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面談が始まって2時間が経過していた。
いつもなら長くてもここまでだ。
だが、今日の終わりは見えなかった。

「お疲れではないですか?」

僕は彼の体調が心配だった。
途中からずっと立って雨が降り注ぐ庭を見ていたから。

「そうですね。少し疲れました。」

彼の顔には精神的な疲労が表れていた。
人生で一番辛い記憶を細部まで丁寧に辿るのだ。
疲れない方がおかしい。

「僕が内線で遠山さんに温かいものをお願いしますよ。」

僕は立ち上がり、内線を手に取った。
出たのはもみじさんだった。

「もみじさん、遠山さんはいらっしゃいますか?」
『伝言を承ります。』
「じゃあ、何か温かい飲み物をお願いします。」
『かしこまりました。』

道明寺氏はソファに戻り、黙って目を閉じていた。


コンコン

「入れ」

ドアが開いて入ってきたのはもみじさんだった。
道明寺氏の表情が険しくなる。

「もみじ、終わるまで近づくなと言っただろ!出て行け!!」

こんなに怒りを露わにした彼を僕は初めて見た。
空気がビリビリと振動し、大人の僕でも一瞬、怯んだ。

「お飲み物をお持ちしただけです。用が済んだら出ていきます。」

もみじさんは平然とした様子で焙じ茶を入れてから出て行った。
でも、出て行く間際にもみじさんが道明寺氏を観察するように見ていたのを僕は逃さなかった。





***





温かいお茶でホッとひと息がつけた。
気を取り直して、話の続きを待った。

道明寺氏は座ったまま、話を再開した。



彼女を渡すまいと彼は暴れたが、彼女を引き取ったのは家族でも彼でもなかった。
警察だった。

彼女は検死を受けねばならなかったのだ。

「許せなかった。あの凄惨なほどに傷ついた身体にさらにメスを入れるなど。俺だけのあいつだ。あいつの肉体も俺だけのものだ。俺以外の人間は誰も触れちゃいけないんです。」

彼は警視総監に連絡を取り、彼女の体に誰も触れさせないように命じた。
しかしそこで彼のお姉さんが到着し、彼を一喝して検死が行われることになった。

「姉に言われました。「あんたは婚約者でも夫でもない」と。彼女の遺志を継げるのはご両親と弟さんだけだ。彼らは彼女がなぜ死んだのか知りたかったんです。それには検死が必要だった。」

彼は耐えた。
彼女の体に他人が触れていると思うだけで気が狂いそうだった。
一刻も早く連れて帰って、これからはもうずっと一緒にいよう。そう考えていた。

「翌日、彼女は家族の下へ帰されました。また全身に包帯が巻かれていました。」

夏場の遺体は腐敗が早い。
家族はすぐに葬儀を手配した。

「もう私には彼女と過ごす時間は与えられなかった。誰も彼も、彼女と過ごしたかったから。」

牧野さんは誰にでも好かれる太陽のような女性だった。
多くの友人が彼女の死を悼み、駆けつけた。

「葬儀の日、棺に収まった彼女はウエディングドレスを着ていた。仲間が手配したんです。無傷だった顔だけを出して、純白のドレスに身を包んでいた。あと3年で私の花嫁になるはずだったのに、彼女の嫁ぎ先は天国になってしまった。その時、姉がそっと私の手に革張りのケースを握らせてくれました。それは姉が急遽、用意してくれた結婚指輪でした。」

プラチナに金の細工が施されたこの世に一対しかない指輪には、互いの名が刻まれていた。
その指輪を、彼は彼女の手袋を外して薬指に通した。
そしてキスをして彼女に最後の言葉をかけた。

「つくし、お前は俺の妻だ、永遠に。」

そして彼女は荼毘に付された。


ここまで話し終わり、道明寺氏は胸元から鎖を取り出した。
そこには結婚指輪が通されていた。

「彼女のは彼女と一緒に埋葬されました。これは私のです。」
「当時から肌身離さず?」

僕の問いに、彼は切るような視線をこちらに向けて、一瞬、その片頬を歪ませた。

「先生、私はそんな美しい生き方のできる人間じゃありませんよ。もっと汚泥にまみれた男です。」

彼はもう一度その鎖を胸に仕舞った。
そのまま道明寺氏はうなだれ、両手で顔を覆った。
決して泣いているわけではなかった。
しかし、あまりにも辛い思い出への回帰に、しばらくは自分を取り戻す時間が必要だった。








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2019.02.11
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| 2019.02.11(Mon) 17:11:02 | | EDIT

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| 2019.02.11(Mon) 17:15:09 | | EDIT

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| 2019.02.11(Mon) 18:06:22 | | EDIT

Re: タイトルなし

JUJU 様

コメント、ありがとうございます!
今回は特にハラハラさせているんじゃないだろうかと思います。
これをハピエンて???って。
ハピエンの定義もさまざまなので、JUJU様のハピエンの概念に合致するかわかりませんが、
でも最終的に司が幸せを感じてくれたら嬉しいと思ってます。
明日も楽しみにしてください^^

nona | 2019.02.12(Tue) 00:59:54 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

つくしんぼ 様

いつもコメント、ありがとうございます!
そうそう。なにがどう癒しになるかは人それぞれですよね。
だから慰めなんかは結局は自分が正しいと思ったことを押し付けるカタチになっちゃうけど
でもそうやって支え合ってるんでしょうね。
検死のお話は納得です。
我が子ならなおさら、強い気持ちが必要ですよね。

この話は司サイドの語りのみなので他の人間はほぼ出てきませんが、
千恵子さんやF3や滋や桜子も、それぞれが抱えた傷があるでしょうね。

nona | 2019.02.12(Tue) 01:04:08 | URL | EDIT

Re: タイトルなし

カオカオ 様

コメント、ありがとうございます!
丁寧に読んでくださってるんですね。
嬉しいです。
折り返しです。
残り8話、よろしくお願いします^^

nona | 2019.02.12(Tue) 01:06:44 | URL | EDIT