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瀬里とお風呂に入って出てきたら司の機嫌がめちゃくちゃ悪くなってた。

なに?

夕食までにこやかで、和やかにしてたのに。
仕事のこと?
何か悪い知らせがあった?

…でも、彼の怒りはそんなことじゃなくて、何かとか誰かじゃなくてあたしに注がれてるような気がする。

なぜ?

心当たりは全くない。
全くないんだから第一声は大事よね。

「どうしたの? 何かあった?」

お風呂から上がってナイトウェアにガウンを羽織って、瀬里と入った時は先に髪を乾かし、その後いつもなら自分のクローゼットのドレッサーでスキンケアをする。
でも今夜のこの異様な空気の中で、司を置いて別室に移ることは得策ではないと判断し、リビング続きのキッチンに入った。

「コーヒーでも飲む?」

あたしの問いかけに返事もせずに依然としてジッと睨みつけてくる司に、何事もないように声を掛ける。
返事を待たずにあたしはサイフォンを取り出し、冷蔵庫からコーヒー専用の水を取り出した。

「ぅわっ!」

振り向くと音もなく司が背後に移動していて、超至近距離に立っていた。
バスローブから覗く厚くて硬い胸に思わず鼻をぶつけそうになってあたしは仰け反った。

「びっくりしたぁ……な…に…?」

見上げたところにある顔は記憶にないくらい冷たい表情で、彼の心理状態が尋常ではないことを物語っていた。
それでもこの顔を見たことがある。
いつだったか…
あたしは脳内の警報音を聴きながら記憶のページを過去に向けて繰っていく。

そうだ、あの時だ。
はるか昔、まだ司と敵対してた頃、夏休み明けの放課後、非常階段、そして廊下……
あの時と同じ昏い瞳だ。

司はあたしの手から水を奪うとカウンターに置き、あたしの背後のキッチンカウンターに、あたしを囲むように手を着いた。
そして被さるようにして上からあたしを見下ろした。
あたしはこれからなにが起こるのか予測がつかないことに怖気て眉根を寄せたけど、でもそれを悟られないように目に力をこめた。

「お前の恋人は背が高いんだって?」
「……は?」

司から発せられ言葉の意外さに、思わず強張っていた顔の筋肉が緩んだ。
なんて言った?
恋人っつった?

「雪の降る街に住んでて、クリスマスにはサンタになるって?」

司が何のことを言ってるのか理解して、カッと瞬間的に顔が熱くなるのがわかった。
居た堪れなくて思わず視線も顔も逸らした。

「本当…なんだな?」

ギャーー! やめてよ!

「誰に聞いたの?」
「…双子」
「そ、そっか。だから夕食の時にあんたに「パパはサンタか」って聞いたんだ。」

あの2人ぃ〜!
余計なことを告げ口してくれちゃって!

「あの、それは昔のことで、そりゃそんなことを思ったことも何度かあったけど、わ、若気の至りって言うか、いや、違うな。若さ故の妄想とでも言おうか。あの、だからその、もしそうだったら会えるのになーなんて思ったことがあったってことで、もう昔の話だから忘れて!」

あたしは焦るあまり、司の顔も見ずにいつもの癖で目を泳がせながら早口で言い訳を並べた。
だってあたしらしくない乙女チックな思い出を今更蒸し返されたくない。

「昔から何度かだと……いつからだ。」
「え、だから遠距離だったとき…だよ。今はもうそんなこと考えてないよ? さすがに瀬里が生まれてからはないから。」

だってサンタは子供のもんじゃん。
って言おうとあたしはやっと司の表情を伺った。

「っ!?」

な、なんで??
さっきよりさらに凶悪な表情になってる。
青筋が見たことないくらいピクピクと浮かんで、弓形の眉が思い切り眉間に寄って、目は据わって三白眼になっちゃってる。
どうしちゃったの??

「そんなに怒らなくても…」
「昔の話だから? だから俺が許すとでも思ってんのか? まさか瀬里が生まれるまで続いてたとはな…お前それでも母親か? 恥ずかしくねぇのかよ!!」
「なっ…酷い…」

なんでそんな言われ方しなきゃならないの!?
そりゃ日本に残るって決めたのはあたしだけど、だからってちょっとした想像や空想もダメなの?

「だって、さ、寂しかったんだもん。周りはみんなカップルで楽しく過ごしててさ。そんな時に…ちょっとくらいいいじゃない!」

司がなんでこんなことにこんなに怒るのかわからない。
なのに、司はますます顔色を悪くしてカウンターに着いた手がワナワナと震え始めた。
その右手を司がスッと上げたのが視界に映って、殴られる!と思って瞼を強く閉じたその時だった。

ドンドンッ!
   ガチャッ!

「パパ! 誤解なの!!」

飛び込んできたのは瀬里だった。




***




「ねえちゃん!」「ねえちゃん!」

子供部屋に入ると誠と実が駆け寄ってきた。
寝かし付けの最中だったみたいでシッターの久保さんが苦笑してる。

でも双子は私と遊びたくて駆け寄ったんじゃない。
その証拠に2人のママ似の眉が下がってる。

「ね、パパがすごく怒ってたけど、あなたたち、理由知ってる?」
「…………」「………知らない。」

こういう時、誠は黙り込む。実は嘘をつく。
だから2人はパパが怒ってる理由を知ってるんだ。

「何があったの? 言わなきゃクローゼットで遊んでたこと、ママに言うわよ?」

この広い屋敷で双子の今一番ホットな遊び場がパパのクローゼットだ。
パパの服を引っ張り出してはファッションショーさながらに着て練り歩いてる。
パパはやらせとけって言うけど、腕時計のコレクションを触った時はママに激怒されたんだ。

私の脅しに2人は顔を見合わせた。
言うか言わないか迷ってる。

「パパはママに怒ってるのよね? ママが出て行っちゃってもいいの?」
「やだっ!」「だめっ!」
「だったら話して!」

私は双子を部屋の窓辺のソファに誘って3人で座った。
久保さんはそっと隣にあるシッター専用の控え室に入って行った。

「で?」
「ねえちゃん、ママ、遠い街に行っちゃうんだろ?」
「はぁ?? いつよ?」
「クリスマスになったらママの恋人がサンタになって来て、ママを遠い街に連れて行っちゃうんだろ?」

私を挟んで右の誠と左の実が交互に話してくれた。

「あんたたち、それをパパに言ったの?」
「うん。だってママがいなくなっちゃうもん。」「もん!」
「このおバカたち! んもう、それじゃパパは怒るわよ! 大変、止めなきゃ!」

私は2人を残して子供部屋を飛び出して廊下を駆け、リビングのドアを力強くノックした。




***




「パパ! 誤解なの!」

突然聞こえた瀬里の叫び声に、あたしは強く閉じていた瞼を開けた。
見えたのはリビングの扉を開け放ったまま、こちらを見つめている瀬里だった。
飛び込んできた瀬里は自分の部屋から長い廊下を走ってきたのか息を切らしている。
なのにさらにキッチンまで駆け寄り、下された司の腕を取った。

「パパ、違うの! あれは歌なの。ただの歌!」
「瀬里、ママを庇わなくていい。」
「違うんだって! ほら、ママ、歌って!」
「へっ!? 歌?」
「ほらあの、♫恋人がサンタクロースっての!」
「えっ! 今!?」
「照れてる場合じゃない! パパは誤解してるんだから!」
「え?……ええぇ〜〜!!!」

あたしは目の前の夫をマジマジと見上げた。
困惑も露わにあたしと瀬里を見比べている男は、まさかあの歌を知らず、あの歌詞をあたしの浮気だとでも思ったのだろうか。

「え、待って。何が何なの??」
「ママの歌を聴いてた双子が、ママには恋人がいてその恋人がクリスマスにはサンタになってママを遠い街に連れていくってパパに話しちゃったの!」
「はあぁぁぁ!???」

・・・・

「プッ! あははははっ! マジで!?」
「テメェ、何笑ってんだよ!!」

ようやく事態が飲み込めたあたしたち夫婦。
あたしは可笑しくて仕方ないし、司はとんだ誤解に赤面してる。

「ねぇ、パパ、ママが浮気なんてするわけないでしょ? ずっとパパのことが好きなママなんだから。」
「ちょっと、瀬里!」
「ママもさ、歌ってるばかりじゃなくて、たまにはちゃんとパパに気持ちを言わないとダメだよ。」
「だとよ!」
「ぐっ…」
「じゃ、私は寝るね。パパ、ママ、おやすみなさい。」

あたしは司と顔を見合わせた。
ほら、言わなくても顔を見ればわかるじゃない?

「瀬里、待て。ホットミルクがまだだろ?」
「そうよ。双子たちも呼んでみんなでいっしょに飲も?」

ドアに向かいかけた瀬里が振り向いた。
その顔がパッと明るくなって「うん!」と言ってあたしたちの間に飛び込んできた。

瀬里も誠も実も、あたしたちの大切な宝物。
恋人がサンタクロース…本当だったね。
だって、こんなに素敵な宝物を授けてくれたんだから。







「なぁ、つくし、」

誠と実にあたしはどこにも行かないと誤解を解いて、5人でホットミルクを飲んだ。
そして子供たちを寝かし付けた後の夫婦の寝室。
クローゼットで遅まきのスキンケアをして出てきたあたしに、既にベッドに横たわり、片肘をついた夫が声をかけてきた。
あたしはベッドサイドのランプだけを残して部屋の明かりを消して、ベッドに乗り上げた。

「なに?」
「俺がいなくて寂しくて、俺がサンタクロースになってお前をさらいに行くって歌を歌ってたのか?」
「…NYは雪が降るでしょ? 遠い街だし。いつかあんたが迎えにきてくれるんだからって慰めてたわけ。もういいでしょ! おやすみっ」

背を向けて冬の上掛けに潜り込んだあたしを大人しく寝かせてくれるわけがないのはわかってる。
…わかってるし、ちょっと期待してるあたしはあれから十数年が経つのに意地っ張りで天邪鬼なとこは変わらない。

「つくし、寝かせるわけないのわかってて背を向けるなよ。んっとにお前は強がりで意地っ張りだな。」

天邪鬼が抜けてるわよ。
あたしはクルリと寝返りを打って夫に向いた。
ランプの温かな灯りに照らされる男の瞳に先程見た昏さはもうない。
でも普段の優しさもない。
そこに今夜宿るのは、欲深いオスがメスを誘う淫靡な光。

でも欲深はダメだよ?
欲しいものはひとつだけ。
…そう、ひとつだけ。
     ただ、あなただけ。






Music Collaboration
「恋人がサンタクロース」【完】







・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
 メリークリスマス!
 聖なる夜にあなたにもサンタクロースが訪れますように。


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2019.12.24
コメント記入欄

ヒョーッ
途中まで早く誤解がとけないと!
ブラック坊っちゃん、ヤバい!ってドキドキしましたよー!
今年のサンタは、自分でポチッと掃除機を頂くことになりましたよっ!
ノナさん、楽しいお話プレゼントを有り難うございます!
メリークリスマスーー!

カオカオ | 2019.12.24(Tue) 18:48:58 | URL | EDIT

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| 2019.12.24(Tue) 21:32:09 | | EDIT

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| 2019.12.24(Tue) 22:40:09 | | EDIT

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| 2019.12.25(Wed) 01:32:40 | | EDIT

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| 2019.12.25(Wed) 11:55:14 | | EDIT

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| 2019.12.26(Thu) 17:13:57 | | EDIT

Re: タイトルなし

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!
こういうコントみたいな会話のズレって考えるの好きなんですよね。
この二人ならありがちだし(笑)

掃除機、いいな〜
私は洗濯機欲しいです。

来年のサンタに期待しようっと^^

nona | 2019.12.26(Thu) 22:31:45 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

Christy 様

コメント、ありがとうございます!
nonaサンタ!
そういえば、去年もそう言ってましたね!
Christyサンタさん、お疲れ様でした!

そうそう、私もです!
聴く曲は全部つかつくで妄想してます 笑

今年最後はつくしの誕生日ですね。
Christy様も良いお年を!

nona | 2019.12.26(Thu) 22:34:20 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

二次小説大好き 様

コメント、ありがとうございます!
幸せに浸っていたところに冷水を浴びせかけられた司。
坊っちゃんは本当につくしがいなきゃ生きていけない男です。

ケーキって高くなりましたよね!!
年に数回しか行かないんですけど、行くたびに値上がりしてる気がする。
見ちゃうとどれも食べたくなっちゃうんですよね〜

新作も頑張ります!

nona | 2019.12.26(Thu) 22:37:05 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ふぁいてぃ〜んママ  様

コメント、ありがとうございます!
そうなんですよぉ〜
瀬里は外見=司、内面=つくし。
双子は外見=つくし、内面=司。
思い込みの激しさがそれを物語っています。

司とつくしのズレた会話を考えるのが楽しくて、ついつい遊んじゃいました。
西田さんのクリスマスもいつか書いてみたいなぁ。

いつも応援ありがとうございます。
よいお年をお迎えください。

nona | 2019.12.26(Thu) 22:39:58 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

スリーシスターズ 様

コメント、ありがとうございます!
浮気を疑われて心配されるつくしは幸せ者ですね。
でもどこかズレてる会話が書いてて楽しかったです。
いかに互いにそれと気づかれずに会話するか。
核心は突かないで回りくどい会話にしてみました。

この実は似た者夫婦を宥めるのは娘の役目。
瀬里は良い子に育ちました!

3人のお願いは、瀬里は実用的なもの、双子は夢見がちなものだと思います^^

nona | 2019.12.26(Thu) 22:43:32 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ゆずぷりん 様

コメント、ありがとうございます!
本当にこの二人の愛はいつ冷めるんでしょうね。
冷めなくてもいいけど、いつ落ち着くのか。

ゆずぷりん様もどうかご自愛下さい。
新連載も頑張ります!

nona | 2019.12.26(Thu) 22:45:08 | URL | EDIT