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シャワーを浴びた司が濡れた髪をかき上げながらバスローブ姿でリビングに降りてきた。
その後ろにはつくしが唇を尖らせて従っていた。


「着替え出したのに。司はいつもその格好で朝ご飯を食べるの?」


邸から来たメートルがつくしの椅子を引き、森川が司の椅子を引いた。


「ああ、だな。いつもはコーヒーだけだし。」

「朝ご飯がコーヒーだけ? お腹空かない?」

「別に。」

「ふーん…燃費がいいって言うかなんて言うか、よくそれであんな夜中まで働けるね。」


そこに通いの使用人が朝食の皿を給仕する。
アメリカ人のコックの作る朝食は、庶民的と言ってよかった。
皿の上に乗っているのはカリカリベーコン、豆の煮込みとハッシュドポテト、そしてお決まりのサニーサイドアップだ。
それらが皿の面積いっぱいに盛り付けられていて、つくしはなんだか嬉しくなった。
道明寺家の人間相手に気取らないコックの心意気が気に入ったのだ。


「これ、盛りすぎだろ。」


フォークで突きながら顔をしかめる司とは対照的に、つくしは何から手をつけるべきか、ワクワクした気持ちでそれらを眺めた。
それに、テーブルの上にあるのは皿だけではなく、バタートースト、フレンチトースト、クロワッサンといったパンや、数種類のジャム、そして彩のいいフルーツやヨーグルトもあった。
朝からお腹が何個あっても食べきれないと思うほど目移りしていたつくしだったが、やはりまずはバタートーストにサニーサイドアップ、つまり目玉焼きの黄身を乗せて食べることを選んだ。


「おいしっ! このバター、トリュフバターだ!」


つくしと食事を共にするのは2度目だ。
初めて共にしたあの料亭でわかっていたことだったが、やはりつくしは食べることが好きなようで、本当に美味しそうな顔をする。
その顔を見れば、司もなぜだか空腹を感じるような気さえした。
それでも目の前のアメリカ人らしいダイナミックさで盛り付けられた皿に手をつける気にはならず、司はコーヒーを手にした。


「つくし、今日も帰宅は遅くなるだろうから先に休んでていいぞ。」


もちろん本心では起きて待っていてほしい。
ペントハウスでエレベーターを降りて、エントランスの扉が開いて、一番最初につくしの顔を見て、抱きしめてその頬にキスがしたかった。
しかしその欲望は、つくしの顔に差した落胆を見て満たされた。
それは日本でNY出張を告げた時に欲しかった表情だった。


「そっか。わかった。もともとあたしを連れて来る予定じゃなかったんだから、こっちのことは気にしないで。でもご飯はちゃんと食べてね。」

「ああ…悪いな。」

「いいから! あー、今日は何しようかなぁ。」

「5番街でショッピングでもしてこいよ。森川に俺のカードを預けておくから、なんでも好きなものを買え。」

「え…カードならあたしも持たされてるから、いいよ。」


つくしが持っているのは言わばファミリーカードで、司と同じブラックのそれは、結局は司の口座から落ちる。
だからどっちを使おうが同じことなのだが、男にとっては同じではないらしい。


「いいから、俺のを使え! 森川、」

「はい。」

「聞いてただろ。今日は岡村といっしょにつくしに付き添ってやれ。」

「かしこまりました。」

「で、でもあたし、欲しいものとか特にないしっ。」

「見れば気が変わる。」


コーヒーを飲み終えた司は席を立った。


「お前はゆっくり食ってろ。森川。」

「はい。」


司は森川を従え、またメゾネット2階の寝室へ入って行った。









つくしと岡村、そして森川を乗せたリムジンは先ほどから5番街を周回していた。
しかしつくしは一向に車を止めない。
ただ車窓から店店を眺めるだけだった。


「奥様、少しでも目を引く店がありましたらすぐに車を止めますので、どうかご遠慮なさらずに。」


つくしの向かいに座る森川がそう促しても、「ええ、ありがとう。」と言ってつくしはただ景色を眺めるばかりだった。
これでもう何週しただろうか。
旦那様がああ仰ったからには、何か今日の戦利品の報告をしなければならない。
まさかこのまま何も買い物しないで帰ったりしたら、絶対に必ず不機嫌になる。
奥様の興味を惹くものが何か、何かないか??

そう思って森川は隣の岡村に視線を送ったが、昨日今日で代理侍女になった岡村にはつくしの嗜好はわからない。
岡村は戸惑い気味に小さく首を横に振った。

こんな時こそ島田さんがいてくれたらなぁ。
いや、島田さんがいない状況になったからこそ奥様は今、ここにいるわけだからな。
それにしても欲のない方だ。
ブラックカードを渡され、旦那様から何でも好きに買い物しろと半ば命じられたのに、それでも購買意欲が湧かないのか。

その時、つくしがため息をついた。


「あの、森川さん。」

「はい。」

「お店に入ったらやっぱり何か買わないとマズイですよね?」

「は? マズイ?…とは?」


主人が店に入って何も買わないという状況を目にしたことがない森川は、つくしの言わんとするところを瞬時に理解できない。
が、岡村は理解できたようで、森川の一瞬の間をついて口を開いた。


「左様でございますね。道明寺の名の手前、店側に相応の粗相がない限り、手ぶらで店を出るというのは考えづらいですね。」

「ですよね。ハァ…」


つくしがまた車窓に向いたので、森川と岡村は再び顔を見合わせた。

この奥様は、もしかして無駄使いができないタイプなのか?
欲しくもないものを買うことに苦痛を感じるとか?
まさか、そんな女性がいるのか!?
ましてや道明寺当主夫人にまでなり、金だけなら湯水の如く浪費したってなにも咎められない立場なのに。
そもそもこれだけの店構えが立ち並んでいるところで欲しいものが見つからないとはこれ如何に!??
これはますます困ったぞ。
何か奥様の食指を刺激できるものは…

森川は懸命に考えた。
頭の中でこの数ヶ月のつくしの情報を洗い直した。


「あっ!」

「え? 森川さん、どうしたんですか?」


突拍子もなく声を上げた森川につくしも岡村も振り向いた。


「あ、いえ、失礼しました。奥様、そろそろティータイムはいかがですか? この先のグランド・メープルに美味しいチーズケーキを作るパティシエがおりますよ?」

「チーズケーキ!? はい! 行きましょう!」


先ほどまで困り果てた様子だったつくしの顔が一気に明るくなった。

やっぱりこれか。
島田さんが言ってた『花より団子』ってのは本当だな。
とりあえず目的ができてよかった。

一行はグランド・メープル・ニューヨークに進路を取った。








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2020.07.01




道明寺NY本社ビルの司は偀のオフィスにいた。


「報告は以上です。」

「いいだろう。順調なようだな。帰国は月曜日だったか?」

「はい。」

「つくしさんは元気か?」

「元気です。今回はNYに同行しています。」


執務机で複数のPC画面に向かって司の話を聞いていた偀は、今日、初めて司に顔を向けてクッと皮肉な笑みを見せた。


「10日間も離れているのが寂しかったか?」

「そういうわけではありませんが、成り行きです。」

「成り行きねぇ。後が辛くなるのに…」

「え?」

「いや。で、楓に聞いたが、バカンスは取れそうなのか?」


ソファに腰掛ける司は、テーブルの書類にポンとペンを投げた。


「取れませんよ。社長にもっと頻繁に帰国していただかないと。」

「そのことだけどな、お前に日本を全面的に任せる計画がある。」

「全面的!?」


疲労を感じ、眉間を押さえていた顔を偀に向けた司の表情は驚きを表していた。


「そう、将来、お前が総帥になれば全グループを掌握する。その前の力試しだな。好きなようにやってみればいい。俺も楓も一切、干渉はしないし、もちろん、手助けもね。」


自分の父親と言えども食えない男だと感じさせる偀はデスクに肘をついて手を組み、決して瞳の奥が笑うことはない目を細めた。
ゴクリ…と司の喉が鳴った。
最近では偀と楓の影響下で過保護な仕事をすることにかなりのジレンマを抱えるようになっていた。
特につくしと結婚し、世田谷の主人となってからはその違和感は大きくなるばかりで、仕事においても早く一国を掌握したかった。


「望むところだ。助けなんていらねぇよ。」

「ハハッ、楽しみだ、と言いたいが、任せる時期については未定だ。」

「は!?」


司は立ち上がり、偀のデスクに詰め寄った。


「未定ってそれは俺が力不足だからってことか!?」

「違う。お前が日本本社社長に就任するなら、つくしさんをお前の妻として世間に披露するのが先だ。」

「披露って…披露宴をして、つくしを公表しろってことか? でも、それは、」

「そうだ。そのためにはお前たちに子供が産まれなければならん。」

「子供は、俺はまだ考えてない。もっとつくしと二人で過ごしたい。」

「好きにすればいい。が、日本本社社長の妻が正式に世間に認められていないなんてのは看過できない。よって時期は未定だ。」

「だったらすぐにでも披露目をする。文句ないだろ」

「それは駄目だ。あのシキタリを破ることは俺が許さん。」

「なに言ってんだよ。俺の妻はあいつしかいない。そもそもあんたらがあいつがいいって連れてきたんだろ!? だったら子供なんて関係なく顔でも名前でも公表すりゃいいだろ!」

「司、お前にはあのシキタリの本当の意味が理解できていないんだな。」

「本当の意味?」


『妻の披露は第一子誕生後であること』


「あのシキタリを単なる封建主義的男尊女卑時代の残滓だとでも思ってるんじゃないだろうな?」

「……子供を持たないという選択肢が俺たちにあるとは思ってない。でもその時期を規定するのは時代遅れの錆び付いたシキタリだと思ってる。」

「フッ…ハッハッハッハ! 随分とはっきり言うようになったじゃないか。つくしさんはやはり俺が見込んだとおりの女性だったな。」


偀は立ち上がり、窓辺に寄った。
人を形づくる遺伝子は父と母から半分づつ分けられるはずだとすれば、偀から与えられた遺伝子は大半を容姿の形成に費やされたのだろうと司は思った。
撫でつけた髪はウェーブを描き、年齢を超越した肉体にはその美しさに隙なく沿うスーツを纏い、司より少し歳を取った顔には余裕のある笑みが浮かぶ。
しかし司が本当に欲しいのは父のそのメンタリティであり、能力だ。
カリスマ…父を超えるそれが欲しかった。


「俺は前に言ったよな? シキタリを守るも破るも後世への責任が生じる、と。そんな数々のシキタリを今も守るのは何のためだと思う? 道明寺家の存続と繁栄、そして一族の守護のためだ。」

「守護…?」

「お前の妻として、つくしさんの務めのひとつは後継者を産むことだ。お前の血を継ぐ子を産む。それがつくしさんが成さねばならない最大の責務だ。」

「それはわかってる。だから俺だっていずれはと思ってるさ。」

「甘いんだよ!」

「っ!!」


先ほどまで微笑を浮かべていた顔に、いまは黒豹が取り憑いていた。
司を睨みつける目は政敵を見るかのようなそれで、心の奥底まで見透かすかのようなその視線から逃れたいのに身動きできなかった。


「披露目を先にしたとして、道明寺家当主の妻にのしかかる後継者誕生の重圧から、お前はどうやってつくしさんを守るつもりなんだ? 道明寺司の妻だと公表されれば行く先々、会う人毎に言われるんだぞ。「後継者はまだか?」「妊娠は?」と。だから子供を産まないうちは妻を隠し、守る。あのシキタリの意味はそれだ。」


それは思ってもいない解釈だった。
あのシキタリにそんな意味があったのか?
むしろ子を成さないうちは受け入れないといような排他的なシキタリだと思っていたのに。

偀は窓辺から離れ、デスクの前に佇む司に寄った。
そしてその肩に手を置いた。


「司、つくしさんを愛したのなら道明寺を守ることの次に、彼女を守ることがお前の務めだ。彼女が子供を望まないのならお前の愛し方が足らないせいだし、お前が望まないのならお前の自覚が足りないんだ。どっちにしろ、そんな男に一国は預けられん。だがな、司、俺はお前に、俺以上の能力があると見込んでる。なんせお前には楓の血も流れてるんだからな。だから早く俺に追いつけ、追い越してくれ。」


それだけ言って偀はデスクに戻った。
司は考え込んだ顔をしていたが、やがて偀のオフィスを出た。




***




グランド・メープル・ニューヨークの2階にあるラウンジ個室でつくしはチーズケーキを前にして深く感嘆していた。

何、この芸術品は!

それは白い皿にチョコレートでメッセージが、ラズベリージャムとミントソースで花が描かれ、その中央に色付けされた生クリームで咲き誇るバラの花が乗ったベイクドチーズケーキが鎮座していた。


「美味しそう!」

「…お気に召していただけてよかったです。」


つくしの向かいに座る森川は、使用人人生で経験したことのない妙な緊張感と戦っていた。
なぜなら、森川の前にも同じ皿が給仕されていたからだ。
提案はしたが、もちろんつくし一人で食べるものと思っていたのに、「みんなで食べましょう? その方が美味しいから。」というつくしの言葉で3人でテーブルを囲んでいる。
主人と同席するなどあり得ない、あってはいけないと変な汗が額に浮かぶのがわかった。
しかし同じ皿を前にしている隣の岡村はクスクスと笑っていて、女というのはつくづく神経の野太い生き物だと森川はそちらのほうに感嘆した。


「さあ、いただきましょう!」


つくしの言葉で森川も岡村も「いただきます」と手を合わせた。
だが、さすがにつくしより先に手を付けるわけにはいかない。
つくしが一口目を口に運ぶ様子を二人は注視した。


「美味しーい!! かわいいし、きれいだし、美味しいし、すごいですね!」


ああ、奥様、5番街でもそのくらいの笑顔を見せてくだされば。
このチーズケーキを食べ終わったらどうしよう。
どこの何なら奥様の購買意欲を煽るのか。

とにかくなにか戦果の欲しい森川だったが、つくしの攻略は一筋縄ではいかない。


「森川さん、どうぞ召し上がって。」


悩む森川につくしから声がかかった。
しぶしぶ森川は濃厚なチーズケーキを頬ばった。


「奥様、この後はいかがなさいますか?」


同じくチーズケーキを食べながら、岡村がつくしに問いかけた。


「うーん、、、欲しいものもないんですよね。しかもあんな高級店、敷居が高いっていうか。」


いやいやいや!
あなたは道明寺夫人なんですよ!?
あなたが行かなくて他に誰が行くんですか!?

森川はめまいを覚えて眉間を強くつまんだ。


「でしたら、5番街でなくとも奥様の行きたいところに行きましょう。」


岡村がそう言ってニコリとほほ笑んだ。







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2020.07.02




つくしのリクエストで一行がやってきたのはチェルシーだった。
この界隈は多くのギャラリーがあり、最先端のアートを世界に向けて発信している反面、ニューヨーカーの生活を彩るマーケットや庶民的なレストランが軒を連ねている。
つくしの表情は5番街を回っていた時よりも明るく、窓に張り付いて食い入るように景色を眺めていた。


「そうそう、私、ニューヨーク初めてなのでこういう所に来たかったんですよね! あっ! あれ可愛い!」


司への報告はすでに諦めた森川は、自分たち側に近い感覚を持つつくしを苦笑をもって眺めていた。


「ご興味を引くものがあれば仰ってください。車を止めて見学いたしましょう。」


岡村に言われつくしが車を止めさせたのはチェルシー・マーケットだった。
つくし、森川、岡村に後続車から降りてきたSPが加わり5人となった一行は、大物にも慣れているニューヨーカーの目を引きながらマーケットの中に足を踏み入れた。 


「うっわっ!」


そこは大きな工場跡の建物の中に様々な専門店が軒を連ねている屋内型の市場のようだった。
特に目を引くのは飲食店だ。
サンドイッチ、チーズ、チョコレート、中には寿司バーもある。
そのどれもがいかにもアメリカ的なイメージにピッタリの店構えで、商品が大胆かつ華やかに陳列されていた。


「すごいっ! 楽しい!! あ、あれ美味しそう! あれも!」

「奥様、お声が大きいようです。少しお控えください。」

「森川さんは何がお好きですか?あっ! ロブスターですって!! 食べていいですか?」


急に走り出したつくしを残された4人が追いかける。
森川は、こんな時こそ島田にいてもらいたいと思った。
つくしのパワーは岡村では到底、抑えることができないのだ。
英語だけは流暢に操れるつくしは、早速、店員とコミュニケーションを楽しみ始めた。





食べ物の専門店にひとしきり興奮した後は、女子の大好きな雑貨屋巡りだ。


「あれもこれも可愛いものがいっぱい!この『チェルシーマーケット』のロゴのトートバッグはお土産にしようかな。」

「お、奥様、それは道明寺夫人が持つのに相応しいとは…」

「どうして? 可愛いですよ? 安いし。」

「安さを判断基準になさるのはいかがなものかと…」

「なんだか森川さんて島田さんに似てきましたよね。」

「え!?」


つくしは唐突な指摘に愕然としている森川の横をすり抜け、もうさっさと次のターゲットに向かっていた。


「これ、『Bento』?…あ!お弁当のこと?」


つくしが手にとったのは縦20センチ、横30センチ、深さは6センチほどのステンレス製の容器だった。
陳列の表示からはどうやら弁当箱のようだったが、日本のものと違うそれは、蓋と本体が蝶番で一体となっており、本体の料理を入れる部分が窪んでいる。
その窪みは様々なサイズで分かれていた。


「へー、こんなお弁当箱初めて見た。おかずを入れるところがそれぞれ独立してるんだ。味が混ざらなくて、これいいかも。」

「気に入ったのでしたら購入されますか?」


遠くから見守る森川に対して、つくしのそばにピタリと付き従う岡村が柔和な笑顔を向けた。


「はい! 自分用と、実家の母にもお土産にしようと思います。サイズもいろいろあるので何種類か。」

「それでしたら今度、このお弁当で旦那様とお庭でピクニックもよろしいかもしれませんね。」

「え…、旦那様とですか?」

「? ええ。」


つくしはお弁当を持ってピクニックが好きだ。
それは、実家では常に経済的逼迫に直面していて、他にレジャーと呼べることがなかったからだ、というだけではない。
青空の下で家族や友人と食べる弁当は格別だと感じるからだ。


「でも、旦那様が冷えたお弁当を食べるところなんて想像つきませんけどね。」


つくしはそう言って少し切なげに笑った。


「奥様はお料理はなさいますか?」

「あ、はい。します。ずっと自炊してましたし、実家にいる頃も夕食は母と当番制にしてたので。」

「それならかなりの腕前なんですね! 旦那様は奥様のお手料理ならお弁当でも召し上がると思いますよ?」

「私の手料理…ですか…?」


まさかそんなことは半信半疑だった。
しかしこの時ふと、司の食事のことが気になった。
今朝はコーヒーだけだった。
そして今夜はさらに遅くなると言っていた。
かなりの忙しさだが、しっかりと食事をとっているだろうか。


「司…ちゃんと食べてるかな…」


ポソリとこぼれた呟きを聞き逃さなかった岡村は、なにかを閃いた顔をして、つくしの手を取った。


「奥様、それでしたら今からでも旦那様にお弁当をお届けしましょう!」

「へ!? 今から? お弁当を?」

「そうです! きっとお喜びになられます!」

「え!? ええ??」


岡村に手を引かれ、その特徴的な弁当箱とそれを入れるランチバッグを何種類か購入してから、今、企てた計画に驚愕する森川を伴って一行は帰路についた。




***




リムジンの中で森川から菱沼に連絡をとってもらい、司のスケジュールを確認した。
今夜は社外に出る予定はないという返事で、つくしが食事を差し入れることが決まった。


『奥様が食事を?』

「ええ。岡村の提案なのですが、奥様は旦那様のお食事のことを気にされておられまして。いつもどうなさっていらっしゃいますか?」

『NYでは会食ってものがないですからね。それにお忙しいので専ら社内で済ませています。メープルの厨房から軽食をデリバリーしてもらってますね。』

「それは温かいものを?」

『ええ、そうです。まぁそれも食べたり食べなかったりですけどね。いらっしゃるなら今夜はメープルをキャンセルしますよ。20時ごろに少し休憩を入れておりますがその時間でよろしいですか?』

「わかりました。旦那様には秘密にしてください。まだどうなるかわかりませんので。」

『えー、そうですかぁ? 聞けば仕事が捗りそうなのになぁ。』

「むしろ手につかなくなるんじゃ?」

『ハハハッ、それもあるかもしれません。ではまた。』


通話を終え、森川は今日何度目かの深いため息をついた。
司はきっと喜ぶだろう。
そして明日以降も期待するに違いない。
つまり一度、食事を届け始めたら、そのたびにつくしに会えることに味をしめて事あるごとに要求してくるのが目に見えている。
もしかして帰国してからも!?

森川は、いずれかのシキタリに抵触しやしないかと思いを巡らせた。








途中で日系のスーパーに立ち寄って買い物をし、ペントハウスに戻るなりつくしと岡村は道明寺邸から呼び出したシェフと共にキッチンに立った。


「では、奥様を中心にしてに作っていきましょう。もちろん私もシェフも手伝いますので。」


メイド服に着替えた岡村がメニューを前にしてつくしに告げた。


「あの、やっぱりこれって無謀じゃないですか?」


あのブランドはエプロンまで作っていたのか!とつくしが驚きを通り越して感心した有名メゾンのシンプルなエプロンを身につけたつくしは、困惑顔で岡村に向いていた。


「どうしてですか?」


岡村は柔和な表情を崩さない。
島田の正直な厳しい表情に慣れたつくしには、むしろこちらの優しい顔の方が落ち着かなかった。


「だって、そもそもお仕事中に押しかけたら迷惑かもしれませんし、それに私を中心にって、旦那様の味の好みも知りませんし、よしんば味はシェフに決めていただいたとしても、私が作れるものなんて庶民のそれですし、見栄えだって旦那様が普段、召し上がっているものに比べれば、」

「奥様!」

「はい?」

「そんなことはどれも旦那様にはどうでもいいことです。奥様が会いに来てくれたとなればお仕事中でもお喜びになられますし、それに自分のために料理をしてくれたという事実だけでも旦那様はきっと嬉しいはずです。それに、旦那様を幼少から存じ上げておりますこの岡村はわかります。奥様なら大丈夫です。きっと美味しいと仰ってくださいますわ。」


なにを根拠にそんなことを言うのかつくしには全く理解不能だったが、司を子供の頃から見てきたという言葉には説得力があった。


「わ、わかりました。じゃ、頑張ってみます。でもやっぱり冷えたものじゃなく、出来る限り温かいものをお届けしたいと思います。」

「わかりました。その点は配慮いたします。」


そこから料理が始まった。
NYの邸のシェフからアドバイスや手助けをしてもらった料理とつくしだけのオリジナルを一つということで玉子焼きを添え、温かいものと冷たいものを分けた豪華なランチボックスたちが出来上がった。


「できました!」

「素晴らしいです! 早速、お届けしましょう。」


時刻はすでに19時を回っていた。
シェフに別れを告げ、森川にSPも伴い、昼間と同じメンバーは再びペントハウスを後にした。








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2020.07.03




NY本社にある司のオフィスの横に設えられた秘書室で、菱沼は19時を過ぎた頃から何度も腕時計や壁掛けの時計を気にしていた。
そこへ森川から出発の連絡が入った。
どうやら滞りなく準備が整ったようだ。
これならちょうど20時に間に合う。
ホッと息を吐き出した菱沼は内線を取り、司の部屋をコールした。


『なんだ。』

「副社長、今夜も長丁場ですから、20時から休憩を取りましょう。」

『いらん。』


強く受話器を置く音と共に、通話は切られた。
今日の司は午後から寡黙だった。
普段も仕事モードに切り替えれば無駄口などたたく男ではないが、今日は特に偀とのミーティングから戻ってから厳しい顔をしていた。

総帥に何か言われた?
数字のこと?
新しい買収先のこととか?
それとも奥様のこと?

考えているうちに受付からつくし一行が通過したとの連絡が来た。
つくしはすでにエレベーターに乗り、上昇している。
マズイ…

菱沼は今度は司の部屋をノックした。
何とか仕事を切りのいいところで止めさせなければ。
オフィスでは司がジャケットを脱いでカフスをまくり、書類と画面に忙しなく視線を行き来させていた。


「なんだ!」

「副社長、休憩をとれば効率も上がります。とにかく切りのいいところで、」

「いらねぇっつったらいらねぇんだよ!! 出て行け!!」


その時、菱沼の背後で「司…?」と呟く声が聞こえた。
つくしたちは高速エレベーターによって、早くもここまで到着したのだ。
しまった!と思った菱沼は司のオフィスのドアを開けたままゆっくり振り返った。

そこには森川と岡村を従え、SP2人に大きな保温ボックスを持たせたつくしが立っていた。
「あ…」と言葉を発しようとした時、つくしは唇に立てた人差し指を当て、なにも言わないように菱沼に示した。
そしてゼスチャーで保温ボックスを空いたデスクに置くようにSPに指示を出すと、菱沼に微笑み、背を向けた。


「菱沼、どうした? 早く出て行け!」


困惑した菱沼はつくしの背中と司の顔を交互に見、そして「奥様が…」とかすかに告げた。


「つくしが? つくしがどうした?」

「あの、今、いらっしゃって、」

「なに!?」


司は勢いよく立ち上がり、菱沼を押し除けてオフィスを飛び出した。
駆けながらエレベーターホールまで行くと、最後尾に付き従っているSPが今まさにエレベーターに乗り込むところだった。


「つくしっ!」


司の声が聞こえ、閉じかけたドアがまた開き始めた。
追いついた司が両手でそのドアを掴み、緩慢な動きが待てないとばかりに左右に押し広げた。


「つくし、帰るな!」

「司…忙しいのにごめんなさい。マンションで待ってるから、ドアから手を離して。」

「いいんだ、会いたかった。オフィスに戻ってくれ。」


今はもうSPのひとりが『開』のボタンを押していて、森川も岡村もつくしに降りるように視線で促している。
つくしは短くため息をつくと箱を降りた。
降りた途端に司に肩を抱かれ、役員フロアの長い廊下を司のオフィスに向かって戻り始めた。
司に密着するといつものいい香りが届く。
するとつくしはなんだか緊張してきた。


「急にどうして会いにきてくれたんだよ。」

「それは、その、」

「寂しかった、とか?」

「そうじゃなくて!」

「違うのかよ。」

「理由は後で説明する。ね、ひとりで歩けるから離して。」

「いやだ。」

「いやだって…」


つくしの顔を見て、つくしに触れて、司にもつくしの香りが届いていた。
それはシャンプーの匂いやつくし自身の甘い香りだったが、偀と話してから抱えていた焦りに似た苛つきを癒してくれるには十分だった。
オフィスに戻り、差し入れの料理の話を聞いて大いに喜び、オフィスのソファーテーブルに料理を並べさせ、つくしと夕食を共にした。
秘書室では菱沼も森川と岡村と共に相伴にあずかった。


「えっと、シェフに指導してもらったけど、あたしが作ったから口に合わなかったら無理しないでね。」

「お前が!? 料理できんのか?」

「うん、できるの。でも司が食べるような高級なものは作ったことないから…」

「関係ねぇよ。お前が作ったんなら美味いに決まってる。」


そう言って料理が取り分けられた皿を受け取った司の顔は先ほど怒鳴り声を上げた本人とは思えないほど和らいでいた。


「差し入れなんて急にどうしたんだよ。」

「うん、朝、食べなかったでしょ? すごく忙しそうだし、ちゃんとお食事をとってないんじゃないかと心配になって。」

「そうか。やっぱりお前は名前の通り、俺に『尽くし』てくれる女だな。」

「な、何言ってるのよ!」

「照れるなって。見たことないもんばっかだけど、美味そうじゃん。」


そう言って満悦した顔で司は初めて食べる『インゲンとジャガイモの豚バラ巻き照り焼き』を口に放り込んだ。








「つくし、ありがとな。」


食事を終え、隣に座らせたつくしを抱き寄せる。
きょうのつくしはサイドの髪を捻ってハーフアップにして、巻いた毛先が肩から胸に落ちていた。
その髪をひと掬いして香りを吸い込むと、今度は耳をくすぐって頬を撫でた。


「あのっ、」


じっと司を見上げていたつくしは、この先の展開を察し、頬を染めて俯いた。


「た、玉子焼きも美味しかった?」

「玉子焼き? ああ、あの黄色いのか。ま、料亭で食べるよりは味が甘かったけど、美味かったぞ。」

「そっか。司はもう少し甘さを抑えた方が好み?」


照れたような顔で上目遣いに伺われ、満腹になって食欲が満たされた後は性欲が湧き上がってくる。
しかしそっちはまさかこんなところで満たすわけにはいかない。
だが、この甘い誘惑を何もしないで手放せば、今夜も深夜まで続く仕事に集中できない。
少し、少しだけ、と自分に言い聞かせた。


「そうだな、甘いのはお前のを食わしてもらうからな。」


そう言ってデザートに匹敵するつくしの甘い唇をチュッと吸い上げた。


「うん、こっちのが甘い。」


カーッと茹で上がったようにさらに真っ赤になったつくしは顔を背けて立ち上がろうしたが、腕を引かれてシートに戻された。
妖しくなり始めた司の眼光がつくし見つめる。


「司、まだ仕事あるんでしょ? 今度こそあたしは帰るから、」

「まだいいだろ。」

「ダメだよ。帰れるのが遅くなるでしょ。」

「じゃ、明日も来るなら解放してやる。」

「明日も!?…いいの?」

「ああ、楽しみにしてる。バランスの良いメシで俺の体調管理してくれよ。」

「わかった。また20時でいい?」

「待ってる。」


それでもやっぱりデザートを味わいたい司は、そのままつくしにフレンチキスを仕掛け、手は辛うじて服の上からその体の線をなぞった。


「ンンッ……もう! 司、仕事場だよ!」

「…だな。」


やっとの思いで司はつくしを放し、つくしの手を取って立ち上がった。


「今夜も遅くなる。先に休んでくれ。」

「…うん、わかった。」


切なげに微笑んだつくしを名残惜しくもう一度抱きしめ、オフィスを後にする背中を見送った。


「ハァ……」


司はデスクチェアに浅く腰掛け、背もたれに頭を預け目を閉じた。
部屋にはつくしの匂いと温もりが残っているようだった。


好きだ…
今となっては彼女以外の妻など考えられない。
父と母が探し出したのが彼女であることは奇跡に近かった。
それを運命というのならば、神に感謝したい。
生涯を共にし、一生、大切にして守っていきたい。
その決意はダイヤモンドよりも硬いが、だが自分たちは世間一般の夫婦ではない。
自由にならないことも多く、その最たることが子供のことだった。
父の言うことはわかる。
シキタリの意義も、言われてみれば至極尤もだ。
しかし…と、司の中に不安が過ぎる。

妊娠出産にもきっとシキタリが存在するだろう。
それを無事に乗り切ったとして、産まれた子が後継者となれば6歳の別れが待っている。
さすがの司も、それが特殊なことであると知っていた。
親友の3人でさえそんな境遇には置かれていなかったからだ。
初等部の頃まで誰かの家の遊びに行くと、必ず母親に出迎えられた。
友人たちは母と同じ棟に住み、食事を共にしていた。
母と暮らす温もり。
その存在を知ったのは友人を通してだった。

きっとつくしもそういう育ち方をしている。
自分の務めについては理解しているだろう。
だが母と子が共に生活するのが当たり前の人生において、わずか6歳で離れなければならない道明寺家のシキタリを受け入れられるのか。
その覚悟もなしに彼女に妊娠を迫るのは、大きな爆弾を抱えさせるようなものだと司は感じていた。

話し合わないと。
その前に自分自身が覚悟を決めないと。


司は前に進むため、残務に集中力を向けた。









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2020.07.04




帰宅は案の定日付けを超えていた。
エントランスで出迎えたのは森川だけだった。


「つくしは、休んだか?」


自分でそう伝えたのに、起きているつくしに会えないことがこんなにも寂しい。
そんなことは邸で別棟に住んでいれば当たり前のことなのに、ここ数日でずいぶん贅沢になったものだと司はフッと小さく笑った。


「はい。奥様は起きていると仰ったのですが、お疲れもありましたので休んでいただくようにお願いしました。今夜は2階のゲストルームでお休みになっていらっしゃいます。」

「ゲストルーム? なぜだ。」

「旦那様がお帰りになった時に起きてしまうから、とのことでした。でもきっと私が入れるように気遣ってくださったんでしょう。」

「フン、…じゃ、俺も今夜はそっちで休む。」

「かしこまりました」


つくしのいない寝室に森川と共に入り、次々に脱いだ服を落としていった。


「森川、」

「はい。」

「親父から早く子供をつくるように言われたんだ。」

「大旦那様からですか?」

「ああ。だが妊娠や出産に関してもシキタリがあるんだろ?」


司が落とした服を拾いながら、森川はため息をついた。


「ございます。奥様のご懐妊がわかれば、お子様が1歳になられるまで御渡りはできません。」

「1歳だと!? つまり、」

「はい、つまり2年近く奥様と閨に籠ることはできません。」

「2年…」


司はシキタリのあまりの厳しさに絶句した。
が、ふとあることに気がついた。


「渡りはできない、閨には籠もれない。でも会うことはできるのか?」

「はい、できます。障りのように触れることが禁止ということもございません。ただ奥様のご回復のため、またお子様のお健やかなご成長のために睦事が禁止されているだけです。」

「ヤれないけど、会える……でもそれにも条件があるとか?」

「ございます。会えるのは日の出ている間だけです。」

「日中だけ!? なんでだよ!」

「道明寺家では上流階級に珍しく、昔から原則的に乳母を置きません。奥様が自らお子様をご養育なさいます。夜間は授乳や寝かしつけなどとかくお忙しいので、『御訪ね』は日中と決められています。旦那様と言えども奥様やお子様の生活の邪魔をしてはいけない、という後継者の成育を第一に考えられたシキタリです。」

「その『オタズネ』っつーのがシキタリの名か。」

「はい。」


司は思ったよりも緩いシキタリに毒気を抜かれていた。
2年間、一度も会えないと言われても仕方ないほどの覚悟だったが、明るいうちなら会えるなら毎日でも会えるかもしれなかった。


「そうか、それなら『訪ね』のシキタリは大事だな。わかった。つくしと子供のことを話してみる。」

「奥様は今もお薬を?」

「そうだな…」


あれは初夜だった。
セックスのあまりの快楽に衝撃を受けて、飽きるまで愉しみたいと思ってつくしに避妊薬を飲ませ始めたのだ。
今思えば、なんという男だろう。
避妊ならば男側ができることだってあると知っていたのに、迷いなくつくしに負担を強いる方を選んだ。
単純に生の方が気持ちいいと思ったから。


「俺はつくづくガキだったな。あいつが心を開いてくれなくても当然だったんだ。」


この数ヶ月、つくしが心を開いて受け入れてくれないことを散々、忌々しく思ったが、根本原因は自分だった。
そのことに気づき、司は頭を掻き毟った。


「頭冷やしてくる。岡村には明日からつくしに薬は飲ませなくていいと伝えろ。」

「かしこまりました。」


バスルームに消えた主人の残像を見つめながら、二人に平穏な日々が早く訪れることを森川は祈った。




***




朝になり、ゲストルームのベッドで目覚めたつくしは、背後から体を包む温もりに気付いた。
そしてそれが愛する夫だということにもすぐに気づいた。
寝返りを打ってそちらに向くと、司が深く眠っていた。
閉じられて艶々とした瞼の縁を彩る長い睫毛を触ってみたくなる。
その上の眉毛の毛流れは、整えようと思ってできる造形ではない。
きちんと閉じられた唇にはキスをしたくなってくる。
でも高い鼻が邪魔で角度に気をつけないと起こしてしまいそうだった。

いつまで眺めていても飽きない。
見るたびに新鮮で、こんなに美しい人が自分の夫だなんて未だに信じられない。

ガーデンハウスの一件を経て繋がりが強くなった気がするが、でもそれは愛情というよりは所有物への執着のように感じる。
それでもいい、とつくしは本気で思った。

愛情じゃなくていい。
妻として必要だと言ってくれるならそれだけでいい。
こうして寝顔を眺められるのも、抱いてもらえるのも、共に歩めるのも妻だからこそなんだから。
だからあんたもずっとあたしの夫でいて。

そう願うのに、そんな願いは叶うことなんてないという諦めも同時に内包していた。
そんな矛盾に波立つ心を鎮めようと、つくしは顔を傾けて閉じられた形のいい唇にそっとキスをした。







司より1時間早く起き出したつくしはマスターベッドルームに移動し、岡村と共に身支度を整えた。
ドレッサーの前で髪を梳かれながら告げられた岡村の言葉に、ギョッとしてつくしは振り返った。


「ピルを止める!?」

「はい。旦那様からの指示です。今日から飲まなくていいそうです。」

「え…な、なんで…ですか?」


とてつもなく嫌な予感がしたが、つくしは岡村の言葉を待った。


「ご理由までは伺っておりません。旦那様とお話ください。」


岡村は昨夜の司の話を森川から聞かされていたが、それは自分の口から伝えるべきことではないと判断した。
子作りをいつ始めるかは、どんな階級の人間であれ、夫婦で話すべきことだ。


「それはずっとってこと? 触りをコントロールするためじゃなくて?」


ピルは飲むのを止めれば2、3日後には確実に生理が来る。
そして生理が終わればまた飲み始める。
それを繰り返して避妊効果を持続させるのだ。
だからピルをずっとやめるということは、妊娠可能になることを示していた。


「わかりません。そのことも含めてどうかお話し合いになってください。」

「わかりました…」


司が子供をもうけようとしている可能性に、つくしは嫌な汗が額に浮かぶのを感じていた。
司のことは好きだ。
できれば愛されたいと願っている。
でも、子供が欲しいと思ったことはない。
いや、司と添い遂げることがつくしにとってはまだどこか非現実的なのだ。

ずっとそばにいたいという欲望の次には、そんなことはありえないという諦観が浮かぶ。
いつかつくしに飽きて放り出される時がくる。
その時には甘んじて受け止めようと常に自分に言い聞かせていた。

なのに子供?
司の子供をあたしが産む?

思いも寄らないそんな可能性が浮上し、つくしはうろたえた。

身支度を済ませ、つくしは再び司が眠るゲストルームに入った。
今日も朝食くらいは共に過ごしたい。
わずかな幸福な時間に浸りたいのに、ピルの話は絶対に今朝のうちに決着をつけなければならない。
そう決意して、つくしは司の剥き出しの肩に触れた。








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2020.07.05




肩を軽く揺すり、名前を呼びかけながら髪を撫でていると司の瞼がゆっくりと持ち上がった。


「ん…つくし…」

「おはよ。朝だよ、起きて。」


司の目覚めと共に現れた瞳はボーッと宙を彷徨い、やがてつくしに焦点を定めた。
そして長い腕を伸ばしてまたつくしを抱き寄せた。
つくしも今朝はそれを期待していた。
岡村に巻いてもらった髪が乱れても、ブランド物のブラウスにシワがついても、好きな人の腕に包まれたかった。
だから司の腕の中でその身に寄り添った。


「今朝は素直だな。」

「ん…司…いい匂いがする…」


肌に直に抱きしめられて、香水を纏う前の司自身の匂いをつくしは深く吸い込んだ。


「そうか? 汗臭くないか?」

「全然。司ってさ、すごく男性的なのにそういう男臭さってないよね。いつもいい匂いだよ。」

「欲情するか?」

「は? な、なんでよ、しないわよ!」

「俺はする。お前の匂いですぐにシたくなる。今もすげぇシたい。」

「ダメだよ!」

「ククッ…シねぇよ。我慢するから。」


つくしは司の腕の中から起き上がり、上から司の顔を覗き込んでチュッと頬に軽く唇を当てた。


「ほら、これで起きられるでしょ。」

「お前な…可愛いことするから今ので別のが完全に起きたじゃねぇか。」

「へっ…やだ、何言ってんの!」


司が伸ばした手がまたつくしの腕を掴んでベッドに引き摺り込もうとする。
それをつくしは必死で拒んだ。


「もうっ、ダメだって!」

「じゃ、一緒にシャワーしよ。」

「甘えてもダメ!」

「チッ」


ようやく上体を起こした司から、つくしは距離をとって一歩引いた。


「そんな気分にならないよ…岡村さんから聞いた。ピルを飲むなって?」

「あ?…ああ、もう飲まなくていい。」

「なんで?…まさか、子供がほしいとか?」


司はベッドの上で髪をかき揚げ、フゥーと息をついた。


「それだけじゃねぇけど、でもきっかけはそれだな。本当はまだ2人でいたいけど親父に言われたんだ、お前を守るためにも早く子供をつくれって。」

「お義父様が? あたしを守るためって、なんで?」


つくしはもう一度ベッドサイドに腰掛け、顔だけをヘッドボードにもたれる司に向けた。


「お前を俺の…道明寺次期総帥夫人として公に認めさせるためには披露目が必要だが、そのためには子供が産まれないといけない。子供が先なのは後継者がどうのこうのと言ってくる世間からお前を守るためだと言われた。」

「そんな…」

「でも、それを抜きにしてもお前は子供が欲しくないか?」


おもねるような司の声に、つくしは困惑した。
なんと答えていいのかわからなかったからだ。
「子供」という存在をいつかは産みたいとは思っている。
好きな人と結婚して、幸せな家庭を築くのに子供の存在は当然、想定されている。
だから「欲しいか?」と問われれば「いつかは」というのが正直なところだ。
しかし司の問いかけは「今、司の子供」が、という意味だ。
それについては「必要だから」という理由では欲しくないし、そもそも「司の子供」を自分が産むとか産みたいなど考えたことがなかった。
だからつくしは正直に答えた。


「子供ってものをいつか産みたいなとは思ってる。だけど、それが今かと言われたら今はその気になれない。それに…」


それに子供なんで作ったらもう後戻りできないじゃん…と、言葉が出そうになったが、さすがにそれを今言うのは憚られてつくしは言葉を切った。


「「それに、」なんだ?」


思いの外、低い声が聞こえて、つくしはギクッと肩を震わせた。
なんと答えるべきか。
司と一緒にいたいという思いと、この夢はいつか醒めるという矛盾した二つの思いが今でも常につくしを翻弄していた。
司が好きなのに、執着されるのが嬉しくて仕方ないのに…いや、だからこそ、こんな幸せが長続するわけがないと思ってしまう。
いつかは本物の道明寺若夫人が現れて、代理生活は終わりを迎える。
そんなイメージが絶えずつくしにつきまとっていた。


「とにかく、あたしたちまだお互いをよく知らないでしょ? 知り合ったのと結婚したのが同時だし、夫婦って言っても別棟で暮らしてるし。だから、その…子供はまだ早いんじゃない? もう少しお互いを知ってからの方がよくない?」


つくしは出来る限り穏便に微笑みながら答えたつもりだったが、実際には視線が泳ぎ、どうにかこの話題を終わらせたいという心情がありありと浮かんでいた。
その様子を司は拒否と捉えた。
お互いをもっと知ろうという提案も、子供を回避するための詭弁だと結論づけた司の中には深い落胆が広がった。

これまで司にとって我が子とはもれなく道明寺家の後継者であり、この血を継ぐ存在だった。
それ以上でもそれ以下でも、他の意味を持つ存在でもない。
ただ、道明寺司として、人生で達成しなければいけないミッションのひとつに過ぎなかった。
しかし昨日、偀に言われてから改めて『子供』という存在について考えたとき、なぜか心に温かいものが生まれたのだ。

だが司は、まだ自分の中の変化に気付いていなかった。
だからこの落胆の正体がわからない。
わからないから正体不明な落胆はいとも簡単に怒りに変わった。
自分の立場も、課せられている責務も理解しないつくしの無責任さに強い不快感が湧いた。


「お前、自分が誰と結婚したか忘れてんじゃねぇだろうな。」

「え?」


つくしは逸らしていた顔を司に向けた。


「お前は道明寺家、それも本家の後継者である俺に嫁いだんだぞ。このままだとお前を公の場に連れ出せない。この前みたいな俺の私的な場だけじゃなく、お前はいつでも俺に同伴する立場だ。それには披露目が必要で、披露するためには子供が必要だ。これはシキタリなんだぞ。」


シキタリの言葉につくしの顔色が明らかに変化した。

シキタリ…何をするにもこれが立ちはだかる。
本来、愛情の果実であるはずの子供さえ、シキタリの前には産物のようだった。


「シキタリ…そう、シキタリだったね。でもつまり、子供ができなきゃこのままでいられるってわけでしょ? あたしは公の場になんて出なくていい、出たくない。だから子供もいらない。よってピルも止めない。」

「お前、何言ってんだ! そんなワガママ通用するわけねぇだろ! 次の代をもうけることは俺たちの義務だ。なら早く済ませた方がいいだろ!」

「っっ!」


言いたいことはあった。
でも理解してもらえるとは思えない。
いや、欲しいのは理解ではなく、同じ気持ちだった。
だから余計に言葉にしたくなかった。
それは言葉で求めるものではなく、司の中から自然と湧き出てほしいものだからだ。
だが『義務』や『済ませる』という言葉を使った司からその気持ちは感じられない。

わかっていたことじゃんか、とつくしから苦笑が漏れた。
司にとってつくしは今一番お気に入りのオモチャ程度の存在で、妻として、女として愛されているわけではない。
そんな関係で子供なんて考えられないと、つくしは話は終わったとばかりにため息をついて立ち上がった。


「とにかく、あたしはまだその気にはならない。だからピルを止めるのを命令するのはやめて。」


ゲストルームを出て行こうとするつくしの背中に司は独り言のように呟いた。


「俺は欲しい。俺たちの子供が見てみたい。…お前はそう思わねぇ?」


つくしは振り向かずに答えた。


「子供って、そんな好奇心でつくるものじゃないよ。」


そしてつくしは出て行った。








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2020.07.06




皆様、こんにちは。


ウラの告知です。
このたび、ウラに【ボツの館】がオープンしました。
その名の通り、妄想して少し書いたけどボツになった作品の公開の場です。

まずはひと作品を公開しておりますので、お暇な方は覗いてみてください。
ただし、【ボツ】ですから途中で終わります。
更新の予定もありません。
モヤモヤしたままになりますので、ご了承ください。



ウラへの行き方はこのカテゴリーの記事をよくお読みください。
ちなみに、わかってしまえば「ここかよ!」ってくらい簡単な記事に入り口があります。











2020.07.07




オフィスで複数のデスクトップを見比べながら、今日何度目か、司の手が止まった。
その度に、今朝のつくしの言葉を思い出して落胆が深くなる。


まさかあいつがあんなに拒否するとは思っていなかった。
つくしも早く俺の妻として認められたい、世間に披露してほしいと思ってると思ってた。
俺と結婚したんだから、後継を産むことだって納得づくだと思っていたのに。
やはり最初が不味かったのか。
俺の身勝手で避妊薬を飲ませて、あいつの覚悟を挫いたんじゃないだろうか。

…そうだ、初夜に後継者を産むことが俺たちの義務だ、それを果たそうとあいつをその気にさせて俺を受け入れさせたのに、事が終わればまだ妊娠するななんて、矛盾もいいとこだ。
あれであいつはその気を失ったのか…?


司の意識の根底にはすでに「子供」はつくしとの愛の証だという認識があった。
だから落胆したのだ。
しかし司の表層意識はまだそのことに気付いていない。
それは今まで生きてきた自分の感覚とはあまりにもかけ離れた認識だったからだ。
だから考えても考えても答えに辿りつかない。
辿りつかないから見当違いの方向へ答えを見出していた。

やはりもっとつくしと話し合う必要を感じた司は、早く帰るためにさっさと仕事を片付けようと再び画面に集中した。

そこにノックの音がした。
菱沼が来たのだと思い、司は「入れ」と合図したが、入ってきたのは菱沼ではなかった。


「司ー! 久しぶり!」

「姉さん!?」

「だーかーら、昔みたいに姉ちゃんって呼べって言ってるでしょ!」


入ってきたのは椿だ。
艶のある長い黒髪をたなびかせ、司に似た面差しながら、その内面の天衣無縫であり豪放磊落な様が表れた顔には明るい笑顔を浮かべていた。
司は思わず立ち上がってデスクを回り、椿の正面に立った。


「いきなりどうしたんだよ。来るなら言えよ!」

「予告なんて面白くないじゃない。お買い物しようとNYに来たんだけど、お父様があんたがつくしちゃんを連れてきてるってって教えてくださってね。可愛い妹に会いたくて。で、彼女はどこ??」


椿はわざとらしく遮るもののない広い室内を見渡した。


「あいつはマンションだ。」

「なんでよ? オフィスに同伴すればいいでしょ。それとも、仲悪いの?」

「悪くねぇよ! なんで俺の仕事に付き合わせなきゃなんねぇんだよ。ンなのあいつはつまんねぇだろ。」

「そうかなぁ? 男が仕事する姿っていつもより5割はカッコよく見えるもんだけど?」

「…ご、5割?」


司の意外な食いつきに、椿はとりあえずつくし探しを中断し、ソファに腰掛けた。


「あんた、ちょっとそこに座りなさいよ。お姉様が結婚生活の先輩として、ノロケのひとつも聞いてあげるわよ。」


司も椿の向かいに腰掛けた。


「ノロケなんてねぇよ。」

「ふーん…で、ちゃんと好きになれた?」


その言葉に弟が赤くなったのを見て、冷やかしたいイタズラ心が湧き上がった。


「そっかぁ、好きになれたか。よかった、よかった。それで数日離れるのも辛くて連れてきたってわけ?」

「親父と同じこと言うんだな。」

「で、彼女はあんたのことどうだって? 好きだって?」


しかし今度は弟が青くなり、新婚さんをからかってやろうとしたイタズラ心は鳴りを潜め、今度は世話を焼きたい姉心に火がついた。
先ほどまでの軽い調子を抑え、優しく問いかけた。


「どうしたの? つくしちゃんはあんたを嫌ってるの?」

「嫌っては…ない…はずだけど…」

「はず? 本人に聞いたの?」

「いや、聞いてない。」

「聞いてない? 好きだって言ったのに返事がないってこと?」

「言ってない。」

「は…?」

「好きだなんて言ってない。わざわざ伝えてない。」

「はぁ??? なんで言わないのよ! わざわざって、言わなきゃ始まんないでしょ!?」

「? 夫婦なんだから言わなくてもわかるだろ。」


キョトンととぼけた司の表情に、眉を釣り上げた椿は開いた口が塞がらないという顔をして、ボフッと背中をソファに預けた。


「意味わかんない。言わなくてどうして伝わると思ってるの? 現にあんたはつくしちゃんの気持ち、わかってないじゃない。」

「あいつも俺が好きだと思うけど。」

「じゃ、なんでさっき顔色が変わったのよ。」

「それは…」


椿に相談すべきか数秒、考えたが、むしろこれほど適役はいないと感じ、司は打ち明けることにした。


「親父から早く子供を作れと言われて、それをつくしにも話したんだが、拒否られた。」

「子供!?…あー、そっか。シキタリのためね。」

「ああ。俺に日本本社の社長就任の話があって、でもそのためにはつくしの披露目が先だから、その披露目のためには子供が必要だってことになって。まあ、後継をもうけるのは俺たちの義務だからな。遅かれ早かれ時期は来ることだし。」

「あんた、まさかそのままをつくしちゃんに言ってないわよね?」

「社長就任のことは言ってない。」

「のことは? じゃ、それ以外は言ったの?」

「言ったけど?」

「必要だし、義務だって?」

「ああ、言ったな。」


「それが何か?」と言わんばかりの司に椿は思わず天を仰ぎ、頭痛までする気がして額に手を当てた。


「そりゃ拒否反応も出るでしょ。あんたまさか、拒否された理由がわかんないとか、言うんじゃないでしょうね!?」

「理由は、きっと、」


司は椿から顔を背け、俯いた。


「なに? なによ!」

「…初夜からあいつに避妊薬を飲ませてたんだ。」

「避妊薬!?」


司はため息をついてバツが悪そうに顔をしかめた。


「すぐに妊娠したんじゃツマンネェからさ。その…飽きるまで抱きたくて、それで…」

「バ、バッカじゃないの!? あんたの快楽のためにつくしちゃんにピルを飲ませてたって言うの? 彼女から飲みたいって言ったんじゃなくて、あんたが無理矢理!?」

「べ、別につくしだって嫌がってなかったし、今朝だって、子供の話したらまだ欲しくないから飲むのをやめたくないって言ってたし。」

「あっ……んもう! 呆れて言葉が出ないわよ! どこから叱っていいのかわかんないくらいやらかしてるわね、あんた!」


司の顔色が今度はサーッと白くなった。
こんな時なのに、弟の百面相に椿は笑ってしまいそうだ。


「やらかしてんのか? 俺はなにをどうやらかしてんだよ。やっぱ初夜にあいつの覚悟を挫いたのがダメだったのか?」

「あのね!………いや、まぁあんたの立場や育ってきた環境から言えば、あんたが悪いとは言い切れないんだけどね。つくしちゃんは一般人だったわけでしょ? やっぱり私たちとは感覚が違うのよ。」

「どう違うんだよ。」

「そうね、一般の人はさ、大多数が恋愛関係を経て結婚するわけよ。つくしちゃんもきっとそれが普通だと思ってたと思う。」

「でもあいつは俺と結婚したんだ。俺にとってそれは普通じゃない。」

「最後まで聞きなさいよ。そうやって恋愛から結婚した人はね、子供も愛し合ってるから欲しいと思うんですって。」

「…好きなヤツの子供が見たいってことか?」

「そうね。女性なら「この人の子供が産みたい」って感情が自然と湧いてくるのよ。でも私たちは、子供をつくることは愛情云々じゃなく義務で責任だと教えられた。逆に言えば、私たちにとって子供は愛情とは切り離された存在ってわけよね。その感覚をつくしちゃんに求めるのは酷だわ。」


椿の言葉に、司は考え込んだ。
夫婦になれば妻への愛情は自然と芽生えると教えられ、実際にその通りだった。
しかし子供に対する愛情について教えられたことはない。
子供は常に道明寺家跡取りとして義務や責任という言葉でしか表されなかった。
だから自分に嫁いだつくしも当然、その義務や責任について自覚していると思っていた。
なのに今朝はその自覚が感じられなくて腹が立った…と思っていた。
が、違ったのだ。

つくしの拒否は即ち司への愛情がないことを示していた。
だから自分は落胆し、腹が立ったのだ。
司はようやく自分の心に生じた歪みの正体を掴んだが、それは新たな苦悩への誘いだった。

司は膝に腕をかけて俯いた。


「つまりあいつは、俺を愛してないと…そういうことか…?」

「そう答えを出すのは性急なんじゃない? そもそもあんたが愛情のカケラもない言葉で妊娠を迫ったんでしょ? 彼女が拒むのも当たり前よ。」


司は顔を上げた。
その目には一筋の希望を見つけたような小さな光が宿った。


「じゃあ愛情があればいいんだろ? 俺が好きだって言えばあいつも子供を作ろうって気になるんだな?」

「それもちょっと違うんじゃない?」

「どこがだよ。」

「なんかそれじゃあまるで子供が欲しいから口先だけって気がする。きっと見透かされるわよ。それにあんただけの一方的な愛情じゃなくて、つくしちゃんもあんたが好きで、だからあんたの子供を産みたいと思えるようにならなきゃダメなのよ。」

「そんなこと、俺にどうしろってんだよ!」

「子供のことはちょっと置いときなさいよ。それよりも、あんたたち二人が愛情を確かめ合うのが先よ。ちゃんとつくしちゃんの喜ぶようなシュチュエーションを整えて、男らしく気持ちを伝えなさいよ。」

「今更かよ。俺としては伝わってると思ってたんだがな…」

「思ってた、じゃなくてハッキリと、よ。ロマンチックな雰囲気でさ、プレゼントでも渡しながらさ、キュンとくるような言葉でさ。」


胸の前で手を組み、ウットリと陶酔する椿に、司は顔をヒクつかせた。


「…ハードル高くね?」

「あっ、そうだ、指輪、指輪よ!」

「指輪? 道明寺家の夫婦は結婚指輪をしないのが慣例だろ。」

「でもお父様たちはしてるわよ。」

「あれはこっちの文化を慮ってだろ。」

「バカね。お父様はもっとロマンチストなのよ。記念日にお母様と交換し合ったっておっしゃってたわよ。それにつくしちゃんの感覚からしたら夫婦は指輪をするのが普通だろうから、きっと喜ぶと思うけど。」


司はふと思い出した。
結婚して初めてのデートで行ったジュエリーブティックで、つくしは結婚指輪のラインナップに見入っていた。
そうか、本当はあれが欲しかったのか。


「わかった! 指輪だな。俺たちだけの完全一点ものを作らせる。」

「そうしなさい。そうと決まれば私の出番ね! ちょっとつくしちゃんとお買い物してくるわ。」


そう言って颯爽と立ち上がった椿の耳に、「つくしを振り回すなよ!」という司の声はもう届かなかった。









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2020.07.07




気まずい雰囲気のまま司を見送り、訪ねてきた邸のシェフと今夜の差し入れのメニューを練って材料を発注したつくしは、リビングの窓辺に立ち、見るともなしに眼下のマンハッタンを眺めていた。

子供…

まさかこんなに早くその話が出るとは思っていなかった。
その前に司がつくしに飽きて、放り出されると思っていた。
なのに公の場に同伴したいだの、披露して世間に認めさせたいだの、つくしの思惑とは真逆の展開に突き進みつつある。
どうしたらいいのか、どうすべきなのか…自分はどうしたいのか。

つくしは考えを整理しようとソファに座り、深呼吸をしてから瞑想するように膝の上で手を組み、目を閉じた。
が、次の瞬間に静寂は破られ、思考は中断された。


「奥様! お客様です!」


急いた様子で知らせてくれたのは森川だった。


「お客様? 旦那様はいないのに?」


「いや、それが、」


森川のまごつきを見ていたのは数秒で、すぐに視線はバァーンッと勢いよく開かれたリビングのドアに向いた。


「ごきげんよう! つくしちゃん!」

「お、お姉さん!?」


現れたのは侍女とSPを従えた椿だ。
結婚式で会って以来、数ヶ月ぶりに見るその姿は記憶よりも美しく、その表情はまるで太陽のようだった。


「いやねぇ、あなたまで他人行儀な。椿って呼んでいいのよ?」


つくしは立ち上がり、椿の側に歩み寄った。


「そんな、お姉さん、ご無沙汰しています。お元気でらっしゃいましたか?」


椿は久しぶりに会う義妹をしげしげと眺めた。
そしてその変貌ぶりに目を瞠(みは)った。

婚礼の日に会った時、彼女はまだ一般人の泥臭さが抜けきれておらず、ただ可愛らしいだけの普通の女性だった。
しかし今日のつくしはこの数ヶ月でレッスンによって格段に磨かれた上品さと、司によって花開いた女の色香を併せ持つ夫人へと変貌していた。

肩甲骨まである長い髪は緩く巻いて肩に落ち、大きな瞳を印象的に仕上げたメイクは華美にならずにつくしの魅力を存分に引き出し、ディオールのシルバーグレーのワンピースはボディラインに添って彼女の女らしさを引き立て、首に巻かれたオレンジ系のエルメスのスカーフはその高級感がつくしにしっくりと合っていた。

これは!と椿の直感が告げた。
これは、つくしも司を憎からず思っている。
いや、それ以上かもしれない。
愛…そういうものが育っている。
椿はそう確信した。

椿は目の前の義妹を抱き寄せた。


「ええ、私は元気だったわ。あなたも元気そうで安心したわよ。しばらく見ないうちにとても素敵な女性に変身したわね。やっぱり恋は女を綺麗にするわよね。」


そうしてまるで司にそっくりな顔をして、椿は腕の中の小さな妹を覗き込んだ。
椿を見上げたつくしの頬は見る間に赤く染まっていった。


「えっ、いや、恋なんてそんな…私なんて…何も変わりません。」

「いいえ、変わったわ。司が自慢したくなるのもわかるわ。」

「自慢!?」

「じゃ、出かけましょう!」

「ええっ!?」


突然、やってきて、言いたいことだけを言い、したいように行動する椿はつくしには眩しすぎるくらいの女性だった。

森川をマンションに残し、つくしは岡村と共に椿のリムジンに押し込められた。


「あの、どこに…」

「ん〜? 私がずっと憧れてたこと! 妹にお洋服を選んであげたかったの。さあ、行くわよ〜!」


椿の号令によってリムジンはニューヨーク中を走り回った。
主には5番街だったが、時にはミッドタウンまで足を伸ばした。

その度につくしはオートクチュールからプレタポルテまで何着も試着し、靴を履き替え、バッグを持ち替えた。


「お姉さん、も、もう何も要りませんから。そろそろ帰りませんか?」


数時間後には息も絶え絶えに疲労し尽くしたつくしが、リムジンの座席に沈み込んでいた。


「あら、まだ大事なところが残ってるわよ?」

「大事…?って、もうないです。大丈夫です。」

「あら、だめよ。オーダーするときのために、トレンドは押さえておかなくちゃ。」

「な、何の話ですか?」


この台詞を、今日は何度口にしただろう。
椿の思考はあちこちに飛び、思ったことをそのまま口にする。
解読できるのは慣れた椿の侍女、伊丹信江だけだ。


「つくし様、椿さまはウエディングドレスのことを仰っていらっしゃいます。」


岡村と並んで座る年配の信江は、椿の幼少の頃からの侍女で、椿の結婚の時にも離れずに共に輿入れしたのだった。


「ウエディングドレス!??」

「そうよ。そのうち子供が生まれるでしょ? そしたら披露宴があるでしょ? そこで着るドレスよ。つくしちゃんは何着着たい? 5着? 8着くらい必要かしら?」

「はちっ!? いえっ…いや、」


つくしはどこから突っ込んでいいのかわからない。
着数の問題じゃなくて、披露宴自体が問題なのだ。
いや、その前に子供なんて言葉が椿から当たり前に出てきたことにも驚いていた。


「お姉さん、私、その…子供は、まだ…」


言い淀むつくしに椿は屈折のカケラもない笑顔を向けた。


「いいの、いいの。つくしちゃんが産みたいなって思ったタイミングで司と話し合えばいいと思うわ。でもそれを抜きにしても、いつかは着てもらいたいから、下見だと思って。ね?」

「はぁ…」


つくしは奇妙な気持ちだった。
この椿をはじめとして、道明寺家の人々のつくしに対する寛容とでも言おうか、とにかく受け入れ方がつくしにはとても奇妙に思えた。
庶民の、それも典型的中産階級の娘であるつくしには、自分で言うのも虚しいが、取り立てた美点というものはない。
美人ではないし、お淑やかで従順ということもない。
武器になるような特技もなく、もちろん実家になんらかの影響力があるというわけでもない。

なのにこの人たちは、何をもってしてこんなにも自分に優しく、何もかも受け入れてくれるのか。
つくしには全く理解ができない。

司にしてももう飽きてもいい頃なのだ。
最初は、あの歳まで貞操を守った反動で女の肉体に溺れただろうが、初夜から数ヶ月、フィーバーも落ち着くはずだった。
しかし未だにその気配はない。
行為はより巧みに、深く、回数を重ねるようになり、最初の頃とは違う意味で翻弄されていた。

わかっている。
今はもう溺れているのは自分の方だ。
あの優しい瞳に、美しい肉体に、快楽を引き出すテクニックに、そして中毒になるほどの絶頂に導く彼の芯に夢中になっているのは紛れもなくあたし自身なんだと認めてしまえば、彼から離れるだとか、別の女性に譲るなどということがいかに非現実的か身に染みる。
でもそれでも、自分と添い遂げることが本当に司の幸福になるのか、つくしは未だに確信も自信も持てないでいた。



リムジンはマディソンアベニュー909番地にあるブライダルサロンに到着した。


「ほら、つくしちゃん、早く!」

「あっ、はいっ」


石造りの店構えはいかにも壮麗で、中に入るとまず目につくのは螺旋階段だ。
その階段を上った先のフロアでは、吹き抜けになったような高い天井から華奢なシャンデリアが吊るされていた。
そのシャンデリアを中心として円形にズラリとドレスがディスプレイされており、そのどれもが世界中の花嫁が垂涎するほどのドレスたちだった。
シルクとレースとチュールの世界。
白にこんなにもカラーバリエーションがあったのかと思うほど、青みがかった白から暖かみのある白まで、あらゆる肌色に対応した白の洪水だった。

そこに奥からオリエンタルな顔立ちをした女性が現れた。
年の頃は40歳前後だろうか。
ストレートでワンレンの黒髪を背中に落とし、洗い晒しの白いシャツを緩めに羽織り、ベージュのロングタイトスカートはスタイルに自信がないと着こなせないだろう。


『椿、待ってたわ。』

『ハイ! 連れて来たわ。この子がツクシよ。』



女性は椿とハグをして今日の出会いを寿いだ。
そして次にはつくしの前に進み出て右手を出した。


『あなたがつくしさんね。噂は椿から聞いてるわ。はじめまして。ここのオーナーのヴァネッサ・イトウ・リーです。』


つくしはその右手をとった。


『はじめまして。道明寺つくしです。』

ヴァネッサはつくしから一歩離れ、ぐるりと一周しながらしげしげと眺め始めた。


『ふーん…』

「あの…」


不安になったつくしは横目で椿を窺った。


「つくしちゃん、ヴァネッサはここのオーナー兼デザイナーなの。日系人でね、私のお友達。今、ここは世界中の花嫁の話題を攫ってる、ウエディングドレスのトップメゾンなのよ。ここならあなたに最高のドレスが見つかるわ。」

「トップメゾン!? いや、私は…」


その時、つくしたちを取り囲む円形のハンガーからヴァネッサが徐に1着のドレスを取り出した。


『これ! これを着てみて。ほら、早く!』

「えっ、あっ、はい。」


いつの間にか2名のスタッフが現れ、ドレスと共にとつくしを20畳はあるフィッティングルームに引っ張り込んだ。
あれよあれよという間に脱がされ、着せられ、髪を簡単に纏められた。
そこに椿とヴァネッサが入って来た。


『やっぱり! あなたみたいな細身の東洋人にはこういうスタイルを強調したドレスが似合うと思ったのよ!』


それは肩を露出したマーメイドシルエットのドレスだった。
シャンパンカラーに近い暖かみのあるシルクタフタの生地に、ハイウエストに巻かれた帯を思わせるサッシュベルトはブラックだ。
膝から下には切りっぱなしのチュールが一見無造作に何層も重なり合って縫い付けられてボリュームを出していた。
レースは使われておらず、ウエディングドレスとしてはかなり前衛的だ。


「キャーー!! つくしちゃん、似合うわぁ。」


椿は手を叩いて喜んでいる。


「そ、そうですか?」

「ね、じゃ、次はこれにして!『ヴァネッサ、次はこれを。』

『オーケー!』


次に着せられたのは真逆のドレスだった。
肩は相変わらず出ているが、細いウエストから下のスカート部分は見たことのないほど裾が広がっているプリンセスシルエットだ。
こちらはシルクジョーゼットがふんだんに使われたスカート部分と上半身を覆うレースが青みがかった白で染め上げられていた。


『うーん、こっちもいいわね。つくしの可愛らしさがひきたってるわ。』

『でしょう? 可愛らしさを出した方がいいと思うの。』



つくしを置き去りにして、ヴァネッサと椿の見立て合いに熱が入った。
それからも着せ替え人形よろしく衣装をチェンジさせられ、つくしは疲労困憊だった。


『椿は少女趣味すぎるわ! つくしは幼く見えても立派な大人の女性なのよ? もっとしっとりと色気のあるデザインの方がいいわよ!』

『ヴァネッサこそつくしちゃんの魅力がわかってないわよ! つくしちゃんは純粋で無垢なところが魅力なんだから、年齢なんて関係なく可愛らしさを前面に出すべきよ!』


ついには二人の間に火花が散り始めて、つくしはやっとのことで声を上げた。


『お二人とも、落ち着いてください! 今すぐに着るわけじゃないですから、今日はもう十分です!』

『あら、でも1年後には着るんでしょ? オーダーなら1年前なんて普通よ。』

『1年? 誰がそんなこと…』



と、二人の視線が椿に向いた。


「あら、オホホッ、そのくらいには披露宴ができるのかなーって思っただけよ。」

「お姉さん! 私にその気はありません!」


苦笑いの椿は、いつか必ずヴァネッサのドレスをつくしに着させると宣言してサロンを後にした。









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2020.07.08




マンションに向かう二人きりのリムジンの車内で、椿は向かいに座るつくしに聞こえるようにため息をついた。


「ドレスを着ればその気になるかなーって思ったのに、つくしちゃんて案外、頑固なのね。」

「頑固とか、そういうんじゃないですし、お姉さんだっていつでもいいっておっしゃったじゃないですか。」


さすがのつくしも数時間連れ回された疲労でつい愚痴が出てしまった。
唇を尖らせて、少しうらめしそうな表情を椿に向けた。


「プッ! アハハハッ、やっぱりつくしちゃんてうちの両親が見込んだだけあるわね。流されないし、ハッキリ物を言うし、そして頑固だし。」

「お姉さん!」

「フフッ、いいのいいの。そういうところがいいの。ね、ハッキリついでに聞かせてくれない? 司の子供は欲しくない?」


椿のいつも太陽のような笑顔は、時には夏の日射しになり、春の陽射しになる。
今は秋の日射しのように弱々しい温もりをつくしに伝えていた。
つくしはじっと椿の柔らかな瞳を見つめていたが、そのうちに俯いた。


「司さんは素晴らしい人だと思います。生まれに甘えずに努力と研鑽を怠らず、立派な後継者としてきっと道明寺をさらなる成功に導けると思います。それに、純粋な人です。庶民出の私にも優しくしてくれて、妻として大切にしてもらって、私は幸運な女だと思います。」


つくしの素直な心情の吐露を椿は穏やかに聞いていた。


「でも、いえ…だからこそ私じゃないと思うんです。もっと他に司さんを幸せにできる女性がいると思うんです。もっと彼を理解できて、寄り添えて、癒せる女性がきっといます。」

「それは司と同じ世界の女性って意味で言ってるの? 育った世界が違うからつくしちゃんじゃないって、そう言ってるの?」


つくしは俯いた視線の先で手を何度も組み替えた。


「それだけじゃありませんが、それは大きいと思います。」

「つまり、つくしちゃんを幸せにできる男性も司じゃないってことね?」


その言葉につくしは動きを止め、思考も一時停止状態になった。


「つくしちゃんは司には自分じゃないって言ったけど、裏を返せばそういうことでしょ? つくしちゃんにも司じゃないって、司を必要としてない、愛せないって、そういうことでしょ?」


思いもよらない視点からの指摘に、つくしは思わず顔をあげた。
秋の日射しのような微笑は消え去り、今は冬の寒風のような切なさが浮かんでいた。
つくしは戸惑う心をそのまま言葉にした。


「いえ、そんな、そういうわけじゃなくて、」


自分は何を言おうとしているのか。
司が好きで、あの温もりを必要としていると、そう言いたいのだろうか。
ならばなぜ彼から離れようと考えるのか。
愛する人の幸せを願うためか。
本当にそうなのか。


「ね、つくしちゃん、あなたのことは父と母が見つけたし、説得したのよね? そしてあなたは根負けして承諾した。司は道明寺の後継者としてそれを唯々諾々と受け入れたわけだけど、でもそれは紙切れの関係までよ。この数ヶ月、あなたと司が築いてきた関係はどんなものかしら。厳しいシキタリを超えて結んだ絆は本当になかったかしら? もしそういうものがあるとしたら、それは司が自分で決めて、選んで、あなたと一緒に作り上げたものであって、決して強制されたわけでも、ただの義務感でもないと思うのよ。」


椿の言葉の一つ一つがまるで硬く凝り固まった土を砕くハンマーのように、つくしの心の殻を打ち破っていった。


「ね、司がどうじゃなく、あなたの本心はどう? つくしちゃんは司とじゃ幸せになれない? 司じゃ嫌?」


つくしは自分でも訳がわからぬままに込み上げる涙が頬を転がり落ちるのを感じ、唇を噛んだ。


「…嫌じゃ、ないです。一緒にいたいと思ってます。」


椿はつくしの横に座り直し、膝の上で強く組み合わされたその手を取った。


「だったら、」

「でも、わからないんです。不安なんです。さっきお姉さんは司さんが自分で選んだっておっしゃいましたが、私にはそうは思えません。もっと広い世界には素敵な女性がたくさんいます。私しかいないから私なんじゃなくて、たくさんの人の中から私を選んで欲しいんです…!」


つくしは自分の言葉で自分の本心に気づいた。
そうだ、そうだったんだ。
家柄とか、容姿とか、人格とか、司と一緒にいられない理由を言い訳のように並べていたけど、本当は選ばれたかったんだ。
どんな美女よりも、どんな高貴な女性よりも、どんなに気立てのいい人よりも、お前しかいない、お前がいいんだと言われたかったのだ。

司の優しく明るい笑顔が浮かんだ。
彼がどんな男か知っている。
姿だけでなく、心も美しい人。
もうこんなにも愛しているからこそ、失うのが怖い。
後から出会った女性にいつか心を奪われるんじゃないかと思うと、今すぐに全世界の女性と出会って欲しい。
そしてそれでもお前がいいんだと選んでもらえたなら、もう何も憂うことなくその胸に飛び込んでいけるのに。
その時には、彼の子供を喜んで身篭りたい。
司の子供が産みたい。


「うぅ…グスッ…」


絶え間なく流れ落ちる涙を、止める術を今のつくしは知らない。
その涙を椿が春の女神のような微笑みで拭った。








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2020.07.09
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