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俺はベランダに立ったまま、つかっさんに俺たちとつくしの歴史を語り始めた。



**



あれは大学2年の初夏だった。
俺は同じ野球部の仲間だった悠介に恋をしてた。
でも、まさか自分がゲイだと打ち明けることもできず、ただの男友達、仲間として過ごしてた。
当時の悠介には彼女がいた。
だから俺は悠介は完全にストレートだと思ってた。


ある日の練習終わりのことだった。
部室で男だけになれば女の話で盛り上がる。
何学部の何とかっていう女が可愛いとか、あの店の店員はソソるとか、バカっ話だ。
その時、悠介が呟いた。
「牧野つくしっていいよな」って。



**



「悠介がつくしを?」

「ええ。本当にボソッと呟いたんです。」



**



それが真に迫ってた。
悠介は牧野って女に本気になってんだと思った。
その時、メラメラと嫉妬の炎が上がった。
じゃあ、俺がその牧野って女をモノにしてやろうと思った。

本意じゃないが、俺は女にモテる。
きっとその牧野も俺が本気になって落としにかかれば落ちると思ってた。
そしたら悠介も俺に一目置くだろって。
それから俺は牧野を探した。
俺がいたのは運動部で活躍する奴が多く在籍する人間総合学部。
悠介は法学部。
対して牧野が在籍してたのは大学の中でも花形の、経済界に多くの著名人を輩出してる経済学部だった。

俺は場違いなその学部内をウロついて、牧野つくしを探した。
悠介が惚れるんだから、きっと華やかな美人だろうと思った。
何人にも牧野を知らないかと尋ねたが、知ってる奴は誰もいない。
本当にここにいるのかよ、って思って最後にカフェスペースに入った。
午後3時。営業は終わってて、談笑してる学生がチラホラ。
その中で一人でポツンと座ってる女がいた。
地味な身なりで、女子大生らしい華やかさなんて微塵もない。
参考書とにらめっこしながらノートに覆いかぶさるように勉強してた。
そいつに牧野のことを聞こうと思って近寄った。
「おい」って、声をかけたら、その女は顔を上げて俺を見た。
その瞬間、俺はそいつの瞳に吸い寄せられた。
女として惹かれたわけじゃない。
ただ、その女の瞳が強かったんだ。
夜の海の底のような闇をたたえながら、同時に、燃えるような光も宿ってた。
強い、強い、瞳だった。


「牧野つくし知らない?」

「あたしだけど。」

「そっか。」

「なんか用?」

「座っていいか?」

「ご勝手に。」


牧野はまた勉強に戻った。
俺はそれから2時間、牧野の勉強が終わるまでじっと座ってた。


「帰るけど、なんの用だったの?」

「俺のニセ彼女になってくんない?」


俺は騙して落としてやろうと思ってた女に、気づけば正直に話してた。
こいつを落とすなんて無理だと悟ったんだと思う。


「なんでニセ?」

「女、無理だから。」

「なんで彼女?」

「必要だから。」

「なんであたし?」

「お前じゃないと意味ないから。」

「女は好きじゃない?」

「ああ、好きじゃないな。」

「わかった。それならいいよ。」


これが俺とつくしの運命の出会いだった。



**



「それからどうした?」

「気になります?」

「ニセでも許せねぇな。」

「すみません。」

「続けろ。」



**



それから俺たちは毎日会った。
牧野は勉強とバイトの日々。
俺は練習の日々。
間隙を縫って俺が牧野に会いに行ってた。
ただの地味な女かと思ってたら、牧野は面白い女だった。
俺をイジってくることも、俺に媚びてくることもない。
俺なんて完全に眼中にないって様子で一生懸命に生きてる。
いつしか、俺は牧野の前で自然体でいられることに気づいた。
女の前で構えなくていいのは初めてだった。

俺が甲斐甲斐しく女のもとに通ってるって話はすぐに仲間内に広まった。
周りは勝手に、俺に彼女ができたんだと思い込んだ。
ある日、悠介が話しかけてきてくれた。
俺に彼女ができたって知って、紹介しろと言ってきた。
紹介することを名目にして、俺は初めて悠介とサシで会った。

昼間は牧野がバイトだと言って、夜に合流することになった。
その日のことは牧野と打ち合わせてた。
お前に会いたいって奴がいるから、遅れて来いよって。
待ち合わせの時間まで悠介と二人で過ごした。
楽しかった。
こんなに楽しかった時間は初めてだった。

待ち合わせ場所は飲み屋だった。
先に入って悠介と飲んでた。
知れば知るほど好きになる。
でも好きになればなるほど、遠くなるような気がした。
悠介にとっては俺はどこまでもダチだったから。

そこに牧野が来た。
彼氏と会う設定なのに、いつもの地味な様子で化粧っ気もなくて、少しは気を遣えよ、お前女だろって舌打ちしたくらいだった。


「よっ!」


牧野は軽快に声をかけてきた。


「よっ! 悪かったな。こっち座れよ。」


一応、俺は彼氏だ。
ストレートのフリしなきゃならない。
上手くできてるか? と思いながら、自分の隣を指して手招きした。
悠介は現れた俺の彼女が牧野だって知って驚いてた。


「お前の彼女って牧野つくしかよ。」

「ああ。どうした? お前も狙ってたか?」

「いや・・・」


悠介は俺から顔を背けた。
その時、チクリと罪悪感が胸を刺した。

牧野は俺の隣に座って、向かい側に座る悠介に頭を下げて挨拶した。


「はじめまして。牧野つくしです。」


その時の悠介を俺は忘れないと思う。
悠介も顔を上げた牧野の瞳に見入ってた。
でもそれはポーッとした男が女に浮かれるような目じゃなく、痛ましいものを見る目だった。


「初めてじゃないよ。会ったことあるよ。」


気を取り直した悠介が牧野に話しかけた。


「え? いつ?」

「去年の学祭。法学部のブースに来た時。」

「あ、そうなんだ。」

「牧野はいつも勉強一筋らしいな。まさか彼氏いるとは思わなかったよ。」

「ああ、まあね。秘密主義だから。」

「で、順のどこがいいわけ?」


悠介の唐突な質問には俺の方がビビった。
そんなこと、打ち合わせてなかったから。
でも牧野はスラスラと答えた。


「苦しんでる姿を見せないとこ。」

「苦しんでる? 順が? プッ」

「おい、牧野!」

「情熱を秘めてるとこ。」

「見せなかったり、秘めたり、順は彼女に隠し事ばっかかよ!」

「牧野、何言ってんだ!」

「人を、心から愛せるところ。」

「牧野!」


牧野はずっと悠介の目を見てた。
悠介も牧野から目を逸らさなかった。



この夜から、悠介は俺に頻繁に牧野に会わせろと言ってくるようになった。
終いには牧野に直接、会いにくるようになった。
俺は嫉妬した。
悠介はそんなに牧野がいいのか、と。
あんな、地味で女らしさも色気もない、ただ強烈な瞳だけを纏ったような女のどこがいいんだって。
でも、俺は結局、そんな牧野を利用するしかなくて、牧野と一緒にいれば悠介とも一緒にいられる。
結果、俺たちはいつも3人でつるむようになった。









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2019.04.14
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