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牧野の部屋で暮らし始めて1カ月。

再会したあの日から、俺は一度も邸には帰っていない。
ずっと牧野の部屋で暮らしてる。
牧野の部屋で寝起きして、牧野の部屋から仕事に通ってる。
高山も鳥飼も歓迎してくれたし、子供達も「ママの恋人」として普通に受け入れてくれた。


日本支社長に就任した俺の帰宅は毎日、日付を跨いでいる。
時たま悠介や順が起きてることもあるが、基本的に牧野は寝てる。

リビングに入らずそのまま牧野の部屋へ入る。
ベッドサイドの灯りだけが点いていて、部屋にオレンジ色の影ができている。

着替えを持ってバスルームへ。
こんな生活もここに来てからだ。
バスから上がってすぐに服を着ることにまだ慣れない。
特に夏の今は引かない汗に衣類が纏わり付く。
誰も起きてないのに着る必要ないだろ、と上半身はフリーでバスルームを出た。

牧野と暮らす前は、ここで酒の一杯って気分だったが、今は違う。
お楽しみはこれからだ。
牧野は寝てる。
なのにお楽しみ?
最近の俺の趣味は寝てる牧野の肌を触りながら眠ること。

ん?
変態って言ったか?
いや、大丈夫だ。
俺は変態ではない。

髪を拭き、ベッドに入り、ライトを消す。
これで牧野の眠りはさらに深くなる。
起こさないように抱き込み、パジャマのシャツをまくり、絹のような肌を撫でる。
最初はこれだけで我慢して眠ってたんだ。
でも寝てる牧野は文句を言わず、逃げもしないから少しずつ撫でる範囲が広くなり、手が胸に到達するのにそう時間はかからなかった。
胸は撫でるものじゃなく、揉むものだ。
柔らかいそれを手の中で弄んでいると、ある変化が起きた。
いや、それは俺の体にじゃない。
牧野にだ。


「ん…はぁ…ん…」


体を捩って艶かしい声を発する。
でもまだ眠っている。
その声をもっと聞きたい。
俺のララバイだ。
だから手は止めない。

すると牧野はもっと変化する。
こちらに寝返りを打ち、俺の胸に擦り寄り、首に腕を回し、脚を絡めてくる。
でもまだ寝ている。
・・・しかし、これはもう誘ってるよな? だよな?

記憶を戻した時、これからは牧野の願いは何だろうが絶対に叶えてやると心に誓った。
そうかそうか、俺は疲れているがお前の頼みなら仕方ないな。
お前の記憶を失って、17年も放置した罪滅ぼしだ。
お前が求めるものは何でも与えてやる。
たとえそれが俺自身でも。


「ん、あ…はぁん…あん… !!! ど、道明寺!? 何してんのよ!」

「何って、お前が俺にねだったんだよ。俺を。」

「絶っ対、違うっ!! あっ! ああん!」


こうして牧野に請われた夜は罪滅ぼしをしている。
牧野が許してくれるまで、俺の贖罪は続く。



********



「ほんっとに、バカでしょ?」

「お前が覚えてないだけだ。俺に自分から身体を押し付けてくるのはお前だ。」

「絶対に、そんなことない!」


キッチンでコーヒーをサーブする。
ここに住むようになって、自分のことは自分ですることを覚えた。
ダイニングに座って朝食代わりのコーヒーを飲む。

朝の7時半には子供達は登校する。
牧野が出るのは8時半。
俺も牧野に合わせて出勤する。
その1時間がこいつとゆっくり顔を合わせる貴重な時間だ。


「なあ、つくし!」


順がキッチンに入ってきた。


「今月の『パパ達の日』は今週末でもいいか?」

「え! 急だね?」

「ああ、夏はスカウトの忙しい時期だからさ、予定してた再来週は近畿地方の府県に優勝候補の高校を視察に行くんだよ。今週末なら悠介と予定合うから。」

「わかった、いいよ。土日でいい?」

「ああ、いつもごめん。」

「だーかーらぁ、謝るなって! 父子水入らずでしょ?」

「サンキュ。で、えーと、つかっさんはどうする?」


当初、俺のことを「道明寺さん」と呼んでいたが、一緒に暮らすならもう家族だ、と、もっと砕けた呼び方を検討した結果「司さん」になり、順が呼びにくい、と言い出し今では「つかっさん」だ。
「おやっさん」みたいで俺は気に入らない。


「ああ、あとで話しとく。そもそもあの人、家あるから。」

「すまん、頼むわ。じゃ、行ってくる。」

「ん、いってらっしゃい!」


さっきからこいつらの会話についていけない。
『パパ達の日』?


「何の話だったんだ?」


ダイニングから声をかけた俺のところに、牧野はキッチンから自分の朝食を持ってきて座った。


「ああ、んーとね、悠介と順と子供達だけで過ごす日を月に一泊二日で設けてるの。それが『パパ達の日』。ここ最近、忙しくて日程が合わなかったんだけど、それを今週末にって話。その間、あたしは実家に帰るから、あんたも邸に帰って。完全に父子水入らずにしてあげなきゃいけないから。」


概要はわかった。


「お前が実家で俺が邸なら一緒にメープルでも問題ないな。部屋取っとくから。」

「はぁ? やだよ。いつも実家でゆっくりしてんだから、邪魔しないでよ。」

「邪魔なんてしてない。今回は初めて俺がいるんだから、俺とゆっくりすればいいだろ? まだ2人だけで過ごしたことないぞ。」

「ええっと、そうだね、うん、そうなんだけどね、あの、母がね、最近、腰が痛いって言っててさ。家の中のこととか溜まっちゃって私を待ってるんだよね〜。今週末は進も帰ってくるし、久しぶりに牧野家勢揃い! なんつってさ、父も歳だしね〜、あたしが行ってあげて話し相手にでもなってあげないとね!」

「・・・・・・」


こいつが動揺するとよく喋るってことに最初に気づいたのは類だったか。
そしてやましいことがあると目が泳ぐってことに最初に気づいたのは俺だ。

目の前のこいつは、目が泳いでよく喋ってる。
つまり、やましいことが露見しそうで動揺してるってことだ。
ふーん、へー、ほぉ、俺に隠れてやましいことしようとしてんのか。


「そうか、わかった。そりゃお前が帰ってやんなきゃいけないな。ま、俺も急に言われても土曜は休めねぇし。」

「そうだよねぇ。来月の予定は早めに決めてもらうようにするから。ね?」

「ああ、じゃ、来月は2人で出かけようぜ。」

「うん、楽しみにしてる!」


牧野、俺はお前を宇宙一愛してる男、道明寺司だぞ。
牧野つくしの企みが見抜けねぇほど、俺の愛は浅くねぇ。
男と会うつもりだろ。
二股か?
上等じゃねぇか。
どっちが本物か、俺がケリをつけてやるよ。

お前には今日からSPをつける。
土曜を楽しみにしてろよ。






コーヒーを飲み終えカップをキッチンに下げ、迎えに来た秘書と車に乗り込み出勤した。

俺は牧野の部屋に最低限の着替えしか置いていない。
仕事用のスーツはオフィスの仮眠室を改装して収納し、カジュアルで出勤したらそこで着替えている。
今時、CEOでもデニムにタートルの時代だ。ちゃんと着替えるんだから可愛いもんだろ。


「茂木、」


俺はNYから連れてきた、長く俺に仕える秘書に声をかけた。


「はい。」

「土曜の夜の予定はキャンセルだ。」

「会食が一件、入っておりますが、かしこまりました。」


現場に乗り込んでやる。



********



金曜日。
俺はいつものように日付けが変わってからの帰宅だ。
牧野の部屋に入ると、小さめのボストンバッグが目に入る。
外泊の用意だな。
実家じゃねぇだろ。
男とか?
俺じゃない男に抱かれるのか?
・・・いや、そんなことは許さない。

いつものように入浴し、いつものようにベッドに入る。
今夜は肌を撫でるなんて遠回りはしない。


「牧野、牧野起きろ。」


声をかけて起こす。
なかなか起きないことは承知だが、今夜はしっかりと意識のあるこいつを抱きたかった。
肩を揺さぶっていると牧野が半目を開けた。
と、


「道明寺〜、おかえりぃ〜」


寝返りを打ってこちらに向いた牧野は、俺の胸に身を寄せ、顔を上げて喉仏にキスをしてきた。
・・・これは完全にお前から誘ってるよな。


「どうした、甘えてんのかよ。」


もしかして酒でも飲んだとか?
こいつは結構酒に強い。
昔、滋に付き合ってワインをがぶ飲みしてた時もすぐに素面に戻って俺に告白してきたからな。
だからちょっと飲んだくらいじゃ酔わないはずだが。
ま、そんなことはいいか。
俺は牧野にキスしようと顔を覗き込んだ。


「だって明日は別々じゃん」


それって、寂しいってことか?
お前は別の男に会うんだろ?


「だからいっしょにメープルにすればいいんだよ。」

「ん……それは…こんど……さい…ごだか…ら………zzz」

「おい、寝るな!」


なんか引っかかったが、いまはお前をもう一度起こして明日のための「土産」を刻んでやるよ。









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2019.04.07
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