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優しく、優しく、唇をなぞる。
18歳の時のキス。
その先を求めるキスじゃなく、好きな女を慈しむキス。

力を抜いた牧野は目を閉じて俺に身を委ねた。
重ねて離して、また重ねる。
そして見つめ合った。
腕の中の牧野の瞳に自分が映っているのがわかる。
今日、33になった俺が。


「あんたが道明寺…」

「ああ。」

「あの雨の日にあたしを待ってた…?」

「ああ、お前が振り向いて戻って来てくれるのを待ってた。」


俺の顔をなぞるように見つめていたかと思ったら、牧野は俯いた。
その顔から落ちる涙の粒が見えた。


「ごめんね…気づいてた? 気づくよね。」

「牧野、」


溢れた涙をぬぐい、今度ははっきりとした表情で牧野は俺を見上げた。


「あたしは今のあんたを愛せない。」


きっぱりと告げられた真実に、息をしようとする喉が一瞬、ヒュッと音を立てた。


「同じじゃないの。自分でもわからない。でも同じじゃない。あたしにとって今のあんたは遠い人。なんだろう、道明寺のお兄さんとか言われたら納得できるようなそんな存在。」

「俺に兄貴はいない。俺は俺だ。お前が雨の中で別れを告げた男だ。」

「それはわかってる。その “ 事実 ” はわかってる。でもあたしがあの夜に好きだって自覚した道明寺は…あたしが今でも好きな道明寺は、あんたみたいな男じゃなかった。」

「牧、」

「キスでその気にさせて、慣れた手順で女を抱いて、一夜の関係を楽しむようなそんな器用な男じゃなかった。」


カッとなった。
それは羞恥だったのか、怒りだったのか。
とにかく頭に血が上った。


「14年経ってたんだぞ!? それも唯一愛した女を得られずに、他にどうやって生きろって言うんだ! お前だって人のことが言えるのか!?」


口から出た言葉は取り消せない。
男としてなんて情けないセリフだと思ったが後の祭りだ。


「そうだよ。あたしもあんたと同じだよ。もう17歳の勤労処女じゃない。照れ屋で意地っ張りで奥手だったあたしはもういない。男とバーで落ち合って体の関係を重ねるような女なのよ。あんただってそのことに落胆してたでしょ? そう感じてた。」


そう言って牧野は俺の腕を解き、手の中の土星のネックレスを俺の手に握らせ一歩二歩と後ずさった。


「あんたも17のあたしに会いたかったんだよ。あの夜に戻ってやり直したかったんだよ。そうじゃない?」


手の中の雨粒の光るネックレスが時間の経過の証だ。
互いに変わってしまった14年間の。


「あの時、俺がお前を引き止めてたら、お前は本当の気持ちを聞かせてくれたか?」

「…わからない。あの激しい雨の中で、どうしたかなんてわからない。」

「やり直そうぜ。」

「え?」

「今夜は晴れてるけど、やり直そう。」


俺は土星のネックレスをポケットにねじ込み、牧野の腕を取って足早に部屋を出た。

これからしようとすることがどう出るのかわからない。
終わりになるのか、始まりになるのか。
終わらせたくないのに、それなのにその場所に向かおうとしている俺はただの愚か者だ。

長い廊下を歩き、牧野を引きずるようにして邸も出た。


「ちょっと、止まってよ!」


しかし威勢良く飛び出したはいいが、この屋敷の敷地の広さを今日ほど恨めしく思ったことはない。
長い道のりを歩きながら真冬の冷気に晒されて俺の頭が冷えてきた頃、やっと門が見えてきた。
門を出てもあの場所まではまだ数百メートルはあるだろう。
間延び感が半端ない。
しまった、車で出るんだった。


「…は、離して、止まって…キャッ!」


掴んでいた腕がガクッと落ち、後ろにグッと引かれたのと、牧野を少し引きずったのは同時だった。
俺の速度で半分走るように歩いていた牧野の足がもつれ、倒れ込んだからだ。
振り向くと、牧野は地面に四つ這いの状態から座り込んでいた。


「すまん。大丈夫か?」

「ハァ…ハァ…だ、大丈夫じゃないわよ。あんた、自分の脚の長さを考慮しなさいよ。」


そう言ってヨロヨロと起き上がった牧野の綺麗な膝はストッキングが破れ、擦り傷ができていた。
怪我させてどうすんだよ。
俺の頭は完全に冷えた。
俺は額を押さえてハァァ…と大きくため息をついた。


「…もう、帰ろう? もう十分でしょ? 過ぎた時間はやり直せない。もう戻れないのよ。」

「別れる気か?」

「今はまだ、あたしからは言わない。別に急いでる人生じゃないし。あんたが決めればいい。あんたが納得するまで付き合うよ。」

「今の俺を愛せないんだろ?」

「そうだね。じゃ、別れたい?」


白い息を吐き、ノースリーブの上にジャケットを羽織っただけの牧野は寒さに震えながら小首を傾げてそう問いかけてきた。


「お前、いつからそんなズルい女になったんだよ。別れねぇよ! お前がどんなつもりでも俺は別れない。」

「わかった…」

「別れないって意味、本当にわかってるか?」

「…わかってる。いいけど、あんたこそいいの? きっと苦しいよ?」


愛されなくて苦しんだ小椋が浮かんだ。
でも小椋と俺は違う。
こいつが愛してるのは過去の俺だ。
だったら、今の俺にも可能性はある。


“ 僕は彼女の心を開かせようと躍起になってしまった。あの時、もっと冷静になっていれば、彼女には時間が必要なんだと思えたでしょうに。そうすれば、彼女の想いごと包めたかもしれない ”


牧野の想いごと包む。
俺にだってこいつしかいないんだ。
時間はたっぷりある。
急ぐ必要はないさ。


「お前を失う苦しみに比べたらそんなもん、苦しみに入らねぇよ。」


牧野は呆れたように横を向き、ハハッと力なく笑った。


「ほんっと、物好き。自分で言うのもなんだけど、あたしのどこがそんなにいいのよ。他の女性に目を向けなよ。…いっぱいいるでしょ。……寒っ…戻るよ。」


寒さから自分を抱きしめた牧野は方向を変えて邸に向かって歩き出した。
その後ろを追い、俺は自分のジャケットを牧野の肩に被せた。









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2019.11.02
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| 2019.11.02(Sat) 17:11:09 | | EDIT

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| 2019.11.02(Sat) 17:52:56 | | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!!
そうなんですよね〜女心は本当に複雑ですよね。

実は「18歳」を連載始めた当初、ここで完結する予定で28話まで書いたところで「あと2話くらいで終わるから更新始めよう!」と始めたんです。
でもつくしが「そんな単純な事でこんなに拗れた心が癒されるわけないでしょ!!」と、のたまったので終わりませんでした(泣)

このあと、つくしの真実が徐々に明かされます。
そのためにあの人の力を借ります。
誰になるのか、乞うご期待!!

nona | 2019.11.02(Sat) 22:28:12 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

みわちゃん 様

コメント、ありがとうございます!
でしょ〜まさかでしょ〜
終わると思ってたでしょ〜私も思ってました〜
でもつくしが「こんなんじゃ無理!」ってゴネまして・・・
完結予定だったんですが、延びに延びて今、47話目を書いてます(泣)
キリのいいところで終わりたい!
つくし、50話で勘弁してくれ!目を覚ませ!

というわけで、まだまだおつき合いくださいm(_ _)m

nona | 2019.11.02(Sat) 22:31:49 | URL | EDIT