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キッチンでちょこまかと動き回る牧野は俺の記憶より格段に女っぷりが上がってた。
もうボンビー牧野じゃねぇからか?
男に愛されたからか?
子供を産んだからか?
とにかく、俺にとって更にどストライクな女になってることは確かだ。

トリガラだった身体は華奢なまま、女らしく丸みを帯びて、抱きしめたら柔らかそうだ。
背中まである黒髪は毛先が巻かれてて、美容院に行く金がなくて類にカットしてもらってた同じ女と思えない。
昔のままの大きな瞳は、それでも年齢を重ねて剣が取れ、牧野のくせに色気まで感じさせる。
いま34のはずだが、年より若く見えるのは肌のせいか。
白い肌には年月の痕跡が見えない。
筋の通った小ぶりな鼻、唇は厚みが増したか?
そして子供たちに向ける顔は俺の知らない優しい母親の顔で、時々、深い黒の大きな瞳が俺にも向けられて弧を描く。
それが、まるであの頃に戻ったような気分にさせて鼓動が早くなる。

そうして牧野を観察してる間に晩飯の用意ができた。


「みんな、ご飯よー」


牧野の声かけで子供たちは手を洗いに出て行った。


「ほら、あなたも」


言われて俺はジャケットを脱いで洗面へ。



「「「いただきます!」」」

「・・・いただきます・・」


4人で6人がけのダイニングテーブルを囲んだ。
一瞬、錯覚を起こす。
牧野と自分の家庭だったかもしれない、と。


ピヨピヨピヨン♪

LINEの着信音がして確認した牧野の一言に、今日、2度目に固まった。


「パパが駅を出たって。もうすぐ帰ってくるよ。」

「わー! 今日は早いね!」


パパ…
そりゃそうだよな。
俺、こんなとこにいてもいいのか?
だが、牧野の夫になった男を一目見たかった。


ガチャリ……バタン

10分くらいして廊下の先で音がした。


「だだいまぁ」


男の声。


「あっ、パパだ!」


弟がモグモグと食べながら叫んだ。
牧野が立ち上がり、玄関に向かう。
話し声が聞こえる。


「おかえりぃ〜」

「この靴…」

「ああ、道明寺さん来てんの。」

「道明寺さん!? って、あの?」

「そう、あの。」

「…え、なんで? …まさか、お前を迎えに来たのか?」

「んー、まあ、そういうことかもね。記憶戻ったらしいから。」

「マジか!!?」


俺を知ってる?
足音が近づいてくる。
開け放たれたリビングの入り口からひとりの男が入ってきた。
身長は180くらいか。
スッキリとした体型で、濃紺にストライプのスーツがよく似合ってる。
ウェーブのかかった髪はショートだ。
柔和な顔は整ってる方か。
牧野の好みか?
・・・類っぽくはねぇな。
もっと甘い顔だ。


「パパー! おかえりぃ」

「おかえりなさぁい」


姉弟が口々に父親を出迎えた。


「おー、ただいまぁ」


父親は幸福そうな笑みでまとわりつく子供たちを抱える。
このなんとも言えないアウェー感。
ここは紛れもなくこの男の城で、テリトリーで。
敵陣に乗り込んで四面楚歌な状況にさしもの俺も怯みそうになる。
俺は立ち上がった。


「どうも、あの、道明寺さんですね? はじめまして、高山悠介です。」


高山は右手を差し出した。
俺も右手を出し、握手する。


「道明寺です。」

「お噂はつくし…さんから聞き及んでいます。いろいろと大変でしたね。」

「え、ええ。」

「それにしても、お噂以上の男前だ。お会いできて光栄ですよ!」


高山は屈託無い笑顔で言い放った。


なんだこれ?
妻の昔の恋人が現れて、自分の留守中に晩飯食ってるんだぞ。
さっき俺が牧野を迎えにきたのか聞いてたよな?
そうだよ、俺はこいつを迎えにきたんだ。
お前から奪いにきたんだぞ。
なのにその落ち着きはなんだ?
その余裕ぶった態度はなんなんだよ。
子供もいる、牧野と立派な家庭を築いてるのは自分だって自負か?


「ねー、パパぁ」


弟が高山の腕にしがみついた。


「お父さんは?」


お父さん?
パパのお父さん?
おじいちゃんか?
一緒に暮らしてんのか。


「あー、今日は出張だ。遅くなるって。」

「んだよっつまんないのぉ。どーみょーじさんとカートで対決して欲しかったのにぃ。」

「道明寺さんにまた来てもらえばいいよ。道明寺さん、よかったらちょくちょく遊びにいらしてください。」

「は? あ、はぁ…」


こいつ、頭大丈夫か?
俺は牧野を連れて行くぞ?
いいのかよ・・・


「プッ! あっはははは! もうダメ! おかしいぃぃ〜」


牧野が突然、噴き出して笑い始めた。


「つくし! 失礼だぞ!」


高山がたしなめた。


「ごめん、ごめん。でも道明寺の顔が…み、見たことないくらい困惑してんだもん! ウックックックッ」

「おいっ、つくし! そりゃ困惑もするだろっ」

「道明寺、御飯、食べちゃって。悠介はお風呂でしょ?」

「オレも入る〜〜!」

「あんたも御飯、食べちゃいなさいっ!」

「ええ〜、パパ〜待っててよぉ〜。」

「ああ、わかったから、早く食え!」


弟は高山の言葉を聞いてガツガツと食べはじめた。
俺の頭にはクエスチョンマークが飛び交ったままだった。







風呂から出た高山に牧野が夕食を出し、姉弟を寝かしつける間、俺はなぜか高山の晩酌相手だ。


「道明寺さん、いま役職は?」

「来週から日本支社長です。」


そうだ。
俺はNY本社のNo.3だったが、記憶が戻って無理矢理に日本支社長をもぎ取った。


「そうですか。お忙しいんでしょうね。これまではずっとNYに?」

「ええ。」

「じゃ、今回の帰国はつくしさんを迎えに?」

「・・・・・」


さっきから感じている違和感がどこからきているのか掴めない。
この男が、どこか他人事のように感じさせるからなのか。

牧野が戻ってきた。
高山も食事を終え、俺たち3人はリビングに移った。
牧野が3人分のコーヒーを運んできた。


「壮介ったら興奮しちゃって、なかなか落ち着いて布団に入ってくれなかったわ。」

「そりゃいきなりこんなカッコいいお兄さんが現れて遊んでくれたんだ。楽しかったんだろう。」

「プッ、お兄さんなんて歳じゃないわよね? 道明寺は私たちより一つ上なのよ。」

「それが驚きだよ。」


なんで俺は夫婦の会話を聞かされてんだ?


「道明寺さん、」


高山に呼びかけられハッとして目を上げた。
先ほどの柔和さが消え、真剣な表情と出会う。


「記憶が戻ったそうですね。先ほどもお伺いしましたが、あなたは何のためにつくしさんの前に現れたんですか?」


そうか、さっきは子供達の前だったから取り繕っていたんだな。
では、俺ももう遠慮はしない。


「俺は牧野を取り戻しにきた。あんたと夫婦であろうとも牧野は返してもらう。」

「やはり、そうですか。あなたのことはつくしさんから聞いています。私たちは大学で出会ったんです。」


な? と高山が隣に座る牧野に同意を求めた。
牧野も、そうそうと頷いた。
二人の息の合った様子に、強い疎外感を覚えずにはいられない。


「何から話していいのか、」

「あの子たちは牧野が産んだ子なんだよな?」


俺は高山の言葉を遮った。
牧野と高山の恋物語なんぞ聞きたくもなかった。


「うん、そう。二人とも間違いなくあたしが産んだ子。」


だが、二人とも牧野には全く似ていなかった。
父親の遺伝子が色濃く現れたのだろう。
特に弟の壮介は高山にそっくりだ。
だからもしや高山の連れ子で、ステップファミリーなんじゃないかと勘ぐった。
でもそうか、実子か。


なんか笑えてきた。

そりゃそうだろ。何年経ったと思ってんだよ。
17年だぞ。
17だった牧野が、また17歳年取ったんだぞ。
結婚もするし、子供も産むだろ。
いつ戻るかもしれない記憶を、永遠に待っててくれるとでも思ってたのかよ。
しかもあんな仕打ちをした男を。

こんなところまでノコノコ付いてきた自分があまりにも滑稽で、情けなかった。
好きな女の幸せを、またブチ壊すようなことはしたくなかった。

俺は無意識にうな垂れた。


「でも、私の子じゃないけどね。」


・・・・・


「は?」


俺は思わず顔を上げた。


「私が産んだし、法的には私があの子たちの母親なんだけど、生物学的にはあたしの子じゃない。あの子たちはあたしの遺伝子は受け継いでない。」


・・・・・


「何言ってんだ??」

「つまりですね、」


堪り兼ねた高山が割って入った。


「つくしさんには代理母になってもらったんです。」

「代理母?」


…代理母…
NYではよく聞く単語だった。
でも日本語では聞いたことがない。
それを牧野が?


「僕にはパートナーがいまして、上の子の清佳(さやか)はパートナーの精子と僕の妹の卵子を受精させてつくしさんに産んでもらったんです。そして下の子の壮介は、僕の精子とパートナーの姉の卵子を受精させてつくしさんに産んでもらいました。」

「そういうこと。だから、処女受胎? 懐胎? なんだっけ?」


牧野はケラケラと笑った。


「ショジョジュタイ??」


俺の理解を超えた話に、まだ脳がついていかない。
ショジョ? しょじょ…処女…処女!??


「処女!!?」


ガタッと勢いよく立ち上がって思わず叫んだ。


「ちょっと!! なに、夜中にとんでもない単語を叫んでんのよっ! 座りなさい!」


ついついボーッと牧野を見つめちまった。
だって処女? こいつが? この歳で?
ジワジワと嬉しさがこみ上げた。


「なに想像してんのよ! このエロくるくるパーマ!」

「う、うるせぇ!」

「道明寺さんという方がいるのに、つくしさんに甘えてしまって申し訳なかった。」

「いや、それは、」

「悠介が謝ることないでしょ! こいつに忘れられたあたしを救ってくれたのは悠介と順でしょ。あんたたちと子供達がいなきゃ、あたし今笑ってないよ。」


そう言った牧野は、17年前のオレの記憶と同じ顔で笑った。








*代理母出産が認可されている国では、経産婦しか代理母にはなれません。この物語はフィクションです。ご容赦ください。


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2019.04.02
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| 2019.04.03(Wed) 01:39:21 | | EDIT

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| 2019.04.03(Wed) 06:00:09 | | EDIT

Re: タイトルなし

ふぁいてぃ〜んママ  様

コメント、ありがとうございます!
困惑させちゃって済みません。
皆さんをザワつかせるのが特技でして^^;
日本ではなじみのないことですし、現状の日本ではありえないことですが、このままおつき合いいただけたら幸いです。

nona | 2019.04.03(Wed) 17:49:47 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

Megumi 様

コメント、ありがとうございます!
日本では全く何も進歩してません。
代理母出産は法的な規制はありませんが、日本産科婦人科学会が原則禁止してますし、同性愛者のパートナー条例(法的な婚姻関係ではない)が施行されてる自治体も片手ほどです。
でも令和時代になって新しい日本になって、家族の在り方が変化していけばいいと思います。
そんな時代だったらつくしにもいろいろな生き方の選択肢があるだろうな、と思いました。
これからも楽しんでいただけたら嬉しいです^^

nona | 2019.04.03(Wed) 17:54:09 | URL | EDIT