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NY マンハッタン 6月下旬



プップ————

  パッパッパ———


リムジンは5番街通りグリニッチ・ビレッジを、ソーホーに向けて走っている。


「副社長、この後ソーホーのビルでファッション誌「VOGA」の撮影に臨んでいただきます。椿様からの要請ですので、今回は断れません。よろしくお願いします。」
「チッ、姉ちゃんも無理言いやがる。人を当てにして商売してんじゃねーよ。」

司の姉、椿が重要取引先から司に雑誌のモデルを頼まれたのだ。
勝手に快諾してきて、司には事後報告。
日時と場所だけを指定してきた。
それがソーホーのとある雑居ビルだった。



つくしを失った司はしばらく抜け殻となっていた。
心の闇を薙ぎ払うように暴れるわけでもなく、自暴自棄になるわけでもなかった。
ただ、失ったものの大きさの前に絶望し、もう二度と人生に光は感じられなかった。
高校卒業を待たずにNYに渡った。
学園で感じるつくしの残像に耐えきれなかったし、少しでもつくしの近くに居たかった。
例え彼女がその地で永遠の眠りについていたとしても。



「カメラマンは女性で、最近では「VOGA」の編集長リリー・フォールからも目をかけられています。このカメラマンを使うことも椿様から指定されています。」

司はますます機嫌が悪くなった。
女のカメラマンはいつも無駄なポーズを要求してくる上に、必ずその後を誘ってくるからだ。

「なんて名前だ?」
「えーと、エマ・ホワイトです。」
「アメリカ人か?何系だ?」
「そこまでは。」
「ふん」


西田ならそこまで調べていただろうがな。


司は、最近、自分の第一秘書となった真島にまだ満足していなかった。





そのビルは1階がセレクトショップになっており、摩訶不思議なファッションに身を包んだ店員が、昼間から店内で踊っている。
ショップ裏の狭いエレベーターから4階へ上がった。

エレベーターが開くと、そこはワンフロアがスタジオになっていて、6〜7人のスタッフが立ち働いていた。
その中に小柄で、黒いカットソーに黒いパンツの細身の女性が後ろを向いて立っている。
黒い髪はゆるく結われ、ボールペンが刺さっている。

司はその女性がカメラマンだとすぐにわかった。
自分の顔ほどもある大きさのカメラをテストスタッフに向かって構えていたからだ。
どうやらカメラテストをしているようだ。

司に気づいたひとりのスタッフがその女性に声をかけた。
女性が振り向く。
大きな黒い瞳が司を捉えた。


司の息が止まる。


「ま きの・・・」


黒いUネックの長袖カットソーに同じく黒のスキニーパンツ。
黒いスニーカーを履いて、ウェーブのかかった黒髪をボールペンで止めた女は、牧野つくしと同じ顔をしていた。

『Hi!Mr.道明寺。今日のカメラマンをします。エマ・ホワイトです。エマと呼んでください。どうぞお手柔らかに。』

女は黒く大きな目を細め、右手を差し出して笑顔で挨拶した。

司は茫然としていた。
見開いた目は眼前の女に注がれ、驚きのあまり体が動かない。
今見ているものが信じられなかった。

『あの、よろしくお願いします。わたしは道明寺の秘書の真島です。』

真島は固まっている司を横目にして代わりに握手をした。

『Mr.真島、どうもエマ・ホワイトです。』

エマは司をチラッと見やりながら真島が出した手と握手をした。

『はい!Mr.道明寺も、よろしくお願いしますね!』

エマは再び司に向き合って右手を出した。
エマの顔から視線を外せない司は、右手だけを緩慢に差し出した。
その手をエマは掴んだ。

『あら、あったかい手!』

そう言うとエマはニコッと微笑んだ。


牧野だ。この女は牧野だ。


エマの手を掴んだ司は確信した。







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2018.10.30
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