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牧野と三条が涙で再会を喜び合っていると、個室から総二郎が顔をのぞかせた。


「おいおい、お二人さん、とりあえず入れよ。」


総二郎に促され、涙を拭った三条が牧野の腕を引いて部屋に入った。
俺は一人掛けに、俺の左手に牧野と三条が隣り合って、そして俺の右手、牧野たちの対面に総二郎が腰掛けた。


「西門さん、ご無沙汰してます。」


牧野が座ったまま頭を下げた。


「おう、元気だったか?」

「はい。西門さんはお変わりないですね。」

「おいおい牧野、あれから15年経ってんのに変わらないってのは男への褒め言葉じゃねぇぞ。」

「そっか。あはは」


挨拶を交わす間に俺と牧野の前に酒が出された。


「とりあえず、再会を祝して乾杯だ。」


総二郎が音頭をとり、4人でグラスを捧げあった。


「牧野、お前は変わったな。すげぇいい女になったじゃん。司の女じゃなきゃ口説いてる。」

「総二郎…」

「本当? 西門さんに言われたら本物かな。」

「お前…なんだその慣れた感じは。昔みたいに照れて噛み付いたりしねぇのか。」

「それこそいつの話よ。15年経ってるのよ?」


最初こそ緊張からか固くなっていた牧野だったが、すぐに解れて総二郎との隔たりはなくなった。


「でも先輩、本当にお綺麗になられましたよ? 相当、男に磨かれました?」


三条は俺の味方ではない。
こいつはどこまでも牧野の味方だ。
だから牧野が幸せになるように、今回こそ尽力すると宣言した。
それでいい。
俺の幸せに牧野が欠かせないように、牧野の幸せにも俺が欠かせない。
だとすれば、三条が目的を果たせば、俺も自動的に幸せになれる。
だからここは任せることにして俺は牧野の反応を伺った。


「そんなことないよ。あ、でも一回結婚したけどね。ダメだった。」

「「結婚!?」」


二人とも事情は知っているが吃驚の声を上げた。


「うん、27の時。いい人だったんだけどね。あたしが愛してあげられなくて離婚したの。」


牧野の隣に座っている三条がさらにズイッと近付いた。


「それはやっぱり、あの時から道明寺さんが好きだったからですか?」


牧野はチラリと俺を見た。
その目には猜疑心がこもっていた。
俺が二人に事情を話していると疑っている目だ。


「あたしには忘れられない人がいたけど、その人とは結ばれないから、相手の人に『新しい恋をしたら』って言われてこの人ならって思ったの。でもダメだった。それだけ。桜子は今、どうしてるの?」


自分から話を逸らすように牧野は隣の三条に向いた。


「私は今、オーストリアに住んでるんです。結婚はしてません。でもパートナーはいますよ。」

「パートナーって彼氏ってこと?」

「彼氏以上、夫以下。ですね。私は結婚する気はないので。」

「へー、やっぱ桜子は桜子だねぇ。相変わらず綺麗だし、年取ってないよね。秘訣は?」

「ふふ、それはやっぱり恋ですよ。ね、西門さん。」

「そこで俺に振るか? 俺は恋とは無縁だ。」

「えっ、西門さんも独身?」

「当たり前だ。まだ33だぞ。結婚なんて50過ぎたら考えればいいんじゃねぇの。」

「あはは! 西門さんらしー。恋とは無縁でも女とは無縁じゃないんでしょ?」


俺はロックを片手にただ3人の会話に耳を傾けていた。
牧野がいると、その場が温かくなる。
仲間とのこんな会話も、牧野が中心にいれば聞いてるだけで思わず表情が緩んだ。


「司だってお前と再会するまで恋には無縁でも女には無縁じゃなかったぜ。な?」

「グッ…ゲホッケホッ…そ、総二郎! テメェ、いきなり何を言い出すんだ!」

「そう言えば、NY時代は何度もパパラッチの餌食になってましたよね? 日本では少なくなりましたけど、でもやっぱり報道されてましたもんね。」

「だろ? いい女でいる秘訣は恋でも、いい男でいる秘訣は恋じゃなくていい。って話だ。だから牧野、再会した時、こいつ、いい男になってただろ?」


総二郎が仕掛けた。
仕掛けられた牧野は表情を変えず、会話の流れの笑顔のまま答えた。


「そうだね。別人みたいにスマートになってたよ。猛獣使いは誰だったの?」


総二郎のジャブをまずは卒なくかわし、牧野は自分をガードしながらフックを繰り出した。


「あー、あれは3人目の年上の女じゃなかったか? お前に男のイロハを教えてくれたんだったよな?」


総二郎と牧野の静かなる戦いの巻き添えを食う俺。
…総二郎、俺のためだと信じていいんだよな?


「あ? 知らねぇよ。」

「年上ね。シスコンだもんね。そのくらいがちょうどいいよね。」


牧野がにこやかに答えた。
今の右ストレートは俺に入ったぞ。


「でもそれもすぐに飽きちまったよな? いや、なんせこいつの師匠は俺だからさ。俺が司に女遊びを教えたんだよ。」

「フフッ、西門さんなら間違いありませんね。別れるところまでしっかり面倒みてくれそう。」


今夜の三条は総二郎のセコンドらしい。


「だろ?」

「お前ら、いい加減にしろよ!」


こんなんじゃ牧野はますます昔の俺に囚われるだろっ!


「司、牧野に再会するまでどれくらい修行積んだ? 30か? 50だっけか?」


俺は耐えきれずに立ち上がっていた。


「馬鹿野郎!! そんなにいるか! 10もいねぇよ!!」


しまった!と後悔した時には後の祭りで、総二郎も三条もニヤニヤと俺を見上げていた。
牧野だけは呆れたような冷めたような視線で俺を捕らえていた。


「あら、じゃあ随分と効率よく修行なさったんですねぇ。で、先輩は?」

「えっ?」


いきなり矛先が自分に向いて、牧野は少し飛び上がって三条を見た。


「先輩は何人の男性と修行なさいました?」

「えっ!? あたし?」

「牧野、付き合った数なんて聞いてねぇからな。男と女の話してんだからな。おい司、とにかく座れ。」


総二郎が立ち上がり、俺の肩を掴んで座らせた。
そして自身も座ると答えを促すようにまた牧野に向いた。


「あたしの話は別にいいでしょ。大した経験してないから。」


すると、それまで軽薄な笑みを浮かべていた総二郎は眼差しを尖らせ、膝に腕をついて前屈みになって牧野を下から覗き込んだ。


「牧野、フェアに行こうぜ。」


総二郎のその言葉の意味を牧野は正確に捉えた。
牧野は総二郎の眼力に負けないようにジッとその瞳を見返していたが、一瞬目を伏せ、大きく息を吐き出した。


「4人よ。」

「それは司を入れて?」

「入れないで、よ。」

「へー、その年にしては大人しいじゃん。」

「でしょ?」

「で、鉄パンはいつ脱いだ?」

「…総二郎、もうやめとけ。」


聞きたくない
好きな女の初経験なんて聞きたくない。


「いいや、やめねぇ。お前らは二人とも夢を見過ぎなんだよ。いつまでもお花畑でオシベとメシベがって意識を相手に押し付けすぎなんだ。…んで、牧野、いつだ?」


牧野は今度は総二郎じゃなく俺を横目でひと睨みした。
その目は今夜のセッティングをした俺に怒りを向けていた。


「大学2年の時よ。当時付き合ってた人と。」


調査書が思い浮かんだ。
一番長かった5ヶ月のヤツか!
と、俺が記憶をたどっていると、とんでもない方向から爆弾が飛んできた。


「ふーん…司は21の時だよな? 後生大事にしとくもんじゃないって言い出して、俺が紹介した身元の確かな女とだったな。」

「やめろ!」

「21ですか? でもそれまでにも報道がありましたよね? もっと早いと思ってました。」

「…テメェら、」


俺が二人に凄んだ時だった。
牧野が立ち上がった。


「ハァ、せっかくの再会が台無し。西門さん、変わってないっての撤回します。変わりました。オジンになっちゃった。」

「オジンて、また古い表現だな。」

「あたしはこれで失礼します。桜子、今度は男抜きでね。これ、名刺。裏にプライベートの番号書いといたから。」

「俺にはないのか?」

「西門さんに渡したらほんとに口説かれそうだからあげません。じゃ、お先に。」

「ちょっと待て! 牧野!」


部屋を出ようとする牧野に伸ばした腕が空を切った。


「牧野っ!」


席を立ち、追いかけようとする俺の前に総二郎が立ち塞がった。


「どけ!」

「まぁまぁ、司。これってすげぇチャンスだと思わないか?」

「はぁ!?? お前マジでふざけんなっ! 殴られたくなかったらどけ!」


掴みかかろうとした手を総二郎に逆に掴まれ、強く握り込まれた。


「だから聞けって。後のことは三条に任せろ。女同士のほうがいい。今お前が牧野と話しても泥仕合になるだけだ。三条、頼んだぞ。」

「はい。…道明寺さん、大丈夫です。私が先輩を幸せにしますから。では。」


総二郎の背後で三条が部屋を出て行った。
出たそばから「せんぱ〜い、待ってくださ〜い!」と三条の猫撫で声が店内に響くのが聞こえた。









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2019.11.08
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| 2019.11.08(Fri) 17:46:55 | | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
いつも類さんにキーパーソン役をお願いしてるので、今回は桜子にしました。
今回のつくしは類には本当の話はしなかったでしょうし。
桜子だから言えたんですよね。
坊っちゃんの助っ人のチョイスが絶妙でした^^

nona | 2019.11.10(Sun) 22:15:09 | URL | EDIT