つくしは風呂から上がり、普段ならこのまま濡れた髪を司に拭いてもらう。
しかし今夜は司と距離を置きたい気分だった。
つくしは洗面で髪を乾かしてから居間に戻った。
「なんだ、髪、乾いてんのか。」
こんなことも今までなら司は不満をこぼしていたはずだ。
でも今の司はそんなことはどうでもいいとでも言いたげな態度で、つくしの手を引いて自分の膝に座らせた。
司の大きな手がつくしの頬を包み込み、もう片方はトップスの中に入り込もうとしている。
その手をつくしが押さえた。
「ね、ちょっと、今夜はこのまま寝ない?」
「あ?」
「あの…さ、LAから帰ってから毎晩だし、その…今夜は…し、しなくていいんじゃない?」
そんなつくしの言葉に答えずに、司はつくしの頤(おとがい)に手をかけ上向かせるとキスをしようと顔を傾けた。
その瞬間、つくしは全身にザザッと鳥肌が立った。
それはつくしの意思を無視する男に対する怒りからだった。
「いやっやめて!」
首をすくめて顔を避け、頭を振って頤にかけられた手を振り払い、司を押しのけてその腕の中からも逃れ、ドアを背にして立ち上がった。
「いや…今日はやだ。」
司も立ち上がり、つくしに手を差し出した。
それはまるで車の下に入り込んだ猫をおびき寄せるような様子で、慎重につくしとの距離を詰めていった。
「つくし、どうした? ほら、こっちに来い。」
「やだ…毎晩する必要ないでしょ。」
「毎日、お前に触れたいんだ。愛してるから。」
「違う…」
「違わない。愛してる。」
「やだ…今夜は絶対に触られたくない!」
その言葉にサッと司の顔色が変わった。
それはまるで6年前の昏さが蘇ったような温度の感じられない表情で、細められた目には苛つきが感じられた。
「つくし、俺たちは夫婦になるんだ。本当なら今すぐにでも婚姻届を出したいのに、お前が段取りがなんだと言うから待ってやってるんだぞ。少しでも俺の不安な気持ちをわかろうって思うなら、寄り添ってくれたっていいだろ。」
司の言い分につくしは唖然とした。
「不安て、あたしは何も結婚が嫌だって言ってるわけじゃないでしょ!? 筋を通したいって言ってるだけじゃん。それの何が問題なの!? 寄り添うって身体さえ寄り添えばそれでいいの? あんたこそ、私に寄り添おうって気があるなら身体ばかり求めるのはやめてよ!」
つくしはもう司と同じ空間にいることにも怒りを覚えた。
クローゼットを開けてコートを着込むと、バッグを持って居間を出て行こうとドアに手をかけた。
その腕を司が捕まえた。
「ちょっと待て!」
「離して!」
「どこに行く気だ!」
「家に帰るのよ! 両親の家に泊めてもらうから追いかけてこないで!」
「行かせない!」
つくしは司から逃れようと、自分を掴んでいる手の手首を掴んで引き離そうとしたが太い腕は微動だにしない。
そのうちに司の手に力が入り、コートの上から掴まれているのに指先が鬱血してくるのがわかった。
「痛い! 離してって!」
司はつくしのバッグをひったくり床に落とすと、つくしを担ぎ上げた。
「降ろしてぇっ!」
ジタバタと暴れるつくしをバウンドするようにベッドへと落とし、馬乗りに被さって腕を押さえた。
その瞳は黒光りしてつくしを捉えた。
「…司…やめて…」
「つくし、愛してる。だから今夜も明日も明後日も、俺は毎日毎晩お前を抱く。」
言葉とともに司が被さってきた。
思わず顔を真横に背け、強く目を閉じた。
露わになった首筋を生暖かくヌメる舌が舐め上げた。
「やっ、嫌だって言ってんでしょ!! このバカっ!!」
司に乗り上げられている脚をこん限りバタつかせ、肩を揺らして抵抗した。
それでも司は止まらず、手がスウェットに侵入してきた。
「道明寺! やめないと別れるからぁ!!」
その言葉にやっと司はピタリと止まり、体を起こしてつくしを見た。
顔を背けたままのつくしは目に涙を滲ませながらも鋭い視線だけを司に向けて睨んでいた。
「…これ以上やったら…あんたを捨ててやるっ。どっかの女に拾われればいい…NYでもどこへでも行っちゃえ!!」
「つくし……」
ゆらり…と、司はつくしの上から退いた。
つくしは起き上がり、掴まれた腕をさすりながらベッドを降り、バッグを持って居間のドアノブに手をかけ立ち止まった。
「………っ!」
司に何か言いかけたが何を言えばいいかわからなかった。
そしてつくしは出て行った。
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2019.08.06



