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ついに結婚式が始まった。

聖堂の一番奥、参列席から二段ほど高さのある壇上に設えられている祭壇の中心に司祭が立ち、司祭の前には新婦側のブライズメイド、司、F3がその任を務めるベストマンが並んだ。

その後方には急な招待にも関わらず集まった500人を超える参列者。
最前列には左右に分かれて新婦の母、兄弟、そして偀と楓の姿もあった。

パイプオルガンの重厚な響きが石造りの空間を清めていく。
可愛らしいフラワーガールとリングボーイに続き、父親にエスコートされた花嫁が聖堂入り口横の扉から入場してきた。
一歩一歩、司に近づく。
ウエディングベールに覆われたその顔はよく見えない。

司はじっと祭壇の上に掲げられた、磔になったキリストを見つめていた。

あんたは何をしてそんな格好をしてるんだ?
人を殺したのか?
騙したのか?
それとも、愛する女を奪われたか?

今まさに俺にも楔が打ち込まれようとしている。
次につくしに会えるまでどれほどの年月、痛みに耐え、血を流し続けるのか。
流す血も枯れれば俺は死ぬのか?
死ぬほどになればつくしに会えるか?
なんて…俺は馬鹿か。
あいつを迎えにいくと約束したのに、くたばってたまるか。

長いベールを引きながら壇上に上がり、司祭の前まで来た花嫁が司の腕に触れた。
父親が離れていく。
司はゆっくりと花嫁に振り向いた。
ベールの向こうで司を上目遣いに見るその女は、今初めて見る知らない女だった。
花嫁が触れたところから嫌悪が広がり、背にゾッと悪寒が走った。

奇跡は起きなかった。
現実は現実でしかない。
何も変えられなかった。

…いや、ひとつだけ変えられただろ。
今はもうあいつも俺を想ってくれてる。

あいつは星を見上げているだろうか。
あいつが見た星を俺も見上げてる。
あいつを見てきた星が俺を見てる。

俺たちは繋がってる。
そう、今この時だって。


司祭が式の開祭を宣言した。
聖書の朗読に続いて、福音の朗読が行われ、司祭が神の御言葉を代弁する。
そして新郎新婦の意思の確認が行われる。
キリスト教国であるアメリカではこの誓約こそが2人の婚姻を決定づける。
二人の誓約が確認され、その場で司祭がサインすれば即座に婚姻資格取得証、つまり日本で言う婚姻届が役所に提出されることになっていた。


“ 汝、道明寺司。
あなたはこの女を妻とし、今日より良い時も悪い時も、富める時も貧しい時も、病める時も健やかなる時も、愛し慈しみ、そして、死が二人を分かつまで貞操を守ることを誓いますか? “


・・・・・


聖堂に沈黙が落ちる。


” Mr. 道明寺、お返事を “


司は拳を握りしめた。
つくしを迎えに行くために、今はこの婚姻を受け入れねばと理性では思うのに、本能が抗い難く拒否している。

その様子を横に立つ3人は苛立つ思いで見守っていた。
「やめろ!」と言ってやりたい。
手を引いて連れ出してやりたい。
親友のためにできることはしてやりたいと思うのに、大人になった今は背負うものが大きすぎて、足が張り付いたように動かなかった。

やがて、目を閉じて本能を押しとどめた司の唇が開いた。


” …………は… “


その時だった。


ギ…ギギギィーーー


天井まであろうかという入り口ドアが開き、午前の光がバージンロードに真っ直ぐに射した。
参列者、ベストマンにブライズメイド、そして新郎新婦まで、一堂に会した全員が光の射す方に振り向いた。
眩しさに慣れた目は、開いたドアの光の中に小さな影を認めた。

司が驚愕の表情を浮かべてその影を見つめる。
影は教会の中に入ってきた。
一歩一歩、踏みしめるように、しかし確実に祭壇に近づく。
やがて司の足許まで来ると影は祭壇を見上げた。


「つ…くし…?」

「司、ごめん。約束したのに、あんたのこと待ってられなかった。だからあたしが迎えに来たよ。」


そしてニッコリと微笑んだ。
モッズコートにデニム姿でスニーカーを履き、長い髪を纏めもせずに下ろして化粧っけもないのに、その顔は司が今まで見たどの顔よりも輝いて美しかった。

唖然とする一同の中で、司だけは微笑みをたたえ、壇上から降りてつくしに歩み寄った。


「つくし…会いたかった…!」


そして細い体を抱きしめた。
途端に司の胸の中心に灯りがともったような熱が生まれ、それは血潮となって体の隅々にまで行き渡り、指先に温かな血が通う感覚が蘇った。

先ほどまで氷のように硬かった司の表情が春の陽射しを受けたかのように綻んだ様を見て、参列者からざわめきと躊躇いがちな歓声が同時に起きた。


“ ちょっと待ちなさい! ”


その中で金切り声をあげたのは新婦だった。


“ あなた誰? なんなの? ツカサは私と結婚するのよ! ”


こちらを睨みつける新婦に向き直り言葉を発しようとした司をつくしが制止し、新婦の前に進み出た。


「花沢類、通訳して。」


6年ぶりに会ったつくしからいきなり名指しされた類は一瞬の戸惑いの後、状況を察してビー玉の瞳に久しぶりのイタズラ心を宿し、口角を上げた。


「いいよ、牧野、話して。」


つくしはスゥーーっと大きく息を吸うと、またフゥーーっと吐き出し、そして花嫁に向いて頭を下げた。


「申し訳ありません。この人は私と結婚してるんです。あなたを騙してごめんなさい。夫の代わりに謝ります。司のことは諦めて、どうか別の方と幸せになってください。」


類がはっきりとした声でつくしの日本語を新婦に向けて通訳した。
聖堂は司祭の説教が隅々にまで届くように設計されていて声がよく通る。
静まり返った聖堂の中に類のシルキーテノールが響いて、その言葉が終わらないうちに参列者は騒然となった。


「 プッ! ククッ 牧野、やるじゃん。」


唖然として口をパクパクと動かしている新婦に背を向けて、つくしは司の手を取った。


「司、日本に帰ろう。」


つくしにまだ通訳をやめろと言われていない類は、全てを一同へ向けて通訳する。


「ああ、一緒に帰ろう。」


つくしに取られた手に指を絡めて繋ぎ直して、二人は参列者の中心を光に向かって歩き始めた。


「お待ちなさい!」


そんな2人の前に道明寺楓が席を離れて立ちはだかった。










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2019.09.06
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| 2019.09.06(Fri) 17:30:48 | | EDIT

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| 2019.09.06(Fri) 18:56:17 | | EDIT

Re: タイトルなし

みー 様

コメント、ありがとうございます!
驚いてくださってうれしいです!ものすごく!
ベタかな?って思ってたので^^

あの時の音楽は「アンチェインド・メロディ」です。
歌詞の和訳を探してみてください。
これもド定番のベタな曲だけど、歌詞が司の心情を表しています。

nona | 2019.09.06(Fri) 19:11:04 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ふぁいてぃ〜んママ 様

コメント、ありがとうございます!
つくしは愛する男を取り戻しに来ましたよ!
やっぱりつくしはこうでなくっちゃ、ですよね^^

楓とスグル(PCだと漢字が出ない^^;)をどうするのか、
明日をお楽しみに!!

nona | 2019.09.06(Fri) 19:12:52 | URL | EDIT

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| 2019.09.06(Fri) 21:41:55 | | EDIT

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| 2019.09.07(Sat) 12:30:34 | | EDIT

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| 2019.09.07(Sat) 14:05:47 | | EDIT

Re: タイトルなし

チョココロネ 様

コメント、ありがとうございます!
つくしと類はやっぱり特殊な絆があって、タイムラグは存在しないみたいな繋がりです。
司がNYに行った後も、きっと非常階段でいっしょに司の話をしたりもしたでしょうしね。
さあ、いよいよ最終話です!
よろしくお願いします^^

nona | 2019.09.07(Sat) 16:09:33 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

まりぽん 様

コメント、ありがとうございます!
長かったですが、ずっと見守ってくださってありがとうございます!
やっぱり、つくしはこうでなくちゃ!
じっと待つ妻なんて似合わないですもんね^^

最後は司つくらしく終わりたいと思います。

nona | 2019.09.07(Sat) 16:11:02 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ふじ 様

コメント、ありがとうございます!
島津亜矢さん、どちらも聴かせていただきました。
美しくて深みのある歌唱力、情感たっぷりで思わずホロリときそうでした。

私はBGMがあるほうが筆が進む性質なので、作品ごとにイメージする曲を鬼リピしながら書いてます。
きっとその曲の世界観や歌詞が書くものにも影響していると思います。

「御クビ」は全般を通してMIYAVIさんだったのですが、終盤はチェッカーズ、藤井フミヤさんでした。
「NO MUSIC , NO 二次」でこれからも頑張っていきたいと思います^^

さて、いよいよ最終話です。
二人の決着のつけ方、どうかお見守りください!

nona | 2019.09.07(Sat) 16:18:38 | URL | EDIT