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今日はつくしと司さんが第1回目の両親教室の日だ。

両親教室のカリキュラムは3回に分かれていて、第1回目の今日は「妊婦の栄養と運動」をテーマに妊娠中の過ごし方をレクチャーされる。

両親教室が開催されるのは隔週土曜日の午前中になっている。
休みだった俺は、朝から上機嫌の司さんと早くも疲れたような顔をしたつくしを見送った。
休憩を挟んで2時間くらいだから往復を入れて3時間ほどかな。
昼過ぎには帰ってくるはずだ。

なのに、出かけてから2時間で帰ってきた。
司さんの額には青筋が立ち、つくしはため息交じりの苦笑いだ。
ドカッとソファに腰掛けた司さんをチラリと見遣りながら俺はリビングに入ってきたつくしに抑えた声で尋ねた。


「おかえり、早かったね。」

「ハァ…それがさ、」


司さんが何か無理を言い出して暴れた?と思ったら逆だった。


「ママさんたちがみんな司に釘付けでさ。みんなで前を向いてお話を聞いてた時はまだ良かったんだけど、夫婦で組んで妊婦体操するって別室に移動するときに事件が起きて…」

「何? 司さんがキレたとか?」

「違うの。ひとりのママさんがさ、司にお腹を撫でてもらいたいって言い出してさ…」




『あの、すみません。』
『あ?』
『あの、初対面の方に不躾なんですが、あの、私のお腹を撫でてもらえませんか?』
『は?』
『この子、男の子なんです。あなたみたいなハンサムになるようにあやかりたくて。』




「…マジ?」


俺は司さんにコーヒーを出し、ダイニングテーブルについたつくしにはノンカフェインの紅茶を出した。


「あたしも驚いたわよ! でも大真面目でね。さすがのあの人も驚いてた。」


そう言いながらつくしはソファで憤然とする司さんを視線で示した。


「だろうね。で、撫でてあげたの?」

「それがね、めちゃくちゃ冷たい目をして無視しちゃったの。そしたらその女性の旦那さんが怒り出して…」

「旦那が!?」

「うーん…嫉妬だったんだと思う。「うちの嫁が頼んでんのに無視するな!」って絡まれちゃって。」

「うっわ……で?」

「まさか暴れるわけにもいかないから、帰ってきたの。もうその場にいられるような雰囲気じゃなかったし、あわよくば私もって目をキラキラさせてるママさんたちと、こっちを睨むパパさんたちに囲まれちゃったし。」

「マジかよ…」

「あー、やっぱり無理なんだ。」

「無理じゃねぇよ!」


ソファに沈んでいた司さんがこちらを向いた。


「あいつら揃って馬鹿だろ。なんで俺が他人の嫁の腹を撫でなきゃならないんだよ。俺は安産の神か!? それに俺を睨むのも筋違いだろ。テメェの節操のない嫁を睨めよ!」


今回ばかりは司さんが正論だ。
正論なんだが、その妊婦さんの気持ちも少しわかってしまう。
こんなに神々しいまでのハンサム、あやかりたいと思うのは自然だよ。


「それで、これからどうするの?」


つくしが紅茶に砂糖を3杯入れた。


「つくし、入れすぎ。」

「あ、ごめん。…そうだなぁ、どうしようかなぁ。ねぇ、もう諦めようよ。」


なんとか立ち会わせたくないつくしは両親学級自体を諦めさせようとしてる。


「いいや。諦めない。オフィスに出張させる。出張両親教室だ。」

「はぁぁ!??」


司さんは立ち上がり、リビングを出て行った。




********




両親教室は司さんのオフィスに場所を移して出張形式で行われることになった。

つくしは妊娠と同時に司さんに仕事を辞めさせられていたから、両親教室の第1回目は司さんのスケジュールに合わせて平日の昼間に行われた。

今日はその2回目。
確か夫が妊婦体験をして出産の教育動画を観るはずだ。
陣痛から出産まで、際どいとこギリギリまで映し出される。
順といっしょに見た時は衝撃だった。
女に生まれなくて良かったって心底思ったもんだ。
そしてそんなことまでして俺たちの子を産んでくれるつくしに心の底から感謝が生まれたっけ。

司さんの反応はどうかな。
あの人、1回目の教室の後、道明寺社屋を含めた半径1kmの範囲を完全禁煙にしたんだよな。
自社はもちろんのこと、周囲のビルの喫煙室も潰し、路上の喫煙スペースを移動させ、全社を挙げた禁煙運動を起こして非喫煙者に手当を出すことにしたんだよ。
喫煙者が禁煙に成功したら金一封とか。


「俺の前で煙草を吸ったヤツは島流し! ああん!? 他所の会社のヤツ!? そいつも島流しだ!!」


って息巻いてたな。
面白すぎ。
だから今日はどんな反応だったのか、密かに楽しみにしてるんだ。

駅を出てそんなことを考えながら歩いていたら、あっという間に自宅マンションに到着した。


「ただいま。」


玄関に入るといつものように子供達が駆け寄ってきてくれる。


「「パパ〜、おかえり〜」」

「おう、ただいま。」


子供達の頭を撫でる。
この瞬間に1日で蓄積したストレスが消えていく。


「ねぇねぇ、パパ!」


壮介はいつも落ち着かないが今日は特に興奮気味だ。


「どうした、落ち着け。」

「司パパが変だよ! いつも変だけど、今日はいつもよりすごく変だよ!」

「え?」


司さんもう帰ってるのか?
壮介に腕を引かれてリビングに入ると…なるほど、これは変だね。

そこにはつくしのエプロンをした司さんが立っていた。






「よう、おかえり。」

「あ、はい、ただいま…です。」


ワイシャツとスラックスの上に、つくしのピンクで肩紐にフリルがついているエプロンをした司さんが洗い物をしている。

その横には戦い疲れた顔のつくしが椅子に座らされていた。


「悠介、ハァイ」


つくしは力なく手を振った。
何があった?


「えーと、今日は両親学級2回目だったよね?」


俺はカバンと上着をとりあえずソファに投げてキッチンの入り口に立った。
壮介は風呂、清佳は自分の部屋に入って行った。


「おお! そうなんだよ! それで観たんだよ! 俺は観たんだよ!」


興奮しきりの司さんが鼻息荒く皿とスポンジを持ったまま俺に向いた。


「ちょっと! だから雫が落ちるって! 何回言ったらわかるんだ、このバカッ!」


つくしに怒鳴られた司さんはガチャン!と食器とスポンジをシンクに置いて(投げて?)手の泡を流してピンクのエプロンで拭き(この時点でものすごいシュールなんだけど)つくしに向いた。
怒鳴り返すのか!?とヒヤリとした次の瞬間、司さんは座っているつくし(の頭)を抱きしめた。


「よしよし、よーしよし、落ち着け。怒鳴ったりしたら腹が張るだろ? そしたら子供が苦しいんだろ? な? 落ち着け。」

「〜〜〜!!」


あたしゃ犬か!? 猫か!? んでもってあんたはムツゴロウか!

というつくしのツッコミが聞こえてきそうな光景だった。


「司さん、そろそろ離さないとつくしが息できてませんよ?」


つくしがグングンとエプロンを引いてるのを見て言った俺の言葉に「おお、悪りぃ」と言って司さんは離れ、そしてまた皿洗いに戻った。
その顔に笑顔を貼り付けて。


「ッハァ、ハァ、もう、つきあってらんない。じゃ、そこよろしく。」

「おう! 任せとけ!」


立ち上がってソファに移動したつくしに、
俺はいつかのように声を潜めて今日の話を聞いた。


「あれ、どうしたの?」

「それがさぁ、」


つくしが道明寺日本支社社屋に出向いた両親学級第2回目は、役員フロアの応接室で行われた。


「最初は順調だったのよ。講師の人が持ってきてくれた妊婦体験キットを身につけてさ、『すげぇ重いな
』とか『こんな大変なのか』とか関心しきりでさ。」


それがどうしてああなった?


「その後、出産のドキュメンタリーDVDを観たの。ま、あれってさ、赤裸々じゃん。包み隠さずっていうか。」

「確かに俺も順も最初に見たときはビビったよな。と言っても大切なことだからな。」

「そりゃあたしもさ、出産の大変さを少しでもわかってもらえたらいいなくらいの軽い気持ちだったんだけどね。」

「少しじゃなかった、と?」

「固まっちゃってさ、終わってもしばらく応答がなかったもん。」

「それであれか?」

「うん。目を覚ましたような表情であたしの肩を掴んでさ、」




『つくし、お前がこんなにしんどい思いしてることに気がつかなくて悪かった。子供を産むのがここまで壮絶なもんだとは知らなかった。俺のためにありがとうな。愛してる。お前のワガママはなんだって聞いてやる。だから今日はもうお前と一緒に帰る。』




「とか言い出して大変だったの。秘書さんとなんとか宥めてオフィスに戻してさ。」


その後、子供の下校に合わせて帰ろうとしたつくしを引き止め、無理やりソファに寝かせ、強硬に帰ると言い張るつくしを抱きかかえて車に乗せ、送り届けさせ、邸から使用人を呼び、家事一切をさせ、自分も早く帰って皿洗いをすると言い張り、つくしの指導を受け、今に至った。らしい。


「ハァァァ…いつもの何倍も疲れた。」

「ククッ、お疲れ様。」

「明日からどうしよう。」

「妻を大切にしたいって思ってくれてんだろ? いいことじゃん。父親への第一歩だよ。」

「そうだけどさ…加減てものを知らない人なんだよ。」

「今はフィーバーなんだよ。そのうち落ち着くよ。」


が、司さんのフィーバーはなかなか落ち着かなかった。
家には使用人さんが通ってくるようになり、つくし専属の運転手と車が用意され、ついには世田谷の道明寺邸に全員で移る話まで出てつくしはとうとうブチ切れた。











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2019.12.02
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| 2019.12.02(Mon) 17:09:14 | | EDIT

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| 2019.12.02(Mon) 20:44:39 | | EDIT

この作品大好きです

このシリーズの続き待ってました!
このお話大好きなんですよ。

設定そのものも大胆で楽しいんですが、それ以上に登場人物の各視点からの語る設定がスゴーーーーく新鮮です。つくしの事が各登場人物から語られてだんだんわかってくるって面白いですよね!!!

カオカオ | 2019.12.02(Mon) 21:50:31 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
大変な時期にコメントをくださってありがとうございます。
嬉しいです。

ご体調はいかがですか?
ご主人、3人目なのにその反応はガッカリしますね(^^;)
入院五日って短いですよね〜
1ヶ月はいさせて欲しい(笑)

この作品の出産はまだ先ですが、司はいい夫、いいパパになってくれると思います^^

nona | 2019.12.06(Fri) 16:15:36 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ゆずぷりん 様

コメント、ありがとうございます!
そうそう、お腹触って欲しいですよね〜
血圧上がっちゃうかもしれませんが(笑)

どこまでもマイペースで加減を知らない司。
つくしはなんだかんだ言いながら、司のそんなところが可愛いんだと思います。
この二人って典型的な姉気質と弟気質の夫婦ですよね。
愛の重さも実は釣り合ってたり。
今後も「ファミリー」シリーズをよろしくおねがいします^^

nona | 2019.12.06(Fri) 16:19:44 | URL | EDIT

Re: この作品大好きです

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!
おお!
このシリーズのファンの方がいらっしゃるとは!
書いてる本人、実はあまり期待してませんでした。
扱うテーマがデリケートでもっとお叱りをいただくかと思ってたので、受け入れてくださって嬉しいです。

二人の結婚式を持って本当の完結にしようというところまでは決まっているシリーズですが、
その間はまだ数センテンスあると思います。
出産までに1つ、出産で1つ、子育てで1つ、そして結婚式で1つ、ですかね。
司が楓から与えられた猶予は1年というところもミソです。

これからもこの「ファミリー!」シリーズ、よろしくお願いします^^

nona | 2019.12.06(Fri) 16:25:12 | URL | EDIT