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皆様、こんばんは!

「18歳のキス」お楽しみいただけているでしょうか?

今日と明日の更新でつくしの心情が明かされますが、それでもこじらせは終わりません。
イライラさせてしまって申し訳ありません。
なんとか11月中には完結の予定ですので、あと少しおつき合いください。


さて、少し早いのですが、私はせっかちなので告知をしようと思います。
「18歳」完結後、「Let's be a Family !」の新作を更新した後は、またしばらくお休みをいただきます。
と言いますのが、プライベートが忙しくなりまして、書く時間が6割も削減されてしまいました。
なので新作はこれまでになくお時間をいただく事になります。

早くても年明け・・・下手したら春?な、レベルです。
しかもオモテの作品じゃない可能性もあり、本当にどうなるのか自分でもわかりません。

しかし、これだけはお約束したいです。
以前に、「妄想が暴走中」という記事でお披露目した作品群は何年かかっても書きたいです。
それを書き終える(もしくは不測の事態が起きる)までは二次をやめません。


というわけで、引き続き「18歳のキス」をお楽しみください!


                    nona









2019.11.10




__牧野つくしの独白【後半】



結局、それから1ヶ月後にあたしは彼と別れた。
何度か求められたけど、もう応えられなかったから。
彼が悪いんじゃない。
あたしがあたしの中の道明寺を愛しすぎてたの。

そして大学を卒業して就職して東京に異動になって。
その間も何度か男性とお付き合いしたけどキス以上には進めなかった。
でも20代も後半になってさすがにこのままじゃダメだと思った時に出会ったのが元夫の小椋雅也さん。
とてもいい人だった。
何度も告白されて根負けしたように付き合って。
優しくて面白くて楽しかった。
だから結婚したの。
まだ道明寺が心の中から消えてなかったけど、今度こそきっと大丈夫。
雅也さんを愛せるようになると確信してた。

…はずだったのに、夜になって触れられるとダメだった。
キスをして手が胸に触れる。
ゾワゾワとするのは快感じゃなく嫌悪感。
できない夜が続いて、雅也さんを徐々に追い詰めて行っているのがあたしにもわかった。
と同時に、あたしも自分に落胆してた。
添い遂げようと結婚までした夫を受け入れられない自分、いつまでも道明寺を忘れられない自分に。
それでも雅也さんは優しい人だったから無理強いされることはなく、そのこと以外は平和に過ぎていった。

だけど、彼を覆う影が日に日に色を濃くしていたことにあたしは気づかなかった。
そしてある日、詳細は割愛するけどついにあたしたちの関係に亀裂が入った。
あたしはこのまま結婚生活を続けることは彼を不幸にするだけだと思って家を出た。
その時のあたしの心にあったのはただ自己嫌悪だけ。
一人の男性の人生を巻き込んでもなお、道明寺を忘れられない自分への怒りと呆れ。
それと思い知らされたのは自分自身の甘さだった。
この時になってあたしはやっと、本当に本気で道明寺を忘れようと決意した。

そうして雅也さんと離婚後は、なんとか道明寺を過去のものにしようと努力した。
過ぎるたびに振り払い、思い出すたびに閉じ込めた。
そのうちに普通の男女のお付き合いもできるようになって、ああ、やっとあたしは道明寺を過去にできたんだと思った。




そして迎えた再会の日。
14年を経たあいつはあの頃より力強くなった体格で一分の綻びもないスーツを完璧に着こなして、少年の幼さなんて微塵も残ってない精悍な美貌を携えて、でもあの巻き毛だけは変わらない姿でそこに立っていた。

ねぇ、想像してみて。
18歳の少年が一足飛びに32歳になってたんだよ?
あたしの戸惑い、わかるでしょ?
バカだった野獣は女に慣れた紳士になってた。
ベッドへの誘い方は全然紳士じゃなかったけど。あはは。
でもあたしは香り立つようなそのオーラに一瞬で抱きこまれて、身動きが取れなくなってた。

再会したその日に関係を持った。
鈍感で潔癖だった14年前が嘘みたいに、あたしはあいつの手に溶かされて、熱くなって、到達したことのない世界に誘われた。
それまで自分は不感症だと思うほど苦痛を伴ってたから、本当に信じられなかった。
道明寺が経験豊富だから?
それとも昔、好きな人だったから?
とにかくあたしは女の快楽ってものに溺れていった。

でも身体は熱くなっても頭の芯は冷えていた。
この人にもう一度恋するなんてありえない。
やっと思い出にして葬った愛を掘り起こすなんて冗談じゃない。
だってこの人はあたしとは違う世界の人で、いつかまた離れなきゃいけないんだからって、頭の中で孤独にうずくまる自分が絶えず語りかけてきた。
だから過剰な期待なんてしないで、ただ夜を楽しむためだけにここに通ってきてた。
道明寺もきっとそのつもりなんだから、って。

そんな関係が半年も続いた頃、あいつが突然、あたしの職場に「好きな女ができた」って報告に来た。
あたしには何の感傷もなかった。
だって予定通りだもの。
また別れの時なんだ。やっぱりね、こうなるよね、でもなんでわざわざ職場に来て言うのよ。迷惑!って、それだけだった。

そしたらあいつ、好きな女はあたしだって言い出した。あたしがまだ好きで必要だって。
びっくりしたよ。
まさか、想像もしてなかったから。
でもあいつの真剣な眼差しがあの頃の道明寺を思い出させた。
その時に思った。
ああそっか、奪われた道明寺が還ってきてくれたんだ、あたしの手の中に戻ってきてくれたんだって。

そして付き合い始めて、楽しかった。
お互いに14年が過ぎてあの頃の熱情とは違うけど、あたしの中には今の道明寺に対する穏やかな愛情ってものがあって、今は今の愛し方があるんだって思えた。


そうやって1ヶ月が過ぎた頃、道明寺が同棲したいってワガママを言い出した。
あたしは同棲には反対だったけど、もう昔の意地っ張りでも頑固者でもない。
彼氏の頼みを聞き入れるだけの柔軟性を身につけてた。
だから承諾したら、その日のうちに引越し作業が行われた。

そして荷物の中からあの運命の日以来、開いてなかった土星のネックレスが入ったケースが出てきた。
過去を克服したはずのあたしは、およそ12年ぶりにそれを開けた。
そして手に取って光にかざすと、それはもらったときと何も変わらない輝きを放ってた。
道明寺が言った。


『変わらねぇな。まるで俺たちの想いみたいに。』


変わらない想い…
変わらない輝き…

そう思ったら、土星のネックレスに永遠の輝きを閉じ込めたあの日のことが蘇った。
それと同時にあらゆる苦しみが手の中から溢れ出た。

慟哭
寂寞
懊悩
後悔
嫉妬
憎悪
…そして痛みと決別

変わらないものなんてあるはずない。
あたしたちは変わった。
18歳の道明寺が愛してくれたあたしはもういない。
そしてあたしが愛した道明寺も、もういないんだ。

そう思ったら後から後から涙がこぼれた。
あたしは雨の中に置き去りにした道明寺の名を呼び、謝り続けた。
変わってしまってごめん。
もう戻れなくてごめん。
会いたい、会いたい。
でもあたしはもうあんたには会えないんだよ、ごめんねって。



次に目覚めた時、あの雨の中の彼が15年前そのままの姿であたしの中に蘇っていて、隣には大人になった道明寺が眠ってた。

この人、誰だっけ?
道明寺のお兄さんだっけ?
この人が道明寺?
ちがう、ちがう、この人じゃない。
あたしの道明寺はこの人じゃない。

あたしが愛してる道明寺は18歳の無垢なままの彼なんだから。
二度と会えないけど、でも失うことだってない。
心の中の彼を愛し続けるのを邪魔するものはない。

もう誰にも奪われない、あたしだけの永遠の彼を。









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2019.11.11




皆様、こんばんは!

寝る前にコメントをチェックしたら今日は凄い数のコメントをいただいててビックリ!

皆様、ありがとうございます!!
拍手、拍手コメント、コメント、励まし、そして当ブログを訪れて読んでくださる全ての皆様に心からの感謝を申し上げます!!

それに、昨日の長期休載宣言にも多くの拍手をいただきまして、皆様の温かいお心が伝わってきました。
本当に、感謝です。

実は今年、転職しまして^^;
気ままなパートタイマーだったのですが、フルタイムになりました。
それで書く時間が減ったというわけです。
(今までどんだけユルい働き方してたんだ!)
でも二次は読むのも書くのも好きなので、細々とでも続けて参ります。

続けるんですが、私の信条『毎日更新』と『絶対完結』を達成するためには書き溜めないといけないわけでして、そのために長期に更新をお休みせずを得ないというわけです。
ご理解をいただいて心強いです。
頑張って新作、書きます。

というわけで、忙しくてコメントへの返信が遅くなるのでこのように一時しのぎで御礼の記事をアップしました。
決して落ち込んで返信がないとかじゃないのでご安心ください。
コメントを書くという手間をかけてくださるのも愛情だと捉えてますから、大丈夫です^^


さて、「18歳のキス」ですが、これ、かなり複雑で、いつもの司つく的面白さに欠ける作品だということは重々承知しております。
でも書きたかったんですよね〜

やっとつくしの心がわかったところで、これからつくしは、司はどうしていくのか。
そして楓は!?

実はまだ完結させてないんですが(汗)50数話になる見通しです。
最後はRかな? どうかな? 書いてないけど。。。

ともあれ、ハッピーエンドであることはお約束します!
なんせワタクシ、司命ですので。

では、取り急ぎ御礼まででした。
これからも当ブログをよろしくお願い致します!

                    nona










2019.11.12




先輩の話を聞き終えた私は、拭えども拭ども流れ落ちる涙を止められずにいた。


「なんで桜子が泣いてんの?」

「だって…先輩…」


22時を過ぎたこんな時間にこんなに泣いたら明日は外に出られないじゃない。
わかってるのに、先輩が哀しいから…哀しすぎるから…可哀想だから…


「あんたも相当なお人好しだよね。あんたはあたしを罵っていいのよ? 殴ってもいい。同情なんてしなくていいの。」

「できませんよ! できるわけない。そんなに苦しんだ先輩を責められる人なんていません…」


泣き過ぎた私の前にお冷やが置かれた。
そうだ、もう飲んでなんていられない。
この哀しい先輩を幸せにしないと。


「先輩。先輩が愛してるのが18歳の道明寺さんだってことはよくわかりました。だったら、今の道明寺さんとは別れたらどうですか? それでオーストリアに来ませんか? 一緒に暮らしましょうよ! 先輩は日本から離れた方がいいです。道明寺さんから離れた方がいい。じゃないとあの人、絶対に先輩を諦めませんから。」


いえ、例え宇宙の彼方に先輩が引っ越そうとも諦めるなんて言葉はあの人の辞書には載ってないですけどね。


「………」

「道明寺さんだって、先輩が自分を愛してないってわかってるんですよ? 私に頼ってきたくらいですから。ならもうここでキッパリと断ち切った方がいいです。それが先輩の幸せのためです。」

「別れていいの? 別れないために呼ばれたんじゃないの?」

「確かに、別れたら道明寺さんはまた不幸になるでしょうけど、別れなきゃ先輩が不幸になります。今はもう、先輩の方が大事なんです。」

「あたしと別れたらあいつが不幸になる? 別れなかったらもっと不幸になるよね? だって…」

「先輩…道明寺さんは、どんな先輩でも愛せます。愛してくれてます。例え先輩が一生、今の道明寺さんを愛せなくても、それでもいいからそばにいて欲しいって思ってるに決まってます。私が愛した道明寺さんはそういう男だから。」

「桜子…」

「でも先輩はそうじゃないんでしょ? 生身の道明寺さんに愛されることが苦しんでしょ?…いいえ…違いますよね…生身の道明寺さんを、愛することが怖いんでしょ?」


私を見つめていた先輩の目が見開かれた。
私の瞳の奥の奥を探るように見つめている。
今が核心に迫る時だ。


「先輩は怖いんです。愛してまた奪われるのが。そして怒ってるんです。他の女を見た道明寺さんに。先輩はそんな盛大なヤキモチをもう15年も引きずってる最高に面倒臭い女なんですよ?」




***




バーを出て行った牧野を追おうとした俺の前に総二郎が立ちはだかった。


「どけ!」

「まぁまぁ、司。これってすげぇチャンスだと思わないか?」

「はぁ!?? お前マジでふざけんなっ! 殴られたくなかったらどけ!」




その後、三条が牧野を追いかけてバーを出て行った。


「まあ、座れ。」


俺の前から退いた総二郎はまた元の位置に腰掛けた。


「いいから座れ! ほら!」


総二郎は俺が座っていたソファをバシバシと叩き、さらに俺を促した。
俺は奥歯を噛みしめながらも、総二郎を信じて腰を下ろした。


「で? 何がチャンスだって?」


怒りが収まらない俺はグッと空けたグラスを振り下ろすようにテーブルに置き、右側の総二郎を睨みつけた。


「わかんねぇか?」

「だから何をだよっ!」

「嫉妬だよ。」

「嫉妬?」


総二郎は自信ありげに片側の口角を上げ、左脚に片腕を乗せ、俺の方に身を寄せて前屈みになった。


「あの反応、あれはどう見ても嫉妬だろ。出て行ったのだって、これ以上お前の女関係の話を聞きたくなかったからだ。」

「嫉妬……」


そう言われて嬉しくなる単純な俺。
牧野が嫉妬?
俺に?
“ 今の ” 俺に?


「あいつはわかってる。あいつ自身、昔も今もなくお前に惚れてるってことは。でも昔に固執するのはなんでか。肝はそこだ。」

「それを三条が聞き出そうってのか?」

「そうだ。あいつなら聞き出せる。お前の人選、さすがだな。」


総二郎は「ははっ」と笑ってグラスを空けた。
程なくしてモニターで空のグラスを確認したバーテンダーが次を持ってきた。
そのグラスを手にした総二郎はなおも俺をのぞき込んだ。


「んで? おばさんのほうは大丈夫なのか?」

「ああ、先手は打った。だが必ず報復してくるはずだ。」

「牧野にSPは?」

「付けてある。職場にも店長に言って潜入させてある。」

「そうか。ま、気を付けろよ。どんな手でくるかわかんねぇからな。」

「ああ。だが、今回は『牧野から離れて行く』って手札も使えねぇ。どんな理由だろうと、あいつが俺から離れた時点で俺は道明寺を終わらせるからな。」

「完全に牧野の意思だとしてもか?」

「ああ。」

「ひょ〜、怖いねぇ。江戸の仇を長崎で討つみてぇじゃん。」

「そもそもの元凶は15年前にある。正当な報復だ。」

「でもその手札はいつまで有効なんだ?」


総二郎の目は真剣だった。
こいつのこんな顔、見るのは珍しい。
だがその懸念も当然だ。
俺に握られたとわかった以上、あの女なら証拠隠滅を図るはずだ。
ロシアの会社が跡形もなく消滅すれば俺の切り札は効力を失う。
それまでになんとか牧野とのカタを付けなければ。


「手こずれば1年、早ければ半年ってとこだろ。」

「半年か。微妙だな。その間に結婚まで持ち込めればいいが。」

「…愛がなくても判は押せるさ。」

「最終手段だな。」


いざとなったらあいつの合意はいらない。
届けさえ出せればいい。

今日の総二郎はハイペースだ。
もう2杯目を空けようとしていた。


「おばさんを黙らせたこと、牧野には?」

「まだ言ってない。」

「早く言ってやれよ。それであいつの気持ちが軽くなってお前に向き合うかもしれないんだし。」


そうだな。
なぜ今まで牧野に話そうと思わなかったのか。

それはあの女の話をしたくなかったからだ。
俺と牧野の時間に、チラともあの女を割り込ませたくなかったからだ。


「だな。できるだけ早めに話しておく。」

「ああ、そうしろ。」


とは言え、やはり牧野にあの女の話をするのはためらわれた。
俺があんな女の息子だということを、できれば忘れて欲しい。再認識して欲しくない。
自分の母を恥じる思いが、この15年、俺のもう一つの苦しみだった。










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2019.11.12




店を出て総二郎と別れ、俺はマンションに帰ってきた。
牧野はまだ戻っていない。

現在時刻は23:43

いつ牧野や三条から連絡があるとも限らない。
俺はシャワーも浴びず、着替えもせずに、脱いだコートを投げ出してリビングのソファに座って携帯をいじっていた。


RR ………


そこへ着信があり、コール音が鳴る前に俺は通話をスライドした。


「今どこだ?」


電話の相手は三条で、Rememberにいるから迎えに来いとのことだった。


「牧野は一緒だよな? どうしてる?」

『先輩は語り疲れてカウンターに突っ伏して寝ちゃってます。』

「語り疲れてってことはお前に全部、話したのか?」

『…道明寺さん、先輩がどうしても道明寺さんは嫌だって言ったらオーストリアに連れ去りますからね。』

「はぁ!?? おい、ふざけんなっ」

『もう、いいですから、早く来てください! 私は早く帰って泣きたいんですから!!』

「泣きたいぃ!?? ったく、すぐに行くからそこにいろよ!」


泣きたいって三条は一体、何を聞いたんだよ。
そして牧野は何を語ったんだよ!

俺は投げ出したコートを手に取り、マンションを出た。








Rememberに着くと、手前に三条、奥に牧野が座り、牧野は肩にコートをかけられ三条が言った通り、カウンターに突っ伏していた。


「おい、こいつどれだけ飲んだ?」


俺はマスターに問いかけた。
マスターは穏やかな笑みを見せた。


「ジンライムを2杯とカラントサンライズを1杯です。」


カラントサンライズ…『希望』か…

そんなことを薄らと思い出しながら牧野の奥側に立って背に手を当て、腕に伏せた顔を覗き込めば寝息が聞こえた。


「それで、牧野はなんだって?」


俺は牧野の向こうの三条を見た。
こっちに顔を向けた三条は泣いたような赤い目をして、そして珍しく化粧の崩れた顔だった。


「そんなこと、道明寺さんには話しません。先輩は私だから打ち明けてくださったんですよ? 先輩の許しがない限り、墓場まで持っていきます。」

「お前な、何のために呼んだと思ってんだよ!? それで牧野は本当は俺をどう思ってるって?」

「だから、それも含めて内緒です。道明寺さん、とにかく、先輩をそのまま受け入れてあげてください。一生でも待ってあげる覚悟で包んであげてくださいね? じゃないと、私が奪いに来ますから!」


三条も珍しく出来上がってる。


「ってことは、いつかはって希望を持ってていいんだよな?」


三条はカウンターチェアから降り、酔いが回った目で俺を見上げた。
目が据わってるぞ。


「いつかは、じゃありません! もうすでに、なんです。でも先輩はそれを認めたくなくて、逃げてるだけです。また道明寺さんを奪われるのが怖いんですよ! もうっ! 男でしょ!? それくらい、わかってあげてくださいよっ!!」


三条の迫力に押され気味になり、その言葉を理解するまでに数秒が経過した。


「………え?」


とぼけた反応を返す俺に、三条がもう一歩迫った。


「え? じゃありません! 先輩はもうすでに道明寺さんを……いえ、これは私の口から言うことじゃありませんね。……それと、先輩は怒ってますからね!」

「は? 何に?」

「だ〜か〜ら、そういうとこですって! わかんないとこが女の神経を逆撫でするんですよ! 先輩の怒りが解けるまでずっと先輩に尽くし続けてくださいね! 以上です! 桜子は帰ります!」


三条は自分のコートとバッグを手にすると、マスターに「また来ます!」と声をかけて店を出て行った。

酔っ払いの剣幕に呆気に取られていたが、三条の言葉がリフレインされて喜びと焦りという相反する感情がジワジワとこみ上げた。
顔をマスターに向けるとまた微笑まれた。


「な、お前、二人の話を聞いてたんだろ? 牧野はなんだって?」


マスターは微笑みを崩さないままに口を開いた。


「そのご質問に答えてしまったら、私は今夜で店を閉めなければいけませんね。」


フン、わかってる。
客同士の話が耳に届いても記憶には留めないのがバーテンダーって職業だ。
ましてやそれを第三者に漏らすなど、プロ失格だろう。


「わかってたが万が一にも聞いただけだ。」


俺の負け惜しみのような言葉にもマスターは微笑んだままで、きっと悪い話じゃなかったんだろうってことだけはわかった。


「牧野、牧野、起きろ。帰るぞ!」


三条の声にも目を覚さなかった牧野の眠りは深く、揺り動かしても一向に起きなかった。


「仕方ねぇな。」


俺は牧野を抱き上げた。
2月上旬。
立春は過ぎたが、外はまだ寒風が吹き荒んでいる。
カウンターを回ってきたマスターにコートを被せさせ、俺は牧野を横抱きしたまま店を出た。







結局、牧野はマンションに着いても目を覚さず、運転手に荷物を持たせて抱きかかえたままで部屋に入った。
そして俺のベッドに寝かせてジャケットを脱がせ、上掛けをかけて俺はベッドの端に腰掛けて牧野の頬を撫でている。

時刻は午前1時半。
今夜はこのまま寝ちまうか?
それなら、と、俺はシャワーを浴びようと立ち上がった。


「ん……道明寺…?」


背後から聞こえた声に、また寝言かと振り返れば牧野の双眸は俺を捕らえていた。
やや驚いて、俺はまたベッドに腰掛けた。


「起きたか?」

「ん…運んでくれたの? この部屋は…」

「俺の部屋だ。」

「はぁ…そっか。ごめん。」

「飲み過ぎだ。水飲むか?」


牧野はベッドに起き上がって髪を解いて頭を振った。
が、すでに二日酔いに襲われているらしく、額を押さえてその表情を歪めた。


「大丈夫か?」

「んー、ごめん。大丈夫。起きる。」


そう言ってベッドを出たが、足元をふらつかせて思わず俺にしがみついた。


「大丈夫じゃねぇだろ。水、持ってきてやるから寝てろ。」

「いいって。シャワーも浴びたいし、自分の部屋に戻る。」


牧野は俺から離れるとそのままフラフラと部屋を出て行った。

んだよ…
何も変わってねぇじゃん。

『もうすでに道明寺さんを…』

あれって「もうすでに俺のことが好き」ってことじゃないのか?
そうとしか解釈のしようがないけど、牧野のあの様子じゃ三条の勇み足か?


「ハァ…」


総二郎や三条との再会も期待した結果が得られず、俺は落胆したままバスルームに入った。









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2019.11.13




シャワーを浴び、バスルームを出る頃にはもうすでに午前2時を回っていて、長かった1日にまたため息をつきながら俺はベッドに入った。
今夜の牧野は自室のベッドで眠るんだろう。
あっちに潜り込む気力さえ残っておらず、俺は部屋の明かりを消して上掛けを肩まで引き上げ目を閉じた。

いつもより早い睡魔の訪れに身を任せようとした刹那、廊下の冷たい空気が首の後ろに触れるのがわかった。
だが、俺はもう眠りの淵に立っていて、その原因に振り向こうなどとは思わない。
そしてこのまま淵から落ちてしまおうとしたその時、背後のベッドが沈み、上掛けに閉じ込められていた暖気が一瞬逃げたかと思ったら、背中が温もりに包まれた。

誰かいる。
誰だ?

…そんなの、牧野しかいないだろ…

眠りの底に向けてダイブ寸前だった俺の意識は一気に引き戻され、瞼が暗闇でぱっちりと開いた。


「…牧野?」

「……おやすみ。」


寝返りを打って振り向くと、牧野の髪の香りがすぐ近くに漂った。
腕を回すと柔らかく温かい体が俺に沿う。
これは…


「牧野、」

「…ん…?」

「キスしたい。」


俺の咄嗟の要求に牧野が顔を上げた。
闇に慣れた目にすげぇ眠そうな顔が見えた。
と思ったら、視界がまた闇に覆われた。


チュ…

「………」

「おやすみ…」


そして牧野は俺の胸に寄り添って眠りについた。
しばらく固まった俺は何が起きたのかようやく理解した。

今、触れたよな?
それも唇に…

マジか
キス…してくれたのか?
牧野から?
ヤッベ…

それはあの雨の日のキスのように俺を舞い上がらせた。
そして俺は朝まで悶々とした欲求を抱えて苦しむことになった。




***




「…どうしたの? 大丈夫?」


翌朝、牧野を抱きしめたまま入眠したのは明け方だった俺は、酷いクマのできた顔でダイニングに座っていた。
対してすっかり酔いが覚めた牧野は二日酔いの影響もないようで、朝からもりもりと食事をとっていた。


「なんか、眠れなかった?」


俺の前にコーヒーを置き、牧野はまた自分の朝食に戻り、スクランブルエッグをトーストに乗せて頬張っている。


「お前さ、昨夜の記憶あるか?」

「記憶? んーっと、桜子と飲んでたと思ったんだけどあんたのベッドで目覚めて、自分の部屋に戻ってシャワーを浴びて、んでまたあんたの部屋に戻って寝た。」

「なんで俺のベッドに来た?」

「もしかして、あたしがお酒臭くて眠れなかった? 歯みがきしてミントカプセルも飲んだんだけどな。ごめん。」


本気で申し訳なさそうにして牧野は顔の前で手を合わせた。


「そうじゃなくて、俺のベッドに入ったのはなんでだ?…って、あーー! そうじゃなくて、つまり俺にキスしたのは覚えてんのかって聞きてぇんだよ!」


牧野の顔も赤いが、きっと俺の顔も赤くなってる。
誰だよ、器用になった大人の男なんて言ったのは。
俺はまだこんなに純情だぞ!


「お、覚えてるよ。あんたがしたいって言ったんじゃん。」

「言ったけど、まさかお前からしてくれると思ってなかった。なんでしてくれたんだよ?」

「なんでって、だからあんたがしたいって言ったんでしょ!」

「したいとは言ったけど、してくれとは言ってねぇ! なのにお前からしてくれた理由が知りたいんだよ!」


なぜか喧嘩になっている。
照れが意地を呼び、意地が負けず嫌いを呼び、お互いに相手が折れるまで引く気はない。
終わりの見えないそんなやり取りが俺たちらしくてなんだか面白くなってきた。


「理由なんてないわよ! だってあたし、あんたの彼女だもん!」


終わらないと思ってた言い合いは、牧野が唐突に終わらせた。


「なっ…お前、なんでっ……ズルいぞっ!」

「はぁ?? 何がズルいのよ!」

「そんな…いきなり告白するとか…」

「告白ぅ!? し、してない、してない! 告白なんてしてないっ!!」

「だって、いまお前は自分が俺の女だって認めただろ。それって俺が好きだからだろ?」

「ハァ…なんてお気楽な思考回路。ちょっと分けて欲しいわ。」

「違うのかよ、違うならどういう意味か説明しろ!」


牧野は目の前の皿を少し押しやって、組んだ腕をテーブルに乗せた。


「意味って、そのままよ。あたしとあんたは別れてなくて、まだ付き合ってる。つまりあたしはあんたの彼女。彼氏がキスしたいって言ったらその相手は彼女しかいない。だからした。…それとも何? 他の女としたかったの?」


牧野の額に青筋が立った。
お前、そんな芸当あったのか。


「他の女となんてしたいわけないだろっ!! 俺はお前ともっと激しいのがしたい!」

「バカッ! 朝から何言ってんのよ!」

「じゃ、夜な。「俺は自分の女と濃厚なキスがしたい」聞こえただろ? 忘れんなよ。」

「〜〜っ! ほんっと、バカッ」


牧野はまたモシャモシャと朝食に取り掛かると、早々に食べ終えて皿を下げ、洗い物を終えると出て行こうとダイニングのドアに向かった。
俺は勝ったのか負けたのかよくわからない感情のままコーヒーを飲み終え、出て行こうとする牧野の背中を見ていたが、ドアノブに手をかけた牧野は動きを止めた。


「あたし、今日は遅番だから、21時にお迎えよろしく。」


ドアを向いたままそれだけ言うと、牧野は出て行った。

お迎え?
あいつ、そう言ったか?
今まで、あいつに頼まれたことなんてない。
俺が勝手に押しかけるように迎えに行くか、車だけを向かわせるのが習慣になってただけだ。
なのにこれはどういうことだ?

昨日まで冷めた態度で遠くを眺めてたのに、昨夜から変わった。
なんていうのか、素直になった?
俺に向き合おうとしてくれてる。そんな意思を感じる。

三条、お前、どんな魔法をかけたんだ?








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2019.11.14




約束通り21時に迎えに行き、マンションに帰って晩飯を食った。
風呂に一緒に入ることはやっぱり拒否られたが、一緒にベッドに入ることにはいつもの押し問答もなく素直に従った。
その間、今日できるはずのキスを思って俺は牧野の一挙手一投足を注視していた。

「自分の女と濃厚なキスがしたい」というリクエストにこいつはどう応えるのか。
牧野から?
それとも俺が仕掛ければいいのか?
たかだかキスだというのに、俺は硬直したように体が動かなかった。


「…おやすみ」


暗闇で仰向けになってる俺の左側の耳に牧野の声が届いた。
おやすみ? おやすみだと?


「おい、寝るな! まだ今朝のリクエストに応えてねぇぞ。」

「まさか、あたしからしろってこと? しないわよ?」

「昨夜はしてくれた。」

「軽いのだったでしょ。濃いのなんてしたくない。」

「……じゃ、軽くていいからお前からしてくれ。」

「…っとに…昨日するんじゃなかった。」


俺は朝から寝不足も吹き飛ぶような上機嫌でこの時を待っていた。
牧野はベッドに肘をついて起き上がり、髪をかき揚げながら、右側の俺に被さった。
サラリと髪が落ちる。
牧野の香りが近づいて、唇に昨夜と同じ柔らかさが触れた。
瞬間、俺の腕が牧野を捕獲した。


「んっ!?」


俺は牧野のウエストに腕を回して引き寄せ、後頭部を押さえてキスを深める。
この作戦は2度目だが、まだまだ使えそうだな。


「んんんー!(やめてー!)」


キスしながら話すという高度な技を見せる牧野が唇を開いた隙に入り込む。
牧野はキスしながら話してるから舌が逃げ惑う。
牧野の腕がグイグイと俺の胸を押してるが構うか。


「ハァッ、ハァッ、やめっんんっーー!!」


息継ぎをさせてまた後頭部を押さえた。
唇を甘噛みしながら舌を見つけ出し、擦って絡めて吸い上げる。
久しぶりの濃厚なキスは甘くて旨くて卑猥で淫靡で・・・
俺に注がれる唾液も吐息も媚薬のようにこの身を昂らせた。


「…ふ……ぅん…」


抵抗じゃない声が牧野から漏れて来る頃には、こいつの全身が欲しくて欲しくて堪らない。
牧野の身体を俺の身体に押し付けるようにかき抱く腕が強さを増して、牧野の重みも温もりも味も香りも何かもが快感になっていく。
牧野から力が抜けたことにやっと気付いて唇を離したが、昂った気持ちは出口を求めていた。
だから俺は仰向けのまま牧野を両腕でキツく抱きしめ、俺の顔にかかる牧野の髪に息を吹きかけながら熱い想いを発露した。


「好きだ。…好きだ、好きだ、好きだ。愛してる。お前が欲しい…身体も心も全部、俺のものにしたい…!」


牧野はじっと俺に抱きしめられていた。
このまま眠ってしまっても俺は離さないつもりだった。
だが、牧野は俺に抱きしめられている隙間からベッドに腕をつき、体を起こした。
俺も同時に腕を緩めて、起き上がる牧野の顔を暗い室内で見つめた。
その時、サーッと雲が晴れて現れた月から発せられる光が高い窓から射し込み、俺に向けた牧野の顔を照らした。



牧野が俺に向けたのは愛の告白を聞いた悦びでも照れでもなく、哀しみのこもった目だった。


「そんな言葉を何人の女に囁いてきたの?」


人は突然に予想外のことを言われると、咄嗟に反応できないものだ。
俺も例に漏れず、数秒固まって出した声は素っ頓狂なものだった。


「…は?…えっ…ああ??」


牧野が完全に体を起こしてベッドの上に座り込んだから、俺も起き上がった。


「何人て、何言ってんだ? お前の他には誰にも言ってねぇよ! お前にしかこんな気持ちにならねぇんだから。」


牧野はまだ哀しみをたたえた目をして俺を見ていたが、そのうちに横を向いて一つ息を吐き出すとベッドを降りた。
この後の行動を察した俺もベッドを降りた。
牧野が後ずさる。


「あの、うん、そっか。それは…ごめん。でも、やっぱりあたしには無理みたい。今日は自分の部屋で寝るから…あんたはここでゆっくり眠って。」


そう言ってドアに振り向いて部屋を出ようとした牧野の腕を俺は掴んだ。


「行くな。キス以上はしない。キスも今夜はもうしないから、そばにいてくれ。」


俺はゆっくりと掴んでいる腕を引いた。
が、その俺の手を牧野は振り払った。


「やだ………触らないで…」

「牧野、」

「あたしに触らないで。他の女に触れた体であたしに触れないで。」

「なんだと?」


牧野は振り向いた。
月明かりが照らした今度の牧野の顔は怒っていた。


「そんなにあたしが好きならなんで他の人を見たの? 他の女に触れたの? 愛してるなんて、そんなのは…あんたが自分に酔ってるだけよ。」

「…お前……」

「あんたは、あたしの道明寺じゃない。あたしの道明寺はあたしだけを見てくれる。あたし以外の女なんてその視界に入れない人なの。触れたりもしない人。あんたとは違う。あたしが愛してるのはあいつだけよ!」


それだけ叫ぶと牧野は部屋を飛び出した。
俺は血の気が引いて足に根が生えたように動けない。
今、言われた言葉が頭の中を駆け巡った。
そのうちに、怒りが、誰に対してなのか、何に対してなのか自分でも判然としない猛然たる怒りが湧いてきた。
そして俺も部屋を出て牧野の部屋に向かった。








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2019.11.15




ドンドン!

  ガチャガチャ!


「おい、開けろ!!」


ドンッドンッ!!


「開けねぇと蹴破るぞ!!!」


怒り狂った司は、鍵のかかったつくしの部屋のドアをあらんかぎりの力で叩いていた。
司の拳の側面は内出血し始めていたが、構わずに司は叩き続けた。


「これが最後の警告だ。開けろ! 牧野、開けろ!!」


それでもつくしは応答しなかった。
痺れを切らした司は2歩下がると長い脚を勢い良く蹴り出した。


ガッガッ…バキッ!! ガターーーンッ!!!


司は予告通りにつくしの部屋のドアを蹴破った。
暗闇で舞い上がった埃が、薄いカーテンだけの窓から射し込んだ月明かりに照らされ漂った。


「牧野っ!」


部屋に入って見回してもつくしの姿はない。
ベッドにもソファにもドレッサーの前にもつくしはいなかった。
明かりもつけずに司は部屋を横切りバスルームを開けたが、そこにもつくしはいない。


「クローゼットか…」


足早にクローゼットに近付くと、閉じられたクローゼットルームの扉を開けた。
そこはさらなる暗闇だった。
しかしつくしは必ずここにいる。


「牧野…?」


まるで誘き出すかのように司は優しくつくしを呼んだ。


「牧野、出てこい。もっとちゃんと話をしよう。お前は誤解してるんだ。俺はあんなことを他の女に言ったことはないぞ。な、牧野、」


その時、微かな衣擦れの音がハンガーラックの方から聞こえた。
司は右手に方向を変え、音がした方にゆっくりと、足音を立てずに歩み寄った。
そしてラックの前に来ると、身を屈めて吊り下がった服の下を覗き込んだ。

はたしてそこにつくしはいた。
右腕で立てた膝を抱いて膝頭にうつ伏せていた。
左手は胸元を強く握りしめている。

司は腕を伸ばしてつくしを衣服の下から引き出そうとしたが、顔を上げたつくしが抵抗し、押し問答となった。


「出てこい!」

「嫌っ」

「牧野、俺を怒らせるな!」

「嫌よっ」


司の長い腕がつくしに伸び、その上腕を掴んでフローリングの床を滑らせるように引き出し、そのまま引きずりながら司はつくしを連れてクローゼットを出た。
薄明るい寝室で床に仰向けになるつくしの顔が見えた。


「離してよっ」

「今日という今日はわからせてやる。俺に昔も今もないってことを。お前が愛してるのは俺だ! 18歳の俺なんてもういないんだ! お前が愛する無垢な俺は今、お前の目の前にいる男なんだよ!」

「違うわよっ! あんたなんかじゃない!」


床の上で未だ抵抗するつくしに馬乗りになったとき、その握られた左手から鎖が見えることに気付いた司は、強引にその手を開かせた。


「痛い! やめてっ」

「何を持ってる! 見せろ!」

「いや、やだっ!」


出てきたのは土星のネックレスだ。
しかしそこで光っているのはブルーのサファイアではない。
15年前のピンクのルビーだった。


「返して!」

「お前…いい加減にしろ! 頭がどうかしてる。俺だ! 俺なんだ! お前が求めてるのは何歳だろうが俺だ! お前の道明寺は俺しかいないんだ!」

「違うっ! あんたじゃないっ。あたしの道明寺はあんたじゃない! あたしはあんたなんて好きにならないっ!!」


カッとなった司は土星のネックレスを投げ捨て、思わず平手を振り上げた。
殴られると察したつくしは腕を顔の前でクロスにして防御の姿勢を取った。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ」


振り上げられた平手は空中で止まり、波打つ鼓動を表すかのように揺れていた。
その時、司の脳裏にはまた小椋のあの言葉が過ぎった。


“ あの時、もっと冷静になっていれば…彼女の想いごと包めたかもしれない。 ”


自分にはつくししかいない、急ぐ必要はないと、その想いごと包む決意をしたのはまだたった2週間前なのに、それなのに自分はもう堪え性もなく強引につくしの心を開かせようとしている。

つくしへの大きな愛情を示したい。
そのためには寛容に見守り続けてやるのがベストだとわかってる。
でもどんなに愛情を示そうとも否定されることに、司も限界だった。
繰り返される拒絶も無理解も司の心を食い荒らし、ついにはつくしへの愛も食い尽そうとしていた。

堂々巡りはたくさんだ。
今こそ、決着をつける時だ。

そう決心した司は、未だ防御の姿勢を崩さないつくしを前に、振り上げた腕を下ろした。
そしてつくしの上から退き、立ち上がった。

大きな体が退いたのを感じ、つくしは顔の前から腕を解き、体を起こしながら司の様子を伺った。
その顔は俯き、影になって見えなかった。
その時、つくしにあの言葉が届いた。


「……お前は俺を、一人の男として見たことがあるか?」


司の様子を見上げたつくしは目を見開き、雷に打たれたように硬直した。


「俺の家や母親や全部とっぱらって、ただの男として見たことが一度だってあるか?」


雨の中で問いかけた言葉の返事はこの15年、司を苛んだ。
でも今こそ、本当の答えが聞きたかった。
あの時に掛け違ってしまったボタンを今こそ正したかった。

つくしは膝を立て、ゆっくりと立ち上がった。
月の光が司の俯く横顔と、触れると柔らかい髪を右から照らしている。
司がつくしに向けた瞳に表れた哀しみは、あの時、雨に紛れてしまった司の涙を思い起こさせた。
つくしは一歩、また一歩と司に近づいた。

司にも月に横顔を照らされるつくしが見えた。
その目は苦悩に歪み、口許は何かを発しようと声にならない息遣いを繰り返している。
長年、押さえつけていた重石に渾身の力を込めるように、体は力んで小刻みに震えていた。


「牧野…あの時に戻ろう。あそこからやり直そう。だから今こそ、あの時の本当の答えを聞かせてくれ。」


司の言葉に唾を一つ飲み込むと、つくしは大きく息を吸い込み、そして次の吐息に声を乗せた。


「あるよ…だって出会った頃からあたしにとってあんたは、バカで高慢ちきで強引で単純なただの男で……でも…本当はあんたを何度も、何度も、何度も、好きだって思ってた。」


15年前、タマの前で嗚咽をこらえて押し殺した言葉を伝え終わったつくしの瞳は、じんわりと染み出した涙に月明かりを受けて煌めいた。
なぜなら司が微笑んだから。
司はつくしの体を抱き寄せると、優しく優しくその髪を撫で始めた。
それはまるでつくしへの愛情を温もりで伝えているようで、つくしの瞳の煌めきは結晶となって頬を伝い落ちた。


「やっと聞けた。やっと言ってもらえた。」

「道明寺…」

「その言葉を15年、待った。」

「道明寺……」


つくしは司に縋るようにその胸に顔を埋めた。
溢れる涙が司の着ているTシャツに移ってじんわりと染みを作った。


「ああ、俺がお前の道明寺だ。あの夜と何も変わらない俺だ。」

「道明寺…うっぅぅ」

「愛してる。」

「やめて…ちがう…愛さなくていい…愛さないで…あたしみたいな酷い女…あんたは変わらなくても、あたしは変わったの。あたしはもう道明寺が愛してくれたあたしじゃない。」

「何も変わってない。お前も昔のままのお前だ。」

「違う…違う…あたしは…だって、あ、あたしは、別の人と…」


つくしの髪を撫でていた手が止まり、司はつくしの頭を自分の胸元にグッと押しつるようにしてその言葉を止めた。


「わかってる。言わなくていい。俺も同じだ。でも愛したのはお前だけだ。お前が愛したのが俺だけなのと同じに。俺はずっとお前だけの俺だった。お前もずっと、俺だけのお前だったんだ。」


そうして頭に司のキスを感じたつくしはもうこれ以上、自分の心から目を逸らすことができずに、司を見上げてついに真実の想いを曝け出した。


「嫌…ダメだよ……愛したくない…あんたを、愛したくない。だって…きっとまた奪われる。あんなに苦しい思い、今度は耐えられない。生きていけない…だから…」

「だから、昔の俺を愛したのか? 絶対に奪われない記憶の中の男を。」

「あいつなら…永遠にあたしのものだから…誰にも奪われない、誰にも触れさせない。あたしだけの道明寺…」


愛するが故に目を逸らさずにはいられなかったつくしの想いが、司の中に激しい哀切を呼び起こした。

愛されていないと信じて過ごした男の15年。
愛し合っていると知って過ごした女の15年。

愛し合っているはずの男が、知らぬとはいえ別の女に触れた時、女はどうしただろう。
その時女は、鎧を着て仮面を被り、自分の世界に閉じこもった。
そこで永遠に失うことのない自分だけの男の幻影を作り上げた。


「牧野…牧野…俺が悪かった。許してくれ。お前が許してくれるならなんでもする…もう絶対に、生涯、お前以外の女には触れないから…お前から離れないから…だから、俺を許して俺を愛せ。」


つくしを抱きしめる腕は彼女を壊さないようにその体を優しく我が身に沿わせていたが、腕の先の拳は砕けんばかりに強く握りしめられていた。
つくしと自分を引き裂いた者への恨み、そしてつくしの深い愛に気付けなかった自分への怒りだった。


「…悪くないよ。わかってる…道明寺は悪くない。悪いのはあたし。あの時、ちゃんと伝えなかったんだから。あんたは何にも悪くない。ただ、あたしが…あたしは…」


つくしは再び司の胸に顔を埋め、背に腕を回し、その腕に力をこめて抱きしめた。


「憎かった。道明寺のそばにいられる女性(ひと)が。あんたに見つめられて、触れてもらえる女性(ひと)が。どうしようもなく、憎くてたまらなかった。だからあたしは…あんたを切り離したの。苦しめて、ごめん。」


つくしは震えていた。
それは己の真の姿を司に曝け出す恐怖からか、もしくは泣いていたからか。
でもどちらだとしても、司には堪えようのない愛しさを呼び起こした。
司はつくしの顎に指先を添えて上向かせると、月明かりを反射する涙の跡に口付けた。


「俺たちは遠回りをしたな。でもそれも今日で終わりだ。俺たちはお互いを手に入れて、これからはずっと一緒に生きていくんだ。もう誰も俺たちを引き裂けない。……あの女にだってもう手は出せない。俺はそのためだけに今まで耐えてきた。そして手に入れたんだ。誰にも邪魔されない俺たちの未来を。」

「何をしたの?」

「道明寺を終わらせる鍵を握った。道明寺の命運は俺の手にある。だから心配いらない。俺は…生身の俺も永遠にお前といられるんだ。」

「でも…でも、それでも…」


つくしの顎に添えられていた手が首に降りた。
司の大きな右手は易々とつくしの喉元と頸動脈を覆った。


「それでもお前から俺が奪われそうになったら、奪われる前に殺してやるよ。俺と一緒に地獄に堕ちよう。」


司の掌にはつくしの命の脈動が伝わっていた。
それは少し力を加えるだけで簡単に止めてしまえる儚いものだった。

司の言葉に驚いたつくしだったが、司が本気だとわかると嬉しそうに微笑んだ。


「うん…今度はあたしが地獄まで追いかける。…約束ね。」


そうしてつくしが15年間愛し続けた幻影は、血の通う生身の男へと生まれ変わった。









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2019.11.16




牧野は長い夢から醒めた。
俺を愛するが故に見ていた幻は現実が見せる悪夢を覆い隠す虚構だった。

今、俺が見つめる瞼が開けば、そこには今の俺を映す瞳が現れるはずだ。
起きろ、牧野、起きろ。


「ん……」

「はよ…」


ゆっくりと瞼が開き、大きな黒い瞳が俺を捉えた。


「おはよ…道明寺…」


その名はもう過去の男のものじゃない。
今の俺を呼んだんだ。
牧野はモゾモゾと動き、枕に片肘をつく俺の胸元に擦り寄った。


「本物の道明寺だね。」


ここは牧野の部屋だ。
あの後、こいつは俺に抱きしめられたまま、あろう事か寝落ちした。
だから俺は呆れながらも、牧野らしいと込み上げる笑いを堪えながら近くのベッドにこいつを寝かせ、俺も横に潜り込んだ。
そうして朝までこいつを抱きしめて眠ったってわけだ。


「牧野…」

「ん?」

「…あの約束、覚えてるよな?」


俺のTシャツに鼻先を埋めていた牧野がハッとして顔を上げた。
その目を真っ直ぐに見て伝えたい。


「お前は昨夜、やっと俺自身を見てくれたが、俺は言ったよな? 今の俺を好きになったらサファイアの土星のネックレスをつけてくれって。お前が今の俺を許して、俺自身を愛するようになったら着けてくれ。いいか?」


昨日の今日で全てが上手くいくとは思ってない。
リハビリが必要なのはこいつの方だ。
こいつの中の傷ついたこいつを真綿で包むように癒して、いつか伸び伸びと立ち直った牧野に心から求められたい。


「わかった。」

「でも恋人関係は継続中だからな。」

「わかってる。」

「キスはするぞ。」

「…ん。」

「朝、起きた時と、夜、寝る前。出かける前と帰ってきた時、それから、」

「多い多い。そんなにしないから。」

「ふーん。回数減らすなら一回が濃いのな。」

「バ、バッカじゃない!? そんなのしないわよ!」


牧野は顔を真っ赤にして怒ってるが、それが照れから来ることはよくわかってる。


「まずは朝のキスな。」


そう言って俺は素早く牧野の唇を奪う。
そしたら牧野はまた照れ怒りして下から俺をジトっと睨んだ。
そんな顔、初めて見せてくれた気がして、それもこいつの気持ちが俺を受け入れた証のように思えて嬉しい。


「照れんなよ。」


頭をワシワシと撫でてやると、「照れてないっ」と俺の手を振り払い、ベッドを出た。


「朝ごはん、食べなきゃ。道明寺は? またコーヒーだけ?」


なんの未練もない道明寺の名も、こいつがこうしてまた呼んでくれるようになれば愛しくなる。


「いや、今日は俺もしっかり食う。」


一緒にベッドを出て、牧野と1日を始めるために部屋を出た。




***




「お役に立てたようで。」


午後、三条がオフィスを訪ねてきた。
俺の目の前のソファに座り、秘書が淹れた俺専用のブルマンを飲みながら、三条は言葉とは裏腹に呆れたような息を吐いた。
しかしあの夜、牧野が何を語り、三条がどんな言葉をかけたのか知らないが、あれから牧野が変化したおかげで正面から向き合えたのは確かだ。


「ああ、牧野はやっと俺を見た。何があったか知らないが礼を言う。」

「先輩がお幸せになれるなら力は惜しみません。」

「で、牧野は何を語った?」


こいつが話してくれる可能性は低いが、やはり牧野のことはなんでも知りたい。
それがどんなに辛い現実でも。


「言いませんってば。墓場まで持っていくって言いましたでしょ? 知りたきゃ先輩に聞いてください。」

「チッ。じゃあ、お前は何をしたんだ?」

「ハァ…私は先輩の心を堰き止めていた石を少し動かしただけです。『先輩は盛大なヤキモチを15年も引きずる面倒臭い女ですよ。』って。」

「ひでぇ言い草だな。」

「先輩のヤキモチからくる深くて深くて深すぎる後悔が、道明寺さんの時を止めて愛するという心理状態に繋がってたんです。私も聞きたいんですけど、もしもあの雨の夜に先輩が本当の気持ちを道明寺さんに伝えていたらどうしてました?」


あの雨の中で、牧野から好きだと言われていたら…


「迷わずあいつの手を引いて逃げてたな。道明寺の名前も家も捨てて、牧野にダチを捨てさせて。」


三条はまたため息をついてソーサーごとコーヒーをテーブルに置いた。


「やっぱり言わなかった先輩の選択は間違ってませんね。友達を捨てて男を取るなんて、それじゃ先輩は幸せになれませんから。だから、お二人の道は今のこの道しかなかったんです。先輩も道明寺さんも、もう後悔はやめにして2人の未来に向けて歩き始めてくださいね。」

「ああ。」

「では、私はこれで。この後、先輩とアフタヌーンティーを楽しむ予定なんです。」

「は? 聞いてないぞ。」

「でしょうね。先輩も知りませんから。」

「拉致るつもりか。」

「ええ、そうです。ですから道明寺さん、先輩付きのSPに伝えておいてください。場所はザ・インペリアルホテルです。」

「ったく…牧野とのデートが報酬ってことか。」

「甘いですわ。報酬は先輩のブーケです。道明寺さん、先輩のブーケは2つ用意してくださいね。式で使ったのは私がいただきますから、ダミーを投げてください。あ、それとブライズメイドの中のメイド・オブ・オナー(ブライズメイドのリーダー役)も私がします。先輩の横に立つのは私ですから。」


三条の言葉に俺はニヤリと口角を上げた。


「いきなりするからな。いつでも帰国の用意しとけよ。」

「少なくとも2日前には教えてくださいね。この報酬が受け取れなかったら次は名付け親の権利を要求しますから。」

「お前なっ!…わかったよ!!」


三条は話は済んだとばかりにいつもの企んだような笑顔を作ると、ソファから立ち上がった。


「それでは、先輩とのティータイムが終わり次第、オーストリアに戻ります。道明寺さん、くれぐれも先輩をよろしくお願いしますね。」

「ああ、俺が絶対に守る。」

「その言葉、信じてます。では、失礼します。」


出て行こうとドアに手をかけた三条に俺は最後の質問を投げかけた。


「カラントサンライズは『希望』だな?」


三条は立ち止まり、背筋を伸ばして俺に向いた。


「ええ、そうですね。でもね道明寺さん、『希望』は持ってるだけじゃダメです。それを現実にするためには行動を起こさないと。…と、先輩にも伝えました。」

「フッ…そっか。サンキューな。」

「どうしたしまして。それではこれで。」


そして三条は本当に出て行った。

俺たちのパンドラの箱の底に残ったのは『希望』
でもそれはあくまでも望みであって、まだ現実の幸福ではない。
望みを実現させるのはいつだって自分自身だ。


俺は牧野のSPに連絡するために受話器を手に取った。








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2019.11.17




それから牧野はどんどん本来の姿に戻っていき、昔のようなくるくると変化する、表情豊かな女になっていった。
と同時に牧野らしい要求もするようになった。


「一人暮らししたい。」
             「却下」

「電車通勤したい。」
             「却下」

「SPさんを外して欲しい」
             「却下」

「自分で洗濯したい。」
             「却下」

「早番の時は晩ご飯くらい作りたい。」
             「んー、OK」

「じゃ、スーパーで買い物したい。」
             「却下」


早番の牧野が作った晩飯を向かい合わせで食いながらする会話はなんか夫婦みたいで、俺は昔、牧野が言った「小さな幸せ」ってのはこういうもんか?と思いを馳せていた。


「あれもこれも却下で面白くない!」

「材料はなんでも揃ってんだろ? 事前に言えばメイドが用意するからメモでも置いとけばいいだろうが。」

「そういうことじゃなくて、スーパーを回って考え事しながら買い物するのが楽しいの!」

「お前さ、今までは食事だって洗濯だって全部、使用人がしてて文句言わなかっただろうがよ。」

「それは…なんていうか…」

「ある意味、どうでもよかったってことか?」

「うっ……」

「へー……マジ、俺ってお前にとってその程度だったんだな。改めて突き付けられると結構、凹むな。」

「だ、だって、あたしバツイチだよ!? それに昔の約束もあるし、きっとまたすぐに……って思ってたから長続きすると思ってなかったし…」


今夜のメニューは…あー、なんだっつったっけ?
なんか魚のフライと肉とか野菜とか具がいっぱい入った味噌汁とブロッコリーにゴマがまぶったヤツ。
それと砂糖まみれのサツマイモ。
これはデザートか?
飯には合わねぇよな。

俺はサツマイモだけ残して箸を置いた。


「つまり、これからは俺と長くいようと思ってるって解釈で合ってるか?」

「うっ……」


牧野は最後に残したサツマイモを咀嚼していた動きを止めた。
みるみる顔が朱に染まっていく。


「おい、照れてんのか喉に詰まらせてんのかどっちだよ。」


モグモグ…ゴクン…


「照れてないっ!」


と、お決まりの照れ怒りだ。
こいつ、可愛さ増してるだろ。

俺は立ち上がり、牧野の隣に椅子を近づけ座り直した。
肩を抱き寄せ、俺を見上げる赤い顔をちょい艶っぽく見下ろした。


「いいか、あの女と交わした昔の約束ってのはもう無効だ。だがな、あの女がどんな報復に出てくるかわかんねぇからな。俺たちが結婚するまでは人混みは禁止だ。わかるな? で、お前はいずれ道明寺総帥夫人になるんだ。使用人を使う生活に慣れろ。」


俺の言葉にいろんな意味で唖然として開いたまま塞がらない唇に俺のそれを重ねた。
牧野の甘さにサツマイモの甘さが加わって、極上の一品に仕上がってる口腔内を犯せばその先のメインディッシュが喰いたくなる。
が、俺はこいつが俺に本気になるまでは抱かないと決めている。
昂りをギリギリのところで抑えつつも、愛しい女と交わすキスをそうそうやめられるわけもなかった。


「どっ…んっ…ぁ…」


いつの間にか引き寄せた身体は俺の膝の上に乗っていて、キスをしながら手が条件反射でトップスの中に入り込む。
いや、待て俺。
こいつが俺に本気になるまではで抱かないとかさっき豪語したくせに、もう我慢が限界じゃねぇか。
まずい、ここらで引かないと。
でも手が、手が勝手にっ
起毛してるセーターの下のキャミのその下の肌を撫でると温かくて滑らかで、もっともっとあらゆるところを撫でたくなる。
あの丸くて柔らかい物体も……


「あっ…んっ…こらっ」


キスを首筋に落としながら、ブラを押し上げプルンと飛び出した丸いヤツを久しぶりに手で包む。
こんなに柔らかかったっけ


「ちょっ、あ…だめ…はぁ…ぅん」


牧野の甘い啼き声で昂りが抑えられなくなってきた。
ヤッベ…前言撤回してもいいか?


「あっ…ダ、ダメ! やだっ」


俺の手が腰からボトムの中に入りそうになって、強く発せられた拒絶の言葉に俺はやっと手を引き、牧野を抱きしめた。


「ハァ…悪りぃ…ああ、でも、好きだ。好きなんだ。お前が欲しくてたまんねぇ。」


牧野に対するどうしようもない愛情が胸の中で膨れ上がって弾けて、温められた何かが細胞の隅々にまで行き渡る。
身震いするほどの渇望と幸福が同時に湧き上がって、俺はしばらく強く優しく牧野を抱きしめていた。

そんな俺を牧野の腕がふわりと包んだ。
俺の膝に座る牧野は目線が俺と同じ高さだ。
その状態で抱きしめられれば、牧野の息遣いが耳のすぐ後ろで聞こえた。


「あたしも、あんたが…道明寺が好きだよ。きっとあたしも、すごくあんたが欲しくなってる…」


俺は思わず息を止めた。


「でもごめん。もう少し待って。このまま以前のようになし崩し的に関係して、曖昧なままの時間を過ごしたくない。あたしが今のあんたを好きを超えて愛せるようになって、あんたと生きていく覚悟ができるまで待ってて欲しいの。そう長くはかけないようにするから…」


俺はもうなんだか泣きそうだった。
あの雨の日、俺は泣いたかもしれない。
でもそれはあの雨と同じくらい冷たい涙で、冷え切った心では雨か涙か判別することはできなかった。
でも今流すならそれは温かい涙だ。
温かい心から流れる温かい涙は幸せの象徴なのだと、俺は知った。


「そっか、わかった。お前が正直な気持ちを聞かせてくれたのがすげぇ嬉しいから、待つわ。」

「ごめんね。」

「謝んな。俺は待てるから。お前がこの腕の中にいるなら、い……1年は待てる。」

「プッ! 今、「いつまでも」って言おうとしてやめたでしょ?」


体を起こして笑い出した牧野に、今度は俺が照れ怒りだ。


「そうそうカッコつけられるか。1ヶ月って言わなかっただけ褒めろ。でもどんなに待っても1年が限界だ。それまでに覚悟決めろよ。」

「…あんたはやっぱり総帥になる人なんだね。」

「ああ、それがあの女との取り引きだ。」

「取り引き以前に使命でしょ? でもその夫人があたし?」

「なんか文句あるか?」

「あたしももう子供じゃない。あんたと離れないって意味をウダウダ考え込むつもりはない。だけどどうしてももう少し時間が欲しいの。」

「わかってる。だけどな、言っとくがお前が想定する事態は俺が全部想定済みだ。その上で俺はお前がいいんだから余計なことは考えるなよ。」

「ん、わかった。」


俺たちはまた抱き合い、互いの心の温もりを分け合った。




***




牧野の告白を聞いてからも俺たちは変わらず暮らしている。

一緒に目覚めてキスをして、「行ってきます」の挨拶でまたキス。
牧野が早番の時は「おかえり」のキスをもらい、たまに俺が迎えにいく時は「お疲れ」とキスをする。
そして夜は同じベッドに入って「おやすみ」と一日の最後のキスをする生活だった。

ベッドの中では牧野を後ろから抱きしめて眠りにつくのが俺たちのお決まりのポジションになった。


「……ねぇ、これってさ、辛くない?」

「んー?」

「あの、だって……あ、当たってるんですけど。」

「だろうな。お前が好きだからしょうがない。」

「一人で寝たほうがよくない?」

「じゃあさ、胸揉んでいいか?」

「はぁぁ!? じゃあさって何よ、じゃあさって! いいわけないでしょ! あっち行け!!」

「クックッ、なんかお前らしいな。」

「ギャッ! だから押し付けるなっ!」


肉体交渉がなくても、牧野が俺を好きだという事実が俺を思いの外安定させていた。
15年のブランクも、昔だ今だとこだわったこともなかったように、言い合って笑い合う本来の俺たちらしい関係を形作っていて、俺は現状に満足していた。

ただひとつを除いては。

それは雨の夜だ。
夜、雨が降れば牧野の心は一気に遠ざかる。
灯りを消した自分の部屋の窓辺に佇んで、ずっと外を見ている。
それは睡魔が襲いかかるまでだ。

何度か切り上げるように声を掛けていたが諦めた。
だから俺は牧野の部屋の窓辺にラブソファを置いた。
ガラスに映り込まないように真っ黒で、高い背もたれが3方を囲む箱のような二人掛けのソファだ。

それからはそこに座り、牧野は眠るまで雨を眺めている。
15階建ての最上階で、窓辺のソファに座って見える雨は夜に溶けているか、バルコニーに打ち付けているだけなのに、飽きもせずに眺め続ける。
きっとその瞳に映るのは雨じゃない。
あの夜の18の俺だ。
どうしようもないガキだった俺を牧野は見つめ続けている。

今の俺と向き合っていても、夜の雨を見れば15年間の苦しみに引き戻される。
だから牧野は見つめずにはいられないのだ。

好きな女の視線が、自分を置き去りにして別の男を見ている。
それは遠い昔に経験した苦い思い出だったが、いま、同じ女にまた同じ経験をさせられるとは、因果なもんだ。
そんな牧野の横に座り、俺は彼女を見つめる。


初めて横に座って一緒に雨を眺めた夜、俺とは反対側の背もたれに体を預ける牧野の頭を撫でた。


2度目に座った時は膝に置かれた彼女の手の甲を撫でた。


3度目に座った時にはその手を取り、俺の膝に移して握った。
すると牧野の視線が窓に映る俺に移った。


4度目に座った時、牧野は体を起こしてソファの上で膝を抱いた。
だから俺は彼女の肩を抱いた。


5度目には牧野が俺の肩にもたれてきた。
だから俺は彼女の頭に頬ずりした。


6度目、彼女は俺の膝に頭を預け、雨を眺めた。
だから俺はその髪を指で梳いた。


7度目、そうして雨を眺めていた牧野は髪を梳く俺の手に自分の手を重ねた。


そして8度目、俺の膝から体を起こした牧野は、雨を見るのをやめて俺を見た。
だから俺はキスをした。
それは、やっと雨を見るのをやめて俺を見てくれた喜びが伝わるようにと祈りを込めた神聖なキスだった。
すると牧野は閉じていた目を開け、照れたようにはにかんでこう言った。


「道明寺の優しいキス、すごく好き。」


それは9月の初め、俺の誕生日からおよそ7ヶ月後のことだった。









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2019.11.18