FC2ブログ




傷の手当てをし、車に乗り、邸を後にしたマンションへの帰路、牧野はウトウトと船を漕いでいた。
その肩を抱いて考える。

本当なら今夜、こいつを取り戻しているはずだった。
でも、こいつは落ちなかった。

今日のことは全部、俺の一人相撲だったってことか。
ライバルは所詮、俺自身なんだからとタカを括っていたのかもしれない。
簡単に取り戻せる、と。

…まったく。
結局、またこうなるのかよ。
俺が追いかけて、こいつが逃げる。
地獄まで追いかけると宣言したあいつがライバルなんだ。
俺はどこまで追いかけると言えば響くんだよ。

だが望みはある。
こいつが俺と別れようとしなかったのが証拠だ。
なんだかんだ理由があったにしても、牧野は俺を捨てられないんだ。
だったら、今の俺を好きにさせればいいだけだろう。
器用な俺も好きになればいいんだ。

腕の時計を見れば午前0時を回ったところだった。
俺は総二郎に連絡を取った。


『よう、誕生日、終わっちまったがおめでとう。』

「ああ、サンキュ。」

『で、牧野は?』

「悪りぃな。今日はキャンセルだ。」

『だと思ったからこっちは楽しくやってる。でも、必ず会わせろよ。』

「ああ、必ず連れて行く。」

『それで、牧野はなんだって?』

「やっぱり、今の俺は愛せないとはっきり言われた。」

『ふーん。でもまぁ認めたってのは一歩じゃねぇか。これからこれから。』

「また連絡する。」

『ん。牧野によろしく。』


通話を切り、フゥと息を吐いて引き寄せている牧野の頭に頬を寄せると、俺も自然と目を閉じた。




***




翌日から俺たちの奇妙な同棲生活が始まった。
別れないことに同意した以上、牧野は俺の恋人だ。

俺は牧野のベッドで眠るし、抱き締めもする。
だが、さすがに体を求めることはしない。
俺が抱きたいのは牧野であって、牧野の顔した人形じゃない。


「はよ。」

「…おはよう…」


昨夜はマンションに着いて牧野を起こし、部屋に入ってバスルームに押し込んだ。
そして牧野が寝入ったベッドに俺が潜り込んで朝を迎えた。
牧野は起き上がって「なんでいるんだ?」って顔で俺を眺めている。


「えーと、あのさ、これを続けるの?」


俺はベッドの上で片肘をついて、座る牧野を見上げた。


「だって俺たち、恋人同士継続中だろ。」

「そう…だね。」

「無理矢理抱いたりしないから心配するな。」


俺に向けてた視線を逸らして牧野はベッドを降りた。


「…あんたは酔わないもんね。」


そう呟いて、バスルームに消えて行った。









「お前、明日休みだよな?」


共に朝食をとりながら向かいに座る牧野に尋ねた。


「だね〜。日曜日なのに。今度からまた元のシフトに戻してもらう。もう店長を脅したりしないでよ。」

「お前、往生際が悪いな。お前は俺の女なんだから俺に休みを合わせろ。」

「あんたの方が融通利くんだからそっちが合わせてくれたらいいじゃん。 日曜日にも仕事あるんでしょ?」

「あれはお前に会うために休日出勤してたんだよ! この涙ぐましい健気さをもっと評価しろ!」


驚いた牧野は目ダヌキみたいな顔になってる。


「え…日曜も会社はやってんじゃないの?」

「日曜は本来、毎週休みだ。お前に再会した日はNYとの衛星会議があったんだ。他の日はずっと休みだった。」

「じゃ、なんで毎回スーツ姿だったの?」

「だから…お前に会うのにカッコつけたかったんだよ! 仕事終わりにたまたま時間があったから立ち寄ったって設定にしてたんだ。だから朝からスーツ着込んで、誰もいないオフィスに勝手に出勤して溜まった企画書なんかを片付けてた。」

「……プッ! あはははっ」

「笑ってんじゃねぇよ。付き合ってからは毎週、日曜に休んでただろ。」

「そ、そうだけど、世界に本社・支社があるから会社自体は年中無休なのかと思ってた。フレックスなのかなって。だから日曜日に休みとる意味わかんなかったけど、今わかったわ。あははっ」


目に涙をためるほど牧野は笑い転げている。


「あー、可笑しい。笑い死ぬとこだった。」

「ったく、人の気も知らないで酷い女だよな。」

「ごめん。でも…可愛いとこあるね。」


クスリと笑った牧野の瞳がキラリと光った。
そんな表情を向けられたのは初めてで、俺は思わず赤面した。


「ん?どうしたの? 赤いよ?」

「うるせっ。」

「あははっ」


牧野は俺に対する心の痼(しこり)が取れたからなのか、これまでよりも格段に自然体になった。
自然に見せてくれる笑顔が可愛い。
そして朝からよく食べる。
ロールパンにバターを付けてカブりついてる。
それ何個目だ?


「明日、どっか行こうぜ」

「どっかなら昨日、行きましたけど。」

「お前さ、」

「ん?」

「今の俺は愛せないが、18の俺のことは愛してんだろ?」


その瞳は朝から光ったり曇ったり忙しい。


「そこまで言ったっけ?」


はっきり言われてないが、知ってる。
知ってるから言われたことにしよう。


「言った。『今でも好きな道明寺』って。」

「あー…そっか。うーん…まぁ、そうですね。」


照れたように鼻の頭を掻いた。
いちいち可愛いんだよ。


「お前が18の俺としたかったこと、全部しようぜ。だからまずはティーンエイジャーデートだ。」

「ティーンエイジャーデート?」

「お前が俺を庶民デートに誘ってくれたことあっただろ。ま、クズ野郎のせいで台無しになっちまったけど。」

「あー、優紀たちとダブルデートしたことあったね。それ?」

「ああ。明日は邪魔者なしだ。お前のリクエストになんでも応える。」

「ふーん…わかった。明日ね!」


楽しみだと言うように牧野は笑顔を見せた。
俺は事実を知ってから初めて心が温まるのを感じていた。
そうか、こんなことでよかったんだ。
こいつを俺に向き合わせるのに、大袈裟な演出はいらねぇ。
雨の中の別れがなければ過ごせただろう時間を取り戻してやればいい。

物思いにふけっていたら、牧野が食器を持って立ち上がっていた。
俺も立ち上がってキッチンに追う。


「なぁ、」

「まだ何かあるの?」

「これ、」


俺はスウェットのポケットからブルーサファイアが輝く土星のネックレスを出した。
牧野の視線が釘付けになる。


「今の俺を愛せるようになったら、これを着けてくれないか。」

「…もらう資格ないよ。」

「資格の問題じゃない。俺がお前に着けて欲しいんだ。」


牧野はため息をつきながら手を出した。
その掌に土星のネックレスを落とした。


「ハァ…わかった。ありがとう。」


牧野はもう仮面を被らなかった。









にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

スポンサーサイト



2019.11.03
コメント記入欄

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| 2019.11.03(Sun) 17:13:26 | | EDIT

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

| 2019.11.03(Sun) 17:21:36 | | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
この二人のデートは原作でも苦戦していたような印象です。
なんせ、二人が普通に仲良くなんて姿、思い浮かべ辛いですもんね。

11月からフルタイムに転職しまして、書く時間が大幅に削られました。
なんとか完結させたいです。

nona | 2019.11.05(Tue) 23:27:18 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

二次小説大好き  様

コメント、ありがとうございます!
司の愛情の深さにはいつも感服します。
つくしはどうだろう??
それはこれから明かされますので、どうぞお楽しみに!

nona | 2019.11.05(Tue) 23:28:26 | URL | EDIT