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つくしがベッドにいない夜に始まった順の昔話。
手許のグラスはとっくに空になっている。
でも俺は話の腰を折りたくなかった。
そのまま、順の話の続きを待った。


「で、それから?」

「あれは秋季大会の壮行会が、とあるホテルで開かれた時だった。」



**



それまでの数カ月を3人で過ごすうちに俺と悠介はすっかり仲良くなった。
一緒につくしに会いに行き、バイトだと追い返されて、だったら暇潰しだって二人で過ごすことも増えて、俺は密かにつくしに感謝してた。

そんな時だった。
壮行会が終わっても帰り難くて広いロビーの柱にもたれて悠介と話してた。
そこへエレベーターが到着して、中からパーティー帰りと思しき男女が降りてきた。
男は見たことないほどの美男子。
サラサラとしたストレートの髪で、目は茶色だった。
背も高く、ブラックタイのタキシードがよく似合ってた。
俺はついつい男の方に見惚れた。
そしたら悠介が呟いた。
「つくし…」って。
ハッとして女の方を見た。
そこにいたのは、俺たちが見たことのない美しいつくしだった。

絶句した。
唖然とした。
いつもの地味で色気のないつくしじゃなくて、パーティードレスに華奢な身を包み、普段出さない白くて折れそうな細い腕を出して、初めて見るスカート姿からは綺麗な脚がスラッと伸びてた。
そしていつもは一つに結んでるだけの黒髪を結い上げ、滑らかな肌を彩る化粧は彼女の特徴である瞳をさらに印象付けてた。
とにかく、その美男子ととてもお似合いだった。

通り過ぎるつくしに声をかけていいのか迷ってると、悠介が声をかけた。


「つくし!」


つくしと美男子が振り向く。


「悠介…順も…どうしたの?」


悠介はつくしに歩き寄った。
俺も慌てて追いかけた。


「つくし、お前こそ何でこんなとこにいるんだ!?」


悠介は怒ってた。
好きな女が知らない男といて、しかもすげー綺麗になってるからだと思った。


「あ、えーと、」

「牧野、この人たちは?」


美男子がまるでビー玉みたいに透明感のある瞳で俺たちを見た。
間近で見るとすごい迫力だった。


「あ、大学の、あー…彼氏と友達。鳥飼くんと高山くん。」

「ああ、話してたね。」


俺はヤバイ! と思った。
つくしは俺に気を遣って「彼氏」って紹介してくれたが、この美男子こそつくしの本命なんじゃねーかって。


「あ、二人とも紹介するね。こちら花沢さん。あたしの高校時代の先輩。」

「初めまして。」


花沢さんはクッと笑んだ。
その美男子ぶりに俺はまたポーッとなっちまった。


「つくし、今日は何してたんだ?」


だが、悠介はつくしから目を離すことなく、怒りも収まってなかった。
何故かつくしに攻撃的になってる。


「今日は、」

「僕がパーティーのパートナーをお願いしたんだ。ね、牧野。」


花沢さんがつくしの顔を覗き込んだ。
そしたらつくしが顔を赤くした。
俺はますますマズイと思った。
早くつくしを逃がしてやらなきゃって。


「俺たちは野球部の壮行会だったんだ。じゃ、もう帰るから、つくし、またな!」


俺は悠介の腕を引いて歩き出した。
この時、俺はつくしに俺のニセ彼女を演じてもらってることなんて頭からすっぽり抜けてた。
とにかく、この場を離れなきゃってことだけだった。

ホテルを出て駅に歩き出した。
悠介が腕を振り払って立ち止まった。


「どうした?」

「お前、どうしたじゃないだろ! 自分の女が他の男といるのになんで怒んねぇんだよ!! なんであの男と残してきたんだよ!!」


今度はこっちのヤバさに気づいた。
そっか、本物の彼氏ならああいう時は怒るよな。


「そ、そんなのみっともねーじゃん。ああいう場面では余裕こいてスマートに立ち去るのがオトナのオトコだろ。」


俺は悠介の目を見られずに、やや視線を落とすしかなかった。
その俺の耳に、悠介の低い声が届いた。


「…お前、本当につくしが好きか?」


ギクッ


「なーに言ってんだよ! 好きに決まってるだろ!」


友達として、だけどな。

なんとか取り繕って帰りたかった。
でも悠介はそれでもまだ立ち止まったままだった。


「・・・順、つくしのこと、どこまで知ってる?」

「どこまで?」


それはあれか?
恋のABCのことか?
えーと、キスはしたことあるけど、



**



「おいっ!!」

「え?」

「キスのくだり出てきてねぇーぞ! いつしたんだ!!」


ヤベェ・・・つかっさん、怒りモードだ。


「あ、えーと、試してみるかって。」

「ああ?」

「本当に女がダメか試そうってことになって。」

「つくしで、か?」


ひぇぇ〜〜〜
目が据わってる〜


「は、はい。」

「その話を先にしろ。」

「あー、えー、」



**



あれは付き合って2ヶ月経った夏休み、世間は盆休みってやつだった。
悠介は親の地元に墓参りに帰ってて、久しぶりにつくしと二人で飲んでた。
バーなんだけどクラブっぽくもあって、流行の音楽がなかなかの大音量で流れて後ろでは踊ってるヤツもいる。
そんなに畏まった雰囲気じゃないとこで、カウンターに並んで座ってた。

つくしは結構、酒に強い。
なのにこの日はすぐに酔っ払って、珍しくニヘラニヘラしてた。
そしたら唐突に、本当に唐突に俺の耳元で言った。


「順て恋愛対象が男?」


一瞬で酔いが覚めた。
咄嗟に取り繕う言葉も出なかった。
だって、つくしがそのことに気づいてるなんて思わなかったから。
返事が出来ずに俺が黙ってるとまたつくしが言い出した。


「わかるよ。悠介のことが好きなんでしょ?」



**



「つくしが?」

「はい。」

「あの鈍感が服着て歩いてるみたいなあいつが?」

「はい。」

「ふーん。」



**



いつの間にバレてたんだと焦った。
ニセ彼女はやめるとか、もう会わないとか言われるのかと構えた。


「応援してるから。あたしにできることあったら協力するよ。」


そう言ってつくしはあの大きな瞳を細めて、優しく微笑んだ。

俺は、長年の抑圧状態と夏の暑さと酒の不味さとつくしの眩しさで、意識が朦朧としてた。
もう何が何だか、世界はどうなってんのか、混乱状態だった。


「だったら、俺が本当に女がダメなのか、試させてくれよ。」

「は?」

「キスしていいか?」

「はぁ〜?? 何言ってんの!?」

「協力するって今言ったじゃねーか。」

「試すことになんの意味があるの? 女とキスできたとして、それであんたは女を好きになれんの?」

「芽生えるかもしれねーじゃん。」

「逃げたいんでしょ。」

「ああん?」

「苦しくて苦しくて、逃げ出したいんでしょ。自分じゃない自分になれれば楽になれるんじゃないかと思ってるんでしょ!? 甘えんじゃないわよ! そんな簡単に逃げられたら誰も苦労しないっての!」


カッとした。
この、いつも澄ました女をどうにかやり込めたかった。
俺はつくしの後頭部を引き寄せて、強引にキスをした。



**



・・・・夜風じゃない冷気が隣から漂ってくる。
いやいや、あなたが聞きたがったんでしょ・・・・
うおっ、目が光ってるし! 野獣がいる!



**



暴れるつくしを押さえて、さらに深くしていった。
でも増すのは生理的な嫌悪感ばかりで、最後は俺の方がたまらずに突き飛ばすように離れた。


「「ッハァ、ハァ、ハァ、」」


つくしは怒りでギラギラと燃え上がる瞳で俺を睨んだ。


「下手! この、素人!! その程度で女にキスしようなんて100年早いのよ!! 好きな奴と練習してから出直せ!!!」


そう言ってつくしは店を飛び出していった。



**



「後からわかったけど、あの時、あなたのスキャンダルが日本を騒がせてた。つくしはヤケ酒だったんだ。」

「・・・・・」

「あの日、あなたが初めてうちに来た日、つくしがあなたのキスはプロのキスだって言った。俺の時とは違う、女の顔をしてた。あのつくしのあんな顔見たことなくて、つくしの本物の相手はやっぱりあなたなんだと思った。」

「あいつにあの顔をさせられるのは俺だけだ。」

「ですよね。今ならわかります。」

「…話、戻していいぞ。」



**



悠介につくしのことをどこまで知ってるんだと問い詰められた。


「あー、キスはしたけどな。」


試してダメだったけど。


「そういうことじゃねぇーよ! お前は、つくしの歴史をどれだけ知ってんだって言ってんだ!」

「歴史?」


つくしの歴史??
・・・なんも知らねぇーな。


「その顔は何にも知らないだろ。」

「そう言うお前はなんか知ってんのか?」

「……お前、F4って知ってるか?」

「えふふぉー? なんだ、そりゃ。」

「フッ、お前は中学高校と野球小僧だったからな、知らないか。英徳学園高等部、いや、英徳学園のリーダー集団だ。4人の男子で構成されてて花の4人組で“ F4 ” 。容姿端麗、文武両道、4人とも日本を代表する名士の息子たちだ。」

「なんだそりゃ、そんな男どもがいるのかよ。少女漫画の王子様じゃあるまいし。」

「さっきの花沢さん、あの人もF4の一人だ。あんなのがあと3人いるんだ。」

「マジかよ……でも、そんな派手な集団のメンバーとつくし?……高校の先輩って……つくしも英徳か?」

「ああ、そうだ。あの金持ち学校出身だ。」

「じゃあ、あいつも金持のお嬢なんか? だとしたら何のためにバイトしてんだ?」

「お前…! 彼氏だろ! 本人に聞けよ!」

「悠介、お前はなんでそんなに詳しいんだ?」

「……学部に英徳の奴がいるんだよ。そいつがベラベラと喋って教えてくれた………」

「お前、それでつくしのこと知ってたのか。」

「俺のことはいいんだよ。とにかく、お前は自分の女のことを知らなさすぎだ。もっと話せよ。」


それだけ言うと、悠介は駅に向かって歩き出した。
悠介が何にそんなに怒ってんのか、わからなかった。









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2019.04.15
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