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家に着いて早速、お好み焼きの準備をした。

給料日前のメニューとしてお好み焼きとたこ焼きが定着し、テーブルのセッティングは黙っていても司がしてくれる。
つくしはタネを準備した。


「司ももう作れるでしょ。NYで作って食べればいいじゃん。」

「ンな暇あるかよ。」

「そっか。御曹司に復帰だもんね。」


ハハッと笑うつくしの横顔を司は切ない思いで見つめた。
妊娠が叶わなかった時も、家に帰ってきた時も、迎えの日を伝えた時も、つくしはただ黙って受け入れた。
それが自分に負担をかけまいとする彼女の強がりだとわかってはいたが、それでも侘しさが残った。





いつものように4枚焼き、3枚を司が食べた。
いくら勧めてもつくしはこれ以上いらないと言う。


「お前はビール、飲まないのか?」

「んー、今日は気分じゃないや。今度に残しておくよ。」

「ふーん…」


司が去った後もつくしの生活はここで続いていく。
“ 今度 ” にもう自分は含まれていないのだと思うと、身を切るような寂しさが司の心の間隙に沁み込んだ。

ともすれば黙り込んでしまう雰囲気を一掃しようと、司はスマホを手に取り、音楽をかけた。


「なに? 音楽?」

「ああ、こいつのオススメだとよ。つくし、踊ろうぜ。」


司はスマホをテーブルに置いて立ち上がると、テーブルを回り込んでつくしに手を差し出した。


「踊り!? ムリムリムリ!」

「LAのレッスンでやったろ? ほら。」


司はつくしの両手を取り立たせた。


「俺もあんま踊ったことねぇからな。いいんだよ、こんなもんはただ揺れてりゃ。」


流れているのはアメリカのヴィンテージラブソングで、聴いたことがあるメロディーと歌が間断なく続いている。
楽しい気分にさせる曲や、懐かしさを感じる曲もある。
二人は手を取り合い、時にステップを踏み、時につくしがターンさせられ、笑い合った。

落ち着いた曲調になった。
司はつくしを抱き寄せた。
つくしも司の背に腕を回し、トン、とその胸に頭を預けた。


「な、つくし」

「…ん?」

「俺たち、これで終わりじゃねぇからな。」

「……………」

「俺はお前に、俺を忘れて幸せになれなんて言わねぇ。俺は道明寺の後継者としての義務を果たしたら必ずお前を迎えに来る。だからそれまで他の男を見るんじゃねぇぞ。」


その言葉に、つくしは明日の別れをはっきりと感じ、ジワリと涙が満ちてくるのがわかった。
それは惜別の涙。
心の糸が切れ、この数日間、堪えていたものが一気に溢れ出した。


「……………いで…」

「つくし?」

「…行かないで…どこにも行かないで…ずっとあたしのそばにいて…ここにいて…お願い…」


決して言うまいと思っていた言葉がこぼれ落ちた。
司の胸元に顔を埋め震えながら、つくしはただ繰り返した。


「お願い……お願い…行かないで……」

「つくし!」


つくしを抱きしめ、その髪に頬を寄せながら、司の胸に再会してからの1年が蘇った。

思い出づくりのつもりで会いに来たのに、つくしに愛され、手に入れた。
今もつくしは俺を愛し、そして俺もつくしを愛してる。
なのになぜ別れなければならないのか。
彼女のいない人生を歩んでいく自信がない。
明日からどうやって息をすればいいのかわからない。

なおも泣き続けるつくしを抱く腕に力がこもった。

俺を受け入れてくれてありがとう、辛い思いをさせてごめん、と言葉が出かかる。
でもそのどちらも喉元に引っかかって口から発せられることはない。

そのうちに司は強く瞼を閉じた。
つくしに涙は見せたくない。
見られれば、これが本当の別れだと肯定しているようで、司は込み上げるものをなんとか押し込めた。

そうだ、これは本当の別れじゃない。
本当の別れはどちらかが死ぬ時だ。
肉体はどれほど離れようとも、心は一つだ。
愛してる。
それだけが俺たちの真実だ。


「つくし、これは別れじゃない。」


つくしが顔を上げた。
司の心を捕らえ続けて離さない大きな瞳は涙で濡れてキラキラと輝いている。
その瞳からこぼれ落ちた涙が白い頬にいく筋もの跡を残し、薄紅に色づく唇は微かに震えているようだった。
司は指でその涙をすくい取って、フと笑んだ。


「お前は泣いた顔も可愛いな。」

「なによ…それ…」


司は両手でつくしの頬を包んだ。


「俺を信じてるか?」


つくしは司の手の中でコクンと頷いた。


「俺が迎えにくるまで待てるか?」


また表情が崩れて涙がポロポロとこぼれた。


「待てるよな?」


泣きながらつくしはやはりコクンと頷いた。


「俺たちはまだ若い。人生は長い。長い人生の中で必ずまた巡り会える。俺はそう信じてる。お前もだろ?」


つくしはもうなにも見えなくなるほど瞳にいっぱいの涙をためて、それでも何度も頷いた。
頷くたびにポロリ、ポロリと涙が落ちる。


「なら大丈夫だ。俺たちが信じていれば大丈夫だ。」


そう言って司は涙で濡れたつくしの唇に口づけをした。






最後の夜も二人は重なり合った。

愛する人の全てを覚えておこう。
肌も匂いも吐息も快感も。
何もかもを、この身に刻もう。



“ つくし、愛してるって言ってくれ。 ”

“ それは…今度会った時に言ってあげる。 ”

“ フッ……約束だぞ。 ”

“ うん…必ず… ”


眠ることを恐れるかのように司はつくしを愛し続け、つくしもまた司を求め続けた。








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2019.09.02
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| 2019.09.02(Mon) 18:17:57 | | EDIT

Re: タイトルなし

みー 様

コメント、ありがとうございます!
そのカップル、本当につかつくみたいですね。
でも私はせっかちなので、そこまで待てません(笑)

もっと早く幸せにしてあげたいと思います。

nona | 2019.09.02(Mon) 21:38:55 | URL | EDIT

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| 2019.09.02(Mon) 22:26:16 | | EDIT

Re: タイトルなし

ふじ 様

コメント、ありがとうございます!
はい、私もあのシーンを思い出してました。
17歳のつくしは叫べたけど、23歳になったつくしは叫べない。
無鉄砲になれない大人になった二人です。
時間の経過と共に、心身が成長していく二人を見られるのが二次の醍醐味ですよね。
しかし最後には必ずや笑顔にしますので、ご期待ください。

nona | 2019.09.04(Wed) 10:44:01 | URL | EDIT