FC2ブログ




俺の誕生日から2週間が経ち、三条から知らされた帰国日に総二郎も合わせて4人で会うことになった。

この日のために仕事を詰め込んでいた俺は、早番だった牧野をピックアップし夕食を済ませ、総二郎の誕生日を祝った会員制のバーに向かっていた。
牧野は車内からコマ送りのように変化する景色を眺めている。


「西門さんと桜子かぁ。懐かしい。元気だったかな?」

「ああ、どっちも相変わらずなんじゃねぇか?」


後部座席に並んで座り、俺は牧野の手を握っている。
俺の誕生日以降、直接触れるのはこの手だけだ。
限られた接触を最大限に楽しむように、俺は牧野の手に視線を落として指を玩んでいた。


「あんたってさ、触り方がいちいち嫌らしいよね。」


つ…と、俺が視線を上げると車窓を向いていた牧野が薮睨みのような顔でこちらを見ている。


「そうか? もっとお前に触れたい欲求が漏れてんのかな。」

「欲求不満なら他で解消してください。」


カチンときた。
再び顔を窓に向けた牧野の横顔に俺は噛み付いた。


「お前のそういう発言て、なんか構ってほしい女の「気付いてサイン」だよな。面倒くせぇぞ。」


牧野はまたこちらを向いた。
その顔に嘲笑を携えて。


「フッ…構ってほしい? あたしがあんたに? 冗談でしょ。サイン出してるのはそっちじゃない。だからそれをよそで発散すれば? って言ってるの。」

「その発言が構ってほしい女の天邪鬼だつってんだ。そう言っといて俺が本当に他の女を抱いたら今度は傷付いたとかなんとか言い出すんだろ?」


牧野の目がスッと細まった。


「あんたと関係した女が増えたところであたしには何の感情も湧かないわよ。だってあたしが好きなのはあんたじゃないもん。」


それを言うとまた牧野は車窓に戻った。

ほんっと、この女は素直じゃない。
こいつがいくら昔だ今だと言おうが、それは俺のことに変わりない。
気になってるのに知らんふりをするのはこいつの悪い癖だ。


「お前、そんなこと言って後で後悔すんなよ。」


牧野は窓に向いたままで、仕事用にまとめた髪に行きすぎる街の光がチラチラと反射していた。


「後悔なんて、もう…………」


微かな声で発せられた牧野の最後の言葉は不明瞭で、俺にまで届かなかった。




***




2週間前、道明寺さんとの通話を終えた私はすぐに航空券を手配した。
そして今日、2年ぶりに降り立った日本はあいにくの曇天だった。


私は今、オーストリアに住んでいる。
牧野先輩失踪後、日本にいる意味をなくし、ドイツに帰った。
そこで出会ったのが今のパートナー。
彼の出身がオーストリアだった。
私たちは結婚はせず、事実婚の状態で暮らしている。
結婚なんて制度に縛られたくない。
子供を産むわけでもないし、生涯、この人だけと決めているわけでもない。
…いや、生涯にただ一人と決めた人には、別の女性がいるからだろう。
彼にも彼女が生涯にただ一人の人だ。
それは二人が引き裂かれてもなお、私の中に確信として残っていた。

その運命が今、動きだしている。
なのにこの私が傍観しているわけないでしょう?
聞けば、また二人はややこしいことになっているそう。
ま、あの二人にはややこしいがデフォルトですけどね。

先輩、私がいますから大丈夫です。
今度こそ必ず、先輩を幸せにしますから。ウフッ




***




俺たちは険悪な空気のままバーに入った。
バーテンダーにチラリと視線をくれて個室に向かった。


「先輩!」


店員が部屋の扉を開けた途端に三条の高い声が届いた。
俺の前を歩いていた牧野はビクリと背を伸ばした。
その牧野に三条が飛び掛からんばかりに抱きつき、牧野もそれを受け止めた。


「先輩、やっと会えましたね。」

「桜子…ごめん、ごめんね。」

「なんで先輩が謝るんですか。いつだって先輩は何にも悪くないんですから。」

「そんなことないよ。桜子…会いたかった…!」


その言葉を聞いた三条は牧野の肩から顔を上げた。
その目は牧野の背後にいた俺に向けられていたけれど、でも俺は映っていなくて、代わりに店内の光を受けて徐々に輝きだし、そして集まった光は涙となって頬を流れ落ちた。


「先輩…それはこっちのセリフですよ。会いたくて会いたくて、会わせてくれるように神様にお願いしてたんですから。」


二人は顔を見合わせてフフッと微笑み合った。








にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

スポンサーサイト



2019.11.07
コメント記入欄