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二人はお弁当の入ったトートバッグを持ち、車で近くの大きな公園にやってきた。
そこは上野公園の1.5倍はある広大な公園で、中にはレトロな昭和の建物がそのまま残されて展示されている一角や、野球場やテニスコートなどスポーツ施設、そして巡りくる四季に合わせて咲き誇る草木ごとの植栽があり、桜のない季節でもいつも賑わっている公園だった。

数日前に開花宣言がされた桜が今はもう満開になっていて、ちょうど見頃だ。
公園のあちこちで大きな桜の木が花を揺らして二人を出迎えた。
平日の今日は小さな子供を連れた母子のグループや年配者の花見客が多かった。
さしずめ夜になればサラリーマン風情が増えるのだろう。


「わぁ〜、桜綺麗だね〜! 満開だ。」


そんな感嘆の声を発したつくしは、芝生の端にポツンと佇む桜の下に敷物を敷いてお重に入ったお弁当を広げた。
そこには3色のおにぎりに卵焼きやえのきのベーコン巻き、湯むきしたミニトマトのマリネ、ブロッコリーとエビのペペロンチーノ風、鶏肉団子の照り焼きなどが入っている。
短時間で作ったにしては豪勢だ。


「さ、食べよ。」


つくしは司にプラスチックの取り皿と箸を手渡した。


「桜を見にきたんだろ? いきなり食うか!?」

「桜を見ながらお弁当を食べるのが庶民のお花見よ。食べなきゃ始まんないわよ。」

「さっき朝飯食ったばっかりだろ。ンなに食えねぇよ。」

「夜は何食べたい?」

「聞けっ」

「だから聞いてるでしょ? 何怒ってんのよ。」


卵焼きに手を伸ばしながらつくしは首を傾げ、片眉を上げて司を見上げた。

つくしは努めて平静を保とうとしていた。
じゃないと微かなきっかけでも崩れ落ちてしまいそうだったから。
辛いのは司の方なんだと思うとこれ以上の負担になりたくなかった。


「はぁ、仕方ねぇな。晩飯は、んー、そうだな…やっぱお好み焼きか。庶民が作るお好み焼きはもう食えねぇだろうからな。」

「ちょっとぉ、その理由!」

「お前、NYに店出せよ。そしたら俺が食いに行くから。」

「じゃ、司はパンケーキ屋ね。ちゃんと司が焼いてよ?」


まるで二人の道が続くような会話を楽しんだ。


「んじゃ、ふたりでどっちもやるか。」

「どっちも!?」

「お好み焼きもパンケーキも鉄板がありゃできるだろ? 隣り合って焼けばいいじゃん。」

「何言ってんのよ!? 匂いが混ざって美味しくないわよ。せめて店舗は分けてよね。」

「乗り気じゃねぇかよ!」


笑い転げてお弁当を食べて、満腹になったら眠くなってつくしの膝枕に寝転ぶ。
上を向くと、覗き込むつくしの顔が見える。
手を伸ばして頬を撫でる。
つくしが微笑む。
頬を撫でていた手で後頭部を引き寄せる。
慌てたつくしが抵抗する。
また笑いが起きる。
プンと怒ったつくしに膝枕を外される。
離れようとしたつくしの手を引くと胸に落ちてくる。
ハーフアップにした長い髪の香りがふわりと漂った。
起き上がろうとするつくしを胸に抱きしめる。

この鼓動を聞いて欲しい。
お前を抱きしめただけで高鳴るこの胸の鼓動を。
そして覚えておいて欲しい。
俺が愛するのはお前だけだと。


「…司?」

「ん?」


司の鼓動を聞いたまま、つくしが話しかけた。


「帰ったらご両親と仲良くね。」

「ハッ! 何言ってんだ?」

「あたしさ、感謝してるんだよ。あんたのご両親に。」


司が起こそうとした体を押し戻し、つくしはまたその胸に耳を寄せた。


「感謝ってお前、何言ってんだよ!? あいつらの条件のせいで俺は…俺たちは……」


そこから先は言葉にならない。


「だってそうでしょ? あたしみたいな庶民は絶対にダメだって最初から反対することもできたんだよ? でもそうせずに司をあたしに預けてくれて、チャンスをくれた。だから今、あたしたちはこうしてるんでしょ? あたしは感謝しかないよ。司は違うの?」


そう言ってつくしは身を起こして司を見つめた。
司もまた肘をついて身を起こし、憤懣やるかたないといった表情でつくしを見つめた。
しかしつくしの顔にはとても静かで穏やかな表情が浮かんでいた。
まるで司の心の奥底にある両親への失望を抱きしめてなだめるような、そんなつくしの眼差しだった。


「そんな顔しない。あたしたちがどうなろうと、誰が悪いんでもない。誰のせいでもない。だからね、あんたがご両親を恨んだり、怒ったりするのは違うよ。それにあんたを産んでくれた人たちじゃん。それだけでも感謝に値するでしょ。」


そう言ってつくしはニコリと目を細めた。
春の風が散りゆく花びらを運んでくる。
それがつくしの髪に落ち、そしてまた飛び立つ。

あの花びらは自分で飛び立ったのだろうか、それとも風に無理やり飛ばされたのだろうか。
きっと無理やりだ。
だって自分なら、たとえひとひらの花びらになろうとも、つくしから離れたくないから。


「お前、お人好しすぎ。」

「そう? でもそんな女が好きでしょ?」

「クッ そういうことになるか。」

「もう帰ろっか。」

「そうだな。ここじゃキスもできないもんな。」

「そうじゃなくてっ」

「違うのか? じゃ、」


またつくしの手を引いて、トサっと自分の横に落とし、司は被さった。


「ななな何してんのよっ」

「ん? ここでしていいんだろ? キス」

「バカっ! やめなさい!」

「騒ぐと注目されるぞ。」

「〜〜〜っ」


困った目をして首をすくめたつくしは、顔を真っ赤にして口を真一文字に引き結んだ。


「お前、何だよ。よくそんな器用な顔ができるな。おもしれぇ顔。クックックッ」


そう言ってまた笑いだした司はつくしの上から退いて、つくしを引き起こした。


「帰ろうぜ。」

「…うん。」


“ 帰ろう ”

この言葉を使うのもこれが最後。
もう同じ場所に一緒に帰ることなんてない……



司は二人の女性の言葉を心の中で反芻した。


“ それでも感謝していいことだってあるはずよ。それが愛情だって好意的に捉えたって損するわけじゃないわよ。 ”

“ それにあんたを産んでくれた人じゃん。それだけでも感謝に値するでしょ。 ”


感謝?
あの二人に?
つくしと共にいる喜びも幸福も、あの二人から与えられたものだと言うのか?
だとしたらつくしを残して立ち去らなければならない苦しみもまたあいつらから与えられるものだ。

……俺はどちらを拠り所に生きていくのか。




公園を出た二人はスーパーに寄り、お好み焼きの材料を買い、ビールを買い、最後の帰路に着いた。








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2019.09.01
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| 2019.09.01(Sun) 17:08:58 | | EDIT

初めてコメントしますが、随分まえから読者です。いつも更新の時間を楽しみにしています♪
二人がハッピーエンドになればよいなとねがっています。

ファンです。 | 2019.09.01(Sun) 17:15:23 | URL | EDIT

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| 2019.09.01(Sun) 17:36:28 | | EDIT

切なすぎる‼️

こんばんは。
ハッピーエンドになると言われてたので、安心して読んでますが(小心者の私はバットエンドは後を引くので読めないんです(T . T)、それにしても切ない!
勝手につくしちゃんの不正出血は妊娠前出血?とか想像したりして、前向きに前向きに考えてます。
もちろん妊娠してなくても、あの両親が認めてくれたらなぁともね。
あー切ない!

Fumee | 2019.09.01(Sun) 22:14:50 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

コメント、ありがとうございます!
二人の切なさを感じ取っていただけてうれしいです。

NYのお好み焼き屋って普通に流行りそうですよね。

「東京もハワイもわしには変わらんくらい遠い」と言った父の言葉を思い出しました。
遠距離って心の遠さなのかもしれないですね。

nona | 2019.09.02(Mon) 21:26:26 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ファンです。 様

コメント、ありがとうございます!
以前の作品から読んでくださってるんですね。嬉しいです。
はい、ハッピーエンドを目指してます。これでも・・・

どんな風にハッピーになるか、ハッピーを掴むか。
そこに注目していただけたらと思います。

nona | 2019.09.02(Mon) 21:28:49 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

ゆう 様

コメント、ありがとうございます!
こちらこそ、読んでくださってありがとうございます。
帰った後の司の親子関係もつくしは心配なんですよね。
それに、誰かが悪いと思うと、どんどん不幸になってしまう気がします。

私は司を幸せにすることを目標に二次を書いてますが、
つくしのことも幸せにします!

nona | 2019.09.02(Mon) 21:31:28 | URL | EDIT

Re: 切なすぎる‼️

Fumee 様

コメント、ありがとうございます!
私もバッドエンドは読めません〜><
だから他のカップリングは読めません。
司が辛いとこっちも落ち込むから。

そこなんですよね!
妊娠しなきゃ認めないってのが癪なんですよね。
司、ガンバレ!

nona | 2019.09.02(Mon) 21:35:15 | URL | EDIT