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推薦告知から10日。
あたしは朝から腰が痛くなるくらいにのけぞり、雲に頭を突っ込んだビルを見上げていた。


「ほへー……何度来ても見慣れないビルよねぇ。」


2年前には何度も通った道明寺日本本社ビルに来るのは1年半ぶりだった。

候補者にはぞれぞれ番号が振られ、IDカードが事前に配られている。
1〜100番は9:00〜9:30まで、101〜200までは9:30〜10:00まで、と、100番ずつ受付時間が決まっている。

あたしの番号は253番。
受付時間は10:00〜10:30だ。
現在時刻は9:50。
よし、大丈夫。
きっともう戦いは始まってる。
ライバルがうようよいる道明寺本社ビルのエントランスをなるべく堂々と突っ切った。







受付を済ませ、200番代の候補者の控え室に入るとズラリと並べられた長机の端と端に番号が貼り付けてある。
自分の番号の席でじっと待っていると、静かな廊下から切羽詰まった声が聞こえてきた。


「あの、遅れたのはすみませんでした。でも途中で電車が遅延を起こしまして。あのっ、遅延証明書もあります! お願いします! 参加させてください!」


どうやら受付時間に間に合わなかった候補生が受付担当者に直訴しているようだ。


「申し訳ございません。200番代の受付は終了いたしました。例外は一切ありません。どうぞお気をつけてお帰りください。」


「そんな! 電車が止まったんですよ!? 不可抗力なんですよ!? 仕方なかったんです。」

「でも200番代の方であなた以外に遅れた方はいらっしゃいません。それに、運も実力です。実力のない方はお引き取りいただくのが選定です。」


30代と思しき受付男性の声が耳に残った。
その時、控室にいた一人の候補者が立ち上がって部屋を出て行ったかと思うと、その人のものと思われる声も聞こえてきた。


「あの、差し出がましいようですがちょっと厳しすぎるんじゃないでしょうか。この方のせいじゃないですし、イレギュラーな事態というものもあるのではないかと思うのですが。もう一度、チャンスを差し上げてくださいませんか?」

「あ…ありがとうございます……どうか、お願いします!」


遅刻した女性は庇ってくれた女性にお礼を言った後、最後にもう一度受付担当者に頭を下げたのだろう。
このまま救済されるかと思われたその時、受付担当者の冷淡な声が響いた。


「それでは、あなたもいっしょにお帰りください。」

「「えっ!?」」

「当方のルールに従えないなら帰っていただいて結構です。どうぞ、お二人揃ってお引取りを。」

「ちょっと、あのっ私もですか!?」


今度は庇った女性の切羽詰まった声が届いた。


「はい。もう結構です。ご足労いただいてありがとうございました。……すみません! この方達をエントラスにお送りしてください!」


受付担当者は最後は離れたところに声をかけた。
開け放たれたドアの前を通ったのは黒いスーツを着た体格のいい男性が二人。


「ちょっ、ちょっと!」

「離してください!」

「手荒な真似はいたしません。どうぞ我々の指示に従ってください。」


どうやら待機していた警備担当者?に強制的に促され、遅刻した女性とその女性を庇った女性はフロアを出て行った。

あ、危なかったぁ。
もう少しであたしが立ち上がるところだった。
だって、電車が遅れたんでしょ?
仕方ないじゃん。
どうしろっちゅうのよ。
……でもそれが「運も実力のうち」ってやつか。
ヒエェェーー・・道明寺HD恐るべし。
気が抜けないなぁ。





受付番号は900番代まであった。
受付終了予定は午後2時。
それまで朝から集められた候補者は昼食もとらずにずっと待機させられていた。
控室にはウォーターサーバーのみが置かれ、水分補給だけはいつでもできる。
お手洗いにも好きに行ける

だがつくしは、自分以外全員ライバルという特異な環境では神経がすり減っていくのを感じていた。

はぁ、お腹すいたな。
朝ごはん食べたのが7時。
今、午後1時過ぎ。
いつもならとっくにお昼を食べている。
食べられないときは給湯室で軽くクッキー1枚つまむだけでも神経が和らぐものなのに。

その時、部屋の中で悲鳴が上がった。
振り向くと、一人の女性が倒れていて、周囲にいた女性たちが駆け寄っていた。
つくしは立ち上がり、廊下に出た。


「すみません! 誰か来てください!お一人、倒れました!」


すぐに救護班が来た。
貧血とのことで、そのまま搬送された。

つくしは堪らず、近くにいた40代と思しきの女性担当者に尋ねた。


「あの、待ち時間が長時間になっていて皆さん、お疲れなのですが、受付終了後は昼食の時間がありますか?」

「ありません。14時からは説明会を行います。」

「えっ!? でもそれじゃ、朝一番からいらしている方は5時間も待機してるんですよ? それがまだ続くんですか?」

「253番さん、プロジェクトが始まれば日中は何も口にできないということもあり得ます。この程度で根を上げるのならば、今この場でお帰りください。」

「もしかして…先ほど倒れた方は…」

「失格です。」

「…マジですか……」


ギロリ、と女性担当者はつくしを睨んだ。


「253番さん、言葉遣いも選定対象ですよ。気を抜かないように。」


それだけ言うと持ち場に帰って行った。


「…マジか……」


つくしの呟きだけが残った。








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2020.02.02
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| 2020.02.03(Mon) 07:41:00 | | EDIT

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| 2020.02.03(Mon) 12:03:33 | | EDIT

Re: タイトルなし

スリーシスターズ 様

コメント、ありがとうございます!
種明かし的な構成になってしまいましたが、でもつかつくなんで大丈夫ですよね?
他の方と被らないお話をお届けしようと日々、推敲しておりますので、お楽しみいただけたら嬉しいです!

nona | 2020.02.04(Tue) 16:24:40 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ふじ 様

いつもコメント、ありがとうございます!
それと知らないつくし。運命が彼女を導きます。
でもそれもつくしが持つ素晴らしいものの結果なんですけどね。
司の登場はもう少しお待ちください。

nona | 2020.02.04(Tue) 16:34:17 | URL | EDIT