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翌日から悠介は俺を避けるようになった。
もう、つくしのところにも来なくなった。


ある日の昼時、中庭の芝生の上でひとりで弁当を食ってたつくしを見つけて声をかけて隣に座った。


「順、悠介は?」

「わかんね。避けられてる。はぁ…」

「なんで告白しないの?」

「…お前はいっつも唐突なんだよ。告白なんてできるわけねぇーだろ。あっちはストレートだ。」

「でも、順、もうこぼれてるよ。」

「え! ダダ漏れてるか?」

「うん。悠介見る目が優しすぎ。」

「・・・それが原因で避けられてんのか? ハァ…」

「あー、そういえばさ、この前の花沢さんは別に本当の彼氏とか、片思いしてる人とかじゃないからね。友達だから。」

「あそこまでのイイ男を友達と言い切れるお前ってすげーな。あの人、英徳のF4だったんだろ?」

「え、なんで知ってるの!?」

「悠介が教えてくれた。お前って英徳だったんだ。お嬢かよ。」

「お嬢じゃないよ。ど庶民。たまたま紛れ込んじゃったの。分不相応な世界で苦労したよ。」

「ふーん。ま、だろうな。お前見てたらわかるわ。」

「でしょ。」

「だったらなんでF4と知り合いなんだよ。益々、謎じゃん。」

「・・・んと。なんでだろうね。」


つくしは遠い目をした。


「この前、すっげ綺麗だったじゃん。お前は磨けば光る。もったいないよ。もっと磨けよ。」

「フフ、何のためによ。誰のためによ。順も悠介もあたしが綺麗になろうが地味子なままだろうが関係ないでしょ? それがいいんだよ。」

「お前ってさ、好きな男とかいないの? ま、俺が言うのもおかしいけど。」

「・・・いるよ。」

「え! いるのかよ! 誰だよ! ってか、じゃ、なんでニセ彼女なんて引き受けたんだよ! マズいだろ。」

「あたしの好きな人はね、あたしのこと、綺麗さっぱり忘れちゃったの。」

「は? 忘れた? なに? なんで?」

「んー、なんでだろ。わかんない。生死の境を彷徨って、意識が戻ったらあたしのことだけ忘れてた。記憶障害だって。いつか思い出すかもしれないし、一生、忘れたままかもしれない。」

「ちょ…待て、そのお前の好きな男ってまさか恋人だったんじゃねーよな…」

「恋人なんて言葉はくすぐったいね。でもあたしを凄く大切に想ってくれたかな。」

「両想いじゃねーか! なのにそいつはお前のことを忘れたってのか? 何もかも? 全く思い出さなかったのかよ!」

「うん。類の、あ、類って花沢さんね。類の女だと思われて追い返された。挙句は他の子を彼女だと思っちゃった。」


つくしの瞳に宿る闇の正体がやっとわかった。
でも俺はつくしよりつくしを忘れた男が可哀想でならなかった。
奇跡が起きて、悠介が俺を好きになってくれたのに、その悠介を俺が忘れるようなもんだろ?
残酷すぎねーか?
そんなのありかよ。


「……………ありえない…マジ、ありえない…そいつが哀れすぎる…」

「順…?」

「俺はこんな残酷な話は聞いたことがない。すっげぇ愛した恋人を忘れたんだろ? いつか思い出すかもしれないんだろ? でも、いつ思い出すかわかんねーんだろ? やめてくれ、俺なら思い出したくない。そのまま死にたい。思い出した時、あれほど愛した相手が他のヤツのもんになってるかもしれねーんだろ? もしかしたら死んでるかもしれねーんだろ!? 耐えられない…そんなの耐えられない。忘れられたお前も辛いかもしんねーが、でもお前は覚えてんだろ? じゃあ、お前はそれでいいじゃねーか!」


つくしは大きな瞳をさらに見開いて俺に向けてた。
俺も喰い付かんばかりにつくしを見据えてた。
そしたらつくしの目からポロポロと涙がこぼれ落ち始めた。

俺は女の涙に強い。
あんなもんは女の演出方法のひとつだと思ってる。
昔の歌手がスモーク焚くのと変わりない。
だが、この時のつくしの涙だけはキレイで、芝生にこぼれてしまわないように自分の胸に閉じ込めた。


「つくし、つくし、泣け。お前にはそれが足りねーんだ。どんどん、ガンガン、泣け!」

「うっ、うう、わぁーーん、バカバカバカッ! 道明寺のバカ! なんで忘れたのよ! 戻ってきてよ! 早く、戻ってきてよぉ! わぁぁん」


それからつくしはずっと泣いてた。
俺のシャツが涙でビシャビシャになって、鼻を擤むポケットティッシュも底をついて、瞼が腫れて開かなくなるまで、ずっと泣いてた。




「スッキリしたか?」

「ん。ありがと。」

「授業だろ? 大丈夫か?」

「もう今日はフケる。そんな気分じゃなくなっちゃった。なんか、パーッと遊びたい気分。」

「行くか!」

「おう! 悠介も呼ぼうよ。」

「それはいい。」

「なんでよ。」

「もういいんだ。無理やり関わってもいいことなんてない。今くらいの距離が丁度いいんだよ。部で会えるし。」

「ふーん・・・」


それから俺たちは街に出てゲーセンに入ったり、カラオケで絶叫したり、銀座を冷やかしながら歩いたり、その日を伸び伸びと楽しんだ。
お互いにもう秘密はなくて、俺は初めて親友ができたような高揚感があった。
でも、それは側から見ればデートだったと思う。


夜になって飯食おうってことになって、また大学周辺に戻ってきた。
いつも安くて大盛りにしてくれる親爺さんの食堂を目指してた。
そしたら悠介が彼女と腕組んで歩いてるとこに正面から鉢合わせた。


「悠介…!」

「つくし……順…」


好きなヤツが恋人と歩いてるとこ見て嫉妬しない奴なんていんのか?
俺は瞬間的にカッときた。


「はは…友達と会う時間を削って女に費やすとか、お前って案外、軟弱だったんだな。」


俺は自分だって女連れなのに、意味不明な理論で悠介を責めた。
俺にそんな資格はないのに。


「お前こそ、女、連れてんじゃないか。」

「あのさ、悠介、順も、今度でいいからちょっと話せない? 私の話もちゃんとしたいからさ。」


つくしが仲裁に入ったその時だった。
悠介の腕にぶら下がってた女がつくしを蔑むように言った。


「あなたが牧野つくしさん? プッ、噂通り地味なんだ。私の悠介が仲良くさせてもらってるらしいですね。いつもお世話かけちゃってごめんねぇ。でも噂が立ってますよ。野球部の男子を二股かけてるって。地味なくせに体使ってんじゃないかって。あ、私はそんなの否定しときましたけどね。気をつけたほうがいいですよぉ。」


つくしが陰でなんて言われてるかなんて全然知らなかった。
俺のせいなのに、俺のためにこいつは付き合ってくれてんのに。
さっきの嫉妬なんて比じゃないくらいの怒りが湧き上がった。


「テメェ!」

「…帰れ…」

「「「 !? 」」」


悠介が女から腕を抜いて、女の正面に立った。


「聞こえなかったか? 俺の大事な友達を侮辱したんだ。それだけの覚悟だろ? 今別れる。お前みたいな女、俺は大嫌いだ。帰れ!!」


俺もつくしも驚いた。
これまで悠介はフェミニストだった。
女に対して高圧的なとこなんて見たことなかった。

固まる女を残して悠介は歩き出した。
俺たちは悠介を追った。


「悠介! あたしのせいでごめん。彼女、きっとただのヤキモチだよ。ここ最近、あたしたち3人でいることが多かったから。」


早足の悠介を追いかけながらつくしが言った。
こいつはバカが付くお人好しだなって思ったけど、今はそれどころじゃない。
そうしたら悠介は立ち止まって振り向いた。


「お前らこそデートだったんだろ? 俺のことは放っておいてくれ。」


そしてまた立ち去ろうとしたから、俺は悠介に近寄ってその肩を掴んだ。


「待てよ。話があんだよ。一緒に飯食おうぜ。」

「・・・・」

「うん、そう、そうだよ。あたしたち二人とも悠介に話したいことがあるの。ね? 行こ?」


俺たちは行き先を変更して、個室のある居酒屋へ向かった。








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2019.04.16
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