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【再結晶】
合成または抽出などによって得られた粗結晶(純度の低い結晶)をより良質で不純物の少ない結晶へと成長させるための操作








さっきからあたしは、たっぷり10分はこうしてると思う。
ここは我が家のトイレの中。
手には妊娠検査薬。
何度も説明書と照らし合わせてるけど、結果は変わらない。

妊娠してる。

いや、待て。
妊娠反応が出てると表現するのが正しい。

道明寺と暮らし始めて4ヶ月。
心当たりは大アリなんだから、今更、動揺するのは筋違いなんだけど・・・

とりあえず、病院行こう。



********



はぁぁ〜、わかってたけど、2ヶ月だって。
道明寺にいつ言おう。

今夜、帰ってきたらサラッと?
それとも、二人でどこかへでかけて改まって?

心配なのは子供達。
特に清佳(さやか)は5年生の11歳。
思春期の入り口で、最近ちょっと難しくなってきた。
この家庭環境だけでも特殊なのに、ママが同じ屋根の下で恋人と同棲してて妊娠・・・

決めた。
最初に清佳に話そう。





コンコン
カチャ…


「清佳? ちょっといい?」


自室で宿題をしてる清佳が振り向いた。


「ママ、なに? どしたの?」


清佳は順に似てる。
女の子は父親に似ると幸せになるって言うけど、順の涼やかな目元を受け継いで、キリッとした美人さんだ。
だけど性格は悠介に似てる。
穏やかで気配りのできる優しい女の子。


「うん、あのさ、勉強中にごめんね。」

「いいよ。お手伝い?」

「あ、ううん、そうじゃなくて清佳と話したいことがあって。」

「うん、なに?」

「こっちに来て。」


あたしたちは清佳のベッドに並んで腰掛けた。


「大事な話なの。いい?」

「うん。」

「あのね、あの、、」


ど、どこから話せばいいんだっけ?


「ママね、赤ちゃんができたの。」

「えっ!」


清佳が目を見開いてる。
無理もないよね。


「え、でもママ結婚してないよね?」


あー、はい。
してません。


「結婚しなくても赤ちゃんてできるの?」


娘に順序を諭される母親。面目ない。


「うん、それでね、赤ちゃんができてもママはこれからもずっと清佳のママだから、その、応援してくれるかな?」


言ってて無茶苦茶だって気がしてきた。


「結婚するの? 道明寺さんと?」

「んー、どうかなぁ。まだ言ってないけど、そうなるかも。」

「じゃ、この家は出ていくの?」


清佳の顔が曇って、手入れしなくても整ってる眉が下がった。


「行かない! 行かない! 悲しくさせちゃったね。ごめんね。」


清佳を抱き寄せた。
まだ11歳の子供なのに、ひどいママだね。ごめんね。


「だったら、いいよ。応援するよ。」

「ありがとう〜〜」


抱きしめる腕に力が入る。
清佳の頭にキスをする。
愛しい愛しい女の子。


「・・・妹欲しい。」

「プッ、そうだね。妹だったらいいね。」


道明寺には今夜、帰ってきたら話そ。



********



オフィスで着替えて、車に乗り込み、1時間強かかって帰宅する。
都心に住めばもっと時間短縮になるが、俺の家は牧野だ。
牧野自身が俺の帰る場所だ。
だったら、1時間だろうが、2時間だろうが関係ない。
あいつのとこに帰れるなら、そんなもんは苦でもない。


車から降りると秋風が心地いい。
マンションに入り、持たされている鍵をかざして解鍵する。

室内はいつも通りに静まり返っているが、いつもは廊下だけの明かりが今日はリビングにもついている。
まだ誰か起きてんのか。

0時は過ぎてる。
リビングに入ると、半袖のパジャマ姿でソファに座り、雑誌を読んでいたのは牧野だった。


「おかえり」


牧野は俺がドアを開ける音に気づいて振り向いた。


「おう、ただいま。起きてんの珍しいな。」

「…ああ、うん。」


………なんだ?
いま一瞬、緊張が走ったか?


「お風呂、沸かしといたから入っておいでよ。」


俺の中の警報音が鳴る。


「なんかあったのか?」

「え?…うん、話があるから、とりあえずお風呂入ってきなよ。」


ドクンッ


“ 話があるの ”


雨の日にその言葉から始まった話は、俺を絶望のどん底に突き落とした。
でもその後、同じく“ 話がある ” と屋上に呼び出された時は付き合うことになった。

どっちだ?
天国か地獄か
今日はどっちだ。






バスに浸かって考える。

牧野を思い出したのは唐突だった。
女を連れて5番街のジュエリーブティックに入ろうとした時だ。
日本人観光客とすれ違った。
若い女の二人組で、一人は真っ直ぐな黒髪だった。
その女が隣の友人に言ったんだ。

「あんた」って。
その瞬間、体が動きを止めた。
全身が停止した。
頭の中で17年が巻き戻され、その先に牧野がいた。


“ もういい…あんたはもうあたしが好きだった道明寺じゃない。 ”


最後に会った時のその言葉の意味がやっと理解できて、急速に血の気が引くのがはっきりとわかった。

そのまま何かを喚く女を残し、俺は空港へ向かった。
日本に帰るために。
牧野の下へ還るために。
それをSPに止められて、我に返った。

我に返ったら17年の重みと隔たりが一気に襲いかかった。
17年…17年…17年…
なんて長い年月だ。
人生は短いのに、その中の17年間も牧野のそばを離れて生きてた。

手に入れてたのに。
俺のものだったのに。

悔しいなんてもんじゃなかった。
記憶を無くした時より荒れた。
俺を刺した奴もその原因を作ったあのクソ親二人も殺してやりたかった。
でも殺せば牧野に会えない。
俺は俺から17年間も人生を奪っていた二人に宣言した。
俺は永久に日本に帰る、二度とNYには戻らない、と。
そしたらあの女が言ったんだ。


「17年前、牧野さんと1年の猶予を約束しましたが、まだ履行されていません。ですから1年はあなたの自由にしなさい。」


この期に及んで上から物を言う女に心底、嫌悪を覚えたが、俺は何も言わずにオフィスを出て、秘書に1ヶ月後の日本支社長就任を伝え、身辺整理に入った。

牧野が切った男は3人だったが、俺はその比じゃない。
常時キープしてた女は両手じゃ足りなかった。
自分が何を考えてこれだけの女と関係を持ってたのか、今となってはもう理解不能だ。

やっと日本に帰ってきて、翌日には牧野に会うために駅で張ってた。
牧野のことは必要最低限だけを調べた。
生死と利用する駅と時間。
ただそれだけ。
あいつの今の状況は書類じゃなく、この目で見たかったから。

許してもらえるとは思ってなかった。
受け入れてもらえるとも思ってなかった。
何年もかかると覚悟してたし、それでも同じ街で生きていけるならいいと思ってた。

なのに、再会した牧野は拍子抜けするほど穏やかで、17年前と変わらない顔で幸せそうに笑ってた。
結局、あいつのお人好しにつけ込んで再会初日にあいつを手に入れ、そのまま居着いたんだ。
あいつの本心を見ないようにしてた。
顔は笑ってても、心の中はわからない。

だって17年だぞ。
俺が苦しんだのはたった1ヶ月。
その数百倍の時間をあいつは過ごしてたんだ。


今夜なのだろうか。
もう限界なのだろうか。
やっぱり出て行けと言われるのだろうか。


刑執行のその時を少しでも遅らせようと足掻いたが、いつまでもバスルームに篭ってるわけにもいかない。
俺は長い風呂を終え、引かない汗に上半身は裸のままリビングに戻った。










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2019.04.10
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