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牧野はまだ起きていた。
俺は優に40分はバスルームに入ってた。
すっかりのぼせた。


「随分、長かったね。のぼせなかった?」

「のぼせた。あちぃ」


牧野は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを俺に手渡し、リビングのシェルフから団扇を出してきて立ったままソファに座る俺を扇ぎ出した。


「お風呂入ったばっかりなのに、もう汗かいてるよ。」


牧野が俺の首にかかったタオルで俺の額を押さえた。
その顔に翳は見えない。
俺は意を決した。


「で、話ってなんだ?」


何を言われてもお前から離れない。


「ああ、うん。」


牧野は一人分のスペースを空けて俺の右側に座った。
団扇を持った手は動かしたままだ。
表情は硬い。
俺も思わず強張る。


「あー、あのさ、まあ、こうなることは予想してたっていうか、あたしも成り行き任せって感じで受け入れてたんだけど、でも、それが現実になるとその、なんていうか、戸惑うっていうか、」


歯切れが悪い。
視線は団扇を持つ自分の手元に注がれている。

お前は優しいからな。
別れ話もなかなかすんなり口から出てこないか。


「別れたいのか?」

「へ?」


牧野が顔を上げた。


「やっぱり受け入れられないって言うんだろ? 俺に出て行けって?」

「いや、ちょっ」


俺は腰を上げ、牧野の前に立って見下ろした。
牧野が俺の影に入る。
そのまま牧野を挟んで背もたれに手をついて、被さって鼻先を近づけた。


「でもな、なんと言われようが、何が起ころうが、俺はもう絶対にお前を離さないし、離れない。お前がどんなに足掻いても、もがいても絶対に、だ。俺に対して言いたいことがあれば何でも聞く。17年分の怒りを受け止める。だが、それでも俺は別れない。」


牧野の目をしっかりと見ながら、俺の想いが1ミリでも伝わってくれと願う。

牧野は瞬きも忘れて俺を見てた。
と思ったら、首を伸ばして俺に軽く触れるキスをした。


「クスッ、相変わらず、思い込み激しいよね。」


今度は俺が瞬きを忘れる番だった。


「愛してる。」

「…え?」

「道明寺を愛してる。帰ってきてくれてありがとう。あたしに赤ちゃんを授けてくれてありがとう。」

「赤ちゃん…?」

「ん。妊娠したよ。」

「妊娠…?」

「狙ってたんでしょ? 避妊したことなかったし、あたしもしてないし。」


牧野の瞳に映る俺は、その瞳に溢れる、母親だけが持つ優しい光に包まれていた。


「子供が…? 俺たちの?」

「そうだよ。」

「産まれるのか?」

「そうだよ。」

「俺は父親か…?」

「プッ、そうだよ! あはは」


俺は笑いたいような泣きたいような、どうしたらいいのかわからない感情に襲われた。
その感情のまま、牧野を抱きしめた。
強く、強く、いっそこのままひとつに混ざり合えと願うほど強く。
想いが溢れる。


「…愛してる…愛してる、愛してる、愛してる! 結婚しよう。」

「ん。」

「今すぐ。」

「ん? 今すぐ?」

「役所行くぞ。あいつらが証人だ。起こしてくる。」

「えっ!! いやいや、今何時だと、ちょっと、こらっ!」


時刻は深夜の1時半だ。


「時間が何だ。人生、何が起こるかわからないのはお前も経験済みだろ。今すぐに、俺はお前と結婚する。」


俺はリビングを出て、悠介と順の部屋のドアを強く叩いた。


「わかったからっ、服を着ろ!」



*******



道明寺が順と悠介を起こして、何事かと起きてきた二人にあたしが事情を説明して、二人が飛び上がって喜んでくれて、なぜか道明寺と盛り上がって今すぐ婚姻届を出すことになって、子供達を残していけないから清佳と壮介も起こして、道明寺が呼んだリムジンに6人で乗り込んで、世田谷区役所ナウ。

さっきから夜間窓口に向かって道明寺が叫んでる。
清佳と壮介はリムジンで運転手さんに見守られて夢の中だ。


「おいっ、早くしろ! 婚姻届だ!」


程なくして手渡された婚姻届に、その場でまずは道明寺が記入、捺印を済ませる。
道明寺がそれを悠介に手渡し、悠介が記入し終わったら順に。
そして順から戻された婚姻届を、道明寺はあたしに差し出した。


「間違うなよ。」

「縁起でもない。」


あたしも迷いなく記入していく。
ここまできて足掻くなんてことしない。
後悔は一生分した。
好機は一度しか訪れないってこともよくわかってる。

あたしが記入する一文字一文字を男たち3人が見守ってる。
そしてあたしは最後に捺印をした。


「よしっ!」


道明寺がまた叫ぶ。


「おいっ! 提出するぞ。大事な書類だ。両手で扱えよ!」


相手は役所の人だよ?
わかってるでしょ、そんなことぐらい。

夜間に来るのはこんな寝ぼけたのが多いのか、担当者はピクリとも反応を示さず、事務的に告げた。


「奥様になられる方の戸籍謄本はありますか?」


ん?
コセキトウホン?
このメンバーで婚姻届を提出した事がある人間はいない。
道明寺が結婚したのはNYでだ。


「あの、戸籍謄本が必要なんでしょうか?」


あたしは???を浮かべ顔を見合わせる男ども3人を従えて聞いてみた。


「旦那さんは本籍地も世田谷だからいいんですが、奥さんは国立市でしょ? 国立で本籍地が記載された戸籍謄本をもらってきて、婚姻届と一緒に後日、提出をお願いします。」


そう言って婚姻届を突き返された。

えーと、後ろからドス黒いオーラが漂ってきてんだけど・・・

あたしはできるだけ明るく振り向いた。


「だって! 明日、いや、今日もらってくるから、ね?」


34歳の限界まで可愛く首をかしげてみたけど通じるかな?

…残念ながら通じなかったみたいで、道明寺はスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。


「ああ、お休みのところ申し訳ありません。道明寺です。ええ。今、世田谷区役所に婚姻届を提出しに来てまして。ええ、ああ、ありがとうございます。ええ、それで妻の本籍地が国立なんですけど、急なことで戸籍謄本が手元にありませんで。ええ、そうなんです。それでこれは私からの ” お願い ” なんですが、妻の本籍はそちらで調べてもらって、今夜、今すぐに受理していただけないでしょうか。・・・フッ、いえいえ、あくまでも ” お願い ” ですから、無理なら・・・・・ああ、 そうですか。それはありがたいですね。ええ、わかりました。・・・はは、もちろんです。その時はおっしゃってください。はい、では、失礼します。」


17年前の捕物劇が思い起こされる。
あの時は警視総監だった。
今度は・・・・誰!?


「あの、今の電話は?」


まだ道明寺って人間に免疫のない順が尋ねた。
あーあ、聞かない方がいいのに。


「ああ、法務大臣だ。」

「「「 ほっ! 法務大臣!?」」」


あたしも順も悠介も目が飛び出るほど驚いた顔になった。
そしたら次の瞬間、窓口の奥で電話が鳴った。
さっきの当直のおじさんが受話器を取った。

突然、直立になったかと思ったら、次にはペコペコし始めた。
そしたら受話器を手で隠してなんかコソコソ話してる。
そしてまたペコペコと頭を下げてる。

会話が手に取るようだった。
法務大臣からの電話なんでしょ?
口止めに何を頼んだのよ、おじさん。

受話器を置いて振り向いたおじさんは夜中とは思えない笑顔だった。
ハァァ・・・

おじさんはまた窓口に歩み寄った。
道明寺がもう一度、婚姻届を差し出した。


「先ほどは失礼しました。不備? そんなものありませんよ! はい、受理させていただきます。ご結婚、おめでとうございます!!」


おじさんが窓口で頭を下げた。
こんなのでいいんだろうか?
しかし隣の男は見たことのない満面の笑みであたしを抱きしめた。
その笑顔は、18歳のバースデーをフケて船に逃げ込んだとき以上だった。


「つくしっ! 今日から俺もおまえをつくしと呼ぶぞ!」


紆余曲折を経てあたしたちは夫婦になった。
出会ってから18年。
再会してから4ヶ月だ。


「つくし、おめでとう。」

「おめでとう。」


順と悠介はなぜか泣いてるし。


「ちょっと、どうしたのよ。」

「おまえが幸せになってくれて嬉しいんだよ。これで俺たち、やっと肩の荷が下りた。」

「俺たちばかりが幸せで申し訳ないと思うこともあった。それも、お前がくれた幸せだ。だからこうして役に立てて俺たちは感無量だ。」

「やだ、もう、泣かないでよ。」


あたしも涙が出た。
そのあたしの肩を優しく抱いてくれるのはあたしの夫だ。


「悠介、順、今までつくしを守ってくれてありがとう。これからは子供もつくしも俺が守る。家族が増えるがこれからもよろしく!」

「グスッ、つかっさぁん! 俺たちもよろしくお願いします!」

「…おい、その「おやっさん」みたいのやめろよ…」


みんなで吹き出して、大笑いになった。









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2019.04.11
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| 2019.04.11(Thu) 19:55:53 | | EDIT

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| 2019.04.11(Thu) 23:56:19 | | EDIT

Re: タイトルなし

とぉ 様

コメント、ありがとうございます!
司をセクシーだと評価してくださってとっても嬉しいです!
今回は特に大人な雰囲気の2人ですが、楽しんでいただけてよかったです。
もう少し続きます。よろしくおねがいします^^

nona | 2019.04.12(Fri) 10:05:06 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

チビネコママ 様

コメント、ありがとうございます!
帰宅してすぐに「話がある」はビビるみたいです。
昔、『踊るさんま御殿』でさんまさんも言ってました(笑)
とんでもない経験を経たからこその行動力ですね!
あとすこし続きますので、よろしくおねがいします^^

nona | 2019.04.12(Fri) 10:08:21 | URL | EDIT