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つくしと結婚して11年。
つい先日、結婚記念日を祝ったばかりだ。

瀬里が生まれて、クリスマスは別の意味を持つ日になった。
それは俺がサンタになる日。
イブの夜、寝静まった子供たちの枕元に忍び足で近づき、プレゼントを置く。
瀬里が3歳で始めた時は置くだけなら俺じゃなくてもいいじゃんと思ったが、翌朝、目覚めた瀬里は大喜びで、その顔を見ればサンタ役は他のヤツには譲れねぇって気持ちになった。

俺にはサンタの思い出はなかったけど、つくしによると庶民の子供はみんなサンタクロースって存在を信じてて、クリスマスイブの夜、注文した品をそのサンタが届けてくれるんだとさ。
だったら執事でいいじゃん。
年に一度なんて言わずに、欲しいものはいつでもなんでも執事に言いつければいい。
そうすれば翌朝には届いてる。

なんて言ったらつくしに叱られた。
子供にサンタって夢を見させるのも親の役目なんだと。
それにいつでもなんでも欲しいものを与えたりもしないって。
なんでだよ。
欲しいものは手に入る。
それこそが道明寺家の子供の特権なのに。

俺はそうだった。
一瞬でも欲しいと思ったものは何でもすぐに手に入れてきた。
その代わり、飽きるのも秒だったけどな。

だからだったのか。
本当に欲しいものが見えなかった。
自分が何を渇望してるのか、何に飢えてるのか、いや、飢えていることにさえ気づいてなかった。

つくしに出逢うまで。

今思えば俺は、あいつに出逢った瞬間に理解したんだ。
俺が本当に欲しかったのはこいつだったんだって。

つくしが持つ、本物の輝き。
俺の周りにあるイミテーションの鈍重な乱反射じゃなく、強烈な閃光が俺を貫いた。
今でも思い出せる。
あいつが俺に「カエルの大将!」って言い放ったときの瞳の強さを。
初めて本当の意味で俺は人に見つめられたんだ。

そのつくしの瞳が移ろう様を見てきた。
敵意だった視線が寛容を表し始めて、それが困惑に変わり、そしていつからか愛しさを宿してくれた。
「道明寺!」と俺を呼ぶ声も様々に変化した。
怒声だったのが囁きに変わり、その声だけで俺を昂らせるようになったのはあいつが大人になってすぐの頃。

結婚して「司」と呼んでくれるようになって、瀬里が生まれて誠と実を授かって。
幸せってのはこういうもんかと思った。
つまりは俺の幸せはいつもつくしが運んでくれるってことだ。
あいつがいなきゃ、俺に幸せは訪れない。

俺は強欲で貪欲な人間だ。
欲しいと思ったものは明日の朝にはもう欲しい。
だから俺が幸せを欲し続ける限り、つくしはいつでも俺の横にいなきゃダメなんだ。
夜毎あの強い光を甘く蕩けさせて、吐息とともに「司」と呼ばせたい。
自主自立がモットーみたいなあの女を俺に縋りつかせて、あいつにも俺がいなきゃダメなんだと感じさせたい。

でも今はとりあえず、目の前のタスクをこなすことだ。
こいつらが寝ないとつくしとの夜が来ないからな。

「流すぞ。目をつぶって口で息をしろよ。」

子供を風呂に入れるのが瀬里が生まれてからの俺の日課だ。
瀬里が8歳までは誠と実と4人で入ったりもしたんだが、さすがに女の子の瀬里は去年から俺とは入らない。
「みんなで入るのは今日が最後だ」って夜はのぼせるまで風呂場で遊んでたっけ。
子供の成長ってのは早くて、いつまでも小さなままではいてくれないってことを実感した日だった。

今は俺に纏わり付いてるこの坊主たちだって間もなく反抗とかし始めるんだろうな。
それを思えばこの時間の貴重さが身に染みる。

「誠、湯に浸かれ。実、お前の番だ。」

誠はブルッと頭を一振りしてバスに入り、風呂用のおもちゃで遊び始めた。
代わりに出てきた実にシャンプーしてやる。
瀬里は俺に似て癖毛だが、こいつらはつくしに似てストレートだ。
一卵性だから見分けがつかないことがあって、時々、間違うのは男親だから仕方ない。

「ねぇ、パパ、」

背後の誠が話しかけてきた。
なんだ?
もう出たいのか?

「んー? どうした?」
「ママには恋人がいるんだって。」
「……は?」

実の頭をマッサージしていた手を思わず止めて誠に振り向いた。
つくしによく似た丸い瞳が俺をジッと見据えていた。

「誠、今なんつった?」
「だから、ママには背の高い恋人がいて、そいつは雪が降るところに住んでて、クリスマスが来たらママを遠い街に連れて行くんだよ。」

何言ってんだ?
絵本かなんかの話か?

「は…ははっ、ンなこと誰が言ったんだよ。」
「ママだよ。」
「つくしが!?」

つくしが?
恋人がいるだと?

「誠、」

また実に向き直って止まっていた手を動かしながら俺は背後の誠に問いかけた。
怖がらせないように慎重に。

「ママの恋人は背が高くて雪の降るとこに住んでるのか?」
「うん。」
「それで、ママを遠い街に連れて行くって?」
「うんそう。クリスマスになったらサンタになって連れて行くって。だからサンタはパパかと思ったのに違うんでしょ?」
「…違うな。それ、いつ言ってた?」
「今日だよ。ね、実。」
「うん、俺も聞いたー。」

雪が降るとこってどこだ?
北海道…北欧?
俺からつくしを奪う奴がいるのか?
恋人……?
あいつは俺の妻なんだから恋人とは言わねぇだろ。
愛人…浮気相手?
つくしが俺を裏切ってそいつと遠い街へ?

ザワッと鳥肌が立った。

許さねぇ…
許さねぇ 許さねぇ 許さねぇ!!!

全部洗い流して双子を両腕に抱えて風呂を出た。

「まだ遊びたかったぁ〜」「かったぁ〜」

うるせぇぞ。
今夜はもうお前らに構ってる暇はない。
双子をバスローブで包み、バスルームを出て寝室を横切り、リビングに入って内線を掛け、程なくして現れたシッターに双子を預けた。






俺はどうにかして冷静さを取り戻そうとキッチンの冷蔵庫からどっかの谷底から汲み上げたとかいう水の入った瓶を取り出し、そのまま飲み干した。

あいつに付けてるSPから不審な行動の報告は上がってなかった。
つまり庇ってるってことか?
俺一人が何にも知らないで楽しい家族ごっこをやってたってわけかよ。

「ハッ…」

自嘲が漏れて、しかしそれもすぐに引っ込んだ。
結局、あいつにとって俺はその程度ってことなのか?
未だに俺の方があいつに惚れてて、あいつは俺の1/10にも達してないってことかよ。

SPを吊し上げりゃ事実なんてすぐに割れる。
なのに俺はそれをしたくなかった。
あいつに嘘だと言って欲しい。
そんな相手はいないと言って欲しい。

つくし、お前の言うことなら信じるから、だから頼むから違うと言ってくれ。




***




パパや弟たちと一緒にお風呂に入らなくなってから、私はママとお風呂に入ることが多くなった。
もう10歳なんだから一人で入らせろってパパは言うけど、ママは「うちのお風呂は広くて大きくて深いから心配だ」って言って一緒に入ってくれる。
今夜も私の部屋のバスルームで一緒に入って、パジャマに着替えたら髪を乾かしてもらった。
ママはサラサラなストレートのロングヘア。
でも私はパパに似たから天然パーマなの。
誠と実はママ似でサラサラストレート。
いいなぁ。
私もストレートがよかったな。
ママは巻毛って可愛いくて羨ましいって言ってくれるけど、私はサラッて流れるように揺れる長い髪に憧れる。
ママは昔みたいに短い髪型にもしてみたいらしいけど、パパが切らせないんだって。

ママとお喋りしながら私たちの居住空間であるリビングに入った。
その瞬間、部屋の空気が違うことにママも私も気づいた。
部屋の真ん中で、ローテーブルの上に置いた水の瓶を前にして、バスローブ姿のパパがソファの背もたれに両腕を伸ばして座って、じっと私たちを睨んでる。

パパが怒ってる?
なんで?
わからないけど、この静けさはかなり怒ってる証拠だと私ももう知ってる。
ゴクリ…と唾を飲んだのはママと同時だったかもしれない。

「瀬里、自分の部屋に戻れ。」
「えっ…」
「聞こえただろ。行け。」

お風呂上がりにはいつもママがホットミルクを出してくれて、それを飲んでから眠るのが日課だってパパも知ってるのに、その低く冷たい声は今夜はもう終わりだって告げていた。

「…誠と実は?」

問いかけたママの声も少し低くて、パパの発する怒りのオーラにママでさえも緊張しているのがわかった。

「あいつらはシッターと子供部屋だ。瀬里!」

パパの声が大きくなり私は思わず肩を震わせた。

「はい…パパ、ママ、おやすみなさい。」

私は2人に頭を下げて挨拶をしてリビングを出て、自分の部屋じゃなく双子のいる子供部屋に向かった。









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2019.12.23
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| 2019.12.23(Mon) 17:56:59 | | EDIT

Re: Blizzard司くん

ふじ 様

コメント、ありがとうございます!
なんだかんだとあっても司の純粋さは健在で、つくしのこととなれば5歳の言葉も真剣に受け止めてしまういいパパです。
つくしがいなけりゃ夜も日も明けない司にとってはつくしの駆け落ち騒動など人生に関わる一大事!とばかりの苦悩ぶり、どうやってこの誤解を解くのか。明日の更新も楽しみにしていただけたら嬉しいです。
「渋谷で5時」も「Blizzard,Oh!Blizzard」も聴きました!

一人でも夕方5時を楽しみにしてくださる方がいるなら、新連載も頑張ります!

nona | 2019.12.23(Mon) 22:53:06 | URL | EDIT