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同棲生活

それは甘い響きを持って俺を極上の世界に誘ってくれるはずだった。
なのに翌日から牧野は遅番の上、バレンタインフェアの準備だとか言い出して残業続きだ。
迎えに行くと言っても退社時間が読めないとかで断られる。
断られたって行くけどな。

そうして22時を大幅に過ぎて帰宅すれば、今度は疲れてるだなんだといい、挙句は月のものだとか言って別の寝室で寝ようとする。
俺はもう10日近くもオアズケをくらった状態だった。


「な、一緒に暮らしてたらそういう時もあるだろ。だからってなんでいちいち別々に寝なきゃいけないんだよ。襲いかかるわけじゃないんだから、そばにいたっていいだろ。」


自分の部屋に引っ込もうとする牧野を後ろから抱きしめて、体温とともに伝えれば牧野はしぶしぶ折れた。


「本当になんにもしないでよ。」


アノ日の女に何するってんだよ!
最後までできないと生殺しになって苦しむのは俺だ。


「しねぇよ。大人しく寝ろ!」

「それはあたしのセリフ!」


ベッドの中で抱きしめてもまだモゾモゾと抜け出そうとする牧野。
寝返りを打って俺に背を向けたところで声をかけた。


「な、」

「………」

「な・あ!」

「なによ。こっちは寝てんの。」

「お前さ、なんか俺のこと避けてねぇか?」

「えっ?」


牧野の肩に手をかけて仰向けにさせて被さり、その表情を伺った。
俺を見上げている。


「あれからだよな。あのネックレスのケースを開けた時からだ。」

「そんなことないよ。」

「避けてないって?」

「そんなことしてないよ。仕事が忙しくなったのも、生理になったのもたまたまだし、こういう時ってホルモンの関係でちょっと気分が荒れちゃって、それで一人になりたかっただけだし。」

「…本当か?」

「本当だよ。クスッ、心配し過ぎ。」

「なぁ、俺のこと好きだよな?」


そう言えば、こいつから「好き」って単語、聞いたことなかったかもしれないな。


「俺はお前が好きだ。お前は?」

「…あたしもだよ。」

「あたしも…なんだ?」


牧野の目がまた弧を描いた。


「あたしもあんたが好きだよ。」


笑顔で言われたのに、俺の心に残ったのは不安のカケラだけだった。




***




もうすぐ俺の誕生日だ。
昔みたいな派手なパーティーは20歳を最後に催していない。
その後は親友同士、都合のつくヤツと飲むだけだ。



RRRR RRRR RRRR ………


仕事中に総二郎から着信だ。
31日の件だろう。


「よう」

『よっ! 上手くやってるか?』


いきなり本題に入ったらしいが、牧野と付き合い出したことはまだ話してない。
だからとりあえずはぐらかすことにした。


「何の話だよ。」

『牧野だよ。まだ会ってんだろ?』


なんか面白くなってきた。


「ああ。まぁな。」

『お前の誕生日、連れてこいよ。』

「あ?」

『牧野だよ。連れて来いって。俺も久し振りに会いてぇし。』

「連絡先も知らねぇつったろ。」

『まだンなこと言ってんのかよ。いい加減にちゃちゃっと調べて連絡とれ! ったく、30過ぎまで10代の恋をこじらせてんじゃねぇよ。』

「うるせぇ。」

『じゃーな。いつもの店だ。絶対に連れて来いよ!』

「わかった。だがその日は遅くなる。また連絡する。」

『リョーカイ!』


連れて行って、いきなり交際宣言とか総二郎も驚くか?
いや待て。
そんなん普通だな。

俺は内線を手に取った。










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2019.10.18
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