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俺の部屋でクッキーを見つめている牧野の姿に俺は猛烈な嫉妬を覚えた。
俺じゃない男に向けられた微笑み、愛しさ。
相手の男の痕跡を地球上から消してしまいたい。
でもそれは無理な話だ。
だって男は俺なんだから。

過去の幻影。

牧野の心を縛るのはそんな亡霊だ。
15年間、牧野を縛り続けたその亡霊から牧野を取り戻したい。


「牧野、今夜はお前にまだ見せたいものがあるんだ。」


クッキーから目を上げて、牧野が俺に向いた。


「それならタマさんに会わせてくれたじゃない。その他に?」

「ああ。行こう。」


クッキーの箱を目の前のローテーブルに起き、牧野の手の中の恋敵を取り上げて自分の口に放り込んだ。


「初めて食った。美味い。」

「でしょ? 今回のは全部食べてね。」


その細い手を取り、俺は部屋を出た。




***




廊下を進み、あるドアの前で立ち止まった。


「ここ…」


そこは牧野がメイドとしてこの邸に住み込んでいた時の部屋だ。
タマの計らいでなにもかも当時のままだった。

牧野は部屋に入り灯りをつけるとここでも周囲を見回し、ベッドの足許のフットベンチにバッグを置いてクローゼットを開けた。
そこには牧野が着ていた当時のメイド服が掛けてあった。


「何もかも、そのまま…」


俺もクローゼットに近づき、中を覗き込んだ。


「ああ。タマがそのままにしおいたんだ。お前が戻ってくるっていう希望を捨てたくないって。」

「タマ先輩が…」


牧野はクローゼットを閉じると今度はバルコニーに向かって歩き出した。
ガラス扉を開け、外に出た。
そこは15年前に俺が牧野に土星を見せた場所だ。

1月の末の空気は切るように冷たかったが、今夜は風もなく快晴だった。
部屋から漏れる光と月の光で影が十字に伸びていた。
牧野はバルコニーの手すりに身を乗り出し、顔を月に向けた。

その瞳には今、何が映し出されている?
あの時の土星が映ってるか?
そして18歳の男の顔が見えてるのか?
牧野、それは俺だ。
今に続く俺の一部だ。
お前が求める男は俺なんだ。


「…あの時、ここで土星を見たの。」


牧野は月に語って聞かせるようにして話し始めた。


「可愛くて綺麗で、ネックレスにしたい大きさだねって言ったら、本当にネックレスが出てきた。」


俺は牧野の背後に回り、胸ポケットから取り出したものをその首にかけた。


「何…?」


牧野がそれに触れた。
それが何かすぐに気づき、俺を振り返った。
その顔は驚きから怒りに変わろうとしていた。


「これ…土星のネックレス…勝手に持ち出したの?」


そして俺の返事を待たずにそれを首から外し、部屋の中に入っていった。
俺もあとを追う。


「勝手に人のクローゼットに入って、探し回ったの? 信じられない。」


そう言ってそれを仕舞おうとフットベンチの上のバッグに手をかけた。


「よく見ろ。それはあれじゃない。」


背後から聞こえた俺の声に動きを止め、牧野は手を開いてそれを見つめた。


「あれに使われてたのはルビーとダイヤだったろ? でもそれにはルビーの代わりにブルーサファイアを使ったんだ。」


そう、俺は新しい土星のネックレスを作らせた。
ルビーをブルーサファイアに代えて。

牧野は振り向き、眉根を寄せて俺を見上げた。


「なんでこんなことしたの? 新しいのなんていらないって言ったじゃない。」

「32のお前に似合うようにしたんだ。今の俺から今のお前に贈りたかった。あれは18の俺が17のお前に贈ったものだったから。」

「だから、あれで十分だったのに。あれはただのネックレスじゃないでしょ? 作り変えればいいってものじゃないわよ。」


俺は牧野に近づき、サファイアがちりばめられた土星のネックレスをもつ手を取り、その手を開いた。


「見ろ。このブルーサファイアの一粒一粒がまるで雨粒みたいに見えないか?」

「え…?」

「あの時、ここでお前に土星を見せて、ネックレスを渡して、期間限定でちゃんと付き合わないかと話したよな。」

「そう…道明寺が、」

「俺だ。」


ネックレスを見ていた視線をまた俺に戻した。


「その道明寺は俺だ。あの時、まさかあんな夜が来るなんて想像もしてなかった。まさか雨の中でお前と別れることになるなんて。」


牧野は俺をじっと見つめていた。
その顔は青冷め、歪み、苦しげだった。


「俺は雨の中で動けなかった。お前が去っても、雨がどんなに冷たくても、俺はその場から動けなかった。ただお前の言葉だけが頭の中を支配してた。」

「あ、あたしが言ったの…『もし、あんたを好きだったら、こんなふうに出て行かない』って。」

「でも、好きだったんだよな? 俺を好きだって気づいたんだよな? あの雨の中で。」


牧野は青い光を放つ土星のネックレスを握りしめ、強く目を閉じ、祈るようにその手を額に当てた。


「牧野、“ 道明寺 ” はもう18歳じゃない。もうあの雨の中にはいない。雨から抜け出して、自分の人生と向き合い、大人になった。そしてもう一度お前と出会った。お前がずっと好きでいてくれた “ 道明寺 ” は俺だ。俺を見ろ!」


肩をビクリと揺らし、牧野はゆっくりと再び俺を見上げた。


「あの雨の中の別れは俺たちの歴史の一部だ。大切な一部だ。でもただの一部なんだ。俺もお前もあの日を通りすぎた。そしてそれぞれの15年を生きて、今またここで一緒にいるんだ。お前にルビーをはめ込んだ土星のネックレスを渡した時と同じに、ここにいる。」


震える牧野をそっと抱きしめた。


「お前が求める道明寺は俺だ。俺もあの夜からずっとお前が好きだ。」


胸に抱きしめていた牧野の顔を上げさせ、俺はゆっくりと口づけた。









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2019.11.01
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| 2019.11.01(Fri) 20:10:50 | | EDIT

Re: 坊っちゃん、うまくいくかな?

カオカオ 様

ご指摘、ありがとうございます!!!
大事なシーンでの誤字!
坊ちゃん、ごめーーん><
早速、訂正しました。

誤字脱字って読んでて萎えますよね。
気を付けますが、きっとまだまだあると思うので、ぜひまた教えてください!

坊ちゃん、どうかなぁ。
ここで終わらせようとしたら(私の中の)つくしがゴネたんですよね。
坊ちゃんのこと、愛してるのになぁ(私が!)
幸せにしてあげたいのになぁ(私が!)

nona | 2019.11.01(Fri) 20:24:30 | URL | EDIT