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第二次選考のメディカルチェックも通過したつくしは今、なぜか迷彩服を着て広いグラウンドをランニングしている。


「イチ、ニ、イチ、ニ……」


もう何周しただろうか。
その内に歯が抜けるようにボロボロと脱落者が出始めた。
第三次選考に残った20名のうち、まだ走っているのは8名だけだった。


「よーし! 集合だ!!」


教官から声がかかった。


「ハァ…ハァ…ハァ…」


こんなに走ったのはいつぶりだろう。
高校の部活?
大学のサークル?
社会人になってからは全く覚えがない。
生地の厚い迷彩服に包まれた体は汗だくで、下着が張り付いているのがわかった。


「最後まで残った者は5ポイント加算! 5周目までで落伍した者は1ポイント、それ以降の者は3ポイントの加算だ!」


第三次選考はポイントの加算方式だ。
しかしまだ何人が残るのか知らされていない。

ここは首都圏にある道明寺グループの広大な研修施設兼保養所。
ここで10日間の合宿の後、最終選考に進むか否かが決定される。
入村式の際、最終的に採用されるメンバーは何人なのか質問が出たが、委員長の浅尾から明確な返答はなかった。


「最終的にプロジェクトメンバーに採用される人数は未定です。皆さんの頑張り次第では何人でも大歓迎ですけどね。フフ。」








宿舎は2段ベッドが3台並ぶ6人部屋で、それを5人で使っている。
20名は4つの班に分けられ、一班で一室だ。

候補生は日焼け止め以外の化粧を禁止され、風呂は着替えを含めて一人20分、食事も20分で終えなければならない。
起床は5時、就寝は22時。
テレビ、ラジオ、スマホ、タブレットの類は一切没収され、外界との接触は完全に遮断された。


「いやーー!! 耐えられない! プロジェクトってマジ、何なのよ!!」


初日から悲鳴をあげたのは22歳の松永朋花だった。
かなり明るめに髪を染め、二次までの選考では長い髪をカールさせていたが今はお団子ヘアだ。


「あたしさ、別に残りたかったわけじゃないんですよ。社長がさ、名誉だから行ってこい、ダメでも参加賞としてペアの温泉旅行チケットやるって言うから参加したんですもん。むしろそっち狙いなんですけどね。あーあ、こんなことなら一次審査の時に遅刻でもしとくんだったなぁ。」

「でもあれは引いたよねぇ。」


ベッドの上段から身を乗り出したのは24歳の長坂澪だ。


「電車の遅延だったのに、こーんな眉釣り上げて「お帰りください」って感じ悪かったよねぇ。」


ベッドがギシッと軋んだ。
ボブヘアーの澪は小柄でふくよかな女性だ。


「でもあれはどうにかできたわよ! そもそも、ギリギリのタイムスケジュールで家を出るのが間違ってんのよ!」


下段から噛みついたのはつくしと同じ25歳の津島陽子だ。
背が高く、ショートヘアの快活そうな細身の女性だ。


「それよりもあの一次選考なに!? 間違い探しって天下の道明寺HDがあんな子供の問題で振り落とすって、ありえないじゃない?」

「このプロジェクトって女性限定だし、年齢制限も若いし、極め付けはメディカルチェックでのあの質問! ねぇ、ねぇ、ここだけの話、プロジェクトなんてないんじゃないかって話ですよ。」


噂話に敏感なのは23歳の江藤麻友だった。
ウェーブのかかったセミロングの髪に奥二重のスッキリとした顔立ちが特徴だ。


「プロジェクトじゃないならなんなのよ?」


食いついたのは上段の長坂澪だ。


「ここだけの話ですよ。」


江藤麻友は他の4人を手招きして自分の周りに集めた。
つくしも麻友を覗き込む。


「御曹司の嫁探し。」


!!!?


「えええ〜〜〜!!!!」


悲鳴を上げたのは松永朋花だった。


「しーー!!! 松永ちゃん、うるさい!!」

「え、え、え? 御曹司って、あの?」

「そう、あの。」

「誰ですか?」


やっとつくしが口を挟めたと思ったら、4人が一斉に振り向いた。


「牧野さん知らないの!? 道明寺の御曹司って言ったら一人でしょ!?」

「いや、だから誰なんですか?」

「「「 道明寺司よ! 」」」

「は…あ…?」


松永朋花が頼んでいないのに詳しい説明を始めた。


「道明寺司、26歳。英徳学園で幼稚舎から高等部までを過ごし、大学はNYへ。NY本社の役員を経て昨年帰国し、今はNYと東京の2大本社体制の道明寺ホールディングスで日本本社副社長を務めている。特筆すべきはその容姿! どんなモデルも顔負けのイケメンで、TIMES誌が選ぶ世界の美しい男たち100では日本人で唯一にして必ずトップ5入りをしているんです! でも美しいのは顔だけじゃない。身長187cmの肉体、長い脚、鍛え抜かれた筋肉美、オーダースーツがビシッと決まって、あああ〜〜、抱かれたい!」

「はぁ…」

「もう、牧野さんは鈍いなぁ。」

「牧野さんだって道明寺系列会社の社員でしょ? なんで知らないのよ。」


津島陽子が唇を尖らせた。


「なんでって、本社と直接関わったのは2年前の半年間だけだし、仕事の話に御曹司さんは出てこなかったし、そもそもその人、その時は日本にいなかったんでしょ? それにお坊ちゃんとか興味ないし……で、その人が嫁を探してるって言うの? こんな大げさなことしてわざわざ?」


矛先をかわそうと話題を戻したつくしの質問に答えたのは江藤麻友だった。


「道明寺財閥後継者、ひいては次期総帥の妻になる女ですよ? 普通の方法じゃ見つからないんじゃない?」

「でも、家柄が釣り合うご令嬢とか、いるんじゃないの?」


つくしの疑問は至極もっともだった。
4人は考え込んだ。


「やっぱり、プロジェクトはあるのよ。100年の計って言ってたから厳格を期してこんな方法で選んでるんじゃない?」


しかし話は終わらない。
長坂澪がまた身を乗り出した。


「ね、みんな処女なの?」


澪のいきなり核心をついた質問に、4人はグッと押し黙った。


「私から白状するね。処女でーす。」


澪が手を上げて宣言した。


「あ、あたしも」


江藤麻友も控えめに手を上げた。
つくしはチラリと津島陽子を見遣った。
自分と同い年の陽子が経験者だと肩身が狭い。
彼氏がいたことはあったが、経験はなかった。
結婚まで純潔を守っていた設定で生きていくことを決めたのは25歳の誕生日だ。


「私は経験済みです!ってか、今も彼氏いますし。」


あっけらかんと宣言したのは最年少の松永朋花。
これはますます言い出しづらい。
しかし3人の視線がこちらに注がれていた。


「え? 私はあるわよ。あはは、当然でしょ! ね?」


津島陽子がつくしを覗き込んだ。
冷や汗が流れる。
目がぐるぐると回って焦点が合わない。


「え…まさか、牧野ちゃん…」


えーい! ままよ!


「経験、ないです!」


片手を挙げて宣言した。
人に指摘されるよりは自分で告白したほうがマシだが、赤面するのは止められない。


「えー、牧野さん可愛いのに、なんでぇ〜?」

「ちょっと松永ちゃん、そういうコメントは平等にしようね〜」


額に怒りマークをつけた長坂澪が苦笑いしながら松永朋花にツッコんだ。


「でも、ってことは、やっぱり処女率高いよね。」


長坂澪はまだ終わらせない。


「松永ちゃんが例外なのは若いから?」

「おーい、私もいるぞぉ。」

「だから、関係ないんだって!」


つくしは長坂がどうしてこの話にこだわるのわからなかった。


「でもさ、」


江藤麻友が口を開いた。


「初めての相手が道明寺司なら、この歳まで温存しておいた甲斐がありますよ。」


これにはつくし以外の3人が深くうなずいた。









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2020.02.05
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