんでも言ってみろ。」

「えーと、あの…」

「これ、よく似合ってるな。」


司が突然、つくしの首元に手を伸ばして、その鎖骨に沿っているクローバーのペンダントに触れた。


「あ、そうなんです。あの、素敵なものをありがとうございました。」

「え?」

「え?」

「俺か?」

「え? ですよね? 旦那様が選んでくださったんですよね?」

「あ、ああ、そうだな、ああ、そうだ。」

「?? ですよね?」


危ね…と司は思った。
危うく人任せにしていたことがバレるところだった。
あの2週間、つくしのためにジュエリーを選んでいたのは森川だ。
だからつくしは厳密に言えば森川から贈られたジュエリーを纏っていることになる。


「・・・・・」


なんだか釈然としない気持ちになった。
自分だけが触れる権利があるつくしの肌なのに、他の男の存在がそこに触れているかと思うと途端にイラつきを覚えた。


「行き先は決まった。」

「どこですか?」


司は前席との会話ボタンを押すと有名ハイジュエリーブティックを指定した。









銀座に着いて降り立ったそこはまるで宮殿のような内装で、天井から下がっているシャンデリアもまさかダイヤでできてるんじゃないかと思うほど、豪奢なジュエリーブティックだった。
入り口にはつくしたちの車の後ろに控えていたセダンから降りてきたSP2名が立ち、店内に入ったつくしたちには同じくセダンから降りてきた女のSP1名と、つくしたちと同じ車の前席に座っていた男性SP1名が付き添っていた。
店内に他に客はおらず、貸切状態だ。

いや待って、まさか貸切にしたんじゃないよね?

つくしは不安になった。
ジュエリーはもういらないと伝えなかっただろうか。
それとも夫は自分のものを買いにきたのか?

そんなことを考えていると、2人の前に店長と思しき洗練された中年の男性がやってきた。


「道明寺様、本日はご連絡をいただき、ありがとうございます。奥様、はじめまして。わたくし、当店のジェネラル・マネージャーを務めております。」


男性はつくしに深い礼をした。
もしも自分が一介のOLとして来店したならば、歯牙にもかけられないだろう。
でも今は道明寺夫人だ。
人間は立場が変われば扱いが変わるということを今こうして実体験している。


「では道明寺様、こちらへどうぞ。」


店長は2人とSPをエレベーターに案内し、それは5階に到着した。
そこはVIPだけが通される個室になっていて、ヴィクトリア朝の内装がされ、ここでも輝くシャンデリアがつくしたちを出迎えた。
つくしと司はソファに座り、その後方にSPが控えた。


「本日はどのようなものを。」


向かい側に座った店長が司に問いかけた。


「妻に最高のものを。」

「かしこまりました。」


店長は後方に控えていた30代くらいの女性の店員に視線を向けると、女性はうなずいて部屋を出て行った。
つくしは驚いて、隣に座る司に小声で詰め寄った。


「あの、旦那様、私は、」


すると司は、つくしに「待て」と言い、店長に視線を移し、眼球を動かして退室を促した。
店長は立ち上がり、一礼すると部屋を出て行った。
そして次に司が左手をさっと挙げると、背後のSPも退室して行った。
そうして2人きりになって司は自分の右側に座るつくしに向いた。


「つくし、どうした?」


室内にいた人間の一連の動きに唖然としていたつくしは我に返り、やっと自分の主張を始めた。


「旦那様、私のものですか? だとしたら結構です。もうたくさんいただきました。」

「いや、まだ足りない。お前と一緒に選んでないだろう?」

「確かに私が選んではおりませんが、どれもとても気に入っています。これも、」


と、つくしが首元にかかるペンダントに触れた時だった。


「触るな!」


司が大きな声を出し、つくしの手首を掴んだ。


「なにっ?」


つくしの手首を放すと、その首にかかる森川が選んだジュエリーを外し、つくしの肩を掴みペンダントが触れていた跡をなぞるように鎖骨を唇でなぞった。


「ひゃっ! ちょっと! こんなところでやめて!」


鎖骨から顔を上げた司はつくしの頬にもチュッとキスをし、ニヤリと口角を上げた。


「これは俺が預かっておく。もっとよく似合うものを一緒に選んでやる。」


そういって手の中のクローバーのペンダントを司はボトムのポケットに突っ込んだ。










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2020.03.03
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| 2020.03.03(Tue) 20:17:39 | | EDIT

Re: タイトルなし

ふじ 様

コメント、ありがとうございます!
想像していただけてよかったです。
いえいえ、私はつくしと同じド庶民ですので、調度品などは海外を特集したインテリア雑誌などを参考にしています。
アクセサリーもふじ様の博識に唸りました。
そういうことにしておいてください 笑

つくしはきっと趣味がいいと思ってます。

nona | 2020.03.04(Wed) 23:36:19 | URL | EDIT