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【第一話祭り】その1







俺の名前は道明寺遥(はるか)
女みたいな名前だけど、男だ。
歳は17、英徳学園高等部2年に在籍している。

父親は道明寺司、41歳。
母親は道明寺礼子、38歳。

兄弟はなし。
昔、親父に弟が欲しいとねだったことがある。
が、断られた。


「ガキと遊びたきゃ学校の後輩でも呼べ!」


だとさ。

親父がダメならお袋に言おうかと思ったが、お袋はいつも自分の部屋に閉じこもってて、俺を中に入れてくれなかった。
外出するときだけ出てくる。
一度、その隙を狙って廊下で走り寄って抱きついたことがあった。
そしたらなんのリアクションもなく、ただ見下ろされた。
冷たい目だった。
子供心になんて暗い瞳だろうと思った。
その無機質なまでの美貌から発せられる凍てついた視線に、震え上がった。

そのうちに使用人が飛んできて、ひっぺがされた。
そしてお袋付きの侍女に叱られた。


「遥様、奥様は体がお弱いのです。驚かせたり、ましてや抱きつくなどもってのほかです。今後、奥様の部屋には近づかないでください。」


なんで自分の母親に近づいちゃいけないのか。
まだ7歳の俺にはわからなかった。

が、だんだんとわかってきたのは、どうやらお袋は俺を嫌ってるらしいということ。
物心ついた時から抱きしめてもらった覚えも、一緒に食事をした覚えもない。
会話でさえ、片手で足りるほどしか交わしたことがない。

最初は辛かった。
母親の愛を求めてた。
なんとか気に入られようと頑張ったこともあった。
でも何をしても無駄だった。
中学に入る前にはそれに気がついて、もう諦めた。

そしたらある時言われたんだ。
あれは俺の15歳のバースデーパーティーだったか。
社交辞令のように「おめでとう」と言われて俺も事務的に「ありがとう、お母さん」と返事をした時だった。


「…お母さんなんて呼ばないで。」

「え?」


一瞬、聞き間違えかと思って逸らしていた視線を彼女に向けた。
7歳の時に見た冷たい瞳と目が合った。
お袋の隣には親父が立っていて、腕に乗せられたお袋の手をギュッと掴んでた。
その目が見たことのない悲哀に満ちた目だった。
親父の反応にお袋は言葉を変えた。


「…遥さんももう青年ね。これからは対等な大人としてお付き合いしましょう。私のことは礼子さんとお呼びなさい。」


と、取り繕うかのような言葉だったが、その目は変わらず冷たかった。
その顔を見たとき、俺は唐突に気づいた。
この女は俺の母親じゃない。
俺の本当の母親は別にいるんだって。

その時湧き上がった感情は喜びだった。
母親に愛されない悲しみは消え去り、もう1人の、まだ見ぬ母への思慕が生まれた。
でも同時に、なぜここにいないのか、その事を思うようになった。

お袋とは対照的に親父は俺を可愛がってくれた。
子供の頃、俺を寝かしつけてくれるのは使用人か親父だったし、たまのオフは必ず俺と過ごしてくれた。
親父の運転で出かけたり、いきなり一週間のバケーションが取れたと言っては学校を休ませて海外に連れて行ってくれたり。
目立つ親父といると女も男も関係なく人が寄ってくるのが面倒だったし、どこでも必ず数人のSPに囲まれなきゃならなくて煩わしかったけど、でも嬉しかった。
お袋があんなだけど、親父が愛情を注いでくれたおかげで俺は道を踏み外さずに済んだんだと思う。


今朝も俺はバスルームでシャワーを浴びながら鏡の中の自分を覗きこみ、髪をかきあげた。
俺の背格好は親父に似てる。
身長はもうすぐ追いつくし、手足の長さも同じくらいだ。
ただ俺の方が若干、華奢なくらい。
でも顔が似てると言われたことはない。
決定的に違うあるパーツのせいだと思う。
髪と目だ。
俺の髪はストレートだ。
親父みたいに巻いてない。
昔、一緒に風呂に入ってた頃は、濡れてストレートになった親父と並んで鏡に映って「同じだね」なんて言ったこともあったけど、俺の髪は乾いてもストレートのまま。
そして目は昔からクリクリとしてよく女と間違えられた。
17になった今でも「女みたいな美貌だな」って友達にからかわれる。
そのせいで親父ほどの圧倒的オーラを纏った男前じゃなく、繊細な顔立ちで、捨て犬みたいに母性本能をくすぐるタイプだ。

でも親父は俺のこの目がお気に入りなんだ。


「遥、俺を見ろ。」


俺を抱き上げるたびにそう言って俺の目を覗き込んだっけ。
そう…きっとそうだ。
この目は母親譲りなんだ。
俺を産んだ女と同じ目なんだ。

親父は俺を産んだ女を愛してたんだろう。
だから俺を可愛がった。
じゃあなぜ、彼女はここにいないんだ。
俺と親父のそばにいないんだ。

道明寺遥、17歳。
母親を探し出してやる。








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2019.05.01

【第一話祭り】その2








道明寺と結婚して4年。
『道明寺』 は 『司』 になり、『牧野』 は 『つくし』 になった。

4年の間には子供も生まれた。
女の子で名前は梨咲。
リサって読むの。
可愛い盛りの3歳。
ってか、きっと一生、可愛い盛りよね。

そんなあたしは順調に「奥様」ってヤツをやっている。
と、自分では思ってる。
だけど、こうして司の書斎を奥様自ら掃除してる姿は周囲から見ればまだまだ庶民なんだろうな。

でもでも聞いて!
書斎は機密を扱うこともあるから、信頼できる人間しか入れないことになっていて、その信頼できる人間の最高位はあたしだ。
だからあたしが掃除する。
これ、間違ってないでしょ?
そりゃ、使用人さんたちが信頼できないって言ってんじゃないのよ?
信頼してるよ?
だけど、司がそう言うんだから仕方ないよ。

と言うわけで今日も今日とて楽しいお掃除。


「ふんふふん〜♪」


特別に汚れるわけでも散らかるわけでもないけど、この部屋は司の香りが仄かにして、あたしの好きな部屋のひとつ。
この大きくて重厚な椅子に腰掛けて、この大きなデスクでパソコンを真面目な顔で睨んでる姿がちょっとカッコイイな、なんて…

そんなことを思いながらチェアを引き出して、足元の絨毯に掃除機をかける。
デスクが大きいから屈み込まないと奥まで届かないのよね。

あたしは腰を折ってデスクの下に入ろうとした。
その時、


ガターン!

ゴッ!!


「ギャッ!!」


ドサッ!

ドンッ!


あたしは何かに顔面を強打して仰け反り、後ろのチェアに仰向けに倒れた。
そしたらそのチェアが私の勢いで動いて背後の書棚にぶつかった。


「イッターーー!!…なによ!?」


強打の原因はデスクの引き出しだった。
顔を上げると引き出しが飛び出していた。


「???司、引き出しも閉めずに出勤したの?」


いや、待て。
さっきは開いてなかったよね?
ってか、その引き出しは常に鍵がかかってて、あたしにも明かせない道明寺の最高機密を保管してあるって言ってた。
あたしが知ることで命が狙われるかもしれないとかなんとか。

そんな大切な引き出しが開いた!?

ん?
開いた?
勝手に??

????

あたしはぶつけた額をさすりながら、混乱状態で引き出しを見つめていた。
そうしたら、さらにあたしを混乱させる事態が起きた。

引き出しから白いお団子が現れたのだ。


「ヒッ!」


でもお団子だと思われたその先には青い腕が付いていて、そしてそのさらに先には同じく青くて大きな頭が付いていた。


「あっ、あなた、ド、ドラえ、」

「しーー!!」

「へっ!?」


最近、梨咲と一緒に見始めたアニメのキャラクターが、いきなり実写で現れた。
想像よりデカッ…
って、感想は置いといて、なに?これ?
机の引き出しが突然開いて、そしてコレが現れたってことは……
のび太くんはどこっ!?

そんなあたしの戸惑いは置き去りにされて、ソレは引き出しからその全容を現し、絨毯に着地して、そしてあの笑顔を見せた。


「こんにちは! 僕、ドカえもん!!」


 • • •


いま、なんつった?
ドカえもん??
ドラ、じゃなくて?


「あのー、ドラ、」

「あーー!!!」

「えっ!?」

「君はもしかしてつくしちゃんじゃなぁーい?」

「な、なんで知って、」

「はじめまして!僕、ドカえもんです!!」


 • • •


どうしてもそれで推したいわけね。
なんだかわかんないけど、とりあえずノッてみるか。


「う、うん、ドカえもん、はじめまして。あたしは道明寺つくしです。で、えーと、どこから来たのかな?」


小首を傾げて見せたあたしは絨毯に座り込んだまま、えへっと笑ってみせた。
するとドカえもんもニカッと笑った。


「僕は200年後の世界から、タイムマシンに乗ってきました。」

「200年後!? タイムマシン!??」


あたしはスックと立ち上がり、開いたままになっている、ドカえもんが出てきた引き出しを覗き込んだ。
そこにはオーロラたなびく宇宙空間?にユラユラと乗り物が浮かんでいた。

・・・・マジだ。
これって四次元空間??
そしてあれはTVで見たタイムマシンだ。
ただの板に操作機器が設置してあって、見るたびに「よく落っこちないなー」と思っていたアレだ。

あたしはブリキのおもちゃのようにゴギギとドカえもんを振り向いた。


「マジ…?」

「マジ!」

「あはは…」


マジかいっ!
夢とかじゃないの?
夢だよね?
そうだよ、夢だよ。
司に二人目が欲しいね〜なんて漏らしたもんだから、昨夜は夜更かしさせられた。
回数こなせばできるってもんじゃないっての!
あー、そうか。
だからあたしは掃除の途中で寝落ちしたんだ。
毛足の長いふかふか絨毯の上で掃除機を枕代わりにして眠っちゃったんだ。


 • • •


って、ンなわけあるかーーい!!

目を擦り、頬をつねっても目の前の青い物体は消えない。


「本物……?」

「疑り深いなぁ。司くんはすぐに信じてくれたけどなぁ。」

「司!? 司に会ったことあるの!?」

「あるよ! 5年くらい前だったかな? つくしちゃんと別れる未来を変えたんだ。」

「あたしと…別れる未来?」

「そう。5年前の時点では二人は別れることになってたんだ。それを僕と司くんとツグムくんで変えたんだよ?」


……何の話をしてるの?
あたしと司が別れる未来?


「えーと…つまり、5年前、ドカえもんが来てくれなかったらあたしたちは別れてたの?」

「うん、そう。司くんもつくしちゃんも別の人と結婚してね。」

「べっ、別の人!? だ、誰!?」

「司くんの奥さんはブラジルの大統領の女で、つくしちゃんは西田さん。」


あたしはもう顎がガクーンと落ちて、ついでに目ん玉も落っこちそうになってたと思う。
あ、あ、あたしが、に、西田さんと、結婚!??
待って、西田さんて……


「西田さんて、司の秘書の西田、」

「あー、えっと、利彦さん、でしたよね?」


ガ〜〜ン

マジで…?
あの西田さんとあたしが結婚?
何歳差なわけ?
そしてなぜ?
結婚てことはキ…
ギャーー!!
考えたくない!!

あたしは頭を抱えてひとりで悶絶していた。
そんなあたしの肩に白いお団子…もとい、ドカえもんの手が乗った。


「つくしちゃん、歴史は変わったんだよ? 今は幸せ?」


ハッ


そうだった。
今のあたしは司と結婚して、道明寺つくしになってて
可愛い子供も授かってる。
あたしは落ち着きを取り戻した。


「うん、幸せだよ。」


あたしの言葉にドカえもんはニカっと笑ってくれた。









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2019.05.02

【第一話祭り】その3






〜プロローグ〜




道明寺司

俺たちの親友。

司が牧野を忘れて7年が経った。

7年前の輝く目をした18歳の少年はもうどこにもいない。
俺たちの目の前にいるのは、孤独な目をした25歳の青年だ。

人生で、命よりも大切な女を忘れた親友が不憫だった。
俺たちの誰よりも愛を求めて止まなかったのに、そしてそれを手に入れたのに、なぜ消し去られねばならなかったのか。

だから俺たちは決めた。
この親友をどこまでも見守ろうと。
その瞳にふたたび光が宿る日まで。






〜1〜




7年前、俺は道明寺を逆恨みした男に刺された。
生死を彷徨い目覚めた時、もう一つの診断を下された。
記憶障害
何かの記憶を丸ごと無くしてしまった、と。
何かって何だ?
親友たちも姉ちゃんも絶句していた。
その普通じゃない動揺からどうやら無くした記憶は大切なもんらしかったけど、俺は無くしてんだからその記憶が何なのか、どれだけ大切なのかわからない。

でも最初は正直ビビった。
一部の記憶、それもどうやら重要らしい記憶を無くして、今まで通りに生活出来んのか?
今後の人生に何か暗い陰を落とすのか?
でも、そんなものは杞憂だった。
なーんにも問題ねぇ。なーんにも変わらねぇ。
肩透かしをくらったような気持ちにさえなった。

ワクワクしてる自分に気づいた。
だってよ、ちょっとドラマチックじゃねえ?


ーキオクソウシツー


さすが俺様だぜ。
この身に起きることはなんでもドラマになっちまう。
なんかヤバイ取引とか目撃しちまって、そのことを忘れたのに、覚えてると思ってる組織に狙われるとか!?
いや、何かの見過ぎだな。
とにかく、その無くした記憶とやらがいつどんなカタチで戻るのか、実は俺自身ちょっと期待してたわけなんだが・・・。

記憶障害と診断された俺はいきなり面会謝絶にされ、あいつらとの接触も絶たれた。
そして目覚めてから3日後には寝てたベッドのままNYに運ばれてた。刺されて5日後のことだ。
NYに着いた途端に全米中の記憶障害の研究者に診察された。
脳科学者、脳外科医、精神科医、心療内科医、果ては児童心理士。児童だぜ?俺のどこが子供に見えるっつんだ!
と、こねくり回されたわけだが、結果はみんな同じ。
『生活には支障がないので経過観察』

だろうな。
だってマジで困ってねーもん。
姉ちゃんも、そしてなぜかババアまでその結果にため息を漏らしてたけど、なんでだ?
姉ちゃんは昔から俺を気にかけてくれる唯一の家族だったからわかるけど、ババアは不気味だ。
それとも何か?もしかして俺が忘れたのはババアのビジネスに関わる重要情報だったのか?
どっかの隠し金庫のパスワードとか、やべえブツの取引場所と日時とか、はたまたビジネスにおけるキーパーソンの面か?
そんな理由でもなきゃババアが俺の心配なんてするわけねーからな。
なんせ、俺の健康体と引き換えに、道明寺グループ悲願の石油事業を手に入れたんだから。









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2019.05.03

【第一話祭り】その4








「暑い・・・」


7月に入り、気温が35度に迫ろうかという東京。
いくらオシャレなお店が建ち並ぶ代官山だとて、雰囲気だけで涼風が吹くわけもなく、先輩の三山と共にホテル・メープルの制服に身を包んだつくしは額の汗をぬぐいながら、ヒールを履いた脚を休めずに歩を進めていた。

つくしは大学卒業後、楓の勧めでメープルホテルに入社し、グランド・メープル・東京のブライダル部門に配属されていた。
つくしの人を惹きつける能力と人当たりの良さ、元から備わっているホスピタリティ、そして頭の回転の良さからの対応力はブライダルプランナーという職を得てさらに輝きを増した。
司との付き合いは7年になっているが、途中の5年間は遠距離だったため、恋人らしい期間はまだ2年程度だった。


「先輩、弓浜ローブ・ド・マリエって本当に代官山でしたっけ? 青山にもありませんでした?」


二人は今、顧客の指定したウエディングドレスデザイナーを訪ねる最中だ。


「つくしちゃん、青山にあるのは事務所。代官山は店舗兼アトリエよ。弓浜先生がいらっしゃるのはこっち。」


ホテル・メープルでは世界中の有名デザイナーによるプレタポルテマリエのレンタルからメゾンのオートクチュールマリエのオーダーまで取り扱っているが、それ以外にも顧客の要望があれば個別のデザイナーにドレスをオーダーする仲介も行なっていた。

今回はつくしと三山が担当するカップルの新婦が、子供の頃から憧れだったといいう“ KEI YUMIHAMA ” ブランドのウエディングドレスの商談だった。
引き受けてもらえるかまだわからない。
メープルの名を出せば通らない案件はなかったが、つくし自身が相手の名前だけでひれ伏す人間ではない。
メープルの名前に奢らずに誠心誠意、お願いする心算だった。

代官山駅からやや坂を下った住宅街にそのアトリエはあった。
コンクリートの打ちっぱなしで窓もないその2階建の建物は、突然、住宅街に現れた箱のようだった。
外からは店舗、ましてやウエディングドレスを扱っているとは全くわからない。
その箱の端に小さくYUMIHAMA Robe de Mari'ee Atelierというレリーフが貼り付いていた。

1日限定1組の予約しかとっていない店舗兼アトリエで、今日はつくしたちとの商談のため、予約は入っていないと言っていた。
小洒落た建物は得てして出入り口がわかりにくい。
不審にならない程度に周囲を伺い、やっとそれらしき扉を見つけた。
が、今度は呼び鈴が見つからない。
「これだからお洒落な建物ってのは・・・ 」とブツブツと言っていると、いきなりドアが開いた。


「あれ? メープルさん?」


中から顔を出したのは40代と思しき男性だった。


「あ! はい、失礼しました。グランド・メープル・東京から参りました、三山と、」

「牧野です。」

「ああ、暑いところをようこそ。分かり難かったでしょ?さあ、入ってください。」


エアコンの冷気に上昇した体温が一気にクールダウンされていく。
この瞬間の極楽さといったら、格別のものがある。
アトリエに入り、見回してつくしは歓声をあげた。


「わぁ〜〜〜!!」


中に入ると壁に沿ってぐるりとたくさんのウエディングドレスがディスプレイされている。
そのデザインはもう秋冬物らしく、肌の露出を抑え、暖かみと光沢のある素材だったり、ファーだったりが使われている。
シルエットも様々で、中でもつくしの目を引いたのはスカート部分がフィッシュテールになっているドレスで、前が超ミニ、後ろはドレープのように長かった。
メープルでは断られそうな扇情的なドレスだったが、なぜか桜子の顔が浮かんだ。

サロンの中心に設えられた商談スペースに案内され、椅子に鞄を置き、中から名刺を取り出した。


「弓浜先生、本日は貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます。改めまして、この度、酒井様よりのご依頼でお伺い致しました三山と申します。」


先輩が名刺を出したのに続いてつくしも名刺入れから顔写真と名前が印刷された名刺を取り出す。
名刺入れは椿から贈られたもので、蓋の表に"TSUKUSHI"と刻印されている。
ファーストネームだけなのは、後から". D"を加えるためだと椿から聞かされた。


「いやいや、今時珍しい律儀な方ですね。メープルほどのホテルの担当者があなた方のような謙虚な人だとは、嬉しいですよ。」


弓浜啓は名刺を受け取り、席に着いた。
3人が座ったところでスタッフがコーヒーを給仕した。
その後、そのスタッフも交えて商談はスムーズに進み、半年後の式に向けてドレスのオーダーが決まった。


「ところで、今日、あなた方が来られることを知人に話したところそのご友人が是非、会いたいと言い出しましてね。よろしいですか?」

「ええ、もちろんです。」


弓浜がスタッフに耳打ちすると、スタッフは隣室から一人の女性を連れて戻ってきた。


「三上さん、牧野さん、紹介しますよ。こちら五条院蝶子さんです。」


つくしはハッとした。
五条院家と言えば、桜子の三条家に次ぐ公家出身の名家で、日本で数少ない道明寺家より格上の家柄だった。
華族制度がまだあった時代、五条院家は公爵、道明寺家は伯爵だったのだ。
ビジネスにおいても五条院は600社以上のグループ会社を抱える大財閥である。


「はじめまして、五条院蝶子です。」


そんな大財閥のご令嬢であるはずが、蝶子はつくしたちに向かって頭を下げて礼をし、顔を上げてニコリと微笑んだ。
その姿はまるで日本人形のようで、微笑んだ可愛らしさに目が合ったつくしは思わず赤面した。


「はじめまして、わたくしグランド・メープル・東京から参りました、三上です。こちらは牧野です。」


つくしたちもまた深々と頭を下げた。
頭を上げたつくしを見て蝶子はクスッと笑いをこぼした。


「そんなに固くならないでください。牧野さんと私は同世代でしょう? ブライダルプランナーさんがいらっしゃると聞いて、啓先生にご無理を申しましたのよ。いろいろお話を伺いたいわ。」

「では、近々ご結婚のご予定でいらっしゃいますか?」

「ええ、そうなる予定ですの。」


蝶子とつくしはすぐに意気投合した。
五条院家には婚姻に関する数々のしきたりや式次第があったが、蝶子はやはり現代風のチャペル式に憧れるという。


「そのときはわたくしも啓先生にドレスを作っていただく約束なの。ね?」

「蝶子さんのドレスとなると、お父様が僕なんかにお許しになるか。」

「あら、お父様はわたくしがお願いすれば何でも叶えてくださいますわ。お父様は跡継ぎさえ確保できればいいんですもの。」


蝶子の言葉に悲壮感はなかったが、どこの家でも財閥ともなると同じような親子関係なのかとため息が出る思いだった。
でもそんな中でも五条院家ほどの家柄の蝶子でも好きな男性と結婚できるのだと思うと、つくしは司とのことに希望の持てる思いだった。


「牧野さん、もし私がチャペル式をするときには是非、牧野さんにプランニングをしていただきたいわ。」

「ええ、もちろんです! メープルスタッフ一同、お待ち申し上げております。」


つくしと三上は弓浜のサロンを後にした。




***




つくしは大学を卒業し、就職してから名目上、一人暮らしをしている。
司が5年でNYから戻った時に同棲しようと提案されたが、それは楓によって一蹴されていた。
良家の子女ならおおっぴらに婚前交渉するものではない、と。
しかし司は尚も譲らず、それならば、と自身が所有するマンションのペントハウスをリフォーム。
1戸だったところを全く同じ造りの2戸にし、片方に自分、片方につくしを住まわせることで決着したのだ。
しかも、クローゼットに隠し扉までつける周到ぶりで楓の言う不名誉な『同棲』は避けながら、司の希望の『同棲』に限りなく近い空間を作り上げた。
つくしは司の執念深さに呆れながらも、5年も離れていた時間を埋めたかった気持ちに変わりはなく、司の隣での一人暮らしを受け入れたのだった。

婚約はつくしが大学3年の春に二人の間で取り交わしていたが、実際の結婚話はまだ出ていなかった。
司もつくしも、もっと恋人状態を楽しんでいたかった。
結婚してしまうとつくしに道明寺という家の名が重くのしかかり、また別の義務が生じてくる。
まだ20代前半だった二人はつくしが25になるまでは自由を楽しむことにしていた。

弓浜ローブ・ド・マリエから帰社し、業務を終えて帰宅したのは20時過ぎだった。
夕食は司と時間が合うことが少ないためいつも軽く済ませ、逆に出張でもない限りいっしょに食卓を囲める朝食はしっかり食べるスタイルだ。
この日もつくしはさっさと夕食を済ませ、入浴し、翌日の朝食の仕込みに入った。

23時を過ぎると、つくしのクローゼットを通って司がリビングに現れた。
当初、隠し扉の存在を知らされておらず、寝室で目覚めると司がいて驚いたが、今ではデフォルトな光景だった。


「おかえり〜」

「おう」


すでに入浴を済ませたのが緩くなった髪の癖でわかる。


「食べた?」

「ああ、今日は会食だったから」

「じゃ、お茶にしよ。」


つくしはキッチンに入り、いつも寝る前に飲んでいる日替わりのハーブティを準備した。
司が少しでも安眠できるようにと激務で尖った神経を宥める効果があるものを色々と揃えて、その日の気分でいっしょに飲んでいた。
飲みながらその日あった出来事を報告し合うのが日課だった。

司もキッチンに入ってきた。
キッチンに入るとつくしの後ろ姿を至近距離で堪能できる。
仕事中は長い髪を低い位置で束ねているが、家では高い位置でのポニーテールにしていて、後れ毛がかかるうなじがよく見える。
つくしは司が自分の手元を見ていると思っているが、そんなものは全然見ていない。
ずっと耳の後ろからうなじ、そして見えそうで見えないその先の胸元を見ていた。

吸い込まれるように無意識に手が伸びる。
束ねられた髪を抑え、うなじにチュッとキスを落とす。
「あっ」と反応したつくしがキスの跡を抑えて振り向いた。
イタズラを咎めるような膨れ顔で見上げてくる瞳は、本気で怒っていないことを教えてくれる。
その顔も可愛くて今度は唇にチュッとキスをする。


「もう! いつでもどこでもしないで!」


今度は少し頬を赤らめて睨んでくる。
もうこんなじゃれ合いも2年以上になるのに、彼女はまだその顔が司を煽ることに気づいていない。


「んな可愛い顔で睨むな。もっとするぞ?」

「何言ってんだか。今日はオレンジピールにしたよ。ほら、座って!」


照れ隠しに司をキッチンから追い出して、つくしは2人分のハーブティーをトレイに乗せた。
いつもはテレビを消して、リビングのソファに座る司の向かい側でラグに直接座って向かい合うつくしだが、今夜はスポーツ中継が延長になって、いつも見ているドラマが時間変更になっていた。
司とやや隙間を開けてテレビが見える位置のソファに座った。
ドラマを気にしながら司にも向き合う。


「今日ね、」

「ん、」


いつも話し始めはつくしだ。


「代官山のウエディングドレスデザイナーさんとこに商談に行ったんだけど、そしたら五条院のお嬢様を紹介されたの。顔がすっごく小さくてね、日本人形みたいな本物の美少女? 美女? だったぁ〜」

「五条院?」

「うん。蝶子さんて言ってね。私と同世代だって言ってたけど、どう見ても20歳前後にしか見えなかった。でね、結婚のご予定があるんだって! その時には是非私にプランナーになってほしいって!」
「・・・」

「どうしたの?」

「いや、俺の今夜の会食の相手も五条院だったんだ。五条院顕信。財閥総帥がわざわざお出ましで驚いた。公の場にもほとんど顔を見せないで有名なのに。俺とお袋を指名してきた。」

「名目はなんだったの?」

「同じ財閥系としてオリンピックを控えた日本をさらに発展させて行きましょうとかなんとか。親父やお袋とは親交があるのは知ってたがなんでこんな時期に、と思ったら次期総帥を任せる娘婿を見つけて次世代への根回しってわけか。しかし娘が結婚するとは言ってなかったがな。」

「蝶子さんて一人娘?」

「ああ、お袋さんはかなり前に亡くなってる。」

「ふーん・・・」


その時だった。


ピリッピリッ! ピリッピリッ!


テレビからニュース速報を伝える注意音が流れた。
条件反射でふたりは振り向いた。


“ 新道製鋼 数値改ざんが発覚。アメリカでの取引停止 ”


ガシャンッ!


ティーカップを落としたのはつくしだった。








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2019.05.04




皆様、こんばんは!
10連休最終日の夜長、いかがお過ごしでしょうか。


私は疲れました。
前半は仕事。
後半は家族サービス(?)

皆の者!
早く、各自の持ち場に散れ———ッ!!

って心境でした。

そんな中でも新連載をチマチマ書いてます。
と、過去の作品も改めて読み返しておりまして、自分の稚拙さに愕然としております。

私の書き方として、ブワァ〜〜っと湧いてくる妄想をとにかく書いて書いて書き留めて、粗筋で完結させてから細かい部分の肉付けをしていくかんじです。
じゃないと、後から設定が変わったりすることが多いので、じゃあ前半部分を修正しなきゃってなるんです。

「ドカえもん」だけは書きながら更新したんですが、それ以降は少なくとも一章ごとに完結させてから更新してます。
ブログに予約投稿してからも何度も読み返して修正してるので、更新する頃には飽きてる状態なこともしばしば。
話が完全に頭に入ってるもんだから、これでいいって思い込みで読み返してるのでチグハグに気付けないんですよね。
それを過去作品を読み返して反省しました。

なによりも司のキャラがね。。。
時間が経って読み返すと、書いてるときのイメージとは変化しちゃってるのもありました。ブレブレです。
私が書く司は存外、品行方正?ヘタレ?なんだと思ったり。
もっと破天荒さを出したいけど、私自身にその引き出しがない。
かと言っておバカな司にもしたくない。
つくしは書きやすいけど、司は難しいです。

という反省を基に新連載を書いてるけど、今回もやっぱりウジウジした司になりそうです。
6月頭からは更新できるかな?
できればもっと早くお届けしたいです。

ネタはいっぱいあるんですけどね〜
完結までのストーリーが浮かばない。
これからもこんなペースでおいおい続けていければと思います。

それでは皆様、またお会いする日までさようなら〜o(^▽^)o


                 nona









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2019.05.06
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2019.05.11




皆様、こんばんは。
nonaです^^

一年で一番さわやかな季節を迎えておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、更新停止も早、20日あまり。
新連載はどうした!?と思ってくださっている方も、もう二次は辞めたの?と思ってらっしゃる方もおられるでしょう。
辞めてません。
書いてます。
でも、書いてる途中でまた別の妄想が浮かんで、今度はそっちを書いちゃってるんです(T^T)

とにかく、6/1からは新連載を更新しようと決めてるのですが、はて、どっちを先に公開しようかな?と思案しております。

一方は7割書いてるけど、その7割もまだまだ粗い。
他方は堅実に書き進めてやっと4割?月末までにはもう少し行くか?

それと7割の方は設定がちょい、アレなんですよね。
物議を醸しそうなんですよね・・・
そこんとこでまだ心が揺れてるから内容が粗いし、結末にも向かえない感じて停滞してます。

4割の方は大方の流れが見えてるんだけど、時間軸が遅々として進まない。
すごい長い話になりそう・・・

さて、どちらになるのか。


ただ個人の趣味ブログなんで、あんまり細かいことはスルーして、とにかく6/1からは始めます!
決めました!
更新しながら書きます!

月末が近づきましたら予告や前書きで連載スタートを告知していこうと思います。

それでは、あと10日、できるだけ頑張ります!
よろしくおねがいします!


                     nona








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2019.05.21




皆様、こんばんは!

昨日、「料理が嫌いです」と題した記事をアップしたのですが、あまりにもヘタレな内容に恥じ入りまして、早々に下げました。
短時間に拍手やコメントをくださった方、誠に申し訳ありませんでした。


今日は、以前、「行きまーす!」と書いていたMIYAVIさんのライブの報告をアップしようと思います。


行ったのは大阪公演です。
Zepp Osaka Bayside
Zepp Osaka Bayside


私の住む地域から一番近いのが大阪なので。

ツレのことと自分の歳を考えて2階席にしました。
2階は指定席で、私が取った席はかなり真ん中寄りでした。
ライブハウスは初めてだったんですが、2階でもステージが近いですね。

で、ライブは定刻通り始まりました。

MIYAVIさん、カッコいい〜〜!!
(画像貼付けたいんですけど、そういうのしていいのかわからないので断念)

MIYAVIさんはそのビジュアルもさることながら、ギターのプレイ中がとにかくカッコいい!!
シビレました。
セトリはアンコール含めて20曲以上あったと思います。
7月24日発売の新アルバムからの新曲もたくさん聴かせてくれて大満足でした。

ひとつだけ不満だったのは、2階席のお客さんが立たないこと。
立ってる人もいましたが、ほとんどの人は座ってて、ライブハウスは初めてだし、小心者なんで私も座ったまま楽しませていただきました。
あれ、正解はどっちなんでしょう??


最後に、ライブで演奏された曲じゃないんですけど、そのカッコ良さからYouTubeで鬼再生してる動画を貼付けときます。

Camila Cabello - "Havana" MIYAVI Acoustic Cover
クリックで新しいウインドウが開きます


実はこの翌週は地元のオーケストラの定期公演にも足を運びました。
ブラームスの交響曲がよかった〜

やっぱり生演奏はいいですね!
MIYAVIさんの新アルバム、買ってまたインスピレーションをもらうぞ〜








2019.05.28




皆様、こんにちは!


今日は予告です。
かねてからお伝えしてあった通り、6月1日から新連載を始めます。

「もったいぶらずに早く〜」というお声が聞こえてきそうなんですが、申し訳ありません。
私は連載を始めたら途切れずに完結まで更新したいので、完結に近い状態まで書き進めてないと安心できないんです。
それと、1日から始めると話数と日付がちょうど連動してて、予約投稿しやすいのもあります。

5/31には「まえがき」を更新します。
タイトルもこの時に発表予定です。

全体で60〜70話程度かな。

ジャンル的には、うーん、、、コメディではないです。
シリアスでもない。
つーか、シリアス書けない・・・鬼畜な司も書いてみたいですけどねー。
能力的に無理でしょうね。

で、その後は分岐ものじゃないのをアップ予定で、その次はなんにしようかな。
「ラプソディ」「セレナーデ」ときた音楽用語完結編で「◯◯ハーモニー」にしようかな。
これは分岐ものです。

その間に「Lets be a Family」もお届けせねば!
あと、「ドカえもん2」も書きたい。
今度はつくしがドカえもんと冒険する話にしようかな。
他に構想があるのは司が政略結婚させられちゃう話。
つくしはどうする!?
あとはまたつくしの記憶喪失もの2つ。
ひとつはかなり難しいお話なので、ネタで終わりそう。
もうひとつは頑張ればお届けできそうなんですが、でも司がさらにウジウジしてそう。

なーんて、妄想だけは広がるんですけどね(^^;)


というわけで、あと数日、おまちください。
焦らしてすみません><


                 nona








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2019.05.29




皆様、こんばんは。


【つぶやき】失礼します。

私は、二次を書く時にはBGMを必要とします。
その時々でハマる曲に出会えると妄想がブワッと膨らんで筆が進みます。
逆に、そういう曲に出会えないと筆が進まなかったり。



「ドカえもん」の時はワンオクの、

ONE OK ROCK: Change [OFFICIAL VIDEO]
クリックでリンクが開きます

でしたし、



「マンハッタン・ラプソディ」のときは過去にも紹介しましたが、

O Holy Night | Glee [HD FULL STUDIO]

とか、

Do You hear what I hear - Glee [HD Full Studio]

とか、

Christina Perri - Jar of Hearts [Official Music Video]

でした。



「トワイライト・セレナーデ」の時は作中に登場した、

Hello - Glee Lyrics

でした。



「ハウスキーパー」はRADWIMPSの

なんでもないや 超高音質 RADWIMPS

をはじめとする映画『君の名は』のサントラでした。



「Let's be a Family!」は山口百恵さんの、

さよならの向こう側

でした。



そして今回は、MIYAVIさんの楽曲です。

Get Into My Heart - Miyavi ft Shishido Kavka [Samurai Sessions Vol.3]

Steal the Sun

Forget You
*上記2曲はYouTubeにライブ動画しかないんでリンクしてません。



そして、その次の作品ももう曲が決まってます。

Live To Die Another Day ー存在証明ー Miyavi

です。
この曲は映画『無限の住人』の主題歌です。
(映画は観たことないんですけどね)

で、いま鬼リピしてるのがこの「Live To Die Another Day ー存在証明ー」なんですけど、6/1からの作品に集中しなきゃいけないのにこの曲を聴いてるがために別の妄想が膨らんで思考を邪魔してます。
だから今は封印です。
(だったらなんで紹介すんだ?って話なんですが(^^;))



ちなみに、

人生のメリーゴーランド ~ハウルの動く城より~

で書きかけてる作品もあります。
曲調どおり、切ないお話です。


これからも、名曲と出会いながら二次をお届けできたら、と思います(^∇^)ノ








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2019.05.30
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