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__牧野つくしの独白【前半】



漁師町に住む親戚を頼っていた家族に合流したあたしは、家族の経済状況が聞いていたよりも酷いことを知った。
あたしは地元の県立高校に転入してすぐに働き始めた。
平日は下校後にコンビニ、土日は小さな旅館の配膳係っていうのが一番効率がよかった。
早々に漁師を諦めた父は漁協の事務手伝い、母はスーパーの裏方、弟はガススタだった。
家族一丸となって働いて、親戚に借金を返せたのが高3の夏。
それでも働くのを辞めずにあたしは勉強も頑張って奨学金を得て県立大学に入った。

とにかくガムシャラだった。
1分、1秒も暇な時間なんてない生活。
道明寺への想いも考えも全てを遮断したかった。
だから外では働いて働いて、家では勉強に没頭した。

でもどうしても埋められない時間がある。
それは眠る前の時間だった。
あたしは布団に入って、今日こそは泥のように眠りたいと毎日思ってた。
なのにすぐに道明寺が割り込んでくる。
考えたくないのにあいつの顔が浮かんで、気づけばあいつのことを考えてた。

あいつが今、どうしてるのか。
何を考えて、何を思って、そして誰といるのか。
元気にしてるか、落ち込んだり暴れたりしてないか、英徳大学に進学したのか、それとも他の大学に?
もう別の女性を好きになった?
もしかして彼女できた?

そんなことを考え始めたら止まらなくなって眠れなくて、貴重な睡眠時間がさらに削られていつも睡眠不足だった。
どうしても眠れない夜は眠ることを諦めて家を出た。
星が綺麗で、波の音だけがしてた。
浜辺に出て、道明寺を想った。

そういう時間には、あたしがもっと早く自覚してたら何か変わったのかなってよく考えた。
あたしが「あたしもあんたを好きになったよ」って伝えると道明寺は一瞬、驚いて、それからあのクッキーをあげた時みたいな笑顔になって喜んでくれて、そしてきっと照れるあたしをギュウギュウ抱きしめて、「俺もお前が好きだ」って言ってくれて・・・

そんなことを考える夜は大抵涙が溢れて止まらなかった。
あいつと一緒にいられた時間が惜しくて。
その時間の大切さに気づけなかったことが悔しくて。
会いたくて会いたくて、恋しくて恋しくて。
何度も道明寺の名前を呟いた。
呼んでももうあいつはいないのに。

そんな時だった。
道明寺の最初のスキャンダルを知ったのは。
コンビニのバイトの時、雑誌を入れ替えてて見出しの『道明寺』の文字に心臓が跳ねた。
そっと開くとそこには10ヶ月ぶりに見る道明寺が写ってた。
タキシードを着て建物から出てきたところで、コートを羽織ったばかりらしく、襟元を整えてる瞬間だった。その道明寺の一歩後ろに綺麗な外国の女性が付き従ってこれから一緒に車に乗り込もうとしてるような写真だった。
記事にはNY在住の道明寺がパーティーで知り合った女性をエスコートして会場を後にしたって書いてあった。
女性が恋人なのか、友人なのか、仕事相手なのかは書いてなかったけど、あたしの気持ちを揺さぶるには十分だった。

あたしは初めて胸に赤黒い感情が湧くのを感じていた。
それは渦を巻くようにぐるぐると中心に集まって、やがて大きな黒い塊になった。

嫉妬……

あたしたちが両想いになっていたことはあたしだけが知ってる。
だからあいつは悪くないし、あたしがフったんだからあいつがどこで誰と何をしようとそれはあいつの自由。
そんなことはわかってるのに、頭ではわかってるのに、心は全然理解してくれなかった。
あたしの彼なのに、彼が好きなのはあたしなのに。
なのになんで他の女性といるの?
そんな思いが心を侵食していく。
まるで浮気されたかのようなショックを受けてた。

だからあたしは雑誌を閉じて棚に陳列した。
そして自分に言い聞かせた。

これはあたしの道明寺じゃない。
あたしの道明寺はあの時の道明寺。
あたしを好きだって言ってくれてキスしてくれた道明寺
カナダで遭難したあたしを助けてくれた道明寺
あたしが作ったクッキーに子供みたいな笑顔を見せた道明寺
土星のネックレスを首にかけてくれた道明寺
雨の中で立ち尽くしていた道明寺

あの時の道明寺があたしの好きな道明寺

あたしは自分にそう強く言い聞かせた。





そんな生活の中でなぜか男子に告白された。
「付き合って」って言われて好きじゃないのに「いいよ」って返事をしてた。
もうなんか、断る気力がなかったのかも。
でも手を繋ぐまではできても、そこから先を求められると強烈な嫌悪感に襲われてダメだった。
最初の彼とは突き飛ばして終わり。

やっぱり道明寺じゃなきゃダメなんだと思ったけど、「付き合って」って言われると断れない。
付き合う、求められる、拒否する、別れる。
その間も道明寺の熱愛記事なんてものに何度か触れることがあった。
その度に後悔が膨らんだ。

あの時、正直に気持ちを伝えてたら今頃どうなってたかな。
引き裂かれても、いつかはって希望が残ったのかな?

そんなことを繰り返して、あたしは徐々に心に疲労が溜まってきてた。
2年以上経って、もういい加減に断ち切りたいってもがいてたと思う。
彼と付き合い始めたのはそんな状態だった大学2年の初夏だった。
同じ学部で、話したことはなかったけどふり向くとちょっと離れてそこにいるって距離感で、穏やかな雰囲気の人だった。
その人に「大切にするから付き合ってほしい」って言われた。
この人とならゆっくりと関係を築いていけるかもしれないと思った。

付き合って1ヶ月。
彼は本当にあたしを大切にしてくれて、馴れ馴れしく肩を抱いたり、空き教室に連れ出そうなんてしない人だった。
ただ節度ある距離で隣に腰掛けて講義を聞いて、バイト先まで送ってくれる。
他愛のない会話だけで過ごす時間があたしを少しずつ癒してくれてたんだと思う。
だから手を繋いだのはあたしから。
彼がびっくりしてたっけ。
でも照れたように笑ってくれて、もしかしたらこの人を好きになれるかもしれないと思った。

付き合い始めて3ヶ月目にキスをした。
ほんの軽い口付けだったけど、嫌じゃなかった。
その時、彼が随分と我慢してくれてるんだとわかった。
あたしは彼女なのにそんな我慢を強いて申し訳ないと思ったけど、でもさすがにそこから先に進むのは躊躇われた。

そうして過ごしてた4ヶ月目。
運命の日だった。
あたしはまた道明寺の記事を目にした。

午前中の講義の前に立ち寄った本屋。
『道明寺』の名前がある雑誌の表紙に「またか」とため息をつきながらも無視できずに手に取り、開いた。

あの瞬間をあたしは忘れない。
それはまた女性との記事だったけど、それを見たあたしはこれまでのスキャンダルはただのデマで、今回こそが本物だと悟った。
だってそこには今まで撮られた写真にはない、道明寺が女性に向ける眼差しが写ってたから。

写真はよほど望遠で撮られたのか、それとも夜間だったからなのか少し粗かったけど、その状況を伝えるには十分だった。
道明寺はカジュアルな格好をしたプライベートで、どこかの店の前に二人で立ってる。
女性は後ろ姿だったけど豊かな長い髪が綺麗にカールしてて、きっと美人だろうと思った。
道明寺は彼女の数センチ上から女性の頬を撫でてる。
そしてその目が女性を捉えてた。
きっと視界には彼女しか映ってない。

終わったんだと思った。
道明寺の中であたしへの想いが終わったんだとわかった。

あたしは、自分だって随分前から何人も彼氏がいて道明寺の事をとやかく言えた立場じゃないのに、そもそもあたしたちが両想いだった事もあたしだけが知ることなのに、あの時、本当の気持ちを伝えない選択をしたのはあたしなのに、なのに胸に急激に湧き上がったのは憎悪だった。

あたしから道明寺を奪った女。

道明寺に見つめられているその女性が憎くて憎くて、今、目の前にいたら殴り殺せるんじゃないかってくらいに憎かった。
そんな自分の気持ちが怖くて、あたしは雑誌を放り出して駆け出してた。

走って走って辿り着いたのは大学だった。
講義室に入って彼を探した。
彼はいつもの席であたしを待っててくれて、あたしは全速力で走って息を切らしたあたしに目を丸くしてる彼に抱きついた。
この時だけは周囲の目なんて忘れてた。

ただ抱きしめて欲しかった。
ただ温めて欲しかった。
ただ優しい気持ちを、醜くなったあたしに分けて欲しかった。

…誰でもいいから

驚いた彼はあたしを抱きとめながら講義室から連れ出した。
「何があったの?」って何度も聞かれたけど、あたしは首を振って返答を拒否し続けた。
そしたら彼は「僕の部屋に行こう」って手を引いて歩き出した。
ひとり暮らしの彼のアパートに入るなりキスされた。
それはそれまでの軽いものじゃなく深いキスで、あたしは抵抗したと思う。
そしたら彼が言ったの。
「君に忘れられない人がいることはわかってる。でも僕が忘れさせてあげるよ。僕が君を幸せにするから。」って。
その言葉がその時のあたしには救いみたいに思えた。
この苦しみを忘れられる?
この呪縛から解放してくれるの?

あたしは縋るように彼を抱きしめてた。
そこからの記憶は曖昧だけど、決して無理矢理じゃなかった。
あたしも彼を求めてた。
あたしを必要としてくれる彼を愛しいとさえ思った。
そして痛みに襲われて、それは少女時代との決別の痛みだった。





彼の部屋でシャワーを借りて体だけ流して、引き止める彼を強引に置き去りにしてあたしは帰ってきた。

初秋の午後。
家族はまだ誰も帰ってない。
あたしは鍵を開けて家に入って、自分の衣装ケースの前に立った。
そこから取り出したのは土星のネックレス。
その眩いばかりの輝きはあの頃のあたしと道明寺の輝きだ。

道明寺があたしを想ってくれてた時の輝き。
道明寺があたしだけの道明寺だった時の、二度と戻らない愛しい時間たちの結晶だった。
その土星のネックレスを握りしめて、あたしはその場にしゃがみ込み、あらんかぎりに泣いた。
小さなアパートの一室。
きっと声は外に漏れてただろう。
でもそんなこと構わずにあたしは声が枯れるまで泣き続けた。
それは変わってしまったあたしたちへの弔いだったのかもしれない。

そしてやっと涙が止まって、もう一度手の中を見つめた。
部屋に入り込んだ西日がピンクのルビーをより一層輝かせてた。
まるであの頃のあたしたちの輝きは永遠だってことを表してるみたいに。

この時からあたしの中の道明寺は時を止めた。
あたしが愛する道明寺は18歳のまま、永遠にあたしの記憶の中にいる男になった。








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2019.11.10
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| 2019.11.10(Sun) 17:20:51 | | EDIT

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| 2019.11.10(Sun) 21:47:30 | | EDIT

Re: はじめまして

ゆずぷりん 様

コメント、ありがとうございます!
私も昨年、花男熱が再燃して、そこから二次に出会っておよそ5ヶ月間読み耽りまして。
読むものがなくなったので自分で書き始めたんです^^
そんな私の拙い話を読んでくださってありがとうございます。
ウラに関しては、「御クビ「あとがき」」のコメント欄をご覧ください。
http://lipsthatoverlaps.blog.fc2.com/blog-entry-383.html
ヒント出しません!と言いながらかなりヒント出してます^^;
ただ、本当にくっだらないので覚悟(?)しといてください 笑

nona | 2019.11.10(Sun) 22:19:15 | URL | EDIT

Re: つくしちゃん…

みずほ 様

コメント、ありがとうございます!
そうなんです。今回のつくしは闇の深い女です。
花男の二次は司とつくしの処女性が高いのも特徴のひとつですが、
そこにちょっと反抗したかったのもあります(苦笑)

思い出って美化されちゃいますよね〜
司みたいな恋人なら惚れ直すってアリかもしれないけどww

ハピエンだけはお約束します!

nona | 2019.11.10(Sun) 22:23:16 | URL | EDIT

Re: 切ない

tom 様

コメント、ありがとうございます!
今回、つくしの心情描写をあえて省く、という手法でお届けしているために、
読者様はきっとあれこれと推測されていることと思います。
今回の独白でやっとつくしの心の中を知っていただいて、これまでのモヤモヤが少しでも晴れたらいいのですが、
しかし、モヤモヤ解消まではいきません。
なんせ、史上最高にこじらせた女・つくしですから(笑)

でも人は愛しすぎたらこうなるのかもしれないな、と書いてて思いました。

nona | 2019.11.10(Sun) 22:27:16 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

とぉ 様

コメント、ありがとうございます!
そうですよね!
最初はつくしだってヌレヌレだったのにね。
なんでカラカラになっちゃったんでしょう。
そこのところは後半で明かされます。
しかしつくしのこじらせはまだまだ続きます。
今回、あまりのつくしのこじらせに読むのを断念している読者様が多い印象ですが、
それでもつくしのこじらせは終わりません 笑
11月中には完結しますので、あと少しおつきあいください。

nona | 2019.11.10(Sun) 22:31:32 | URL | EDIT