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島田から司がやってくると聞かされたのは司の到着10分前だった。


「え!? 来るの?いつ?」

「今すぐだそうです。」

「今すぐ!? ど、どうしよう」


つくしは急に慌て始めた。
クローゼットに入り、鏡の前で一回転して自分の姿を確認した。
笑顔の練習などをしてみたが、我ながら見苦しい。
自然体が一番だとリビングに戻った。

南棟から北棟へは東棟を通る。
その時だけ、東棟の通路に灯がともされるのだ。
北棟のリビングからも東棟の廊下が見えた。
灯がともっている。
間も無く司が現れる合図だった。


コンコン


ノックの音に島田が応答すると、森川がドアを開けた。
その先に司が立っていた。
2週間ぶりに会う夫だ。
それは初めて見るスーツ姿で、秘書をして多くのビジネスマンを見てきたつくしも惚れ惚れするほどキマっていた。

挨拶もせずについボーっと見とれているつくしを諌めようとした島田を司が制止した。
微笑みをたたえてつくしに近づくと、その顔を覗き込んだ。


「つくし、どうした? そんなに俺がカッコいいか?」


ハッと我に返り、瞬間的に熱を持った顔を背けた。
そんなつくしの照れた顔をもっと見たい。
司はこちらに向かせようとつくしの顔に手を伸ばした。


「なりません!」


森川の鋭い声が響いた。
あと数センチのところで司の手が止まる。
森川の声に振り向いたつくしの瞳が司を映したが、すぐにまた顔を逸らして立ち上がった。


「旦那様、本日はお疲れのところお出ましくださりありがとうございます。」

「…ああ、会いたかったぞ。」


思わずこぼれた言葉だった。
つくしに会えて嬉しいと思う自分は新しい発見だ。
でも触れられないことが辛い。
辛いのに、会えてよかったと思う。
この矛盾を司はまだ整理できないでいた。

司はつくしの向かい側のソファに腰掛けた。
司にはコーヒー、つくしにはレモンティーが給仕され、島田と森川はリビングのドアの横に控えた。
しばらく沈黙が流れていたが、先に言葉を発したのはつくしだった。


「あの、日毎に贈り物やメッセージをくださり、ありがとうございました。」

「ああ。」

「それで、その、あの時は思わず手が出てしまい、申し訳ありませんでした。」

「手じゃなくて拳だろ。あの後、数日は顎が痛かったぞ。」

「すみません。」

「でも、俺も悪かった。お前に不満があって他の女を求めたわけじゃない。むしろその逆だ。お前に満足したから1週間が待てなかったんだ。でももうあんなことはしないと誓う。」


つくしは手元を見ていた視線を司に向けた。


「…いえ、いいんです。私も冷静になりました。旦那様にあんなことを言える立場ではありません。どうぞ、他に良い方がいらっしゃったら遠慮なくそちらに行ってください。」

「………は?」


司はコーヒーに口をつけようとして、褐色の揺らめきに俯いていた顔を思わず上げた。


「ええ、ですから、私は旦那様が好きな女性に出会うまでの仮の妻です。旦那様が本当に愛せる女性に出会った時、この地位はその方にお譲りします。ですので大いに他の女性と会ってください。」


この発言に、ドアの前で気配を消していた島田と森川もつくしに顔を向けた。


「それ、マジで言ってるか?」

「ええ。マジです。最初の夜にも申し上げました。私は旦那様にふさわしい女ではありません。旦那様にはこの世のどこかに本物の相手がいます。その方と早く出会っていただきたいです。その時には私は喜んで離婚届を書きます。」


つくしの言葉を聞いた司は持っていたコーヒーカップを置いた。


「お前は、俺ほどの男と結婚できたんだぞ。その立場を手放そうというのか?」


つくしも手に持っていたティーカップとソーサーをテーブルに置いた。


「私を選んだのは総帥と社長です。旦那様ご自身ではありません。だったら、本物が現れたら退くのが物事の筋というものです。」

「じゃ、俺が選んだ女ならお前は文句は言わないってことか。」

「はい、言いません。」

「俺が決めたことに従うってことだな?」

「はい、もちろんです。」

「それまではお前が妻だな?」

「そういうことですね。」

「島田、」

「はいっ」

「つくしの日曜日の予定は?」

「日曜日はレッスンもお休みです。何もありません。」

「よし。つくし、日曜日は出かけるぞ。」

「どちらに?」

「別に決めてない。ショッピングでもどうだ。欲しいものはないのか?」

「え…、ありません。もう十分に持っています。」

「いくらあっても無駄にはならない。夏用のドレスはどうだ。」

「いいえ、必要ありません。クローゼットはすでにいっぱいですし、今でも一生分ありますから。」

「じゃ、飯は? 何が食べたい?」

「あの、先程から何をおっしゃっているのか…。食事もこの邸で美味しいものがいただけますので満足しています。どなたか他の方を誘ってください。」


司の目がギロリとつくしを睨んだ。


「お前は、まだ俺を許さないつもりか?」

「え!? そんなことありません。もう許してます。」

「だったら、なんで俺の誘いを断る? お前は妻だろ!?」

「仮の妻です。」

「仮でもなんでも今は俺の女だ。言うことを聞け!」

「ハァ…日曜日に出かければいいんですね?」

「そうだ。午後2時にエントランスだ。」

「わかりました。」


つくしはため息をつきながらしぶしぶ承諾した。
その様子に司は苛立ちを隠せない。


「島田、」

「はい。」

「障りはいつ明ける?」

「予定では3日後です。」

「わかった。ではまた3日後に渡って来る。」


そう言って司は立ち上がった。
つくしも立ち上がり、司を部屋の出口まで見送った。










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2020.03.01
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| 2020.03.01(Sun) 17:25:24 | | EDIT

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| 2020.03.01(Sun) 23:20:04 | | EDIT

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| 2020.03.02(Mon) 08:45:17 | | EDIT

Re: タイトルなし

うさぎ屋 様

コメント、ありがとうございます!
ネタバレしたくなくて、「まえがき」ではどうしてもぼーっとした内容しかお伝えできなくてすみません。
楽しんでいただけて嬉しいです。
こんなシキタリが世の中に存在しないかどうかはわかりませんが、私が書く話は全部フィクションです。
ウラは「夫婦恋愛」完結後に書こうと思ってます。
なんでも二次を妄想しちゃうのは実体験です。
でも職場では書いてないですよー 笑

nona | 2020.03.02(Mon) 20:25:22 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

チョコ鳴門 様

コメント、ありがとうございます!
いつもの考え過ぎ&意地っ張りつくし、ここでも健在っ

寄せては返す波のように、近づいては離れる二人の距離。
と、ときどきエロ。

定石は嫌いなので、思いつくままに書殴るぜー!

nona | 2020.03.02(Mon) 20:33:38 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ゆずぷりん 様

コメント、ありがとうございます!
自慰卒業願望は初彼女ができたティーンエイジャーのあるあるですよ。
司はまだその段階。
オトナのオトコには先が長いです。

タマさんは、実は急遽、登場させたので、この先、出てくるかなー?
出てこないと不自然だけど・・・

とにかく、島田と森川ががんばってくれてます!

nona | 2020.03.02(Mon) 20:45:47 | URL | EDIT