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類にはこの17年、支えてもらいっぱなしだった。
道明寺が記憶をなくした直後からあたしが立っていられたのは、100%この人のおかげだと言っていい。

10年待つ決意を伝えた時も、順と悠介の代理母になると話した時も、10年が過ぎて初めて彼氏ができた時も、いつもあたしの決断を支持してくれた。
お互いが魂の一部だと思ってる。
あたしはこの人のことも、道明寺とは違う種類で愛してる。
一生大切な人。


類の運転で夜の首都高を疾走する。
この時間が好き。
通り過ぎるビルの窓窓に人生がある。
灯りが点いてるオフィスビルで働く人は、今夜、どんな気持ちで仕事してる?
家族が待ってるんじゃないのかな?
灯りが消えてる窓では昼間、どんな人々の営みがあるんだろう。
そこにいた人は、今はどこにいるの?

自分には関係のない人生の一瞬に、あたしが掠って消えていく。

いつもはスピードを出し過ぎる類を嗜めるけど、今夜はあたしも駆け抜けたい。
車窓に向けてた顔を隣でハンドルを操る類に向けた。
チラリとあたしに視線を流して、また前を見る。
そのまま薄い唇が下弦を描いた。


「司が戻ってきたんだろ?」

「もう知ってるんだね。」

「支社長就任披露があったからね。記憶が戻ったことはすぐにわかったよ。顔つきが全然違ってた。」

「日本に戻って、すぐに会いにきてくれて、今は一緒に暮らしてる。」

「クククッ、やっぱりあいつは変わってないね。」

「順も悠介もウェルカムって感じで、自分でコーヒーサーブして飲んでるよ。」

「牧野の側ならそのうち料理もし始めるんじゃないの?」

「あはは、そうかも。」

「で、清算できたの?」

「ん、だね。ただの飲み仲間って人もいたし。」

「向こうは期待してただろ。」

「なにを? 結婚とか?」

「でしょ。」

「だとしたら無駄な時間使わせて申し訳無かったな。」

「で? 俺とも今日で最後?」

「んー、夜会うのはね。今度からは昼間にカフェで、だね。」

「スケジュール、調整しないと。」

「お願いします。」




首都高が終わった先には、夜の海が見える場所。

海の向こう岸には工場の夜景。
類と手を繋いで観光客用に設置された柵に近づいて並んで立った。
工場の人工の光も海に反射すると星のきらめきみたい。


「類、17年、ありがとう。」

「楽しかったよ。」

「これからもよろしく。」

「2人いっぺんに面倒みるかな。」

「そうだね。」

「最後だから俺も正直になるよ。」

「ん?」

「司が記憶をなくさなきゃ、牧野とのこの時間はなかった。きっと司はすぐにあんたをさらってただろうから。」

「フフ、かもね。」

「ずっと罪悪感があった。司にも、あんたにも。この状況を喜んでる自分がいたから。」

「そんなもの、いらないよ。「もし」はない。あたしたちの歴史はこれしかなかったから。だから類とあたしがこうしてるのも歴史に織り込み済みなの。」


類があたしに振り向く。
どちらからともなく向き合って、ギュッと抱きしめられる。
あたしも出会ってからのすべての感情を込めて抱きしめた。


「俺こそ17年ありがとう。」


類のビー玉みたいな瞳に夜景の光が反射してる。
その瞳の奥にある感情をあたしは知ってる。
でもね、類、あなたもわかってるでしょ?
これはまた新しい関係の始まりだって。
その証拠に類は優しく微笑んだ。


「これで儀式は終わり。そろそろ真夜中だ。野獣の遠吠えが聞こえないうちにあんたを返さないと。」


類があたしを腕の中から解放して視線を上げた。
視線の先に振り向く。


「道明寺…」


類があたしの手を取り、差し出した。


「司、返すよ。」


道明寺が類からあたしを受け取った。


「…17年、世話んなったな。」

「これからはお前もまとめて面倒見てやるよ。」

「クッ、ぬかせ。」


2人は目配せして、同時に背を向けた。
あたしは道明寺に手を引かれ車に乗り込んだ。



********



「どこから見てたの?」


後部座席に並んで座り、その美貌とも形容される横顔を見つめた。


「新宿御苑」

「プッ、最初からじゃん。」

「これで綺麗さっぱりか?」

「ん。もういない。」

「ゴネたやつ、いなかったのか?」

「ゴネてもらえるほど、愛せた人はいなかった。」


不意に大きな手が、あたしの後頭部を引き寄せた。


「…ん……」


体の芯まで蕩けさせるキス
蕩けて、痺れて、火がつく
唇が離れて、額を合わせた。


「こんな顔を見せてたのか?」

「見せてないよ。」

「俺には見せてる。」

「あたしに火をつけるキスができるのは、一人しかいないから。」


美しい顔を両手で引き寄せる。

あんたに火をつけられるのも、あたしだけでしょ?




そのままメープルになだれ込み、互いの火を合わせた。
小さかった炎は二人合わさって火柱となり、17年の隔たりを焼き尽くした。





********





今夜も俺の帰宅は日付けを超えている。
シャワーを浴び、ベッドに入る。
牧野を引き寄せ抱き込む。
そしてそのすべらかな肌を撫でる。
牧野がこちらを向く。


「おかえり。」

「ただいま。」


牧野が俺の肌を撫でる。
お前も趣味だったか。
俺たちは気が合うな。

やっと互いが互いだけのものになった。
そう、あの時のように。

ここからもう一度、始めよう。






Let's be a Family! 〜 Recurrence 〜 再燃【完】










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2019.04.09

【再結晶】
合成または抽出などによって得られた粗結晶(純度の低い結晶)をより良質で不純物の少ない結晶へと成長させるための操作








さっきからあたしは、たっぷり10分はこうしてると思う。
ここは我が家のトイレの中。
手には妊娠検査薬。
何度も説明書と照らし合わせてるけど、結果は変わらない。

妊娠してる。

いや、待て。
妊娠反応が出てると表現するのが正しい。

道明寺と暮らし始めて4ヶ月。
心当たりは大アリなんだから、今更、動揺するのは筋違いなんだけど・・・

とりあえず、病院行こう。



********



はぁぁ〜、わかってたけど、2ヶ月だって。
道明寺にいつ言おう。

今夜、帰ってきたらサラッと?
それとも、二人でどこかへでかけて改まって?

心配なのは子供達。
特に清佳(さやか)は5年生の11歳。
思春期の入り口で、最近ちょっと難しくなってきた。
この家庭環境だけでも特殊なのに、ママが同じ屋根の下で恋人と同棲してて妊娠・・・

決めた。
最初に清佳に話そう。





コンコン
カチャ…


「清佳? ちょっといい?」


自室で宿題をしてる清佳が振り向いた。


「ママ、なに? どしたの?」


清佳は順に似てる。
女の子は父親に似ると幸せになるって言うけど、順の涼やかな目元を受け継いで、キリッとした美人さんだ。
だけど性格は悠介に似てる。
穏やかで気配りのできる優しい女の子。


「うん、あのさ、勉強中にごめんね。」

「いいよ。お手伝い?」

「あ、ううん、そうじゃなくて清佳と話したいことがあって。」

「うん、なに?」

「こっちに来て。」


あたしたちは清佳のベッドに並んで腰掛けた。


「大事な話なの。いい?」

「うん。」

「あのね、あの、、」


ど、どこから話せばいいんだっけ?


「ママね、赤ちゃんができたの。」

「えっ!」


清佳が目を見開いてる。
無理もないよね。


「え、でもママ結婚してないよね?」


あー、はい。
してません。


「結婚しなくても赤ちゃんてできるの?」


娘に順序を諭される母親。面目ない。


「うん、それでね、赤ちゃんができてもママはこれからもずっと清佳のママだから、その、応援してくれるかな?」


言ってて無茶苦茶だって気がしてきた。


「結婚するの? 道明寺さんと?」

「んー、どうかなぁ。まだ言ってないけど、そうなるかも。」

「じゃ、この家は出ていくの?」


清佳の顔が曇って、手入れしなくても整ってる眉が下がった。


「行かない! 行かない! 悲しくさせちゃったね。ごめんね。」


清佳を抱き寄せた。
まだ11歳の子供なのに、ひどいママだね。ごめんね。


「だったら、いいよ。応援するよ。」

「ありがとう〜〜」


抱きしめる腕に力が入る。
清佳の頭にキスをする。
愛しい愛しい女の子。


「・・・妹欲しい。」

「プッ、そうだね。妹だったらいいね。」


道明寺には今夜、帰ってきたら話そ。



********



オフィスで着替えて、車に乗り込み、1時間強かかって帰宅する。
都心に住めばもっと時間短縮になるが、俺の家は牧野だ。
牧野自身が俺の帰る場所だ。
だったら、1時間だろうが、2時間だろうが関係ない。
あいつのとこに帰れるなら、そんなもんは苦でもない。


車から降りると秋風が心地いい。
マンションに入り、持たされている鍵をかざして解鍵する。

室内はいつも通りに静まり返っているが、いつもは廊下だけの明かりが今日はリビングにもついている。
まだ誰か起きてんのか。

0時は過ぎてる。
リビングに入ると、半袖のパジャマ姿でソファに座り、雑誌を読んでいたのは牧野だった。


「おかえり」


牧野は俺がドアを開ける音に気づいて振り向いた。


「おう、ただいま。起きてんの珍しいな。」

「…ああ、うん。」


………なんだ?
いま一瞬、緊張が走ったか?


「お風呂、沸かしといたから入っておいでよ。」


俺の中の警報音が鳴る。


「なんかあったのか?」

「え?…うん、話があるから、とりあえずお風呂入ってきなよ。」


ドクンッ


“ 話があるの ”


雨の日にその言葉から始まった話は、俺を絶望のどん底に突き落とした。
でもその後、同じく“ 話がある ” と屋上に呼び出された時は付き合うことになった。

どっちだ?
天国か地獄か
今日はどっちだ。






バスに浸かって考える。

牧野を思い出したのは唐突だった。
女を連れて5番街のジュエリーブティックに入ろうとした時だ。
日本人観光客とすれ違った。
若い女の二人組で、一人は真っ直ぐな黒髪だった。
その女が隣の友人に言ったんだ。

「あんた」って。
その瞬間、体が動きを止めた。
全身が停止した。
頭の中で17年が巻き戻され、その先に牧野がいた。


“ もういい…あんたはもうあたしが好きだった道明寺じゃない。 ”


最後に会った時のその言葉の意味がやっと理解できて、急速に血の気が引くのがはっきりとわかった。

そのまま何かを喚く女を残し、俺は空港へ向かった。
日本に帰るために。
牧野の下へ還るために。
それをSPに止められて、我に返った。

我に返ったら17年の重みと隔たりが一気に襲いかかった。
17年…17年…17年…
なんて長い年月だ。
人生は短いのに、その中の17年間も牧野のそばを離れて生きてた。

手に入れてたのに。
俺のものだったのに。

悔しいなんてもんじゃなかった。
記憶を無くした時より荒れた。
俺を刺した奴もその原因を作ったあのクソ親二人も殺してやりたかった。
でも殺せば牧野に会えない。
俺は俺から17年間も人生を奪っていた二人に宣言した。
俺は永久に日本に帰る、二度とNYには戻らない、と。
そしたらあの女が言ったんだ。


「17年前、牧野さんと1年の猶予を約束しましたが、まだ履行されていません。ですから1年はあなたの自由にしなさい。」


この期に及んで上から物を言う女に心底、嫌悪を覚えたが、俺は何も言わずにオフィスを出て、秘書に1ヶ月後の日本支社長就任を伝え、身辺整理に入った。

牧野が切った男は3人だったが、俺はその比じゃない。
常時キープしてた女は両手じゃ足りなかった。
自分が何を考えてこれだけの女と関係を持ってたのか、今となってはもう理解不能だ。

やっと日本に帰ってきて、翌日には牧野に会うために駅で張ってた。
牧野のことは必要最低限だけを調べた。
生死と利用する駅と時間。
ただそれだけ。
あいつの今の状況は書類じゃなく、この目で見たかったから。

許してもらえるとは思ってなかった。
受け入れてもらえるとも思ってなかった。
何年もかかると覚悟してたし、それでも同じ街で生きていけるならいいと思ってた。

なのに、再会した牧野は拍子抜けするほど穏やかで、17年前と変わらない顔で幸せそうに笑ってた。
結局、あいつのお人好しにつけ込んで再会初日にあいつを手に入れ、そのまま居着いたんだ。
あいつの本心を見ないようにしてた。
顔は笑ってても、心の中はわからない。

だって17年だぞ。
俺が苦しんだのはたった1ヶ月。
その数百倍の時間をあいつは過ごしてたんだ。


今夜なのだろうか。
もう限界なのだろうか。
やっぱり出て行けと言われるのだろうか。


刑執行のその時を少しでも遅らせようと足掻いたが、いつまでもバスルームに篭ってるわけにもいかない。
俺は長い風呂を終え、引かない汗に上半身は裸のままリビングに戻った。










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2019.04.10




牧野はまだ起きていた。
俺は優に40分はバスルームに入ってた。
すっかりのぼせた。


「随分、長かったね。のぼせなかった?」

「のぼせた。あちぃ」


牧野は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを俺に手渡し、リビングのシェルフから団扇を出してきて立ったままソファに座る俺を扇ぎ出した。


「お風呂入ったばっかりなのに、もう汗かいてるよ。」


牧野が俺の首にかかったタオルで俺の額を押さえた。
その顔に翳は見えない。
俺は意を決した。


「で、話ってなんだ?」


何を言われてもお前から離れない。


「ああ、うん。」


牧野は一人分のスペースを空けて俺の右側に座った。
団扇を持った手は動かしたままだ。
表情は硬い。
俺も思わず強張る。


「あー、あのさ、まあ、こうなることは予想してたっていうか、あたしも成り行き任せって感じで受け入れてたんだけど、でも、それが現実になるとその、なんていうか、戸惑うっていうか、」


歯切れが悪い。
視線は団扇を持つ自分の手元に注がれている。

お前は優しいからな。
別れ話もなかなかすんなり口から出てこないか。


「別れたいのか?」

「へ?」


牧野が顔を上げた。


「やっぱり受け入れられないって言うんだろ? 俺に出て行けって?」

「いや、ちょっ」


俺は腰を上げ、牧野の前に立って見下ろした。
牧野が俺の影に入る。
そのまま牧野を挟んで背もたれに手をついて、被さって鼻先を近づけた。


「でもな、なんと言われようが、何が起ころうが、俺はもう絶対にお前を離さないし、離れない。お前がどんなに足掻いても、もがいても絶対に、だ。俺に対して言いたいことがあれば何でも聞く。17年分の怒りを受け止める。だが、それでも俺は別れない。」


牧野の目をしっかりと見ながら、俺の想いが1ミリでも伝わってくれと願う。

牧野は瞬きも忘れて俺を見てた。
と思ったら、首を伸ばして俺に軽く触れるキスをした。


「クスッ、相変わらず、思い込み激しいよね。」


今度は俺が瞬きを忘れる番だった。


「愛してる。」

「…え?」

「道明寺を愛してる。帰ってきてくれてありがとう。あたしに赤ちゃんを授けてくれてありがとう。」

「赤ちゃん…?」

「ん。妊娠したよ。」

「妊娠…?」

「狙ってたんでしょ? 避妊したことなかったし、あたしもしてないし。」


牧野の瞳に映る俺は、その瞳に溢れる、母親だけが持つ優しい光に包まれていた。


「子供が…? 俺たちの?」

「そうだよ。」

「産まれるのか?」

「そうだよ。」

「俺は父親か…?」

「プッ、そうだよ! あはは」


俺は笑いたいような泣きたいような、どうしたらいいのかわからない感情に襲われた。
その感情のまま、牧野を抱きしめた。
強く、強く、いっそこのままひとつに混ざり合えと願うほど強く。
想いが溢れる。


「…愛してる…愛してる、愛してる、愛してる! 結婚しよう。」

「ん。」

「今すぐ。」

「ん? 今すぐ?」

「役所行くぞ。あいつらが証人だ。起こしてくる。」

「えっ!! いやいや、今何時だと、ちょっと、こらっ!」


時刻は深夜の1時半だ。


「時間が何だ。人生、何が起こるかわからないのはお前も経験済みだろ。今すぐに、俺はお前と結婚する。」


俺はリビングを出て、悠介と順の部屋のドアを強く叩いた。


「わかったからっ、服を着ろ!」



*******



道明寺が順と悠介を起こして、何事かと起きてきた二人にあたしが事情を説明して、二人が飛び上がって喜んでくれて、なぜか道明寺と盛り上がって今すぐ婚姻届を出すことになって、子供達を残していけないから清佳と壮介も起こして、道明寺が呼んだリムジンに6人で乗り込んで、世田谷区役所ナウ。

さっきから夜間窓口に向かって道明寺が叫んでる。
清佳と壮介はリムジンで運転手さんに見守られて夢の中だ。


「おいっ、早くしろ! 婚姻届だ!」


程なくして手渡された婚姻届に、その場でまずは道明寺が記入、捺印を済ませる。
道明寺がそれを悠介に手渡し、悠介が記入し終わったら順に。
そして順から戻された婚姻届を、道明寺はあたしに差し出した。


「間違うなよ。」

「縁起でもない。」


あたしも迷いなく記入していく。
ここまできて足掻くなんてことしない。
後悔は一生分した。
好機は一度しか訪れないってこともよくわかってる。

あたしが記入する一文字一文字を男たち3人が見守ってる。
そしてあたしは最後に捺印をした。


「よしっ!」


道明寺がまた叫ぶ。


「おいっ! 提出するぞ。大事な書類だ。両手で扱えよ!」


相手は役所の人だよ?
わかってるでしょ、そんなことぐらい。

夜間に来るのはこんな寝ぼけたのが多いのか、担当者はピクリとも反応を示さず、事務的に告げた。


「奥様になられる方の戸籍謄本はありますか?」


ん?
コセキトウホン?
このメンバーで婚姻届を提出した事がある人間はいない。
道明寺が結婚したのはNYでだ。


「あの、戸籍謄本が必要なんでしょうか?」


あたしは???を浮かべ顔を見合わせる男ども3人を従えて聞いてみた。


「旦那さんは本籍地も世田谷だからいいんですが、奥さんは国立市でしょ? 国立で本籍地が記載された戸籍謄本をもらってきて、婚姻届と一緒に後日、提出をお願いします。」


そう言って婚姻届を突き返された。

えーと、後ろからドス黒いオーラが漂ってきてんだけど・・・

あたしはできるだけ明るく振り向いた。


「だって! 明日、いや、今日もらってくるから、ね?」


34歳の限界まで可愛く首をかしげてみたけど通じるかな?

…残念ながら通じなかったみたいで、道明寺はスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。


「ああ、お休みのところ申し訳ありません。道明寺です。ええ。今、世田谷区役所に婚姻届を提出しに来てまして。ええ、ああ、ありがとうございます。ええ、それで妻の本籍地が国立なんですけど、急なことで戸籍謄本が手元にありませんで。ええ、そうなんです。それでこれは私からの ” お願い ” なんですが、妻の本籍はそちらで調べてもらって、今夜、今すぐに受理していただけないでしょうか。・・・フッ、いえいえ、あくまでも ” お願い ” ですから、無理なら・・・・・ああ、 そうですか。それはありがたいですね。ええ、わかりました。・・・はは、もちろんです。その時はおっしゃってください。はい、では、失礼します。」


17年前の捕物劇が思い起こされる。
あの時は警視総監だった。
今度は・・・・誰!?


「あの、今の電話は?」


まだ道明寺って人間に免疫のない順が尋ねた。
あーあ、聞かない方がいいのに。


「ああ、法務大臣だ。」

「「「 ほっ! 法務大臣!?」」」


あたしも順も悠介も目が飛び出るほど驚いた顔になった。
そしたら次の瞬間、窓口の奥で電話が鳴った。
さっきの当直のおじさんが受話器を取った。

突然、直立になったかと思ったら、次にはペコペコし始めた。
そしたら受話器を手で隠してなんかコソコソ話してる。
そしてまたペコペコと頭を下げてる。

会話が手に取るようだった。
法務大臣からの電話なんでしょ?
口止めに何を頼んだのよ、おじさん。

受話器を置いて振り向いたおじさんは夜中とは思えない笑顔だった。
ハァァ・・・

おじさんはまた窓口に歩み寄った。
道明寺がもう一度、婚姻届を差し出した。


「先ほどは失礼しました。不備? そんなものありませんよ! はい、受理させていただきます。ご結婚、おめでとうございます!!」


おじさんが窓口で頭を下げた。
こんなのでいいんだろうか?
しかし隣の男は見たことのない満面の笑みであたしを抱きしめた。
その笑顔は、18歳のバースデーをフケて船に逃げ込んだとき以上だった。


「つくしっ! 今日から俺もおまえをつくしと呼ぶぞ!」


紆余曲折を経てあたしたちは夫婦になった。
出会ってから18年。
再会してから4ヶ月だ。


「つくし、おめでとう。」

「おめでとう。」


順と悠介はなぜか泣いてるし。


「ちょっと、どうしたのよ。」

「おまえが幸せになってくれて嬉しいんだよ。これで俺たち、やっと肩の荷が下りた。」

「俺たちばかりが幸せで申し訳ないと思うこともあった。それも、お前がくれた幸せだ。だからこうして役に立てて俺たちは感無量だ。」

「やだ、もう、泣かないでよ。」


あたしも涙が出た。
そのあたしの肩を優しく抱いてくれるのはあたしの夫だ。


「悠介、順、今までつくしを守ってくれてありがとう。これからは子供もつくしも俺が守る。家族が増えるがこれからもよろしく!」

「グスッ、つかっさぁん! 俺たちもよろしくお願いします!」

「…おい、その「おやっさん」みたいのやめろよ…」


みんなで吹き出して、大笑いになった。









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2019.04.11




ただ今、午前4時

区役所から帰って子供達は順と悠介が寝かしつけて、あたしたちもベッドに入った。
さすがに眠い。
今日は道明寺と順以外は休み。
あと3時間で起床時間。
さあ、寝よう!

って、思ってくれない男がひとり。
背中からあたしを抱きしめて、ずっと下腹部を撫でている。
・・・その気になりそうだからやめてほしい。


「ね、あと3時間で朝だよ? 寝よ?」

「眠れるか! もういい、起きてる。」

「あたしは寝るわよ。ちょっと、眠れないから離して。」

「離さない。」

「駄々っ子か! 怒るわよ! 妊婦を労わりなさいよ。」


ちょっと怯んで腕を緩めた。
でもどうやら興奮が収まらないらしい。


「な、つくし。」

「んー?」

「つくし」

「ん〜?」

「つかさって呼んで。」

「…zzzzz」

「寝たふりすんな!」

「あのさぁ、4時だよ? もうすぐ夜明け。仕事、キツイわよ。眠っときなさいよ。」

「なぁ、」

「ハァ、なに?」

「……どうして怒らなかったんだ?」

「…………」

「怒りもしなかったし、突き放しもしなかった。最初から受け入れてくれたよな。どうしてだ? 家族がいたからか?」

「不安?」

「………そうかもしれない。」


あたしは寝返りを打って道明寺に向き合った。
暗闇の中、迷子の犬みたいな顔になっちゃってる。


「なんで、怒られると思ったの? あたしが怒るポイントってどこだと思うの?」

「忘れたこと」

「それだけ?」

「追い返したこと」

「他には?」

「……………」


道明寺があたしから視線を外して言い淀んでる。
彼女のことに触れたくないからだ。


「海ちゃんのことでしょ?」

「……………」

「あたしが作ったお弁当を海ちゃんが作ったと思ったことでしょ?」


これは道明寺も突き付けられたくなかったことだろう。
一瞬、目をギュッとつぶったのがわかった。


「はは…聞けば聞くほどひでぇな。」


道明寺は仰向けになって、腕で目を隠した。
あたしはベッドに片肘をついて暗闇に浮かび上がるそんな道明寺を見つめてた。


「でもさ、どれもあんたのせいじゃないじゃん。」


道明寺が腕を上げてあたしを見た。


「あんたは悪くない。悪いのはあんたを刺した人。だから裁きを受けた。それで終わったんだよ。あんたが自分を責めるのは違うし、あたしがあんたを責めるのはもっと違うんだよ。」


あたしを見る瞳が見開かれたのがわかった。
あたしもゴロンと仰向けになって天井を見つめた。


「なーんて、カッコイイこと言ってるけど、最初の数年は恨んでたよ。口に出せない悪態も心の中でいっぱいついたし。フフ。」

「……………」

「でもさ、順にさ、あんたの話をした時に、言われたんだよ。あんたが可哀想だって。その時、順はもう悠介を好きだった。でも悠介をストレートだと思ってたから、悩んでた。ううん、悩むなんて生易しいもんじゃない。苦悩、慟哭、悲哀。人ってこんなに苦しむことができるんだって思った。」

「あの順が?」

「そう。今は幸せだから明るいとこしか見せないけど、当時は、ね。その順に、「お前より道明寺さんの方が可哀想だ」って言われた。心底愛した相手を忘れるなんて、俺だったら耐えられない。そのまま死にたい。思い出したくない。だけどいつか思い出すかもしれないなんて、それがいつになるのかわからないなんて、これ以上に残酷な話は聞いたことがないって。」


道明寺も暗い天井を見つめてた。
何も言わなかった。


「それから悠介と順のゴタゴタがあって、二人がパートナーとして生きていくって決めて、あたしが代理母になって、清佳と壮介が産まれて。幸せだった。ずっと笑ってた。」


夜明け前の暗闇。
はっきり顔が見えないからできる話もある。


「でもさ、忘れたことなかったよ。あんたのこと。」


道明寺がこっちを向いた。
手で押し返す。


「恥ずかしいからあっち向いてて。」

「暗くて見えねぇだろ。」

「いいから!」


もう一度、道明寺の視線を外させて続ける。


「幸せを感じるたびにあんたのこと思い出した。道明寺は幸せにしてるかな? って。幸せにしててほしいなって。だから、ずーっと幸せだったから、ずーっとあんたのこと想ってた。」

「その割に、駅で会った時は逃げようとしたよな。」

「逃げてないって。話が終わったから立ち去ろうとしただけ。」

「もっと感動するとかなかったのかよ。」

「あたしだって怖かったんだよ。本当の最後かもしれないって。」

「なんでだよ。」

「あたしを思い出して、ちゃんとケリつけようって現れるかもしれないじゃん。今が幸せだから、中途半端な状態をちゃんと終わらせようって言われるかもしれないじゃん。」

「ありえない。」

「フフ、17年ずっと想ってると、不純物がどんどん濾過されてく。悪い思い出は全部良い思い出に溶けていって、最後は楽しかったことしか思い出せなくなる。」

「赤札もか?」

「ここでそれ言う!? あはは」


道明寺があたしを引き寄せて、横から肩に顎を乗せてきた。
首に息がかかる。


「でもひとつだけ、後悔してることがある。きっとあんたもでしょ?」

「…………ああ、あんなカッコつけんじゃなかったって、記憶戻してからずっと後悔してる。」

「はは、あたしも。怖くても飛び込んでおけばよかったって何度も思った。」

「お前の、相手は………」

「やめよ。過去のことは。それ言い出したら絶対、離婚になる。」

「フッ、かもな。」

「でもさ、あの時してたら、今こうしてないかもよ?」

「どういうことだ。」

「あたしが代理母になったのって、処女のまま子供産めるからなんだよね。もし経験してたら、今頃、別の人と結婚して自分の子供産んでたかも。」

「我慢した甲斐があったってことか。」

「そ。」


首にかかる息が近づいて、首筋にキスされた。


「でも今日は我慢しない。」

「ゆっくりだよ。」

「わかってる。」

「出しちゃダメだからね。」

「は? なんでだよ。」

「子宮を収縮させる成分が含まれてんの。赤ちゃんが苦しくなる。」

「マジかよ。余計な機能持たせやがって。」


あちこちにキスが降ってくる。
逸る気持ちを抑えて、優しく触れてくれる。


愛してる…

愛してる…

愛してる…


伝えたい相手がキスできる距離にいる。
彼の過去も未来もすべてを包み込もう。



もうすぐ7人になるファミリー。
その内、パパが3人になる。
順が「つかっさんパパ」って呼びそうだな・・・ププッ





Let's be a Family! 〜 Recrystallization 〜 再結晶 【完】









*日本での代理母出産は日本産科婦人科学会によって原則禁止されています。(法的拘束力はなし)
また、実際の代理母は経産婦しかなれません。フィクションですのでご容赦ください。


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2019.04.12




私と壮介にはパパが2人いる。
私の本当のパパは順パパで、ママは悠介パパの妹の悠依ちゃん。
壮介の本当のパパは悠介パパで、ママは順パパのお姉さんの恵伯母さん。
でも悠依ちゃんも恵伯母さんも私達を姪とか甥だと思ってて、それ以上の感情はないみたい。

だから私達にはママはいない。
…はずなんだけど、つくしさんをママって呼んでる。
それは私達を産んで、育ててくれてるから。

つくしママは他の家のママみたいにご飯を作ってくれて、パパたちの帰りが遅いときは一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝てくれたりして育ててくれた。
どちらかのパパが帰ってきたらバトンタッチ。
だけどご飯のことだけはパパたちがいてもママがしてくれる。

ママが本当のママじゃないって聞かされたのは小学校に入る少し前だった。
それがどういうことなのかまだよくわからなかったけど、本当のママじゃないけど、どこにも行かないよって聞かされてそれならいいかって思ったことを覚えてる。

それからだんだんとママが本当のママじゃないっていう意味がわかってきて、うちが他のお家とは違うってこともわかってきた。
他のお家にはパパは一人しかいないし、『パパたちの日』なんてものもない。
それにパパはママとキスするんだって。
うちはパパ同士がしてる。
おやすみ、とか、行ってきます、って言う時なんか。

一度、ママに聞いたことがある。
ママはパパたちとキスしなくて寂しくないか?って。
だってパパたちは私にも壮介にもするのに、ママにだけはしないから。

そしたらママは、寂しくないよ。だってキスしなくても仲良しだもん。って答えた。

それが小学校2年生の時。
4年生になって、10歳の誕生日に、つくしママがママじゃない本当の理由を聞かされた。
パパたちが愛し合ってるから、ママのお腹を借りて私を産んでもらったんだって。
順パパも悠介パパもつくしママも私に会えてとっても幸せだって言ってくれた。
そう言ってもらえてとても嬉しかった。
だから、言ったの。
私も将来、困ってる人がいたら代わりに赤ちゃんを産んであげたい!って。
でもそしたらパパたちもママも困ったような顔になった。
そしてママが言ったの。
「もちろん、それもとってもいいことなんだけど、でも清佳は世界で一番愛してる人の赤ちゃんも産めたらいいね。」って。

そのとき思った。
ママも世界で一番愛してる人の赤ちゃんを産みたかったのかな?って。


そして私が5年生になって、ママが世界で一番愛してた人が現れた。

道明寺さん。

いきなり現れて、次の日にはママの彼氏になっちゃって、その日からこの家で暮らし始めた。
そしてその4ヶ月後には道明寺さんはママと結婚して、ママは道明寺つくしになった。
なぜなら、ママのお腹にはママが世界で一番愛してる人の赤ちゃんができたから。

そしたらいつのまにか道明寺さんを「司パパ」と呼ぶことになっちゃって、正直、戸惑った。
それもこれも、ちょっとお調子者なところがある順パパが司パパを「つかっさんパパ」なんて呼んだせいだ。
それを聞いた壮介まで道明寺さんを「つかっさんパパ」と呼んだのをきっかけに道明寺さんがブチギレちゃって、二人は説教される羽目になった。「似た者親子だな!」って。
それから道明寺さんのことは「司パパ」と呼ぶことが我が家で制定された。






土曜日の今日、学校はお休み。
ゆっくり寝てていいんだけど、私はママを応援するって決めたんだから、できるだけママを助けなきゃ。

ママと一緒に朝ごはんを作ろうとリビングに入った。
そしたら、キッチンで司パパがママにぴったりとくっついてて、私はママに近づけない。
司パパは順パパくらい背が高くて、近くにいると私の視界には入りきらないから顔をよく見たことがなかった。
仕方なくダイニングに座って頬杖をつきながらキッチンの中の二人を眺めた。
ママは最高に優しい顔をしてる。
そして初めてちゃんと見た司パパもカッコいい顔でニコニコしてて、優しそうだった。

二人がとってもお似合いで、幸せそうで、私は・・・・・腹が立った。

ママの一番は司パパじゃないよ。
私と壮介だよ。
教えてあげなきゃ。


「ママ!」

「あ、清佳、おはよ〜!」

「ママ、おはよう。朝ごはん、お手伝いするよ!」

「清佳〜! ありがとう!」

「うん! ママを応援するって決めたもん。女は私だけなんだから何でも言ってね!」

「なんていい子なの〜。清佳、大好き〜」


ママがギュッて抱きしめてくれた。


「司、あっちで座ってて。」


ママが司パパをキッチンから追い出した。
ママの隣は私がキープ。
ふふん、どうだ。



********



入籍して1ヶ月、最近、帰っても部屋につくしがいない。
俺が帰ると、部屋のデスクにメモがある。


『清佳と寝ます。ごめんね。』


11歳にもなって母親と寝るとか赤ん坊かよ。
それを許すつくしもつくしだ。
俺は物心ついた時から一人で寝てたから、気持ちが全くわからない。


清佳が俺に対して対抗意識を燃やしてるのはなんとなく感じてた。

先日のことだ。
いよいよつわりが始まって寝込んでたつくしに何か食べられるものを買ってこようという話になり、5人で近所のスーパーへ。

つくしは何が食べたいだろうか、いや、あいつは何でも美味そうに食うやつだと手当たり次第にカゴにポイポイ入れていたら清佳がいちいちダメ出しをしてきた。
挙句には、


「ママはね、きっとこれが食べたいはずよ。私はママが好きなもの知ってるから。」


と俺に向かって得意げな顔をして見せた。
でもその言葉は悠介によってやんわり否定された。


「つくしは清佳の時はネギがダメになってグレープフルーツばかり食べたがって、壮介の時は飯の匂いがダメになって甘いものばかり食べたがった。今回は何がダメなのか、何が食べたいのかまだわからないからいろいろ買っていこう。」


結局、今回のつくしはコーヒーの匂いがダメになり、肉ばかり食べたがるようになった。
仕方なく家ではコーヒーを控えている。
妊娠て大変だな。

つくしはつわりがひどくなり始めた頃から、清佳といっしょに寝るようになった。
清佳が寂しいから一緒に寝てほしいと言ってくるらしい。
つくしは、


「赤ちゃん返りかも。複雑な家庭だから、寄り添ってあげないと」


って言ってるが、それが甘やかしなんじゃねぇーのか?
付け上がってんだろ。

とにかく、つくし不足だ。
ちょっと体温が高くなってポカポカしてるあいつを抱きしめて寝るのが、俺の秋の夜長の唯一の楽しみなのに。
こう続くとガキだからって容赦しねぇーぞ。


つくしのいない夜は風呂上がりにベランダに出て酒を飲む。
今夜は先客がいる。


「あ、おかえりなさい。」

「よう、珍しいじゃん。お前がこんな時間に起きてるなんて。」


順もグラスを手にベランダから眼下の家並みを眺めてた。


「どうした? なんかあったか?」


順と悠介は俺にとって友達ではない。
かと言って他人てわけでもない。
大切なつくしを長年、預かってもらってた信頼できる隣人って感覚が一番近いか。


「清佳がすみません。司さんに対抗意識燃やしてるでしょ?」

「あー、みたいだな。母親を俺に取られたって感じてるのかもな。」

「でしょうね。この家の中で二人だけの女同士、特別な感情があったんでしょうが、つくしとあなたの強烈なつながりを見て何か危機感が芽生えたんでしょうね。」


順がクッとグラスを傾けた。


「ま、子供のことはよくわかんねぇが、つくしにとっては清佳と壮介が一番だ。俺には入り込めない絆だな。」

「その絆を赤ちゃんに奪われると感じてるのかも。つくしと血の繋がった子供だから。」

「フッ、つくしはそんな女じゃない。俺があいつと一緒にいられたのは再会してからの今日までを含めても1年半に満たない。でもあんたは15年も一緒いるんだ。わかるだろ。」

「ええ、そうですね。つくしはド級のお人好しだ。でもね、司さん、我が子ってのは理屈じゃない。あなたにもわかる時が来る。血ってのは超えられない。あなたの知らなかった幸福の扉を開いてくれる。そうしたらあなたはつくしも子供も独占したくなるでしょうね。ここを出て行きたくなるんじゃないかな。」

「お前も不安になってんのか?」

「はは…そうかもしれません。」

「NYではLGBTのカップルが代理母に子供を産んでもらうって話はよく聞いた。でもほとんどの場合は子供を代理母から引き取ってカップルだけで育ててる。あんたと悠介はなぜそうしなかった?」

「・・・条件だった。“ 産んだ後も共に暮らす ” つくしが出した条件だ。」

「つくしが?」

「つくしからこの15年のことは?」

「まだ。」

「そうですか。あなたに俺たちの15年を知ってもらう時が来たみたいですね。」









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2019.04.13




俺はベランダに立ったまま、つかっさんに俺たちとつくしの歴史を語り始めた。



**



あれは大学2年の初夏だった。
俺は同じ野球部の仲間だった悠介に恋をしてた。
でも、まさか自分がゲイだと打ち明けることもできず、ただの男友達、仲間として過ごしてた。
当時の悠介には彼女がいた。
だから俺は悠介は完全にストレートだと思ってた。


ある日の練習終わりのことだった。
部室で男だけになれば女の話で盛り上がる。
何学部の何とかっていう女が可愛いとか、あの店の店員はソソるとか、バカっ話だ。
その時、悠介が呟いた。
「牧野つくしっていいよな」って。



**



「悠介がつくしを?」

「ええ。本当にボソッと呟いたんです。」



**



それが真に迫ってた。
悠介は牧野って女に本気になってんだと思った。
その時、メラメラと嫉妬の炎が上がった。
じゃあ、俺がその牧野って女をモノにしてやろうと思った。

本意じゃないが、俺は女にモテる。
きっとその牧野も俺が本気になって落としにかかれば落ちると思ってた。
そしたら悠介も俺に一目置くだろって。
それから俺は牧野を探した。
俺がいたのは運動部で活躍する奴が多く在籍する人間総合学部。
悠介は法学部。
対して牧野が在籍してたのは大学の中でも花形の、経済界に多くの著名人を輩出してる経済学部だった。

俺は場違いなその学部内をウロついて、牧野つくしを探した。
悠介が惚れるんだから、きっと華やかな美人だろうと思った。
何人にも牧野を知らないかと尋ねたが、知ってる奴は誰もいない。
本当にここにいるのかよ、って思って最後にカフェスペースに入った。
午後3時。営業は終わってて、談笑してる学生がチラホラ。
その中で一人でポツンと座ってる女がいた。
地味な身なりで、女子大生らしい華やかさなんて微塵もない。
参考書とにらめっこしながらノートに覆いかぶさるように勉強してた。
そいつに牧野のことを聞こうと思って近寄った。
「おい」って、声をかけたら、その女は顔を上げて俺を見た。
その瞬間、俺はそいつの瞳に吸い寄せられた。
女として惹かれたわけじゃない。
ただ、その女の瞳が強かったんだ。
夜の海の底のような闇をたたえながら、同時に、燃えるような光も宿ってた。
強い、強い、瞳だった。


「牧野つくし知らない?」

「あたしだけど。」

「そっか。」

「なんか用?」

「座っていいか?」

「ご勝手に。」


牧野はまた勉強に戻った。
俺はそれから2時間、牧野の勉強が終わるまでじっと座ってた。


「帰るけど、なんの用だったの?」

「俺のニセ彼女になってくんない?」


俺は騙して落としてやろうと思ってた女に、気づけば正直に話してた。
こいつを落とすなんて無理だと悟ったんだと思う。


「なんでニセ?」

「女、無理だから。」

「なんで彼女?」

「必要だから。」

「なんであたし?」

「お前じゃないと意味ないから。」

「女は好きじゃない?」

「ああ、好きじゃないな。」

「わかった。それならいいよ。」


これが俺とつくしの運命の出会いだった。



**



「それからどうした?」

「気になります?」

「ニセでも許せねぇな。」

「すみません。」

「続けろ。」



**



それから俺たちは毎日会った。
牧野は勉強とバイトの日々。
俺は練習の日々。
間隙を縫って俺が牧野に会いに行ってた。
ただの地味な女かと思ってたら、牧野は面白い女だった。
俺をイジってくることも、俺に媚びてくることもない。
俺なんて完全に眼中にないって様子で一生懸命に生きてる。
いつしか、俺は牧野の前で自然体でいられることに気づいた。
女の前で構えなくていいのは初めてだった。

俺が甲斐甲斐しく女のもとに通ってるって話はすぐに仲間内に広まった。
周りは勝手に、俺に彼女ができたんだと思い込んだ。
ある日、悠介が話しかけてきてくれた。
俺に彼女ができたって知って、紹介しろと言ってきた。
紹介することを名目にして、俺は初めて悠介とサシで会った。

昼間は牧野がバイトだと言って、夜に合流することになった。
その日のことは牧野と打ち合わせてた。
お前に会いたいって奴がいるから、遅れて来いよって。
待ち合わせの時間まで悠介と二人で過ごした。
楽しかった。
こんなに楽しかった時間は初めてだった。

待ち合わせ場所は飲み屋だった。
先に入って悠介と飲んでた。
知れば知るほど好きになる。
でも好きになればなるほど、遠くなるような気がした。
悠介にとっては俺はどこまでもダチだったから。

そこに牧野が来た。
彼氏と会う設定なのに、いつもの地味な様子で化粧っ気もなくて、少しは気を遣えよ、お前女だろって舌打ちしたくらいだった。


「よっ!」


牧野は軽快に声をかけてきた。


「よっ! 悪かったな。こっち座れよ。」


一応、俺は彼氏だ。
ストレートのフリしなきゃならない。
上手くできてるか? と思いながら、自分の隣を指して手招きした。
悠介は現れた俺の彼女が牧野だって知って驚いてた。


「お前の彼女って牧野つくしかよ。」

「ああ。どうした? お前も狙ってたか?」

「いや・・・」


悠介は俺から顔を背けた。
その時、チクリと罪悪感が胸を刺した。

牧野は俺の隣に座って、向かい側に座る悠介に頭を下げて挨拶した。


「はじめまして。牧野つくしです。」


その時の悠介を俺は忘れないと思う。
悠介も顔を上げた牧野の瞳に見入ってた。
でもそれはポーッとした男が女に浮かれるような目じゃなく、痛ましいものを見る目だった。


「初めてじゃないよ。会ったことあるよ。」


気を取り直した悠介が牧野に話しかけた。


「え? いつ?」

「去年の学祭。法学部のブースに来た時。」

「あ、そうなんだ。」

「牧野はいつも勉強一筋らしいな。まさか彼氏いるとは思わなかったよ。」

「ああ、まあね。秘密主義だから。」

「で、順のどこがいいわけ?」


悠介の唐突な質問には俺の方がビビった。
そんなこと、打ち合わせてなかったから。
でも牧野はスラスラと答えた。


「苦しんでる姿を見せないとこ。」

「苦しんでる? 順が? プッ」

「おい、牧野!」

「情熱を秘めてるとこ。」

「見せなかったり、秘めたり、順は彼女に隠し事ばっかかよ!」

「牧野、何言ってんだ!」

「人を、心から愛せるところ。」

「牧野!」


牧野はずっと悠介の目を見てた。
悠介も牧野から目を逸らさなかった。



この夜から、悠介は俺に頻繁に牧野に会わせろと言ってくるようになった。
終いには牧野に直接、会いにくるようになった。
俺は嫉妬した。
悠介はそんなに牧野がいいのか、と。
あんな、地味で女らしさも色気もない、ただ強烈な瞳だけを纏ったような女のどこがいいんだって。
でも、俺は結局、そんな牧野を利用するしかなくて、牧野と一緒にいれば悠介とも一緒にいられる。
結果、俺たちはいつも3人でつるむようになった。









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2019.04.14




つくしがベッドにいない夜に始まった順の昔話。
手許のグラスはとっくに空になっている。
でも俺は話の腰を折りたくなかった。
そのまま、順の話の続きを待った。


「で、それから?」

「あれは秋季大会の壮行会が、とあるホテルで開かれた時だった。」



**



それまでの数カ月を3人で過ごすうちに俺と悠介はすっかり仲良くなった。
一緒につくしに会いに行き、バイトだと追い返されて、だったら暇潰しだって二人で過ごすことも増えて、俺は密かにつくしに感謝してた。

そんな時だった。
壮行会が終わっても帰り難くて広いロビーの柱にもたれて悠介と話してた。
そこへエレベーターが到着して、中からパーティー帰りと思しき男女が降りてきた。
男は見たことないほどの美男子。
サラサラとしたストレートの髪で、目は茶色だった。
背も高く、ブラックタイのタキシードがよく似合ってた。
俺はついつい男の方に見惚れた。
そしたら悠介が呟いた。
「つくし…」って。
ハッとして女の方を見た。
そこにいたのは、俺たちが見たことのない美しいつくしだった。

絶句した。
唖然とした。
いつもの地味で色気のないつくしじゃなくて、パーティードレスに華奢な身を包み、普段出さない白くて折れそうな細い腕を出して、初めて見るスカート姿からは綺麗な脚がスラッと伸びてた。
そしていつもは一つに結んでるだけの黒髪を結い上げ、滑らかな肌を彩る化粧は彼女の特徴である瞳をさらに印象付けてた。
とにかく、その美男子ととてもお似合いだった。

通り過ぎるつくしに声をかけていいのか迷ってると、悠介が声をかけた。


「つくし!」


つくしと美男子が振り向く。


「悠介…順も…どうしたの?」


悠介はつくしに歩き寄った。
俺も慌てて追いかけた。


「つくし、お前こそ何でこんなとこにいるんだ!?」


悠介は怒ってた。
好きな女が知らない男といて、しかもすげー綺麗になってるからだと思った。


「あ、えーと、」

「牧野、この人たちは?」


美男子がまるでビー玉みたいに透明感のある瞳で俺たちを見た。
間近で見るとすごい迫力だった。


「あ、大学の、あー…彼氏と友達。鳥飼くんと高山くん。」

「ああ、話してたね。」


俺はヤバイ! と思った。
つくしは俺に気を遣って「彼氏」って紹介してくれたが、この美男子こそつくしの本命なんじゃねーかって。


「あ、二人とも紹介するね。こちら花沢さん。あたしの高校時代の先輩。」

「初めまして。」


花沢さんはクッと笑んだ。
その美男子ぶりに俺はまたポーッとなっちまった。


「つくし、今日は何してたんだ?」


だが、悠介はつくしから目を離すことなく、怒りも収まってなかった。
何故かつくしに攻撃的になってる。


「今日は、」

「僕がパーティーのパートナーをお願いしたんだ。ね、牧野。」


花沢さんがつくしの顔を覗き込んだ。
そしたらつくしが顔を赤くした。
俺はますますマズイと思った。
早くつくしを逃がしてやらなきゃって。


「俺たちは野球部の壮行会だったんだ。じゃ、もう帰るから、つくし、またな!」


俺は悠介の腕を引いて歩き出した。
この時、俺はつくしに俺のニセ彼女を演じてもらってることなんて頭からすっぽり抜けてた。
とにかく、この場を離れなきゃってことだけだった。

ホテルを出て駅に歩き出した。
悠介が腕を振り払って立ち止まった。


「どうした?」

「お前、どうしたじゃないだろ! 自分の女が他の男といるのになんで怒んねぇんだよ!! なんであの男と残してきたんだよ!!」


今度はこっちのヤバさに気づいた。
そっか、本物の彼氏ならああいう時は怒るよな。


「そ、そんなのみっともねーじゃん。ああいう場面では余裕こいてスマートに立ち去るのがオトナのオトコだろ。」


俺は悠介の目を見られずに、やや視線を落とすしかなかった。
その俺の耳に、悠介の低い声が届いた。


「…お前、本当につくしが好きか?」


ギクッ


「なーに言ってんだよ! 好きに決まってるだろ!」


友達として、だけどな。

なんとか取り繕って帰りたかった。
でも悠介はそれでもまだ立ち止まったままだった。


「・・・順、つくしのこと、どこまで知ってる?」

「どこまで?」


それはあれか?
恋のABCのことか?
えーと、キスはしたことあるけど、



**



「おいっ!!」

「え?」

「キスのくだり出てきてねぇーぞ! いつしたんだ!!」


ヤベェ・・・つかっさん、怒りモードだ。


「あ、えーと、試してみるかって。」

「ああ?」

「本当に女がダメか試そうってことになって。」

「つくしで、か?」


ひぇぇ〜〜〜
目が据わってる〜


「は、はい。」

「その話を先にしろ。」

「あー、えー、」



**



あれは付き合って2ヶ月経った夏休み、世間は盆休みってやつだった。
悠介は親の地元に墓参りに帰ってて、久しぶりにつくしと二人で飲んでた。
バーなんだけどクラブっぽくもあって、流行の音楽がなかなかの大音量で流れて後ろでは踊ってるヤツもいる。
そんなに畏まった雰囲気じゃないとこで、カウンターに並んで座ってた。

つくしは結構、酒に強い。
なのにこの日はすぐに酔っ払って、珍しくニヘラニヘラしてた。
そしたら唐突に、本当に唐突に俺の耳元で言った。


「順て恋愛対象が男?」


一瞬で酔いが覚めた。
咄嗟に取り繕う言葉も出なかった。
だって、つくしがそのことに気づいてるなんて思わなかったから。
返事が出来ずに俺が黙ってるとまたつくしが言い出した。


「わかるよ。悠介のことが好きなんでしょ?」



**



「つくしが?」

「はい。」

「あの鈍感が服着て歩いてるみたいなあいつが?」

「はい。」

「ふーん。」



**



いつの間にバレてたんだと焦った。
ニセ彼女はやめるとか、もう会わないとか言われるのかと構えた。


「応援してるから。あたしにできることあったら協力するよ。」


そう言ってつくしはあの大きな瞳を細めて、優しく微笑んだ。

俺は、長年の抑圧状態と夏の暑さと酒の不味さとつくしの眩しさで、意識が朦朧としてた。
もう何が何だか、世界はどうなってんのか、混乱状態だった。


「だったら、俺が本当に女がダメなのか、試させてくれよ。」

「は?」

「キスしていいか?」

「はぁ〜?? 何言ってんの!?」

「協力するって今言ったじゃねーか。」

「試すことになんの意味があるの? 女とキスできたとして、それであんたは女を好きになれんの?」

「芽生えるかもしれねーじゃん。」

「逃げたいんでしょ。」

「ああん?」

「苦しくて苦しくて、逃げ出したいんでしょ。自分じゃない自分になれれば楽になれるんじゃないかと思ってるんでしょ!? 甘えんじゃないわよ! そんな簡単に逃げられたら誰も苦労しないっての!」


カッとした。
この、いつも澄ました女をどうにかやり込めたかった。
俺はつくしの後頭部を引き寄せて、強引にキスをした。



**



・・・・夜風じゃない冷気が隣から漂ってくる。
いやいや、あなたが聞きたがったんでしょ・・・・
うおっ、目が光ってるし! 野獣がいる!



**



暴れるつくしを押さえて、さらに深くしていった。
でも増すのは生理的な嫌悪感ばかりで、最後は俺の方がたまらずに突き飛ばすように離れた。


「「ッハァ、ハァ、ハァ、」」


つくしは怒りでギラギラと燃え上がる瞳で俺を睨んだ。


「下手! この、素人!! その程度で女にキスしようなんて100年早いのよ!! 好きな奴と練習してから出直せ!!!」


そう言ってつくしは店を飛び出していった。



**



「後からわかったけど、あの時、あなたのスキャンダルが日本を騒がせてた。つくしはヤケ酒だったんだ。」

「・・・・・」

「あの日、あなたが初めてうちに来た日、つくしがあなたのキスはプロのキスだって言った。俺の時とは違う、女の顔をしてた。あのつくしのあんな顔見たことなくて、つくしの本物の相手はやっぱりあなたなんだと思った。」

「あいつにあの顔をさせられるのは俺だけだ。」

「ですよね。今ならわかります。」

「…話、戻していいぞ。」



**



悠介につくしのことをどこまで知ってるんだと問い詰められた。


「あー、キスはしたけどな。」


試してダメだったけど。


「そういうことじゃねぇーよ! お前は、つくしの歴史をどれだけ知ってんだって言ってんだ!」

「歴史?」


つくしの歴史??
・・・なんも知らねぇーな。


「その顔は何にも知らないだろ。」

「そう言うお前はなんか知ってんのか?」

「……お前、F4って知ってるか?」

「えふふぉー? なんだ、そりゃ。」

「フッ、お前は中学高校と野球小僧だったからな、知らないか。英徳学園高等部、いや、英徳学園のリーダー集団だ。4人の男子で構成されてて花の4人組で“ F4 ” 。容姿端麗、文武両道、4人とも日本を代表する名士の息子たちだ。」

「なんだそりゃ、そんな男どもがいるのかよ。少女漫画の王子様じゃあるまいし。」

「さっきの花沢さん、あの人もF4の一人だ。あんなのがあと3人いるんだ。」

「マジかよ……でも、そんな派手な集団のメンバーとつくし?……高校の先輩って……つくしも英徳か?」

「ああ、そうだ。あの金持ち学校出身だ。」

「じゃあ、あいつも金持のお嬢なんか? だとしたら何のためにバイトしてんだ?」

「お前…! 彼氏だろ! 本人に聞けよ!」

「悠介、お前はなんでそんなに詳しいんだ?」

「……学部に英徳の奴がいるんだよ。そいつがベラベラと喋って教えてくれた………」

「お前、それでつくしのこと知ってたのか。」

「俺のことはいいんだよ。とにかく、お前は自分の女のことを知らなさすぎだ。もっと話せよ。」


それだけ言うと、悠介は駅に向かって歩き出した。
悠介が何にそんなに怒ってんのか、わからなかった。









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2019.04.15




皆様、こんばんは。


ちょっと近況報告と今後のお知らせでも、と思い立ちました。

現在更新中の「Lets be a Family!」は今の「再確認」で一旦、止まります。
続話未定でございまして、構想はあるんですが今は別のお話を書いております。
しかしこれが「マンラプ」並の長編になりそうで、皆様に読んでいただけるまではあと2ヶ月くらいかかりそうです。

ですので、「Lets be a Family! 〜再確認〜」終了後はしばらく更新はお休みします。

更新再開の折りにはまた夕方5時にお知らせしますね^^


で、今書いてるネタのBGMがMIYAVIさんでございます。

あの、車のCMで前から気になってたんですが、ちゃんと聴くとこれがカッコいい。


MIYAVI - Fire Bird(hinotori full version)


それと、新作のイメージソングがこちら


Get Into My Heart


この「Get Into My Heart」は、アルバム「SAMURAI SESSIONS vol.3 – Worlds Collide -」でMIYAVIさんとシシド・カフカさんがセッションしてる曲です。

というわけで、今はアルバム「Fire Bird」と「SAMURAI SESSIONS vol.3 – Worlds Collide -」を鬼リピしながら書いてます。
ハマり過ぎて、ライブにも行く事にしました〜

どの公演に行くかは明かせませんが、もしもファンの方がいらっしゃいましたら、この初心者にレクチャーおねがいします。


ではでは、春の宵に失礼しました。
これからも当ブログをよろしくお願い致します。

                    nona









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2019.04.15




翌日から悠介は俺を避けるようになった。
もう、つくしのところにも来なくなった。


ある日の昼時、中庭の芝生の上でひとりで弁当を食ってたつくしを見つけて声をかけて隣に座った。


「順、悠介は?」

「わかんね。避けられてる。はぁ…」

「なんで告白しないの?」

「…お前はいっつも唐突なんだよ。告白なんてできるわけねぇーだろ。あっちはストレートだ。」

「でも、順、もうこぼれてるよ。」

「え! ダダ漏れてるか?」

「うん。悠介見る目が優しすぎ。」

「・・・それが原因で避けられてんのか? ハァ…」

「あー、そういえばさ、この前の花沢さんは別に本当の彼氏とか、片思いしてる人とかじゃないからね。友達だから。」

「あそこまでのイイ男を友達と言い切れるお前ってすげーな。あの人、英徳のF4だったんだろ?」

「え、なんで知ってるの!?」

「悠介が教えてくれた。お前って英徳だったんだ。お嬢かよ。」

「お嬢じゃないよ。ど庶民。たまたま紛れ込んじゃったの。分不相応な世界で苦労したよ。」

「ふーん。ま、だろうな。お前見てたらわかるわ。」

「でしょ。」

「だったらなんでF4と知り合いなんだよ。益々、謎じゃん。」

「・・・んと。なんでだろうね。」


つくしは遠い目をした。


「この前、すっげ綺麗だったじゃん。お前は磨けば光る。もったいないよ。もっと磨けよ。」

「フフ、何のためによ。誰のためによ。順も悠介もあたしが綺麗になろうが地味子なままだろうが関係ないでしょ? それがいいんだよ。」

「お前ってさ、好きな男とかいないの? ま、俺が言うのもおかしいけど。」

「・・・いるよ。」

「え! いるのかよ! 誰だよ! ってか、じゃ、なんでニセ彼女なんて引き受けたんだよ! マズいだろ。」

「あたしの好きな人はね、あたしのこと、綺麗さっぱり忘れちゃったの。」

「は? 忘れた? なに? なんで?」

「んー、なんでだろ。わかんない。生死の境を彷徨って、意識が戻ったらあたしのことだけ忘れてた。記憶障害だって。いつか思い出すかもしれないし、一生、忘れたままかもしれない。」

「ちょ…待て、そのお前の好きな男ってまさか恋人だったんじゃねーよな…」

「恋人なんて言葉はくすぐったいね。でもあたしを凄く大切に想ってくれたかな。」

「両想いじゃねーか! なのにそいつはお前のことを忘れたってのか? 何もかも? 全く思い出さなかったのかよ!」

「うん。類の、あ、類って花沢さんね。類の女だと思われて追い返された。挙句は他の子を彼女だと思っちゃった。」


つくしの瞳に宿る闇の正体がやっとわかった。
でも俺はつくしよりつくしを忘れた男が可哀想でならなかった。
奇跡が起きて、悠介が俺を好きになってくれたのに、その悠介を俺が忘れるようなもんだろ?
残酷すぎねーか?
そんなのありかよ。


「……………ありえない…マジ、ありえない…そいつが哀れすぎる…」

「順…?」

「俺はこんな残酷な話は聞いたことがない。すっげぇ愛した恋人を忘れたんだろ? いつか思い出すかもしれないんだろ? でも、いつ思い出すかわかんねーんだろ? やめてくれ、俺なら思い出したくない。そのまま死にたい。思い出した時、あれほど愛した相手が他のヤツのもんになってるかもしれねーんだろ? もしかしたら死んでるかもしれねーんだろ!? 耐えられない…そんなの耐えられない。忘れられたお前も辛いかもしんねーが、でもお前は覚えてんだろ? じゃあ、お前はそれでいいじゃねーか!」


つくしは大きな瞳をさらに見開いて俺に向けてた。
俺も喰い付かんばかりにつくしを見据えてた。
そしたらつくしの目からポロポロと涙がこぼれ落ち始めた。

俺は女の涙に強い。
あんなもんは女の演出方法のひとつだと思ってる。
昔の歌手がスモーク焚くのと変わりない。
だが、この時のつくしの涙だけはキレイで、芝生にこぼれてしまわないように自分の胸に閉じ込めた。


「つくし、つくし、泣け。お前にはそれが足りねーんだ。どんどん、ガンガン、泣け!」

「うっ、うう、わぁーーん、バカバカバカッ! 道明寺のバカ! なんで忘れたのよ! 戻ってきてよ! 早く、戻ってきてよぉ! わぁぁん」


それからつくしはずっと泣いてた。
俺のシャツが涙でビシャビシャになって、鼻を擤むポケットティッシュも底をついて、瞼が腫れて開かなくなるまで、ずっと泣いてた。




「スッキリしたか?」

「ん。ありがと。」

「授業だろ? 大丈夫か?」

「もう今日はフケる。そんな気分じゃなくなっちゃった。なんか、パーッと遊びたい気分。」

「行くか!」

「おう! 悠介も呼ぼうよ。」

「それはいい。」

「なんでよ。」

「もういいんだ。無理やり関わってもいいことなんてない。今くらいの距離が丁度いいんだよ。部で会えるし。」

「ふーん・・・」


それから俺たちは街に出てゲーセンに入ったり、カラオケで絶叫したり、銀座を冷やかしながら歩いたり、その日を伸び伸びと楽しんだ。
お互いにもう秘密はなくて、俺は初めて親友ができたような高揚感があった。
でも、それは側から見ればデートだったと思う。


夜になって飯食おうってことになって、また大学周辺に戻ってきた。
いつも安くて大盛りにしてくれる親爺さんの食堂を目指してた。
そしたら悠介が彼女と腕組んで歩いてるとこに正面から鉢合わせた。


「悠介…!」

「つくし……順…」


好きなヤツが恋人と歩いてるとこ見て嫉妬しない奴なんていんのか?
俺は瞬間的にカッときた。


「はは…友達と会う時間を削って女に費やすとか、お前って案外、軟弱だったんだな。」


俺は自分だって女連れなのに、意味不明な理論で悠介を責めた。
俺にそんな資格はないのに。


「お前こそ、女、連れてんじゃないか。」

「あのさ、悠介、順も、今度でいいからちょっと話せない? 私の話もちゃんとしたいからさ。」


つくしが仲裁に入ったその時だった。
悠介の腕にぶら下がってた女がつくしを蔑むように言った。


「あなたが牧野つくしさん? プッ、噂通り地味なんだ。私の悠介が仲良くさせてもらってるらしいですね。いつもお世話かけちゃってごめんねぇ。でも噂が立ってますよ。野球部の男子を二股かけてるって。地味なくせに体使ってんじゃないかって。あ、私はそんなの否定しときましたけどね。気をつけたほうがいいですよぉ。」


つくしが陰でなんて言われてるかなんて全然知らなかった。
俺のせいなのに、俺のためにこいつは付き合ってくれてんのに。
さっきの嫉妬なんて比じゃないくらいの怒りが湧き上がった。


「テメェ!」

「…帰れ…」

「「「 !? 」」」


悠介が女から腕を抜いて、女の正面に立った。


「聞こえなかったか? 俺の大事な友達を侮辱したんだ。それだけの覚悟だろ? 今別れる。お前みたいな女、俺は大嫌いだ。帰れ!!」


俺もつくしも驚いた。
これまで悠介はフェミニストだった。
女に対して高圧的なとこなんて見たことなかった。

固まる女を残して悠介は歩き出した。
俺たちは悠介を追った。


「悠介! あたしのせいでごめん。彼女、きっとただのヤキモチだよ。ここ最近、あたしたち3人でいることが多かったから。」


早足の悠介を追いかけながらつくしが言った。
こいつはバカが付くお人好しだなって思ったけど、今はそれどころじゃない。
そうしたら悠介は立ち止まって振り向いた。


「お前らこそデートだったんだろ? 俺のことは放っておいてくれ。」


そしてまた立ち去ろうとしたから、俺は悠介に近寄ってその肩を掴んだ。


「待てよ。話があんだよ。一緒に飯食おうぜ。」

「・・・・」

「うん、そう、そうだよ。あたしたち二人とも悠介に話したいことがあるの。ね? 行こ?」


俺たちは行き先を変更して、個室のある居酒屋へ向かった。








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2019.04.16




3人で居酒屋の座敷の個室に入り、注文した酒と料理が運ばれてきた。


「おつかれー」

「おう」

「…ああ」


4人掛けの掘りごたつ式の座卓に俺とつくしが隣り合って座って、目の前に悠介がいた。
掲げるだけの乾杯をして飲み始めて、俺もつくしもどこから何から話していいのか思案してた。
そしたら悠介が口を開いた。


「やっぱ俺、お邪魔だよな。これ飲んだら帰るから。」


俺とつくしは目を見合わせて、俺から先に話すことを通じ合わせた。


「あのさ悠介、俺たち、付き合ってないんだわ。嘘ついててごめん。」


俯き加減だった悠介は顔を上げた。


「は?」

「俺とつくし、最初から友達なんだよ。」


つくしもコクコクと頷いてる。
そんなつくしと俺を見比べるように悠介がキョロキョロとした。


「お前がさ、前に言ったろ。「牧野つくしって良いよな」って。それで興味出てさ、探したんだよ。お前が好きになる女ってどんなかな? って。そしたらこいつ地味だし、勉強とバイトしかしてねーし、ますますわかんなくなって、何度も会いに行ってるうちに周囲から彼女だってことにされててさ。後に引けなくなっちまって・・・。嘘ついててごめん。」


俺は座ったまま頭を下げた。
こいつの好きな女、横取りしたようなもんだもんな。


「…マジかよ…」

「うん! マジマジ。あたしも友達だとしか思ったことないし。でも順だけが悪いんじゃないから。あたしも悠介にわざわざ本当のこと言う必要ないかなって思っちゃったから、だから怒るならあたしにも怒ってよね。」


つくしは、マジでお人好しだった。
全ての元凶は俺なのに、本当なら悠介と一緒に俺に怒っていい立場なのに、俺と一緒に怒られてくれるって、お人好しが過ぎるだろ。

俺たちの告白を聞いた悠介はしばらく固まってたが、おもむろにグラスを置いた。


「・・・・・つくしがF4の道明寺司の彼女だったことは知ってた。」

「えっ!!」

「F4…道明寺って、道明寺ってF4なのかよ? それでお前はこの前「F4って知ってるか」って俺に聞いたのか?」

「ああ、そうだ。順がつくしの彼氏としてつくしのことをどれほど理解してるのかわからなかったから。」

「お前は、どこまで知ってんだ?」


俺もつくしも固唾を飲んだ。


「きっと、全部知ってる。俺は中学の時からF4のファンだったんだ。」

「ファン…て…」


待て、F4って男ばっかだよな?
男の集団のファンだったのか?
ストレートでもそういうことあるんだな。
女が宝塚好きみたいなもんか?
ああ、あれか、オッサンどもが矢沢永吉好きみたいなもんか。
違うか??


「と言っても時々掲載される雑誌を見るくらいだった。あれは俺が高2の時だ。つくしも高2。道明寺司とつくしの記事が世間を騒がせたことあったろ。天草清之介とバトルになったって。あの時だ、つくしのことを初めて知ったのは。」

「ああ、そんなこともあったっけ…」

「F4のリーダー、ひいては英徳学園の王で日本で一二を争う財閥の御曹司。そんな男が惚れる女ってどんなかと思ったら、とんでもない貧乏長屋に住んでてさ。シンデレラガールって騒がれたよな。」

「あー、忘れもしないわ。あの時は本当に迷惑だった。」

「そしたらつくしがティーン・オブ・ジャパンに出てきてびっくりした。」

「お前、ティーン・オブ・ジャパンまで見てたのかよ。」

「あたしの黒歴史だから忘れて欲しいんだけど。」

「・・・・んで、準優勝してさ。二人は順調なのかと思ってた。そしたら道明寺さんが拉致られたって騒動になって、それからのことは知らなかった。学部のヤツが話してるのを聞くまでは。」


“ あの貧乏女さ、道明寺さんに忘れられて棄てられてやんの。身の程知らずだったんだよな。 ”


「んだよ、それっ!」

「順、いいから。」

「同じ大学にいるとは知らなかった。俺も興味が出てつくしのことをちょくちょく見に行った。学祭で初めて会ったってのは嘘。その前から知ってた。」


やっぱり悠介はつくしが好きだったんだ。


「噂通りの、金持ち男に媚びを売る女なのか? そんな女にあの道明寺司が惚れるか? と思いながら探したら、つくしは誰よりも地味で、誰よりも勉強してて、誰よりも一生懸命生きてた。」

「フッ、他にすることがないだけだよ。買いかぶりすぎ。」

「紹介された時、順の彼女がつくしで驚いた。お前はまだ道明寺さんを想ってると思ってたから。いや、そう思いたかった。もしかして忘れるために順を利用してんのかとも思った。」

「悠介、こいつは、」

「順、待って。」


身を乗り出した俺をつくしが制した。


「想ってるよ。今でも好きだよ。だから順と友達になった。順ならあたしを女として見ないと思ったから。」


悠介がつくしのあの強い光の宿る瞳を見た。
二人は見つめ合った。
俺は見てられなくて顔を背けた。


「じゃ、俺とも友達になれるね。」

「ん。」


つくしの穏やかな声が聞こえた。
きっとニッコリと微笑んでんだろう。

悠介はつくしを諦めるつもりだ。
好きなヤツを諦めることなんてできるのか?

俺は顔を背けた先にあった壁紙の模様を目でなぞりながら思った。










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2019.04.17