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俺は高山悠介
花沢物産、法務部に勤める34歳だ。
通勤はドアtoドアでおよそ1時間30分。
朝は7時には家を出る。

6時に起きて最初にするのは俺の夫である順にキス。
順はマイカー通勤で、出るのは俺より40分後だ。
ベッドを出れば部屋も出て洗面へ。
顔を洗って歯磨き。
朝食の後にもするけど、起き抜けにもする。
これでこの5年は風邪も引いたことがない。

洗面を出てリビングへ
着替える前に朝食だ。
先に起きてるつくしが毎朝、バランスのいい朝食を出してくれる。

つくしは俺と同い年の34歳。
でもきっと歳より若く見られてんじゃないかな。
だって、家族で出かけた時、必ずと言っていいほどつくしは俺の妹に間違えられる。
他人が俺たち5人を眺めた時に「妹家族とその兄」って図に見える(っていうか、それで無理やり納得してる)らしく、そんな時、兄役はほぼ俺だ。

朝食をとってたら子供達が起きてくる。
清佳は4歳から自分で起きてるしっかり屋さん。
壮介はつくしか俺が起こしてる。
容姿は俺そっくりと言われる壮介だが、甘えん坊なところは順に似てる。
でも最近、つくしに対しては反抗期のようだ。
だから壮介を起こすのは専ら俺の役目。

子供達に朝の挨拶をしたら洗面で身支度を整えて自室で着替える。
ここで順が起きる。
起きた順にちょっかいを出されて着替え直すのもよくあること。

出る時間になってリビングに顔を出すと子供達が朝食をとってる。
その横では起きてきた司さんが、座ってタブレットで世界の市場をチェックしてる。
司さんに挨拶をして子供達の頭を一撫でしてから家を出た。

駅までの道を歩きながら考える。
そう言えばつくしはもうすぐ妊娠5ヶ月だな。
司さんは出産に立ち会うのだろうか。
だとしたら両親学級に参加しないと。
今夜、帰ったら話してみよう。




*********




「つくし、司さんは出産に立ち会うのか?」


9時を過ぎて帰宅した俺に夕食を出してくれているつくしに声をかけた。
スレンダーなつくしの腹がややふっくらとし始めている。


「えー、あたしは嫌。外で待っててもらいたい。」

「でもそうすると、誰に付き添ってもらう? 千恵子さんか?」


千恵子さんはつくしの母親だ。
俺たちのことも可愛がってくれている。
気さくな人で、自分の娘が代理母になると言った時も、「いい経験じゃなぁい。」と軽く言い放った人だ。


「んー、それも面倒だな。あの人は忙しなくて周囲を困惑させる名人だし。出産どころじゃなくなちゃう。」

「今回は俺も順も付き添えないぞ。司さんを差し置いてなんて絶対に無理。」

「そうだよね〜。あ〜どうしようかな。てかさ、付き添いいらないよ。3回目だし。」

「そうか? 司さんとよく話し合えよ。両親学級もそろそろだろ?」

「そうなんだよね。あれにあの人を連れて行くとなるとそれも面倒。」


つくしの悪阻は治ってきたけど、それと同時になんでも面倒くさがるようになってきた。
無理もない。
清佳や壮介のときに勉強したけど、妊娠すると女は人格が変わる。
別の人間になると思った方がいい。
少しのホルモンバランスの変化が大きな影響を及ぼすのだ。

ただ実際、司さんはやや面倒な人ではあるけど。


「よく話し合っとけよ。その時になって急に立ち会うとか言い出したら大変だからな。」

「うん、わかった。」


つくしが通うのは清佳と壮介を産んだ産院だ。
その病院で男が出産に立ち会うためには計3回の両親学級への参加が絶対条件だ。
だから思いついたように立ち会いを希望しても、さあ出産というタイミングでLDR(陣痛分娩室。陣痛から分娩までを一室で行う設備を備えた部屋。)から追い出される。
俺も順もその教室に参加して清佳と壮介の時は立ち会った。


「立ち会わない方向でなんとか説得してみる。」

「でもなんで嫌なんだよ。俺たちの時はしたじゃん。」

「だって、あたしは代理母だったんだよ? むしろあんた達は立ち会うべきだった。見届ける責任があったと思うし、子供を産む痛みを見て理解して自分たちが産んだ気になって欲しかった。清佳や壮介にすぐに愛情を感じて欲しかったのもあるから。」

「司さんは?」

「あの人はほら、ああいう人じゃん。」

「ん、まぁな。わからなくもないけど。」

「医者は女医じゃないとダメだとか、やれ触るなだとか、やれちゃんとやれだとか言いそうじゃん。あんな大変な時にそんなこと言い出したらあたしがあいつをぶっ飛ばしかねない。それに、」

「それに?」

「んー、立ち会ったがゆえに、その後、妻を女として見られなくなったって話を聞いたことがあって…」

「マジ!?」

「ん、なんかトラウマになったとか逆に神秘的過ぎて萎えるとか。」

「プッ、つくし可愛い。つまり司さんに女として見られなくなったらってことを心配してるわけだ。」

「そうじゃないけど…」

「ま、どちらにしてもアドバンテージは女にある。つくしが嫌ならちゃんとわかってもらえよ。俺たちは口出ししないから。」

「いやむしろ、援護よろしく。」

「OK」


「ただいま。なんの話だ?」


順が帰ってきた。
いましがたつくしとした話をして、順もつくしを応援することになった。




*********




日曜日。

いつもより1時間遅く起きてリビングへ。
いつもならつくしが起きてるけど、今日は姿が見えない。
妊婦なんだ。
体の怠さがあるだろうし、気分の浮沈もあるだろう。
今朝は俺が朝食を用意しようとキッチンに入った。
そこに清佳が起きてきた。


「清佳、おはよう。」

「悠パパ、おはよう〜。ねぇ、」

「ん? どうした?」

「ママの部屋から喧嘩してる声がしてるよ。」

「喧嘩!?」


廊下に出ると確かにつくしの部屋から声が漏れてる。
壁を厚くしてるから普通なら聞こえないはずなのに、かなり大声で言い争ってるな。


「だから、ヤダって言ってるでしょ! 産むのはあたしよ!?」

「でも俺の子だ! あいつらは立ち会ったんだろ!? 俺がダメな理由はない!!」

「あたしが嫌ならそれが立派な理由よ!!」

「嫌がる理由がわかんねぇって言ってんだよ!!」


コンコン!


俺は少し強めにノックした。
これ以上ヒートアップしたらつくしの腹が張る。
クールダウンさせて休ませないと。


ガチャ


ドアが開いてつくしが顔を出した。


「つくし、おはよ。声が廊下まで漏れてる。あまり大声出すな。腹が張るぞ。」


つくしは髪をかきあげた。


「ハァァ、ごめん、ありがと。」

「つくし!」


パタン


ドアが閉まる直前に聞こえた司さんの声はまだ尖っていて、話は終わっていない事を物語っていた。

つくしは立ち合いは嫌だって言ったけど、そのこととは別にしても司さんは両親学級に参加したほうがいい。
もう少し、妊婦や妊娠、出産について勉強すべきだ。
妊婦相手に声を荒げるなんて、これから父親になろうって男がみっともないよ。

またキッチンに戻って清佳と朝食を準備してたらつくしが部屋から出てきた。


「ママ、おはよ〜」

「清佳、おはよ〜」

「なんか、喧嘩してた?」


つくしがゲッって顔をした。
そうだよ、清佳にも聞かれてたんだよ。
俺の顔を見て「ごめん」って声を出さずに口だけ動かした。


「ううん、大丈夫。喧嘩じゃないの。あれは議論よ。清佳も学校でするでしょ?」

「するよ。お互いの意見を聞きあって、良いところを見つけて、合わせてもっと良い意見にするの。」


清佳は中学受験をする予定になってる。
年明けから塾に通わせることを順と決めてる。
勉強ができて聡明なだけじゃなく、優しい子だからきっと将来は大物になると俺も順も思ってる。


「そ、そっかぁ。清佳はすごいね〜。ママも見習わなきゃ。」


ダイニングに座りながらつくしは苦笑いをした。


「つまり、司さんの意見との妥協点を探るわけだな。」

「妥協点…なんてあるかな。」

「立ち会いはつくしの希望を通したほうがいいと思うけど、両親学級には参加してもらったら? 司さんはもっと勉強したほうがいいよ。」

「ハァ、そうなるか…」

「あの人だって父親になるのに何も知らないじゃ不安だろ。」

「ん、わかった。」


ひとまずつくしが妥協した。
司さんは計3回の両親学級に参加することになった。








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2019.12.01
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