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クローゼットの中で、牧野はゆっくりとジュエリーケースを開けた。
俺は正面からその様子を伺った。

牧野の目はじっとケースの中を見つめていた。
そして手を伸ばすとケースから土星のネックレスを取り出し、透かすように部屋の灯りにかざした。

14年ぶりに見るそれは、昔のままに、光を受けてキラキラと瞬いた。


「変わらねぇな。まるで俺たちの想いみたいに。」


そう言って視線を牧野に戻した俺が見たのは、土星のネックレスを見つめたまま、その瞳からハラハラと涙を零す姿だった。


「牧野!?」


牧野はネックレスを胸元で握りしめると、その場に座り込んだ。


「……ぅ…」

「牧野!? どうした!」


驚いた俺は屈みこんで牧野の顔を覗き込んだ。
牧野は眉根を寄せて目を閉じていたが、それでも溢れる涙を塞きとめることはできず、連なって落ちる跡が頬についていた。


「道明寺…道明寺…うっうぅっ」

「牧野…」

「ごめん…ごめん…道明寺ぃ…」


泣きながら俺の名を呼ぶ牧野を思わず抱きしめた。


「謝るな。お前は悪くない。お前は何にも悪くないんだから。大丈夫だ。俺はここにいるから。」


そう宥めながら細い体を強く抱きしめた。
その間も牧野は俺の名を呼び、泣き続けた。




***




規則正しい呼吸音を立てて俺の横で牧野が眠っている。

あれから泣き続ける牧野を抱き上げ、一番近いベッドに一緒に横たわって包むように抱きしめた。
1時間ほどして、牧野は泣き疲れたのかそのまま眠った。
その手にはしっかりと土星のネックレスを握りしめていた。

俺は混乱していた。

何が起こった?
土星のネックレスを見た途端に泣き出した。
俺の名を呼び、何度も謝っていた。
俺が答えても否定しても止まなかった。
まるで、俺の声など届いていないかのように。

牧野の呼ぶ「道明寺」は俺のことだろ?
なのに遠いところにいる誰かに呼びかけるような牧野の声だった。

そうか。きっとフラッシュバックが起きたんだ。
あの雨の夜、一番辛かったのはこいつだったんだ。
強大な権力に脅され、俺を切り捨てさせられた。
権力の言いなりになるなんてこいつの最も嫌悪するところなのに、他人に迷惑をかけられない性分を突かれた。

俺の中の後悔が再び大きく膨れ上がった。

何で俺はあの時、自分のことしか考えられなかったんだ。
脅されて離れていくこいつの腕を、どうして掴もうとしなかったんだ。
それでも好きだと、俺が大きくなってお前を迎えにいくと、どうして言えなかったのか。
地獄の果てまでも追いかけると言ったのは俺だったのに。

結局、あの時の俺にはこいつを守るってことの本当の意味がわかってなかった。
わかってないってことを、牧野はわかってたんだ。

俺は深く眠る牧野を再び腕の中に閉じ込めた。

今度こそ、何があっても俺が守る。
もう絶対に、お前から離れない。離さない。
お前の悲しみが癒えるなら何でもするから、だから、お前はずっと俺のそばにいてくれ。




***




牧野を抱きしめながら、俺も眠ったらしい。
真夜中に牧野が起きる気配を感じて、俺も目を開けた。
ここは牧野の部屋の寝室だ。
室内は真っ暗で、シフォンカーテンがかかる窓から東京の街の光が微かに差していた。

手を伸ばし、ベッドの上で座る牧野に触れた。


「ごめん、起こしちゃったね。」

「ん…いや、いい。俺もシャワー浴びて寝直すから。」

「あたしもそうするよ。」

「一緒に入ろうぜ。」

「こんな夜中にやだよ。今夜はそういうのはなし。じゃ、あんたは自分の部屋のバスルーム使ってね。」


そう言って牧野はベッドから降りると、クローゼットから着替えを出してバスルームに入って行った。

んだよ。
ちょっとくらいいいじゃん、と拗ねた顔をしてみても、誰が見てくれるわけでもない。
俺もベッドを出て、自分の部屋に向かった。





シャワーを浴びて、スウェットを履きバスローブを着て、また牧野の部屋に戻った。
あいつは洗面で髪を乾かしている。
ドライヤーの音が聞こえた。

ノックをしてから開けると、牧野はバスローブ姿で鏡の前に立ち、黒髪をなびかせていた。
そしてドライヤーを止め、鏡の中の俺を見た。


「なに?」

「俺もこっちのベッドで寝る。」

「は? なんでよ。」

「何でって、同棲初日だろ。一年の計は初日にありって言葉あるだろ。」

「それを言うなら元旦にあり、ね。今夜はもう遅いし、明日はお互いに仕事だし、自分のベッドでゆっくり寝れば? 着替えるから出て行って。」


そうして俺は追い出された。
仕方なくベッドに腰掛けて待ってると、部屋着に着替えた牧野が出てきた。


「まだいたの?」


そうため息をついて俺を通り過ぎベッドに入った。


「おやすみ。あんたも早く寝なよ。」


なんでここまで邪険にされなきゃいけねぇんだよ。
イラついた俺はバスローブを脱いで牧野の横に滑り込んだ。


「ちょっと!」

「なんもしねぇよ。ただお前を抱きしめて眠りたいんだ。」


俺は牧野の体に腕を絡ませて引き寄せた。
牧野の息が喉元にかかる。


「あのネックレス、どうした?」

「またケースに仕舞ったわよ。」

「何でだよ。つけてろよ。」

「いい。お客様に見えたらまずいし。」

「見えねぇだろ。」

「あたしの歳でするにはピンクのルビーが可愛らしすぎ。でも思い出の品だから、大事な時につけるよ。」


確かに17の牧野に似合うように作らせた。
32の女がするようなデザインじゃないかもな。


「じゃ、新しいのを作らせる。今度はそれをいつもしてろ。」

「そんなことしなくていいって。思い出はひとつでいいから。」

「なぁ、牧野」

「眠いよ…なに?」

「俺が悪かった。」

「なにが?」

「あの雨の夜、お前にあんな役目をさせて悪かった。お前を守るって言ったのに、俺はガキで、なんにもわかっちゃいなかった。お前は自分を責めなくていいんだからな。」

「…………」

「もう忘れろ。今、俺たちはこうして一緒にいられるんだから、過去のことはもういい。」

「過去…か。確かにね…忘れなきゃね…」


牧野が俺の背を抱きしめて胸にすり寄った。


「今のあたしにはあんたがいるんだもんね。」

「ああ。」


俺たちは抱き合って眠りについた。








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2019.10.17
コメント記入欄

パンドラの箱は、つくしちゃんの深く深く刻まれた傷だったのですね!正直、意外な展開でおどろきました!
ここからどういう展開になっていくのか全く予想がつきません!
ノナさんワールド、楽しみです!!

カオカオ | 2019.10.17(Thu) 18:33:15 | URL | EDIT

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| 2019.10.18(Fri) 14:24:55 | | EDIT

Re: タイトルなし

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!
ここまでは序盤です。
今回は二人がくっついてからが物語の本筋でございますので、
ここからモヤモヤさせちゃうかもしれませんが、
おつき合いください^^

nona | 2019.10.18(Fri) 15:37:53 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
おお!さすがするどい!
そこからのハッピーエンド(まだ書いてなくて私もどうなるかわかりませんが(^^;))
をお楽しみになさってください!

11月からフルタイムに転職します。
書く時間がなくなる・・・

nona | 2019.10.18(Fri) 15:40:08 | URL | EDIT