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俺は英徳卒業後、26までをNYで過ごした。
帰国後は都内にマンションを建て、そこの最上階にオーナーとして暮らしている。
道明寺社屋からほど近い都心の一等地に建つそのマンションは15階建ての分譲で、一番コンパクトな部屋で90平米、階を上がるごとに広くなり、俺の住むペントハウスの下階は200平米がニ戸だ。
もともと俺が住むことを前提に建てられたから、14階と15階の間にもう一層挟み、互いの生活音は完全に遮断されている。

俺の部屋は400弱の平米数に部屋の間取りは2LDKだ。
俺しか住まないし、招くのもあいつらくらい。
だからベッドルームは最低限にした。
その代わりにベッドルームに付随するウォークインクローゼットは各ベッドルームと同じ広さを取った。
キッチンとダイニングはリビングとは独立していて、部屋の東側に位置しているから射し込む朝日を浴びながら朝食を楽しめる。


牧野と付き合うようになって一カ月。
最初の夜こそメープルで過ごしたが、その翌日からは毎日、こいつを拉致り、俺の部屋で朝を迎えている。
クリスマスも牧野の誕生日も年末年始もずっと一緒にいた。
それはまるでこれまでの14年を埋めるかのような濃密な時間だった。


「な、お前もここに住めよ。」


髪を無造作に纏め、俺のTシャツと短パン姿で朝食を準備する牧野にキッチンで後ろから抱きついて、俺は甘えるようにそう囁いた。


「何言ってんのよ。同棲だけはイヤだって何度も言ってるでしょ。」

「なんでだよ。このままじゃ効率悪いだろ。お前の部屋の家賃ももったいねぇじゃん。」

「そうだけど、それでも男女が一緒に暮らすって、煩わしいこともたくさんあるよ。今の距離感がちょうどいいと思う。」

「それはバツイチの経験から言ってんのか?」

「そうだね。」


ちぎったレタスを皿に移しながら、牧野は平然と認めた。


「な、牧野。お前はその男を愛してたのか? 違うんだろ? なら俺とは状況が違うだろ。俺たちなら上手くいくって。」


いつも牧野が家にいて、会いたいと思わなくても会える幸せ。
そんな幸せを常に感じていたいって、真っ当な感情だろ?

俺は牧野を振り向かせ、いつでも触れていたいその唇に自分のそれを被せた。


「ん…」

「なぁ…頼むよ…越してこいよ。」


キスをしながら同棲をねだる。
俺のお願いはだいたいこれで通る。
この一カ月でそれがわかった。
こいつはそれほど俺に惚れてんだと思うと、くすぐったいような、それでいて温かいものに包まれる。
その温かさを感じたくて、つい俺は些細なことでもねだってしまう。


「ん…もうダメ…わかったから。んっとに、ワガママ!」

「わかったって言ったな? よし、じゃ今日中に引っ越し作業させる。」

「今日!? 急すぎだよ!」

「善は急げ。俺もお前も忙しいし、オフは貴重だし、俺の誕生日も近いし。今日からお前の家はここな。」

「ハァ…どこまでも我を通す男、道明寺司さんですか。わかったわよ!」

「よっしゃ! じゃ、俺は業者の手配しとくわ。」

「家賃は?」

「甘えとけ。」

「はいはい。」


俺は楽しくて仕方がなかった。
牧野のオフは店長に言って俺に合わせさせてる。
そんな休みの日の朝、牧野との同棲が決定した。




朝から秘書に連絡して引越し業者を手配させ、牧野と一緒に牧野の部屋に行って荷造りや搬出の様子を眺めて、また俺ん家に戻って搬入を見守った。

大まかな荷物はメイドによって荷ほどきがされ、あとは牧野のプライベートな荷物だけ。
牧野がそれだけはどうしても自分でしたいと言い張った荷物がクローゼットの床に積み上げられていた。
その荷ほどきを、俺は牧野の部屋のベッドに腰掛けて見守っていた。


「なぁ、寝るのは俺の部屋だろ?」

「えー? なにー?」


牧野がクローゼットの奥で声を張り上げた。
俺は立ち上がり、開け放たれた扉からクローゼットルームに入り、入り口にもたれかかった。


「荷物用にここをお前の部屋ってことにしたけどよ。寝るのは俺の部屋だろって言ったんだ。」

「そんな日ばかりじゃないわよ。」


牧野は座り込んで下着をチェストに片付けながら答えた。


「あたしだって一人で休みたい時もあるわよ。」

「どんな時だよ。」


空になった段ボール箱を持って立ち上がった牧野が俺に向かって歩いてきた。


「はい、廊下に出しといて。ついでに潰しといて。」

「彼氏を顎で使うな。」

「彼氏なら手伝え。」


そう言ってまたチェストに戻りながら大きな瞳を俺に向けてクスリと笑んだ。

こういう何気ない瞬間に俺は実感する。
俺たちの間の繋がりってものを。
お互いに14年経っても忘れられなくて、歯車が再び俺たちを巡り合わせたのは運命だったってことを。


「仕方ねぇな。俺の手伝いは高くつくぞ。」


俺は積まれた段ボール箱の一番上の箱を開けた。


「あ…それは最後でいいのに。」

「『その他』って何が入ってんだよ。…なんだ、これ?」


その箱にはマトリョーシカのように段ボール箱よりひとまわり小さな缶で出来た箱がピッタリと入っており、その箱を取り出し、蓋を開けるとそこにはガラクタが詰まっていた。
真っ赤なメガホンに市松模様の法被??


「あー、それはね『思い出箱』そのメガホン、懐かしー! 家族で九州に旅行に行ってさ、野球の試合を見たときに隣のおじさんがくれたんだよね。あっ、その法被は大学時代の学祭で応援団したときの! すっごい練習したの。」


思い出話を滔々と語る牧野は楽しげだった。
俺は、俺の知らない時間の牧野をもっと知りたくて『思い出箱』から次々と品物を出しては「これは?」と牧野に見せていった。
その度に牧野は生き生きと思い出を語ってくれた。

6つ目ぐらいの思い出話を聞いたときだった。
俺の視線は箱の底に眠るように入れられたあるケースに釘付けになった。

__土星のネックレス

それは紛れもなくあのジュエリーケースだった。
俺はそれを取り出し、掌で撫でた。


「あ…それ」


牧野も俺の手にあるそれに気づいた。


「まだ持っててくれたんだな。」

「そりゃ、どうしようもできないでしょ? 捨てるわけにも売るわけにも、誰かにあげるわけにもいかないんだから。」


18の俺が作らせた特注品。
土星の輪の下側には “ Tsukushi ” “ Tsukasa ” と彫ってあるって知ってたか?
我ながらロマンチストだったよな。


「もう『思い出箱』に入れとく必要ないだろ。」

「……そうかな…」

「開けてみろよ。」

「あの時もそう言ったよね。」


俺が差し出した小さなジュエリーケースを牧野は手に取った。
あの時、これを見たこいつはどんな顔をするのかって思ってワクワクしたよな。
今も同じだ。
18の時から俺のこいつに対する想いは褪せてない。


「あたしも10年近く開けてないわ。」


今回も俺は、ワクワクした気持ちで牧野の顔をじっと見つめていた。
久しぶりにそれを見るこいつの顔はどんな表情を見せるのか。
曇るのか、輝くのか。
願わくば輝いて欲しいと思いながら。

そして牧野はジュエリーケースを開けた。


…しかしそれは、俺たちのパンドラの箱だった。








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2019.10.16
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