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あの夜以来、俺は可能な限り日曜日の約束の時間にはバーに顔を出すようになった。
とは言え、出張だなんだと月のうち来られるのは半分程度。
やっと時間ができて顔を出してもあいつは来ない。
もう俺とは会わないつもりかと思ったが、マスターによればすれ違ってるらしい。
そんな週が続き、2度目に牧野に会えたのは再会から1ヶ月後だった。


「あれ」

「よう」

「会えちゃったね。」


牧野はいつものジンライムを頼み、マスターはまた背を向けた。


「百貨店てどこだ?」

「日本橋五越」

「そんな近くにいたのかよ。五越ならうちにも出入りしてる。」

「外商?」

「ああ。長いのか?」

「大学出てからだから9年?かな。」

「ビンボーだったのに大学行けたのか。」

「あのね、世の中にはね、奨学金制度ってのがあってね、」

「つまりは借金だろ。」

「まあ、そうだね。でももう返したよ。」


当たり障りのない会話をし、牧野がジンライムを2杯飲み干したところで席を立つ。


「行くぞ。」

「…マスター、ごちそうさまでした。」

「お会計は頂いてます。」


牧野がチラリと俺を見上げる。
奢られたくないと噛み付いてくるかと思ったが、


「…ごちそうさまです。」

「ああ」


男を立てるってことまで覚えた牧野。
お前の14年にはなにが詰まってんだ?
知るのが怖ぇよ。


店を出て、車に乗り込み、メープルに乗り付ける。
会えた時はいつもこのコースだ。
この後することも決まってるが、牧野は黙ってついてくる。

リアシートに並んで座って、車窓を眺める牧野の横顔を俺は盗み見る。
そこにいるのは31になった牧野で、17歳の時の潔癖すぎるほどの少女はもういない。
そのことに微かな寂しさを感じてしまう俺は、いつまであの頃に囚われてるんだろう。


部屋に入るなり、牧野はバスルームに向かう。


「借りるよ。」

「いきなりか?」


牧野が振り向く。


「こんな時間に、こんなとこに入って、バスルーム使う以外に何するの?」

「……お前はそっち使え。」


いつもこうして俺たちの夜は始まる。




***




「はぁっ…あん…あっ…」

「…牧野っ…」

「道…明寺…あ…ぁン…」


今夜も俺たちは絡み合う。
唾液も汗も蜜も…何もかもを混ぜ合わせ昇天する。
力尽きるまで抱き合って、一緒にバスに浸かって洗い流して。

でもそれだけ。
俺たちの関係は再会した夜から何も変わらない。
こいつを手に入れたいと思っても、今更18のガキみたいに追い縋るようなダセェ真似はしたくねぇ。
かと言って勝手にこいつの身辺を調べて野暮な男だと思われるのも心外だ。
オトナになるってのは窮屈なもんだ。

だから半年経っても、俺は牧野の連絡先すら知らなかった。


「そう言えば、これはリハビリなんだっけ。」


俺に抱きかかえられてバスに浸かって、俺の肩に頭を預けた牧野が呟いた。


「もう回復した?」

「しねぇよ。バーで会ってヤるだけの女でリハビリになるか。」

「フッ…結婚すればいいじゃん…貞淑な妻なら信頼できるようになるんじゃない?」

「貞淑かどうか、どうやってわかるんだ?」

「お母さんがよーく調べて連れてきてくれるわよ。」

「政略結婚じゃねぇか。」

「それが宿命でしょ?」

「お前が言うな。」

「なんでしないの? お相手はいくらでもいるでしょ?」


頼みもしないのに勝手に寄ってくる輩なら掃いて捨てるほどいる。


「フンッ、俺に擦り寄ってくるのは金と名前目当ての香水臭え厚化粧女ばっかりだ。そんな女、相手にしようなんて思わねぇな。」


その言葉に牧野が頭を起こし、濡れたまつ毛に縁取られた、俺が惚れてる大きな瞳を珍しく真っ直ぐ向けてきた。


「始まりがなんだろうが、相手を慈しむことはできるよ。きっかけが政略結婚だとしても、その人の本質を深く知ろうと努力することだよ。あんたが女に求めてることは、あんた自身が女に実践しなきゃ始まらないよ。」

「牧野…」

「香水臭いのが嫌なら使うなって言えばいい。厚化粧が気に食わないなら化粧を落とせって言えばいい。あんたが女を表面でしか見てないのに、なんで相手にはあんたの本質を見てほしいって言えるのよ。」

「…お前はそれでいいのか? 俺がどっかの女と結婚しても平気か?」


平気じゃないと言って欲しかった。
ベッドの上で俺に向けて腕を伸ばすのは、お前の心が俺を求めてるからだと思いたかった。
俺たちは愛し合ってる。
そう思いたかった。

牧野はまた俺の肩にもたれかかった。
だからその顔は見えなかった。


「平気とか、平気じゃないとかって話じゃない。それが当たり前。あんたの運命の女はこの部屋の外にいる。ただ、それだけ。」



『あんたを好きだったら、こんなふうに出て行かない。』

結局また、あの言葉が俺を苛む。
お前が俺を好きなら、こんな関係になってないか。
きっと俺を忘れないで、清冽だった17歳のままに歳を重ねて、一途に俺を待っててくれたんじゃないか。
…なんて、夢を見るのも大概にしろと自嘲がこみ上げた。








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2019.10.08
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| 2019.10.08(Tue) 18:50:58 | | EDIT

Re: タイトルなし

とぉ 様

コメント、ありがとうございます!
気に入っていただけてうれしいです。
引き続き、よろしくおねがいします^^

nona | 2019.10.08(Tue) 21:38:35 | URL | EDIT