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4月10日   NY



教会の新郎控え室の窓辺に設えられた長椅子に脚を投げ出して座り、白いタキシードを着た司は窓の外を眺めていた。

室内では揃いのベストマンの衣装に身を包んだ総二郎、あきら、類の姿もある。

親友の門出の日。
なのに3人は沈痛な面持ちで司を見守っていた。




3人が道明寺家から司を勘当すると知らされたのは去年の3月末。
信じられない思いだった。
若い頃、どんな暴力沙汰にも勘当などされなかった司が、一体何をして見放されたのか。
そう思っていたら何と理由は縁談を何度も蹴ったからだと?
そんなことで!?
NYに渡ってからの司は学業にも実務にも人が変わったように打ち込んでいたことを知っていただけに憐憫が湧いた。

そんな司に真っ先に連絡を取ろうとしたのはあきらだった。
が、しかし、楓の冷たい声が更に言い放った。


「司を支援した場合、内容の多少に関わらず、道明寺は問答無用で美作を潰しにかかります。心しておくことです。」


通話が切れたスマートフォンを愕然とした思いで見つめた。
今や美作の中心でその任に当たっていたあきらに選択肢などなかった。
他の二人も同様に楓から通告され、多くの人間の命運を握る立場を自覚していた彼らにも為す術はなかった。

そうして親友に対して忸怩たる思いで過ごして数日、会員制クラブのV.I.Pルームに3人は集った。
そこで総二郎から聞かされた話にまたも困惑させられることになった。


「司は牧野のとこに転がり込んだらしい。」

「「牧野!?」」

「ああ。あいつ、結局、ずっと牧野のこと忘れてなかっただろ? 縁談を拒否し続けてたのも牧野が原因だろう。」

「じゃ、あの時の着信は……」

「あきらンとこにも架かってきたか? 牧野だよ。司の携帯を使って泣きついてきやがった。“ この大男を引き取れ ” って。クックックッ、あいつ全然、変わってねーの!」

「俺のとこにも架かってきたけど、完全無視してた。だって、司なら何とかして生きていけるだろうと思ってさ。牧野だったら出ればよかった。」


類はまだ辛うじてソファに座っている。
隣に座るあきらが問いかけた。


「じゃあ司は牧野と暮らすつもりか?」

「さぁ? でもやっぱりもう一度ぶつかりたかったんじゃねーのかな。中途半端なままにしてNYに逃げちまったからな、あいつ。」

「俺がせっかく離陸前に教えてあげたのに。」

「司、呆けたままだったもんな。クックッ」


総二郎がグラスの氷を見ながらこらえ切れずに笑いを漏らした。


「俺は牧野は本当は司が好きだと思ってたんだよね。島でのこと、かなり後悔してたみたいだし。」

「そもそもお前が悪いんだぞ。牧野に静の代わりをさせようとするから。」

「司があそこまで本気だと思ってなかった。あの時はまだ。」

「それは誰も思ってなかったさ。俺も総二郎も。」

「ああ…だな。だから今度こそうまくいくといいが…な…」


3人は当時の司と、この6年間の司を思い出していた。
あの頃から司には牧野つくししか見えていなかった。
だからこそ、親友の幸運を祈らずにはいられなかった。
が、


「うまくいったとして、道明寺のあの夫婦が黙ってド庶民・牧野を受け入れるか?」


あきらが他の二人も懸念していることを口に出した。


「そこだよな。勘当したんだからもう干渉しないつもりか? でも、そんなことがあり得るか? 司は唯一の後継者だぞ。」

「うん、だよね。俺たちの中でもケタ違いに厳しい道が待ってる男だ。そんな簡単にはいかないだろうな。」

「でもとにかく、司はやっと牧野の下へ帰れたんだ。ここは放っておいてやらねーか?」

「そうだな。どうせ手は出せないしな。」

「ん…牧野もちゃんと向き合ういい機会かもね。」





それから1年、何の音沙汰もなかった。
便りがないのは元気な印とばかりに、二人はうまくいったんじゃないかと思っていた。
なのに、あの婚約報道に続き、NYでの結婚式の案内が2週間前に送られてきた。
相手の女は牧野じゃない。
メガバンクの頭取の娘。
何がどうなってんだと、無理矢理スケジュールを調整させて駆けつけたら、昏い目をした親友が新郎の格好をして窓の外を眺めていた。

結局は牧野にフラれて帰ってきたのか、それとも引き裂かれて戻されたのか。

しかし解せなかった。
どちらだとしてもそれに唯々諾々と従う男じゃない。
この1年に何があったのか。
いま、こうして大人しくしている理由はなんなのか。
だが司に問いただす者はいなかった。
知ったとして、政略結婚の宿命から逃してやる術はなかったから。

それでも堪らず、司の背中に椅子から立ち上がったあきらが声をかける。


「司、これでいいのか?」


あきらの問いかけにも司は窓を向いたままだ。


「…いいわけねぇけどよ、あいつを守るにはこれしかないからな。」

「あいつって牧野だろ?」


椅子にまたがり、背もたれに肘をついた総二郎が問いかけた。


「あいつはもう牧野じゃない。道明寺つくしだ。」


!!!


「え…じゃ、司は牧野と結婚したの?」


壁側の長椅子に座って脚を組み、司を眺めていた類が身を乗り出した。


「ああ、そうだ。だがもう消されてるかもな。」

「消されてるって、おばさんたちに無かったことにされてるってこと?」

「ああ。俺の元妻なんて名乗らせねーってよ。」


あまりの展開に3人は状況が掴めず考えが纏まらない。
互いに目配せをしてひとつひとつ疑問を解決していこうと示し合わせた。


「な、司。その結婚はもちろん牧野も了承してたことなんだよな?」


あきらの問いかけに、なおも司は窓から目を離さずにこの1年の顛末を語り始めた。


「あいつのとこに転がり込んで、狭い部屋で一緒に暮らした。庶民の暮らしを教えてもらって、あいつの職場に就職して、24時間一緒だった。こらえきれずに告白したのが夏。あいつが振り向いてくれたのが秋。そしてあいつの全てを手に入れたのはクリスマスイブだった。LAであいつの誕生日にプロポーズして、OKの返事をもらえたのは元旦だったか。日本に帰って、入籍した。式も何もない結婚だったがそれで十分だった。あいつがいてくれればそれだけで…」


黙って聞いていた3人は言葉がなかった。
24時間一緒に暮らした!?
つくしも司を愛するようになり、その愛が成就して結婚した!?
ならなぜお前はここにいて、そんな格好で別の女と結婚しようとしてんだよ!!


「司、幸せだった?」


類がビー玉のような瞳で、振り向かない男に問いかけた。


「ああ、数十年分の幸せを凝縮した1年だったな。狭い部屋で二人きりで、あいつが俺の世話を焼いてくれて。貧乏生活も人に頭を下げることも苦にならねぇ。信じられるか? 一秒も、一瞬も余さずにずっと幸せなんだぜ?」


窓に映る司の顔はその生活を思い出して眩しそうに目を細めた。


「じゃ、なんでお前はここにいるんだ?」


あきらがやっと核心部分に触れた。


「親父たちと契約を交わして、それを履行するためだ。」

「契約?」

「ああ。俺は1年前、ある契約を交わした。『1年の間に牧野との間に子を作る。それができなかった時は親父たちが決めた女と結婚する』」


!!!!?


「なっ…それ…そんな…」

「そんな契約あるかよっ!」

「ひど…さすが道明寺家。牧野をなんだと思ってんだろうね。」


司の口から明かされた真相に、3人は二の句が継げない。


「おい、司っ! ンでお前は牧野に子供ができなかったから捨ててきたってわけかよ!!」


椅子から立ち上がった総二郎は気色ばんだ。
その言葉に司は初めて振り向いた。
司の目は深い闇を宿して総二郎を睨みつけた。
それは、まだつくしと出会う前の瞳の色だった。


「テメェ、二度と茶碗なんて持てないようにしてやろうか?」


司のあまりの凄みに総二郎はうっと仰け反り、また椅子に座りなおした。


「いや、ンなわけねーよな。悪かった。でもよ、だとしたらお前はなんでそんな契約を結んだんだよ。」


司はまた窓を向いた。
そこには教会の庭からエントランスに続く小径が見えていた。


「1年間自由にしてやると言われて舞い上がったんだ。俺が大馬鹿だったんだな。だからあいつを傷つけた。その上、俺が契約を破棄すればあいつはさらに傷つけられる。俺はあいつの夫なんだから、守ってやらねぇと。」


7年前、17歳の司が出会ったのは運命の相手だった。
そうであれば面白いのに、と、希望的観測をもってはいたが、いざ本当にそうだった二人の末路がこれではあまりにも報われなかった。


「じゃ、今、寂しい…よな。」


あきらは漏れ出た言葉に自分で驚いて、思わず口を押さえた。


「フンッ 寂しい? そんな言葉じゃ表せない。すげぇ寒ぃんだ。自分の中の何かが死んじまったみたいに体の中心が冷たくて冷たくて眠れねぇ。でも仕方ないよな。俺が自分で交わした契約なんだから。ビジネスの世界じゃ契約は絶対だ。それが俺の生きる世界だ。」


それでもつくしを待つように外を見つめる司に、3人は奇跡が起きることを祈らずにはいられなかった。









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2019.09.05
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| 2019.09.05(Thu) 17:11:43 | | EDIT

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| 2019.09.05(Thu) 18:10:01 | | EDIT

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| 2019.09.06(Fri) 07:34:11 | | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
はい、二人の幸せは保証します!

椿は、、、さて、どこにいるでしょう。。ムフフ

nona | 2019.09.06(Fri) 16:41:20 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

りりあ 様

コメント、ありがとうございます!
泣かせる自信はないですが、笑顔になっていただく自信はあります。
ニコッってのと、ニンマリっての(笑)
最後は司つくらしく終わりたいと思います。

nona | 2019.09.06(Fri) 16:44:54 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

チビネコママ 様

コメント、ありがとうございます!
災害、本当にそうですね。
ニュースがどの地域のことを言ってるのかわからなくなるくらいに頻発してますね。
昔の情緒ある夕立ちやシトシト雨もめっきりなくなりました。
天候の変化に文明が追いつかないですね。

お仕事前に泣かせてしまって申し訳ありません。
でも最後は笑顔になっていただけることを祈ってます。
つくしも司もガンバレ!です^^

nona | 2019.09.06(Fri) 16:48:36 | URL | EDIT