道明寺HD日本本社、副社長第一秘書の俺、菱沼彰悟(ひしぬま しょうご)は自他共に認める有能な男だ。
その上、イケメンで高身長、高学歴、高収入。
ちょっとイケナイ大人のオトコの自覚もある34歳。
そんな俺はこの2週間、困っている。
副社長の業務の能率がすこぶる低下しているからだ。
理由はわかっている。
男子高校生並みの理由だ。
ズバリ、溜まっているから。
副社長はおよそ3週間前に結婚した。
相手は総帥と社長が探し出したシンデレラガール、牧野つくし嬢。
社長の第一秘書である西田部長によると、固辞したのを総帥以下総出で説得したとか。
副社長は言うまでもなくハイスペック、ハイクオリティな完璧な男だ。
日本一の道明寺財閥跡取りにして道明寺HD日本本社の副社長。
しかしその地位は決して七光りの名ばかり副社長ではなく、努力も人一倍なさっている。
実力も同世代ではピカイチだろう。
それに加えてこの容姿。
世界の美男子ランキング100では必ず上位5人に入っているという、世界が認めた美男子なのだ。
一般人なら笑ってしまう癖毛も、副社長ならまるでギリシャ神話のアドニスだ。
美と愛の女神、アフロディテに愛された美少年アドニスは猪に殺されてしまう。
その血が流れた後に咲いたのがアネモネだ。
アネモネの花言葉に「恋の苦しみ」というのがある。
何故こんなことを知っているのかって?
それは今、口説こうとしてる女が花屋の店員だからだ。
俺の話はいい。
問題は副社長だ。
副社長が帰国したのは1年前。
ご帰国に合わせて第一秘書に配属された時、俺はNYの西田秘書部長から重大な申し送りをされた。
「道明寺家には『道明寺家の男女は初夜まで性行為をしてはならない。』というシキタリがある。」
聞いた時、一瞬、時が止まった。
NYにいらっしゃった頃から、副社長は俺の憧れだった。
8歳も年下だが、そんなことは関係ない。
その存在そのものが俺を圧倒してやまなかったのだ。
きっとそのスペックで、マンハッタンの夜景が一望できるスイートルームかなんかで毎晩違う女を取っ替え引っ替えしてんだろう。
と、思っていた。
シキタリの話を聞くまでは。
「司様はそのシキタリが道明寺家だけのものだとご存じない。世界の常識だと思ってらっしゃる。御学友もこの20年間、話を合わせてくださっている。だから未婚の君も童貞の設定になっているからよろしく。」
NOーーーーーー!!!!
西田部長、俺は童貞じゃありません!
16の時に捨てました!
なのに、なのに、副社長が未だ童貞だとは……宝の持ち腐れ……人類の損失……
誰か嘘だと言ってくれーー!!!
思えば、俺の苦しみはここから始まった。
副社長は俺が34にもなって結婚していないことを本気で哀れんでいる。
なぜなら、俺が童貞だと思ってるから。
「俺はお前の歳まで我慢できそうにないな。はは。」
いや、我慢してません!
ってか、26まで我慢してるあなた、超人です!
「早く結婚して経験しろ。で、俺に語って聞かせろ。」
今すぐにでもお聞かせできます!
「お前はシキタリを破りそうになったことはないのか?」
申し訳ありません!
16の時に破りました!
仕事以外でこんなにも神経をすり減らすなんて、俺は想像もしてなかった。
そんな副社長に急遽決まったご結婚。
この時から、副社長はあからさまに挙動不審になられたのだ。
普通なら、親が勝手に決めた見ず知らずの女なんて反発するだろう。
しかも自分とは生きる世界の違う庶民の女。
副社長ほどの人ならどこかの王女でも釣り合うのに。
しかし、副社長はどこかウキウキし始めた。
仕事中にボーッとしたかと思ったら、急にニヤつき始めたり。
いや、お気持ちはわかります。
やっとですもんね。
そりゃニヤつきもしますよね。
そして迎えたご結婚。
佳き日を選び、道明寺家ゆかりの神社で神前式だ。
シキタリにより参列できない俺は秘書課で業務に勤しみながら、相手の女性がせめて可愛い人であってくれ、と祈った。
翌日、出社された副社長は、もう一昨日までの副社長ではなかった。
醸し出すオーラが完全に落ち着いた大人の男になっていて、その眼差しには同性も見惚れるほどの艶が生まれていた。
俺は恐る恐る聞いてみた。
「奥様はどのような方ですか?」
「俺のために泣くような女だ。」
「?? 美人ですか? それとも可愛い方ですか?」
「目と肌が綺麗で、唇と胸は可愛い女だ。」
ピンポイント評価!?
「で、初夜はいかがでしたか?」
ゴクリ…これが一番聞きたかった。
「あの世を見た。」
的確!
「よかったですねぇ。これからお仕事にもさらに身が入りますね!」
とは言ったが、実際は逆だった。
女を知ったばかりの副社長は四六時中、そのことが頭から離れない様子で、この日は仕事にならなかった。
ま、初日だ。無理もない。
でも、明日からは・・・
そんな俺の期待は、ご結婚から3週間、裏切られ続けている。
初夜から1週間後にやっと上向いた業務効率は、その翌日、またガクッと下がった。
そしてそのまま下降線をたどり、2週間。
どうやら夫婦喧嘩をしたようで、奥様からオアズケを食らっているらしい。
常にイライラと青筋を立て、今では飢えた野獣と化した副社長が誰彼構わず当たり散らしている。
その筆頭が俺。
「菱沼! なんだこの書類は! お前、何年秘書やってんだ!! こんなことしかできないなら辞めちまえ!!」
奥様、お願いですからヤらせてあげてください!!
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2020.02.28



