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俺は高山悠介
花沢物産、法務部に勤める34歳だ。
通勤はドアtoドアでおよそ1時間30分。
朝は7時には家を出る。

6時に起きて最初にするのは俺の夫である順にキス。
順はマイカー通勤で、出るのは俺より40分後だ。
ベッドを出れば部屋も出て洗面へ。
顔を洗って歯磨き。
朝食の後にもするけど、起き抜けにもする。
これでこの5年は風邪も引いたことがない。

洗面を出てリビングへ
着替える前に朝食だ。
先に起きてるつくしが毎朝、バランスのいい朝食を出してくれる。

つくしは俺と同い年の34歳。
でもきっと歳より若く見られてんじゃないかな。
だって、家族で出かけた時、必ずと言っていいほどつくしは俺の妹に間違えられる。
他人が俺たち5人を眺めた時に「妹家族とその兄」って図に見える(っていうか、それで無理やり納得してる)らしく、そんな時、兄役はほぼ俺だ。

朝食をとってたら子供達が起きてくる。
清佳は4歳から自分で起きてるしっかり屋さん。
壮介はつくしか俺が起こしてる。
容姿は俺そっくりと言われる壮介だが、甘えん坊なところは順に似てる。
でも最近、つくしに対しては反抗期のようだ。
だから壮介を起こすのは専ら俺の役目。

子供達に朝の挨拶をしたら洗面で身支度を整えて自室で着替える。
ここで順が起きる。
起きた順にちょっかいを出されて着替え直すのもよくあること。

出る時間になってリビングに顔を出すと子供達が朝食をとってる。
その横では起きてきた司さんが、座ってタブレットで世界の市場をチェックしてる。
司さんに挨拶をして子供達の頭を一撫でしてから家を出た。

駅までの道を歩きながら考える。
そう言えばつくしはもうすぐ妊娠5ヶ月だな。
司さんは出産に立ち会うのだろうか。
だとしたら両親学級に参加しないと。
今夜、帰ったら話してみよう。




*********




「つくし、司さんは出産に立ち会うのか?」


9時を過ぎて帰宅した俺に夕食を出してくれているつくしに声をかけた。
スレンダーなつくしの腹がややふっくらとし始めている。


「えー、あたしは嫌。外で待っててもらいたい。」

「でもそうすると、誰に付き添ってもらう? 千恵子さんか?」


千恵子さんはつくしの母親だ。
俺たちのことも可愛がってくれている。
気さくな人で、自分の娘が代理母になると言った時も、「いい経験じゃなぁい。」と軽く言い放った人だ。


「んー、それも面倒だな。あの人は忙しなくて周囲を困惑させる名人だし。出産どころじゃなくなちゃう。」

「今回は俺も順も付き添えないぞ。司さんを差し置いてなんて絶対に無理。」

「そうだよね〜。あ〜どうしようかな。てかさ、付き添いいらないよ。3回目だし。」

「そうか? 司さんとよく話し合えよ。両親学級もそろそろだろ?」

「そうなんだよね。あれにあの人を連れて行くとなるとそれも面倒。」


つくしの悪阻は治ってきたけど、それと同時になんでも面倒くさがるようになってきた。
無理もない。
清佳や壮介のときに勉強したけど、妊娠すると女は人格が変わる。
別の人間になると思った方がいい。
少しのホルモンバランスの変化が大きな影響を及ぼすのだ。

ただ実際、司さんはやや面倒な人ではあるけど。


「よく話し合っとけよ。その時になって急に立ち会うとか言い出したら大変だからな。」

「うん、わかった。」


つくしが通うのは清佳と壮介を産んだ産院だ。
その病院で男が出産に立ち会うためには計3回の両親学級への参加が絶対条件だ。
だから思いついたように立ち会いを希望しても、さあ出産というタイミングでLDR(陣痛分娩室。陣痛から分娩までを一室で行う設備を備えた部屋。)から追い出される。
俺も順もその教室に参加して清佳と壮介の時は立ち会った。


「立ち会わない方向でなんとか説得してみる。」

「でもなんで嫌なんだよ。俺たちの時はしたじゃん。」

「だって、あたしは代理母だったんだよ? むしろあんた達は立ち会うべきだった。見届ける責任があったと思うし、子供を産む痛みを見て理解して自分たちが産んだ気になって欲しかった。清佳や壮介にすぐに愛情を感じて欲しかったのもあるから。」

「司さんは?」

「あの人はほら、ああいう人じゃん。」

「ん、まぁな。わからなくもないけど。」

「医者は女医じゃないとダメだとか、やれ触るなだとか、やれちゃんとやれだとか言いそうじゃん。あんな大変な時にそんなこと言い出したらあたしがあいつをぶっ飛ばしかねない。それに、」

「それに?」

「んー、立ち会ったがゆえに、その後、妻を女として見られなくなったって話を聞いたことがあって…」

「マジ!?」

「ん、なんかトラウマになったとか逆に神秘的過ぎて萎えるとか。」

「プッ、つくし可愛い。つまり司さんに女として見られなくなったらってことを心配してるわけだ。」

「そうじゃないけど…」

「ま、どちらにしてもアドバンテージは女にある。つくしが嫌ならちゃんとわかってもらえよ。俺たちは口出ししないから。」

「いやむしろ、援護よろしく。」

「OK」


「ただいま。なんの話だ?」


順が帰ってきた。
いましがたつくしとした話をして、順もつくしを応援することになった。




*********




日曜日。

いつもより1時間遅く起きてリビングへ。
いつもならつくしが起きてるけど、今日は姿が見えない。
妊婦なんだ。
体の怠さがあるだろうし、気分の浮沈もあるだろう。
今朝は俺が朝食を用意しようとキッチンに入った。
そこに清佳が起きてきた。


「清佳、おはよう。」

「悠パパ、おはよう〜。ねぇ、」

「ん? どうした?」

「ママの部屋から喧嘩してる声がしてるよ。」

「喧嘩!?」


廊下に出ると確かにつくしの部屋から声が漏れてる。
壁を厚くしてるから普通なら聞こえないはずなのに、かなり大声で言い争ってるな。


「だから、ヤダって言ってるでしょ! 産むのはあたしよ!?」

「でも俺の子だ! あいつらは立ち会ったんだろ!? 俺がダメな理由はない!!」

「あたしが嫌ならそれが立派な理由よ!!」

「嫌がる理由がわかんねぇって言ってんだよ!!」


コンコン!


俺は少し強めにノックした。
これ以上ヒートアップしたらつくしの腹が張る。
クールダウンさせて休ませないと。


ガチャ


ドアが開いてつくしが顔を出した。


「つくし、おはよ。声が廊下まで漏れてる。あまり大声出すな。腹が張るぞ。」


つくしは髪をかきあげた。


「ハァァ、ごめん、ありがと。」

「つくし!」


パタン


ドアが閉まる直前に聞こえた司さんの声はまだ尖っていて、話は終わっていない事を物語っていた。

つくしは立ち合いは嫌だって言ったけど、そのこととは別にしても司さんは両親学級に参加したほうがいい。
もう少し、妊婦や妊娠、出産について勉強すべきだ。
妊婦相手に声を荒げるなんて、これから父親になろうって男がみっともないよ。

またキッチンに戻って清佳と朝食を準備してたらつくしが部屋から出てきた。


「ママ、おはよ〜」

「清佳、おはよ〜」

「なんか、喧嘩してた?」


つくしがゲッって顔をした。
そうだよ、清佳にも聞かれてたんだよ。
俺の顔を見て「ごめん」って声を出さずに口だけ動かした。


「ううん、大丈夫。喧嘩じゃないの。あれは議論よ。清佳も学校でするでしょ?」

「するよ。お互いの意見を聞きあって、良いところを見つけて、合わせてもっと良い意見にするの。」


清佳は中学受験をする予定になってる。
年明けから塾に通わせることを順と決めてる。
勉強ができて聡明なだけじゃなく、優しい子だからきっと将来は大物になると俺も順も思ってる。


「そ、そっかぁ。清佳はすごいね〜。ママも見習わなきゃ。」


ダイニングに座りながらつくしは苦笑いをした。


「つまり、司さんの意見との妥協点を探るわけだな。」

「妥協点…なんてあるかな。」

「立ち会いはつくしの希望を通したほうがいいと思うけど、両親学級には参加してもらったら? 司さんはもっと勉強したほうがいいよ。」

「ハァ、そうなるか…」

「あの人だって父親になるのに何も知らないじゃ不安だろ。」

「ん、わかった。」


ひとまずつくしが妥協した。
司さんは計3回の両親学級に参加することになった。








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2019.12.01




今日はつくしと司さんが第1回目の両親教室の日だ。

両親教室のカリキュラムは3回に分かれていて、第1回目の今日は「妊婦の栄養と運動」をテーマに妊娠中の過ごし方をレクチャーされる。

両親教室が開催されるのは隔週土曜日の午前中になっている。
休みだった俺は、朝から上機嫌の司さんと早くも疲れたような顔をしたつくしを見送った。
休憩を挟んで2時間くらいだから往復を入れて3時間ほどかな。
昼過ぎには帰ってくるはずだ。

なのに、出かけてから2時間で帰ってきた。
司さんの額には青筋が立ち、つくしはため息交じりの苦笑いだ。
ドカッとソファに腰掛けた司さんをチラリと見遣りながら俺はリビングに入ってきたつくしに抑えた声で尋ねた。


「おかえり、早かったね。」

「ハァ…それがさ、」


司さんが何か無理を言い出して暴れた?と思ったら逆だった。


「ママさんたちがみんな司に釘付けでさ。みんなで前を向いてお話を聞いてた時はまだ良かったんだけど、夫婦で組んで妊婦体操するって別室に移動するときに事件が起きて…」

「何? 司さんがキレたとか?」

「違うの。ひとりのママさんがさ、司にお腹を撫でてもらいたいって言い出してさ…」




『あの、すみません。』
『あ?』
『あの、初対面の方に不躾なんですが、あの、私のお腹を撫でてもらえませんか?』
『は?』
『この子、男の子なんです。あなたみたいなハンサムになるようにあやかりたくて。』




「…マジ?」


俺は司さんにコーヒーを出し、ダイニングテーブルについたつくしにはノンカフェインの紅茶を出した。


「あたしも驚いたわよ! でも大真面目でね。さすがのあの人も驚いてた。」


そう言いながらつくしはソファで憤然とする司さんを視線で示した。


「だろうね。で、撫でてあげたの?」

「それがね、めちゃくちゃ冷たい目をして無視しちゃったの。そしたらその女性の旦那さんが怒り出して…」

「旦那が!?」

「うーん…嫉妬だったんだと思う。「うちの嫁が頼んでんのに無視するな!」って絡まれちゃって。」

「うっわ……で?」

「まさか暴れるわけにもいかないから、帰ってきたの。もうその場にいられるような雰囲気じゃなかったし、あわよくば私もって目をキラキラさせてるママさんたちと、こっちを睨むパパさんたちに囲まれちゃったし。」

「マジかよ…」

「あー、やっぱり無理なんだ。」

「無理じゃねぇよ!」


ソファに沈んでいた司さんがこちらを向いた。


「あいつら揃って馬鹿だろ。なんで俺が他人の嫁の腹を撫でなきゃならないんだよ。俺は安産の神か!? それに俺を睨むのも筋違いだろ。テメェの節操のない嫁を睨めよ!」


今回ばかりは司さんが正論だ。
正論なんだが、その妊婦さんの気持ちも少しわかってしまう。
こんなに神々しいまでのハンサム、あやかりたいと思うのは自然だよ。


「それで、これからどうするの?」


つくしが紅茶に砂糖を3杯入れた。


「つくし、入れすぎ。」

「あ、ごめん。…そうだなぁ、どうしようかなぁ。ねぇ、もう諦めようよ。」


なんとか立ち会わせたくないつくしは両親学級自体を諦めさせようとしてる。


「いいや。諦めない。オフィスに出張させる。出張両親教室だ。」

「はぁぁ!??」


司さんは立ち上がり、リビングを出て行った。




********




両親教室は司さんのオフィスに場所を移して出張形式で行われることになった。

つくしは妊娠と同時に司さんに仕事を辞めさせられていたから、両親教室の第1回目は司さんのスケジュールに合わせて平日の昼間に行われた。

今日はその2回目。
確か夫が妊婦体験をして出産の教育動画を観るはずだ。
陣痛から出産まで、際どいとこギリギリまで映し出される。
順といっしょに見た時は衝撃だった。
女に生まれなくて良かったって心底思ったもんだ。
そしてそんなことまでして俺たちの子を産んでくれるつくしに心の底から感謝が生まれたっけ。

司さんの反応はどうかな。
あの人、1回目の教室の後、道明寺社屋を含めた半径1kmの範囲を完全禁煙にしたんだよな。
自社はもちろんのこと、周囲のビルの喫煙室も潰し、路上の喫煙スペースを移動させ、全社を挙げた禁煙運動を起こして非喫煙者に手当を出すことにしたんだよ。
喫煙者が禁煙に成功したら金一封とか。


「俺の前で煙草を吸ったヤツは島流し! ああん!? 他所の会社のヤツ!? そいつも島流しだ!!」


って息巻いてたな。
面白すぎ。
だから今日はどんな反応だったのか、密かに楽しみにしてるんだ。

駅を出てそんなことを考えながら歩いていたら、あっという間に自宅マンションに到着した。


「ただいま。」


玄関に入るといつものように子供達が駆け寄ってきてくれる。


「「パパ〜、おかえり〜」」

「おう、ただいま。」


子供達の頭を撫でる。
この瞬間に1日で蓄積したストレスが消えていく。


「ねぇねぇ、パパ!」


壮介はいつも落ち着かないが今日は特に興奮気味だ。


「どうした、落ち着け。」

「司パパが変だよ! いつも変だけど、今日はいつもよりすごく変だよ!」

「え?」


司さんもう帰ってるのか?
壮介に腕を引かれてリビングに入ると…なるほど、これは変だね。

そこにはつくしのエプロンをした司さんが立っていた。






「よう、おかえり。」

「あ、はい、ただいま…です。」


ワイシャツとスラックスの上に、つくしのピンクで肩紐にフリルがついているエプロンをした司さんが洗い物をしている。

その横には戦い疲れた顔のつくしが椅子に座らされていた。


「悠介、ハァイ」


つくしは力なく手を振った。
何があった?


「えーと、今日は両親学級2回目だったよね?」


俺はカバンと上着をとりあえずソファに投げてキッチンの入り口に立った。
壮介は風呂、清佳は自分の部屋に入って行った。


「おお! そうなんだよ! それで観たんだよ! 俺は観たんだよ!」


興奮しきりの司さんが鼻息荒く皿とスポンジを持ったまま俺に向いた。


「ちょっと! だから雫が落ちるって! 何回言ったらわかるんだ、このバカッ!」


つくしに怒鳴られた司さんはガチャン!と食器とスポンジをシンクに置いて(投げて?)手の泡を流してピンクのエプロンで拭き(この時点でものすごいシュールなんだけど)つくしに向いた。
怒鳴り返すのか!?とヒヤリとした次の瞬間、司さんは座っているつくし(の頭)を抱きしめた。


「よしよし、よーしよし、落ち着け。怒鳴ったりしたら腹が張るだろ? そしたら子供が苦しいんだろ? な? 落ち着け。」

「〜〜〜!!」


あたしゃ犬か!? 猫か!? んでもってあんたはムツゴロウか!

というつくしのツッコミが聞こえてきそうな光景だった。


「司さん、そろそろ離さないとつくしが息できてませんよ?」


つくしがグングンとエプロンを引いてるのを見て言った俺の言葉に「おお、悪りぃ」と言って司さんは離れ、そしてまた皿洗いに戻った。
その顔に笑顔を貼り付けて。


「ッハァ、ハァ、もう、つきあってらんない。じゃ、そこよろしく。」

「おう! 任せとけ!」


立ち上がってソファに移動したつくしに、
俺はいつかのように声を潜めて今日の話を聞いた。


「あれ、どうしたの?」

「それがさぁ、」


つくしが道明寺日本支社社屋に出向いた両親学級第2回目は、役員フロアの応接室で行われた。


「最初は順調だったのよ。講師の人が持ってきてくれた妊婦体験キットを身につけてさ、『すげぇ重いな
』とか『こんな大変なのか』とか関心しきりでさ。」


それがどうしてああなった?


「その後、出産のドキュメンタリーDVDを観たの。ま、あれってさ、赤裸々じゃん。包み隠さずっていうか。」

「確かに俺も順も最初に見たときはビビったよな。と言っても大切なことだからな。」

「そりゃあたしもさ、出産の大変さを少しでもわかってもらえたらいいなくらいの軽い気持ちだったんだけどね。」

「少しじゃなかった、と?」

「固まっちゃってさ、終わってもしばらく応答がなかったもん。」

「それであれか?」

「うん。目を覚ましたような表情であたしの肩を掴んでさ、」




『つくし、お前がこんなにしんどい思いしてることに気がつかなくて悪かった。子供を産むのがここまで壮絶なもんだとは知らなかった。俺のためにありがとうな。愛してる。お前のワガママはなんだって聞いてやる。だから今日はもうお前と一緒に帰る。』




「とか言い出して大変だったの。秘書さんとなんとか宥めてオフィスに戻してさ。」


その後、子供の下校に合わせて帰ろうとしたつくしを引き止め、無理やりソファに寝かせ、強硬に帰ると言い張るつくしを抱きかかえて車に乗せ、送り届けさせ、邸から使用人を呼び、家事一切をさせ、自分も早く帰って皿洗いをすると言い張り、つくしの指導を受け、今に至った。らしい。


「ハァァァ…いつもの何倍も疲れた。」

「ククッ、お疲れ様。」

「明日からどうしよう。」

「妻を大切にしたいって思ってくれてんだろ? いいことじゃん。父親への第一歩だよ。」

「そうだけどさ…加減てものを知らない人なんだよ。」

「今はフィーバーなんだよ。そのうち落ち着くよ。」


が、司さんのフィーバーはなかなか落ち着かなかった。
家には使用人さんが通ってくるようになり、つくし専属の運転手と車が用意され、ついには世田谷の道明寺邸に全員で移る話まで出てつくしはとうとうブチ切れた。











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2019.12.02




日曜日の朝、つくしはまだ部屋から出てきていなかったけど、ダイニングにはすでに焼き立てのパンの香りが立ち込め、瑞々しいサラダにツヤツヤしたハムエッグ、暖かいスープと宝石のようなフルーツが並んでいた。

邸から派遣されている使用人さんは午前と午後の交代制でそれは日曜日でも例外ではない。


「高山様、ご朝食になさいますか?」

「あ、そうですね。お願いします。」

「かしこまりました。」


こんな会話にも慣れたけど、慣れていいんだろうか。


「パパ、おはよ〜」

「清佳、おはよう。」

「ママ、また喧嘩してるよ。」

「えっ?」


廊下に出ると確かにつくしの部屋から声が漏れていた。
でも今回、聞こえるのはつくしの声だけだった。


「もういい加減にして! あたしは普通の生活がしたいの! 使用人さんは必要ないし、邸にも移らない!」

「ーーー」

「誰が怒鳴らせてんのよ! そう思うならあたしの意見を尊重してよ!」

「ーーー」

「いや、そりゃわかってるよ。その気持ちは嬉しいよ。でもね、ものには加減てもんがあるの! 子供達だって混乱するでしょ?」

「ーーー」

「英徳ぅ!!? ダメ! 絶対ダメ!! それにそれを決めるのはあたしたちじゃないでしょ!? 清佳も壮介も順と悠介の子供達なんだよ? 勘違いしないでよ!!」


話の内容が手に取るようにわかった。
でもこれ以上、つくしをヒートアップさせるわけにはいかない。
俺は強くノックをした。


コンコン!!


声が止んだ。
ドアが開いてつくしが顔をのぞかせた。


「ごめん。声、漏れてた?」

「うん、つくしの声だけね。赤ちゃんに喧嘩の声ばかり聞かせちゃダメだよ。」

「うっ…そうだよね。気をつける。」


やれやれ。
夫婦ってのはどこでもいろいろあるだろうけど、男女の夫婦ってのはあんなに分かり合えないものかな。
俺と順だったら目を見てればわかるけどな。
だから今まで大きな喧嘩らしい喧嘩はしたことがないわけだし。

なんだか急に順の顔が見たくなって、俺はリビングには戻らずにそのまま自室に戻った。








結局、邸に移らない代わりに、週に4日、使用人さんが通ってくることをつくしは受け入れた。
そして外出するときは必ず車を呼ぶことも約束させられた。


「いちいち過保護すぎ! 両親学級に参加するたびに大騒ぎだよ。この先が怖い。」


司さんが出張でいない朝、つくしは俺に朝食を出しながら愚痴をこぼした。
両親学級の第3回目は新生児の世話について学ぶんだ。
これなら騒ぐことはないと思うけど、でも相手はあの司さんだ。
予想外なところから球を投げてくるからな。


「3回目は明日だっけ?」

「そう。車で行かなきゃ。ハァ、もうそれも億劫だぁ〜。」





最近のつくしの口癖は『億劫』か『面倒』だ。
もしかして……


「あのさ、つくしさ、司さんと、その……ある?」

「ある? 何がある?」

「だからさ、アレだよ。」

「??? アレ?」

「……ふ、夫婦生活だよ。」


他の家族はまだ誰も起きてなくて、このリビングには二人しかいないのに俺は口元に手を当てて、なんだか照れたような気分でつくしに囁いた。


「えっ! ちょっ…何言い出すのよ!」


真っ赤になりながら、つくしも声を潜めていた。


「面倒だ、億劫だって断ってない?」

「断ってるっていうか、帰ってきたときにはあたしは寝てるし、あいつが休みの日もあたしはすぐに眠くなっちゃうし…」

「どのくらいしてないの?」

「な、なんでそんなこと悠介に言わなきゃいけないのよっ。」

「…かなりしてないね。数ヶ月はしてないでしょ?」

「だ…だから、言う必要ないって…それに妊娠中なんだからなくて当たり前なんじゃないの?」


俺はハァァとため息をついた。
そっか、今まで清佳の時も壮介の時も、つくしにパートナーはいなかった。
だから妊娠中の交渉について考える必要はなかった。
でも今は司さんがいる。
3人目にして初めて知る壁。
それは妊娠中の夫婦生活についてだった。

俺はダイニングに座ったまま、つくしを手招きした。


「司さんが過保護な理由はそれだよ。お前が疲れてるからできないと思ってるんだ。今度、お前から誘え。」

「えーー!!…っとと。そ、そんなことできないわよ! それに、妊婦に欲情するの?」

「妊婦かどうかは関係ない。あの人にはお前しか見えてない。」

「でも、赤ちゃんがいるのに…」

「それでもスキンシップは大事だろ。無理しなくていいけど、特に司さんは初めてのことで不安なんだから、寄り添うのが夫婦だろ。」

「……わかった。」


つくしはまだ頬を染めながらも、それでもこの過保護状態から抜け出せるなら、と決意を固めたようだった。




********




その日は家事を使用人さんに任せてたっぷり昼寝をしたと言うつくしが司さんの帰宅を待っていた。


「じゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」

「頑張って。」

「頑張らないわよっ」


つくしをリビングに残し、なんの話だ?と、頭にクエスチョンマークを貼り付けた順を連れて自室に引き上げた。








翌朝、つくしの話を聞こうといつもより早起きして毎朝恒例の起き抜け歯磨きをするために洗面に入ると、つくしが鏡の前に立っていた。


「ああ、ごめん…ってそれ!」


ブラにキャミソール姿のつくしの肌にはキスマークが散っていた。
その姿を見たのは二度目。
司さんがつくしの記憶を取り戻して、初めてつくしの部屋に泊まった朝以来だった。


「悠介っ!」


つくしがパッと手で胸元をかくして振り向いた。


「成功したんだ。よかったじゃん。司さん、喜んだだろ? なっ?」


つくしは顔を赤くしてはにかんだ。


「うん、喜んでくれた。けど、それだけじゃなかった。」




********




あたしは悠介からのアドバイスを受けて今日はお昼寝をたっぷりして司の帰りを待っていた。

司は一昨日から地方に出張だった。
今日は移動だけのはずだから早々に帰社して仕事して帰ってくるはず。
と、玄関で物音がした。
帰ってきたんだ。

あたしはリビングを出て玄関に向かった。


「おかえり。」


玄関には司が連れてきた冬の匂いがしてた。

そんな空気を纏いながら俯いて靴を脱いでいた顔がハッと上がり、すぐに半分、笑顔になった。


「ただいま。起きてたのか。」


それは、驚いたけど嬉しいって顔で、その顔を見て、今朝、悠介に言われた言葉がストンと胃に落ちた。


『特に司さんは初めてのことで不安なんだから、寄り添うのが夫婦だろ。』


この家で妊娠・出産を目の当たりにするのは司だけが初めてで、あたしも悠介も順も3回目。
悪阻も妊娠の経過も「ああ、あれね。はいはい。」って感じで受け流してた。
司にとっては疎外感があったかもしれない。
わからないことをわからないって、不安なことを不安だって言いづらい雰囲気にしてたかもしれない。

清佳の時、あたしは出産までに順と悠介に父親になるって意識をしっかり持って欲しくて3人一緒にいろいろ頑張ってた。
両親学級もちろん、日常でもお腹に触れてもらったり、妊娠線のマッサージをしてもらったり。
あたしと同じ速度で命が生まれるって自覚をもってもらおうと必死だったと思う。
それを司にはしてない。

あたしの中でいざとなったら順や悠介がいるって、どっかでタカをくくってたんだ。
あたしが頼っていいのは司だけなのに。
順と悠介の夫夫(ふうふ)は言わばお隣さん。
自分の夫を差し置いて、お隣の夫夫に頼るって完全におかしいよね。


「まだ寝なくていいのか?」


ただ今、時刻は23時40分過ぎ。
いつもならあたしはとっくに寝ている。


「いいの。今日は目が冴えちゃったから。」


廊下を歩きながらコートを受け取ろうとしたら、あたしには渡さずに自分で持って廊下を歩き出した。


「貸しなよ。掛けとくよ。このままお風呂に入っちゃったら? 着替えは出しとくから。」


すると前を歩いていた司は振り向かずに答えた。


「重いからいい。自分で掛ける。」


こんな風に、小さなことでも気遣ってくれる。
司はもうちゃんとお父さんじゃん。


「このくらい大丈夫だから。このままお風呂入ってきて。」


コートを引っ張ってその足を止めさせた。


「なんだよ、気持ち悪りぃな。またなんか話でもあるのか?」


あたしの様子が普段と違うからか、振り向いたその表情には警戒心が浮かんでる。


「話なんてないよ。たまにはいいじゃん。ほら、入っておいで。」


せっかく起きてるんだから、奥さんらしいことしますよ。
なんて殊勝に思っていたあたしに司が一歩近づいた。
廊下の灯りを司の長身が遮ってあたしが影に入る。


「なに?」


見上げて問えばさっきの素直な笑顔じゃなくて何か企んだように口角を上げている。


「一緒に入ろうぜ。」

「はぁ? 入らないよ。入ったもん。」

「もう一回入ればいいじゃん。みんなもう寝てんだろ? 誰にも見つかんねぇよ。」

「悠介たちはきっとまだ部屋で起きてるよ。それに狭いし、それに、」

「それに?」

「…とにかく、あたしはもう入ったからいい。入浴って疲れるんだからね。」


『疲れる』の言葉で司はあっさりと引き下がった。
やっぱり気にしてくれてるんだ
ということはあたしを気遣って我慢してくれてたってこと?
つまり、チャンスがあれば触れたいってこと?
妊婦だよ?
したいの?
そういう気になるの?

あたしは二人の部屋に入ってコートをクローゼットにかけ、司の着替えを脱衣所に持って行き再び部屋に戻ってベッドに座り込んだ。

ここからどうしよう。
スキンシップって、何をきっかけにすればいいの?
いきなり襲いかかられても困るんだけどな。
うーん…

その時、あたしの視界にあるものが入った。









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2019.12.03
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2019.12.04




皆様、こんばんは!

師走も半ばに入り、いかがお過ごしでしょうか。
私は空き時間を見つけてはいろいろ書いてます。

「18歳のキス」を完結させて、次はどれにしようと思案した時に一番書きたかったものに着手したのですが、これは早々に諦めました。
それはまだ誰も完結させていない分岐の大作で、どうしても完結が読みたいので自分で書くことにしたのですが無謀でした。
いや、無謀と言うより身の程知らずでした。
大作家様たちが挑んできたアレに、私ごときが挑もうなどと考えるだけ厚顔無恥、おこがましいの一言でした。

というわけで、その次に浮かんだ新作をちょっと書いたのですが、そのテーマソングがB’zというわけです。
たまたま私の母の部屋を片付けていた時にB’zの『IN THE LIFE』というアルバムが出てきまして。
本当に久しぶりに聴いたんです。
そしたらめちゃくちゃイイ!!

最近はback numberとかofficial髭男dismとか聴く機会が多かったんですが、どっか内向的な男性像を想像させる歌詞だったんです。
それも良くて聴いては浸ってたんですけど、B’zのこのアルバムの中の90年代初めの、まだ弾ける前のバブル時代の、世の中がイケイケドンドン、強気だった時代の男性像にズキュゥゥーーン!!と撃ち抜かれました。

もうね、単なる身勝手な男の身勝手な言い分ですよ。この歌詞たちが。
ヤることしか頭になかったり、愛想尽かしてた女が出て行って清々してたくせに甘えたいときだけ思い出して自己陶酔、みたいなね。
女としては「ふざけんな!!」て言いたくなるような歌詞ばっかりなのに、それが稲葉さんの声に乗るとあら不思議。
それでもいいから抱かれたい!と思える(笑)

back numberは男性ユニットで作り手も歌い手も男なのに、聴いてると「ああ、女に生まれるっていいな。」と思わせてくれるんです。
でもB’zは(少なくとも初期は)男の身勝手さ、我が侭さをこれでもかってくらいに押し付けるように歌い上げてて愛想尽かしたくもなるのに、そんな男が可愛いと思っちゃう女の性(サガ)を思い知らせてくれるんです。

結局どっちも「女ってイイな」って話なんですけどね(^^;)



で、この『IN THE LIFE』の中の『快楽の部屋』ってのがテーマ曲になって妄想したのが「ある二次小説家の受難」ってタイトルのお話です。


B'z/『快楽の部屋』
クリックでyoutubeのウインドウが開きます


「ある二次小説家」ってのはつくしのこと。
そう…つくしが二次小説を書いてるって設定なんです。
つくしが元にしているのは「桜より団子屋」ってコミックで、主人公は草野スズナと長命寺くんという設定になってます。
お察しの通り、「花より男子」を捩っております。
タイトル「受難」になってますが、完全に私の「夢」と申しましょうか・・・

もしもこれが連載になった折りにはnonaはこんなことを夢見てんのかとお笑いください。


が、しかし!
次の連載作品はこれではありません!
期待させといてごめんなさい。。。

次は、「夫婦恋愛」をお届けします!
オモテの作品です。
これは「【ぼやき】妄想暴走中」の中で紹介した作品のなかのひとつです。
「御クビ」執筆中に現実逃避するように思いついて書き始めたもので、「御クビ」「18歳」とちょっと苦悩系が続いたので今度は明るいラブコメ調にしようと思ってこれに決めました。

現在、鋭意執筆中ですので連載開始がいつになるかはわかりませんが、冬が終わるまでには始めたいなぁ。

というわけで、連載開始の告知ではなくて大変に申し訳ないのですが、まだしばらくお待ちいただけますか?


クリスマスやつくしの誕生日の短編も書けたらなぁ、とは思っているのですが、お察しの通り私は短編が苦手です。
私自身がそれらに興味がないせいもあるんですが、クリスマスだからって何!?って状態で何も浮かびません。
というわけで新作優先で書き進めたいと思います(完全に言い訳ですよね)。
・・・もし、短編アップしてたらごめんなさい。先のことはわからないので・・・


ではでは、年末も押し迫ってまいりました!
人それぞれ、年末年始には様々な思いがおありかと存じますがこれだけは!

どうか皆様、ご自愛ください!


また【近況報告】させていただきますね〜


                  nona
     











          
2019.12.11




皆様、こんばんは!


今日は告知です。
クリスマスの短編をアップします。


Music Collaboration
      「恋人がサンタクロース」



前・中・後編の3話からなっておりますので、22日〜24日の3日間、17時更新予定です。
今回は引用している歌詞が短いので、パス制ではございません。


お楽しみいただけたら幸いですo(^▽^)o

                  
                   nona




2019.12.19




 恋人がサンタクロース
  本当はサンタクロース
  つむじ風追い越して
  恋人がサンタクロース
  背の高いサンタクロース
  雪の街から来た


  あれからいくつ冬がめぐり来たでしょう
  今も彼女を思い出すけど
  ある日 遠い街へとサンタがつれて行ったきり



いつもママは機嫌が良いとキッチンで明日のお弁当のおかずを作りながら歌を歌う。
美声というわけじゃないけど、ママの歌はいつもどこか私を安心させてくれる。

私、道明寺瀬里、10歳。
小学4年生。
家族はパパとママ、それと、

「ねえちゃん!」「ちゃん!」
「えっ」

キッチンのママが見えるダイニングテーブルで宿題をしてた私の背後からヒョコッと顔を出したのは一卵性双生児の弟たち、誠と実。
5歳の2人は幼稚舎の年中さんだ。

「恋人ってなんだ?」「なんだ?」
「恋人ってのは好き同士で付き合ってる人のことよ。」
「好きどうし?」「好き?」
「そう。パパとママみたいにいつも相手を大好きって思ってる人たちのこと。」
「マコトとママとか?」「ミノルとママとか?」
「それは親子。恋人は他人だけど好きな人なの。」
「ふーん。」「ふーん。」

それだけ言うと2人はリビングを出て廊下を駆けて行った。
そこに内線がかかった。

「はい。」

ママが出る。

「はーい」

高い声はパパがもうすぐ帰ってくる知らせの証拠だ。

「瀬里、」
「うん、行く。」

パパが帰ってくる時は使用人も含めて一家総出でお出迎えする。
エントランスに並んで、みんなで「おかえりなさい」って迎えると、車から難しい顔をして降りてきた時もパパは笑顔になってくれる。

「誠と実は?」
「廊下に出てったからあっちで揃うと思うよ。」

私の言葉通り、並び始めた使用人の列の中に二人も混ざっていた。
そのうちにポーチに車が入ってきて、パパが降りてきた。
執事が開け放った扉からエントランスに入ってきて、私たちを確認したらほらね、笑顔になった。

「「「おかえりなさいませ」」」

居並ぶ全員で挨拶をする。
そしたらパパはまず最初にママに歩み寄ってその額にキス。
そして次に私の頭にもキスをしてくれて、誠と実には頭をクシャッと撫でる。

「パパ、俺にもチューして!」「して!」
「男にはしねぇよ!」

こうしていつも2人のガキンチョに纏わり付かれながら部屋に向かうのがパパの日課だ。

パパは本当は忙しいんだけど、家族の時間も大切にしたいからって私たちに合わせて帰ってきてくれる。
そして私たちが寝てから書斎で仕事をしてるんだって。

パパが帰るとダイニングで夕食。
お弁当はママが部屋のキッチンで作るけど、普段の食事は邸のシェフが作ってくれる。
それを8人掛けのテーブルに5人で座っていろんな話をしながら食事をする。

「それで、3人はサンタに何を頼むのか決めたのか?」

もうすぐクリスマス。
この時期になるといつもパパは尋ねてくる。
だけどママにパパには前日にならないと話しちゃダメって言われてる。
パパに話したらサンタさんより前にパパがプレゼントしてくれちゃうから。
そしたら用意してくれてたサンタさんが困っちゃうからって。
同じものを2つはいらないものね。

「ううん、まだ。ギリギリまで悩むんだ。」
「悩まなくてもいいだろ。欲しいものは全部頼めばいい。」

これもママからはひとつだけって言われてる。
じゃないと、世界中の子供達にプレゼントを配るサンタさんのソリがいっぱいになっちゃうからって。

「うん、サンタさんに頼めなかったものはパパにお願いするね。いいでしょ?ママ。」

ママを見ると困った顔をしてる。
でもパパと一緒にお願いって顔をして見せるとため息をついた。
ママは私とパパの『仔犬みたいな表情』に弱い。
もともとはパパがこの技を編み出したんだけど、パパ似の私でも通用する。

「ハァ…わかったわよ。だけどひとつだけよ。」
「うん! ありがとう、ママ、パパ。」

クリスマスにはNYのおじいちゃまやお祖母さま、そしてLAの椿伯母さまや牧野のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、進叔父さんからもプレゼントが届く。
そしてクリスマス当日はパパやママの親友家族も含めて皆でパーティーをして、そこでもプレゼント交換をするのが毎年恒例なの。
だからサンタさんには何を頼むか迷うんだよね。

「お前らは?」

パパが双子にも尋ねた。
あの2人の欲しいもの、知ってる。
確か、サンタが乗ってるソリ(トナカイ付き)だったよね。
それで空を飛びたいって2人でヒソヒソ話してたんだよ。
なんて考え事をしていたら誠がとんでもないことを言い出した。

「サンタってパパ?」
「「は?」」

パパとママが同時に顔を上げて振り向いた。

「パパはサンタさんなの?」

実まで言い出した。

「な、何言ってんだ! パパがサンタなわけないだろうがっ」
「そうよっ! サ、サンタさんは遠い北の国に住んでるのよ。パパがサンタさんなわけないから!」

誠と実が突拍子もないこと言うから、パパもママも驚いてアワアワしちゃってる。
そりゃそうよ。
サンタさんがパパだなんていう子もいるけど、それは嘘。
サンタさんは信じてる子のところに来てくれるの。
パパだなんて言う子はきっと信じてなかったからパパからしかプレゼントをもらえなかったのよ。
だから自分のパパがサンタだなんて思い込むんだわ。

こういうときは私の出番。

「誠、実、幼稚舎で何か言われたの? サンタさんはいないとか?」
「言われてない。」「ない。」
「サンタさんはね信じてないと来てくれないのよ? 来てくれなくてもいいの?」
「いい!」「いい!」
「じゃ、プレゼントもらえないわよ? いいの?」
「やだ!」「やだ!」
「だったら来なくていいなんて言わないの。信じてないとプレゼントもらえないんだからね。」

私の言葉に誠と実が顔を見合わせてシューンと俯いた。

「わかったらいい。ほら飯終わったんなら風呂入るぞ。」
「「はーい!」」

食事を終えたパパが双子を連れてダイニングを出て行った。









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2019.12.22




つくしと結婚して11年。
つい先日、結婚記念日を祝ったばかりだ。

瀬里が生まれて、クリスマスは別の意味を持つ日になった。
それは俺がサンタになる日。
イブの夜、寝静まった子供たちの枕元に忍び足で近づき、プレゼントを置く。
瀬里が3歳で始めた時は置くだけなら俺じゃなくてもいいじゃんと思ったが、翌朝、目覚めた瀬里は大喜びで、その顔を見ればサンタ役は他のヤツには譲れねぇって気持ちになった。

俺にはサンタの思い出はなかったけど、つくしによると庶民の子供はみんなサンタクロースって存在を信じてて、クリスマスイブの夜、注文した品をそのサンタが届けてくれるんだとさ。
だったら執事でいいじゃん。
年に一度なんて言わずに、欲しいものはいつでもなんでも執事に言いつければいい。
そうすれば翌朝には届いてる。

なんて言ったらつくしに叱られた。
子供にサンタって夢を見させるのも親の役目なんだと。
それにいつでもなんでも欲しいものを与えたりもしないって。
なんでだよ。
欲しいものは手に入る。
それこそが道明寺家の子供の特権なのに。

俺はそうだった。
一瞬でも欲しいと思ったものは何でもすぐに手に入れてきた。
その代わり、飽きるのも秒だったけどな。

だからだったのか。
本当に欲しいものが見えなかった。
自分が何を渇望してるのか、何に飢えてるのか、いや、飢えていることにさえ気づいてなかった。

つくしに出逢うまで。

今思えば俺は、あいつに出逢った瞬間に理解したんだ。
俺が本当に欲しかったのはこいつだったんだって。

つくしが持つ、本物の輝き。
俺の周りにあるイミテーションの鈍重な乱反射じゃなく、強烈な閃光が俺を貫いた。
今でも思い出せる。
あいつが俺に「カエルの大将!」って言い放ったときの瞳の強さを。
初めて本当の意味で俺は人に見つめられたんだ。

そのつくしの瞳が移ろう様を見てきた。
敵意だった視線が寛容を表し始めて、それが困惑に変わり、そしていつからか愛しさを宿してくれた。
「道明寺!」と俺を呼ぶ声も様々に変化した。
怒声だったのが囁きに変わり、その声だけで俺を昂らせるようになったのはあいつが大人になってすぐの頃。

結婚して「司」と呼んでくれるようになって、瀬里が生まれて誠と実を授かって。
幸せってのはこういうもんかと思った。
つまりは俺の幸せはいつもつくしが運んでくれるってことだ。
あいつがいなきゃ、俺に幸せは訪れない。

俺は強欲で貪欲な人間だ。
欲しいと思ったものは明日の朝にはもう欲しい。
だから俺が幸せを欲し続ける限り、つくしはいつでも俺の横にいなきゃダメなんだ。
夜毎あの強い光を甘く蕩けさせて、吐息とともに「司」と呼ばせたい。
自主自立がモットーみたいなあの女を俺に縋りつかせて、あいつにも俺がいなきゃダメなんだと感じさせたい。

でも今はとりあえず、目の前のタスクをこなすことだ。
こいつらが寝ないとつくしとの夜が来ないからな。

「流すぞ。目をつぶって口で息をしろよ。」

子供を風呂に入れるのが瀬里が生まれてからの俺の日課だ。
瀬里が8歳までは誠と実と4人で入ったりもしたんだが、さすがに女の子の瀬里は去年から俺とは入らない。
「みんなで入るのは今日が最後だ」って夜はのぼせるまで風呂場で遊んでたっけ。
子供の成長ってのは早くて、いつまでも小さなままではいてくれないってことを実感した日だった。

今は俺に纏わり付いてるこの坊主たちだって間もなく反抗とかし始めるんだろうな。
それを思えばこの時間の貴重さが身に染みる。

「誠、湯に浸かれ。実、お前の番だ。」

誠はブルッと頭を一振りしてバスに入り、風呂用のおもちゃで遊び始めた。
代わりに出てきた実にシャンプーしてやる。
瀬里は俺に似て癖毛だが、こいつらはつくしに似てストレートだ。
一卵性だから見分けがつかないことがあって、時々、間違うのは男親だから仕方ない。

「ねぇ、パパ、」

背後の誠が話しかけてきた。
なんだ?
もう出たいのか?

「んー? どうした?」
「ママには恋人がいるんだって。」
「……は?」

実の頭をマッサージしていた手を思わず止めて誠に振り向いた。
つくしによく似た丸い瞳が俺をジッと見据えていた。

「誠、今なんつった?」
「だから、ママには背の高い恋人がいて、そいつは雪が降るところに住んでて、クリスマスが来たらママを遠い街に連れて行くんだよ。」

何言ってんだ?
絵本かなんかの話か?

「は…ははっ、ンなこと誰が言ったんだよ。」
「ママだよ。」
「つくしが!?」

つくしが?
恋人がいるだと?

「誠、」

また実に向き直って止まっていた手を動かしながら俺は背後の誠に問いかけた。
怖がらせないように慎重に。

「ママの恋人は背が高くて雪の降るとこに住んでるのか?」
「うん。」
「それで、ママを遠い街に連れて行くって?」
「うんそう。クリスマスになったらサンタになって連れて行くって。だからサンタはパパかと思ったのに違うんでしょ?」
「…違うな。それ、いつ言ってた?」
「今日だよ。ね、実。」
「うん、俺も聞いたー。」

雪が降るとこってどこだ?
北海道…北欧?
俺からつくしを奪う奴がいるのか?
恋人……?
あいつは俺の妻なんだから恋人とは言わねぇだろ。
愛人…浮気相手?
つくしが俺を裏切ってそいつと遠い街へ?

ザワッと鳥肌が立った。

許さねぇ…
許さねぇ 許さねぇ 許さねぇ!!!

全部洗い流して双子を両腕に抱えて風呂を出た。

「まだ遊びたかったぁ〜」「かったぁ〜」

うるせぇぞ。
今夜はもうお前らに構ってる暇はない。
双子をバスローブで包み、バスルームを出て寝室を横切り、リビングに入って内線を掛け、程なくして現れたシッターに双子を預けた。






俺はどうにかして冷静さを取り戻そうとキッチンの冷蔵庫からどっかの谷底から汲み上げたとかいう水の入った瓶を取り出し、そのまま飲み干した。

あいつに付けてるSPから不審な行動の報告は上がってなかった。
つまり庇ってるってことか?
俺一人が何にも知らないで楽しい家族ごっこをやってたってわけかよ。

「ハッ…」

自嘲が漏れて、しかしそれもすぐに引っ込んだ。
結局、あいつにとって俺はその程度ってことなのか?
未だに俺の方があいつに惚れてて、あいつは俺の1/10にも達してないってことかよ。

SPを吊し上げりゃ事実なんてすぐに割れる。
なのに俺はそれをしたくなかった。
あいつに嘘だと言って欲しい。
そんな相手はいないと言って欲しい。

つくし、お前の言うことなら信じるから、だから頼むから違うと言ってくれ。




***




パパや弟たちと一緒にお風呂に入らなくなってから、私はママとお風呂に入ることが多くなった。
もう10歳なんだから一人で入らせろってパパは言うけど、ママは「うちのお風呂は広くて大きくて深いから心配だ」って言って一緒に入ってくれる。
今夜も私の部屋のバスルームで一緒に入って、パジャマに着替えたら髪を乾かしてもらった。
ママはサラサラなストレートのロングヘア。
でも私はパパに似たから天然パーマなの。
誠と実はママ似でサラサラストレート。
いいなぁ。
私もストレートがよかったな。
ママは巻毛って可愛いくて羨ましいって言ってくれるけど、私はサラッて流れるように揺れる長い髪に憧れる。
ママは昔みたいに短い髪型にもしてみたいらしいけど、パパが切らせないんだって。

ママとお喋りしながら私たちの居住空間であるリビングに入った。
その瞬間、部屋の空気が違うことにママも私も気づいた。
部屋の真ん中で、ローテーブルの上に置いた水の瓶を前にして、バスローブ姿のパパがソファの背もたれに両腕を伸ばして座って、じっと私たちを睨んでる。

パパが怒ってる?
なんで?
わからないけど、この静けさはかなり怒ってる証拠だと私ももう知ってる。
ゴクリ…と唾を飲んだのはママと同時だったかもしれない。

「瀬里、自分の部屋に戻れ。」
「えっ…」
「聞こえただろ。行け。」

お風呂上がりにはいつもママがホットミルクを出してくれて、それを飲んでから眠るのが日課だってパパも知ってるのに、その低く冷たい声は今夜はもう終わりだって告げていた。

「…誠と実は?」

問いかけたママの声も少し低くて、パパの発する怒りのオーラにママでさえも緊張しているのがわかった。

「あいつらはシッターと子供部屋だ。瀬里!」

パパの声が大きくなり私は思わず肩を震わせた。

「はい…パパ、ママ、おやすみなさい。」

私は2人に頭を下げて挨拶をしてリビングを出て、自分の部屋じゃなく双子のいる子供部屋に向かった。









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2019.12.23




瀬里とお風呂に入って出てきたら司の機嫌がめちゃくちゃ悪くなってた。

なに?

夕食までにこやかで、和やかにしてたのに。
仕事のこと?
何か悪い知らせがあった?

…でも、彼の怒りはそんなことじゃなくて、何かとか誰かじゃなくてあたしに注がれてるような気がする。

なぜ?

心当たりは全くない。
全くないんだから第一声は大事よね。

「どうしたの? 何かあった?」

お風呂から上がってナイトウェアにガウンを羽織って、瀬里と入った時は先に髪を乾かし、その後いつもなら自分のクローゼットのドレッサーでスキンケアをする。
でも今夜のこの異様な空気の中で、司を置いて別室に移ることは得策ではないと判断し、リビング続きのキッチンに入った。

「コーヒーでも飲む?」

あたしの問いかけに返事もせずに依然としてジッと睨みつけてくる司に、何事もないように声を掛ける。
返事を待たずにあたしはサイフォンを取り出し、冷蔵庫からコーヒー専用の水を取り出した。

「ぅわっ!」

振り向くと音もなく司が背後に移動していて、超至近距離に立っていた。
バスローブから覗く厚くて硬い胸に思わず鼻をぶつけそうになってあたしは仰け反った。

「びっくりしたぁ……な…に…?」

見上げたところにある顔は記憶にないくらい冷たい表情で、彼の心理状態が尋常ではないことを物語っていた。
それでもこの顔を見たことがある。
いつだったか…
あたしは脳内の警報音を聴きながら記憶のページを過去に向けて繰っていく。

そうだ、あの時だ。
はるか昔、まだ司と敵対してた頃、夏休み明けの放課後、非常階段、そして廊下……
あの時と同じ昏い瞳だ。

司はあたしの手から水を奪うとカウンターに置き、あたしの背後のキッチンカウンターに、あたしを囲むように手を着いた。
そして被さるようにして上からあたしを見下ろした。
あたしはこれからなにが起こるのか予測がつかないことに怖気て眉根を寄せたけど、でもそれを悟られないように目に力をこめた。

「お前の恋人は背が高いんだって?」
「……は?」

司から発せられ言葉の意外さに、思わず強張っていた顔の筋肉が緩んだ。
なんて言った?
恋人っつった?

「雪の降る街に住んでて、クリスマスにはサンタになるって?」

司が何のことを言ってるのか理解して、カッと瞬間的に顔が熱くなるのがわかった。
居た堪れなくて思わず視線も顔も逸らした。

「本当…なんだな?」

ギャーー! やめてよ!

「誰に聞いたの?」
「…双子」
「そ、そっか。だから夕食の時にあんたに「パパはサンタか」って聞いたんだ。」

あの2人ぃ〜!
余計なことを告げ口してくれちゃって!

「あの、それは昔のことで、そりゃそんなことを思ったことも何度かあったけど、わ、若気の至りって言うか、いや、違うな。若さ故の妄想とでも言おうか。あの、だからその、もしそうだったら会えるのになーなんて思ったことがあったってことで、もう昔の話だから忘れて!」

あたしは焦るあまり、司の顔も見ずにいつもの癖で目を泳がせながら早口で言い訳を並べた。
だってあたしらしくない乙女チックな思い出を今更蒸し返されたくない。

「昔から何度かだと……いつからだ。」
「え、だから遠距離だったとき…だよ。今はもうそんなこと考えてないよ? さすがに瀬里が生まれてからはないから。」

だってサンタは子供のもんじゃん。
って言おうとあたしはやっと司の表情を伺った。

「っ!?」

な、なんで??
さっきよりさらに凶悪な表情になってる。
青筋が見たことないくらいピクピクと浮かんで、弓形の眉が思い切り眉間に寄って、目は据わって三白眼になっちゃってる。
どうしちゃったの??

「そんなに怒らなくても…」
「昔の話だから? だから俺が許すとでも思ってんのか? まさか瀬里が生まれるまで続いてたとはな…お前それでも母親か? 恥ずかしくねぇのかよ!!」
「なっ…酷い…」

なんでそんな言われ方しなきゃならないの!?
そりゃ日本に残るって決めたのはあたしだけど、だからってちょっとした想像や空想もダメなの?

「だって、さ、寂しかったんだもん。周りはみんなカップルで楽しく過ごしててさ。そんな時に…ちょっとくらいいいじゃない!」

司がなんでこんなことにこんなに怒るのかわからない。
なのに、司はますます顔色を悪くしてカウンターに着いた手がワナワナと震え始めた。
その右手を司がスッと上げたのが視界に映って、殴られる!と思って瞼を強く閉じたその時だった。

ドンドンッ!
   ガチャッ!

「パパ! 誤解なの!!」

飛び込んできたのは瀬里だった。




***




「ねえちゃん!」「ねえちゃん!」

子供部屋に入ると誠と実が駆け寄ってきた。
寝かし付けの最中だったみたいでシッターの久保さんが苦笑してる。

でも双子は私と遊びたくて駆け寄ったんじゃない。
その証拠に2人のママ似の眉が下がってる。

「ね、パパがすごく怒ってたけど、あなたたち、理由知ってる?」
「…………」「………知らない。」

こういう時、誠は黙り込む。実は嘘をつく。
だから2人はパパが怒ってる理由を知ってるんだ。

「何があったの? 言わなきゃクローゼットで遊んでたこと、ママに言うわよ?」

この広い屋敷で双子の今一番ホットな遊び場がパパのクローゼットだ。
パパの服を引っ張り出してはファッションショーさながらに着て練り歩いてる。
パパはやらせとけって言うけど、腕時計のコレクションを触った時はママに激怒されたんだ。

私の脅しに2人は顔を見合わせた。
言うか言わないか迷ってる。

「パパはママに怒ってるのよね? ママが出て行っちゃってもいいの?」
「やだっ!」「だめっ!」
「だったら話して!」

私は双子を部屋の窓辺のソファに誘って3人で座った。
久保さんはそっと隣にあるシッター専用の控え室に入って行った。

「で?」
「ねえちゃん、ママ、遠い街に行っちゃうんだろ?」
「はぁ?? いつよ?」
「クリスマスになったらママの恋人がサンタになって来て、ママを遠い街に連れて行っちゃうんだろ?」

私を挟んで右の誠と左の実が交互に話してくれた。

「あんたたち、それをパパに言ったの?」
「うん。だってママがいなくなっちゃうもん。」「もん!」
「このおバカたち! んもう、それじゃパパは怒るわよ! 大変、止めなきゃ!」

私は2人を残して子供部屋を飛び出して廊下を駆け、リビングのドアを力強くノックした。




***




「パパ! 誤解なの!」

突然聞こえた瀬里の叫び声に、あたしは強く閉じていた瞼を開けた。
見えたのはリビングの扉を開け放ったまま、こちらを見つめている瀬里だった。
飛び込んできた瀬里は自分の部屋から長い廊下を走ってきたのか息を切らしている。
なのにさらにキッチンまで駆け寄り、下された司の腕を取った。

「パパ、違うの! あれは歌なの。ただの歌!」
「瀬里、ママを庇わなくていい。」
「違うんだって! ほら、ママ、歌って!」
「へっ!? 歌?」
「ほらあの、♫恋人がサンタクロースっての!」
「えっ! 今!?」
「照れてる場合じゃない! パパは誤解してるんだから!」
「え?……ええぇ〜〜!!!」

あたしは目の前の夫をマジマジと見上げた。
困惑も露わにあたしと瀬里を見比べている男は、まさかあの歌を知らず、あの歌詞をあたしの浮気だとでも思ったのだろうか。

「え、待って。何が何なの??」
「ママの歌を聴いてた双子が、ママには恋人がいてその恋人がクリスマスにはサンタになってママを遠い街に連れていくってパパに話しちゃったの!」
「はあぁぁぁ!???」

・・・・

「プッ! あははははっ! マジで!?」
「テメェ、何笑ってんだよ!!」

ようやく事態が飲み込めたあたしたち夫婦。
あたしは可笑しくて仕方ないし、司はとんだ誤解に赤面してる。

「ねぇ、パパ、ママが浮気なんてするわけないでしょ? ずっとパパのことが好きなママなんだから。」
「ちょっと、瀬里!」
「ママもさ、歌ってるばかりじゃなくて、たまにはちゃんとパパに気持ちを言わないとダメだよ。」
「だとよ!」
「ぐっ…」
「じゃ、私は寝るね。パパ、ママ、おやすみなさい。」

あたしは司と顔を見合わせた。
ほら、言わなくても顔を見ればわかるじゃない?

「瀬里、待て。ホットミルクがまだだろ?」
「そうよ。双子たちも呼んでみんなでいっしょに飲も?」

ドアに向かいかけた瀬里が振り向いた。
その顔がパッと明るくなって「うん!」と言ってあたしたちの間に飛び込んできた。

瀬里も誠も実も、あたしたちの大切な宝物。
恋人がサンタクロース…本当だったね。
だって、こんなに素敵な宝物を授けてくれたんだから。







「なぁ、つくし、」

誠と実にあたしはどこにも行かないと誤解を解いて、5人でホットミルクを飲んだ。
そして子供たちを寝かし付けた後の夫婦の寝室。
クローゼットで遅まきのスキンケアをして出てきたあたしに、既にベッドに横たわり、片肘をついた夫が声をかけてきた。
あたしはベッドサイドのランプだけを残して部屋の明かりを消して、ベッドに乗り上げた。

「なに?」
「俺がいなくて寂しくて、俺がサンタクロースになってお前をさらいに行くって歌を歌ってたのか?」
「…NYは雪が降るでしょ? 遠い街だし。いつかあんたが迎えにきてくれるんだからって慰めてたわけ。もういいでしょ! おやすみっ」

背を向けて冬の上掛けに潜り込んだあたしを大人しく寝かせてくれるわけがないのはわかってる。
…わかってるし、ちょっと期待してるあたしはあれから十数年が経つのに意地っ張りで天邪鬼なとこは変わらない。

「つくし、寝かせるわけないのわかってて背を向けるなよ。んっとにお前は強がりで意地っ張りだな。」

天邪鬼が抜けてるわよ。
あたしはクルリと寝返りを打って夫に向いた。
ランプの温かな灯りに照らされる男の瞳に先程見た昏さはもうない。
でも普段の優しさもない。
そこに今夜宿るのは、欲深いオスがメスを誘う淫靡な光。

でも欲深はダメだよ?
欲しいものはひとつだけ。
…そう、ひとつだけ。
     ただ、あなただけ。






Music Collaboration
「恋人がサンタクロース」【完】







・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
 メリークリスマス!
 聖なる夜にあなたにもサンタクロースが訪れますように。


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2019.12.24
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
つくしちゃん、お誕生日おめでとう!
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
   思いつきの超短編です。
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。








俺は今、全速力で走っている。


「ハァ、ハァ、ハァ、」


大通りを抜け、商店街を通り過ぎ、住宅街を駆けて駆けて駆けて。
ただ一人、この想いを伝えたい女の下へ、走っている。


「…バカヤロウ…ハァ、ハァ、あと4分しかねぇじゃん。」


信号で捕まり、スラックスの膝に手をついて休みながら腕の時計を確認すると、23時56分。

待ってろよ。
いや、待ってなくても待ってろよ。

車道の信号が黄色になった。
3、2、1、GO!

俺はまた走る。
タキシードを着てるから走りにくいことこの上ない。
だが、俺様をこれだけ走らせる女は俺にとっちゃそれだけの価値がある。

見えてきた。
青い屋根の、ボロい階段の、うっすい壁のアパート。
俺がNYに発つ前から住んでる部屋。

残り時間はあと1分てとこか。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ、」


カンカンカンッ


チッ
1階に住んでろよ!


ドンドンドンッ


「牧野! 俺だ! 開けろ!!」


ガチャッ


「道明寺!? な、なんでっ??」


出てきたところを抱きしめた瞬間、部屋の壁に掛かった時計の針が0時を指し、俺は一番乗りに間に合った。


「ハァッ、ハァッ、牧野っ、二十歳の誕生日、おめでとうっ。」

「えっ! あ、ありがとう…そのために?」


少し離して顔を見下ろした。
嬉しいと驚いたの入り混じった牧野の顔は、1年前に会った時よりも女の顔になっていた。


「ったりめーだろ。プレゼント渡したかったから。」

「そんな、無理しなくてよかったのに…」

「好きな女の誕生日にする無理なら毎年大歓迎だ。」

「毎年なんていいから。」

「そう言うな。牧野、俺からのプレゼント、受け取ってくれるな?」

「あの、うん、あんまり高価じゃなかったら…」

「安心しろ。高価じゃない。そもそも値段なんてつかない。非売品だ。」

「ひっ、非売品!?」


俺はポケットからボウタイを出し、着ているウイングカラーシャツの首に巻き付け、蝶の形に結んだ。


「タキシード!? なんかパーティーだったの?ってか、帰国してたの??」


質問ばかりの牧野にニヤリと笑って見せた。


「タキシードを着てんのはな、牧野、お前に相応しいプレゼントを選びに選んだ結果、これしかねぇって結論に達したからだ。受け取ってくれ。」


俺はバッと両腕を広げ、それからまた牧野を抱きしめた。


「お前に俺をやる。俺の心も体も人生も。全部やる。愛してる。」

「…………は?」

「と言っても、俺の心がお前のものだってことはもう何年も前からわかってるだろ? だから今夜は俺の体をお前のもんにしてくれ。」

「…いやいや、意味がわかんないから。って、ちょっと!!?」


牧野を抱き上げ、部屋に入り、3歩で居間を横切り、5歩目でベッドに辿り着いた。
牧野をベッドに寝かせ、被さった。


「さあ、遠慮はいらねぇ。包みを開けろ。」

「つ、包みって、バカっ!」


ジェットの中で隅々まで洗ってタキシードで梱包したんだぞ?
仕上げにリボンもかけたじゃねぇか。
包装紙を残しておくお前は一枚ずつ丁寧に剥ぐか?
それとも勢い良くビリビリに破くか?

どっちでもいい。
どっちでもお前の好きにしていいから、早く開けてくれ。
開けて、そして俺をお前のオトコにしてくれよ。


「俺が開けてやろうか? ついでにお前も。」


牧野の瞳を覗き込めば、そこに17のこいつにあった恐怖はもうない。



一生一度の今日の日を、一生一度の思い出で飾ろう。

Happy Birthday 牧野!

   And I love you , forever.








Present For Tsukushi 〜 2019.12.28 〜【完】






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2019.12.27
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