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それから3日後のことだった。
つくしが仕事から帰ると部屋の前で佇む2人の長身の影があった。


「お姉さん!」

「つくしちゃん、こんばんは。」


椿はSPの池田を伴い、つくしを訪ねてきた。
クリームカラーのシャネルスーツを着た椿が浮かべる、いつもと変わらぬ美しい微笑みは司によく似ていて、今は見るのが辛かった。


「待っていただいてたんですか? すみません。」

「ううん、勝手に来たんだから気にしないで。」

「あ、じゃあ、どうぞ。狭いですが。」

「ありがとう。池田、あなたはここで待ってて。」


手に持っていた包みを椿に渡し、黒スーツの池田は一礼してドアの前に立った。





つくしはドアを開け中に入り明かりをつけた。
その青白い蛍光灯に照らされたつくしは、これまで椿が見てきたどのつくしよりも儚げだった。


「あの、すみません。本当に狭くて、お姉さんに上がっていただけるような家じゃないんですけど。」

「そんな。ここに司は1年間住んだんでしょ? つまり広さなんて関係ないってことよ。」


司の名前が出て、つくしは微かに動きを止めたがすぐに感傷を振り払い、椿を居間に案内した。


「どうぞ、座ってください。これ、来客用のクッションなんで。」


それは司が使っていたクッションだ。
つい昨日、カバーを洗ったところだった。

椿は居間に入って周囲を見回した。
なるほど、これは狭い、と思った。
道明寺邸のお風呂場くらいの大きさだ。
ここに1年間、二人の暮らしがあった。
司の苦労と幸福が容易に想像できた。


「今、お茶を、」

「あ、いいの。本当に気を遣わないで。つくしちゃん、お仕事から帰ったばかりなんだから、どうぞ座って。」


言いながら椿は差し出されたクッションに正座した。
椿の様子に渋々とつくしも座った。
確かにお茶と言っても椿をもてなせるようなものはこの部屋にはない。


「これ、邸のシェフが是非、つくしちゃんに食べてもらいたいって。お夕飯まだでしょ? よかったら召し上がって。」


椿は持ってきた包みを小さなテーブルに置くと、開き始めた。
中からは保温保冷容器に入った様々な料理が出てきた。
蛤とキャベツのお吸い物に明日葉の胡麻和え、タケノコのカニ餡掛け茶碗蒸し、牛ヒレ肉ステーキの山わさびソースがけ、そして鯛飯とデザートには夏蜜柑のゼリー寄せまであった。
全て少しずつ入っていて、小さなテーブルにも乗り切る量だった。


「わぁ…美味しそう! ありがとうございます。お気を遣わせてしまってすみません。」

「いいのよ。私もしばらくは日本に来られなくなるから、シェフも腕を振るえて喜んでるわ。ね、食べて。」

「あ…じゃ、後でいただきます。さっき、帰りがけに駅のホームで立ち食いソバ食べちゃって。駅を使うの久しぶりだったんで。あはは。」


そう言ってつくしは容器に蓋を被せていった。
本当はソバなど食べていなかった。
司が去ってから食欲が湧かなかった。
1年間、限られた予算の中で司のために心を砕いて食事を用意していた。
もうその必要がなくなって、つくしは献立を考えることはおろか、食べることさえ億劫になっていた。


「そう…。必ず食べてね。なんだか痩せたみたいだから。」

「えっ? えへへ、車通勤で体がなまって筋肉が落ちちゃって。でもまたすぐに元の体力を取り戻しますから!」


椿を安心させようと、つくしは小さくガッツポーズをした。
そんな姿も椿の目には痛々しく映る。
いま以上に追いつめられるつくしは見たくない、と椿は本題を切り出した。


「今日、こうして伺ったのはつくしちゃんに話があったからなの。」

「話?」


椿のいつにない深刻な表情につくしの中に警報音が鳴る。

聞きたくない。
聞きたくない。


「…司の結婚式の日取りが決まったわ。」

!!


結婚式…
つくしとは挙げることができなかった結婚式。
ついにこの時が来た。
司が別の女性の夫となる日が来るんだ。
つくしは左手の震えに気づいた。
そこに先日まであった指輪はもうない。
司が去ったあの日、外してケースに仕舞ったのだ。
またこの指に通す日が来ることを願って。

その左手の震えが抑えられず、つくしは右手で左手を押さえたがその右手も震えていた。


「4月10日の午前10時からよ。日本では11日の未明ね。」

「11日……あと何日…?」

「日本でも大々的に報道されると思うわ。だから…ね、もしよかったら…」


椿が何かを言いかけたが、つくしはそれ以上は何も聞きたくなかった。


「あのっ、やっぱりお茶、淹れますね!」


そう言って立ち上がり、居間のドアに手をかけた時だった。


ガタッ…ドサッ!


「つくしちゃんっ!!!」


椿が倒れ込んだつくしに慌てて詰め寄ると、蛍光灯の光のせいかと思ったつくしの顔色は真っ青で、呼びかけに目を開けることもなかった。


「池田!! 池田っ!!!」


中から聞こえる椿の叫びに気づいた池田が土足で入ってきた。


「椿様っ」

「池田! 救急車、いえ、車に運んで! このまま病院へ行くわよ!!」


つくしは池田に抱えられ、部屋を出た。









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2019.09.04
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| 2019.09.04(Wed) 19:04:44 | | EDIT

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| 2019.09.04(Wed) 19:28:27 | | EDIT

Re: タイトルなし

みー 様

コメント、ありがとうございます!
椿はつくしを日本から連れ出そうと思って尋ねたんです。
結婚報道でつくしがもっと憔悴しちゃうんじゃないかと心配で。
いよいよクライマックス直前です。
最後までおつきあい、よろしくお願いします^^

nona | 2019.09.05(Thu) 12:44:20 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

匿名 様(ご記名がなかったのでこのように呼ばせていただきます)

コメント、ありがとうございます!
強がるのは得意だけど、本当に強いわけじゃないってのがつくしのつくしらしさですよね。
それを一番わかってくれてるのが司だと思いたい。
互いの覚悟がどんな風にハピエンに繋がるのか。
どうか最後までおつき合いください!

nona | 2019.09.05(Thu) 12:47:40 | URL | EDIT