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11月上旬 VOGA本社 リリーのオフィス


次号の表紙にする写真を選んでいる。

『ねえ、エマ、今度「VOGA Japan」でセルフポートレートをやらない?』

相変わらず唐突なリリーからの提案にエマはいじっていたカメラを落としそうになった。

『セルフポートレート!?私が?』
『そうよ。そんなに驚く?クスッ』
『だって、あれは知名度のある人がやるか、一般人が完全に自分のためにするものでしょう?どっちも私には当てはまらないわ。』
『あなた、やっぱり鈍感ね。あなたの名前、もう知名度があるわよ。』
『そんな・・・』
『アデライードもあなたの仕事に満足してたわ。ホットな彼氏がいなきゃ、ずっとパリに引き止めてたって。ね、やってみない?』
『でもなんで日本なの?』
『あっちでは若い子の間で流行ってるのよ。それにあなた日系でしょ?より身近に感じるからってオファーが来たのよ。』
『はあ・・・ピンとこないわ。』
『ウフフ、飛び込んでみなさい。より顔を売るチャンスよ。』
『・・・そうね。わかったわ。やるわ。』
『よかった。撮影は来週。エステでも行く?』
『エ、エステ!?ヌードの指定じゃないんでしょ!?』
『違うけど、でもそれでもいいんじゃない?あなた女として魅力が増したから。恋人のお陰かしらね。』

エマは真っ赤になってうつむいた。

『ほら、ここにも愛の証が』

リリーがエマのデコルテを指でなぞる。
そこには司に付けられたキスマークがあった。

『もう!からかわないで!』
『あら、からかってないわ。愛されれば愛されるほどに女として成熟できるものよ。あなたも愛を知ったんだから成熟する刻よ。とにかく、どう自分を演出するか考えて。』
『…わかったわ。』



*****



『おかえり!』

司が帰るとエマが出迎えた。

『ただいま』

ただいまのキスは、もうチークキスではない。

『ちょっと!』

司はすぐにエマを抱き上げた。

『風呂に入るぞ』
『なんで私まで?!』
『俺が入るんだから、お前も入るんだ。』
『私はもう浴びたわ!』

エマは抱き上げられたまま、司の部屋のバスルームに連れていかれた。




『セルフポートレート?』

司とのバスタイムは報告会も兼ねている。
体を洗いっこして睦み合った後は、泡の張ったバスに浸かって今日あったことを報告し合う。
司はすぐに後ろに回って抱きしめようとするが、それをされるとまた始まってしまう。
エマは後ろを取られないように司とは向かい合って浸かった。

『そうなの。「VOGA Japan」の企画でね、私にオファーがあったって。企画はJapanだけど、世界中のVOGAの誌面に載るからもっと知名度を上げるチャンスだって。是非やってみろってリリーが。最初は驚いたけど、面白い試みだし、日本は私のルーツかもしれないでしょ?引き受けたわ。』

司の顔色が変わった。

世界だと?
エマの顔が、いや、牧野の顔が世界中で晒されるというのか?
気づかれないわけがない。

『それでね、撮影は来週なのよ。まだどんな演出にするか決めてないんだけど、でも今夜からキスマークは禁止ね。』
『あ?ヌードでも撮るのか?』
『アートよ、アート。可能性は否定しないわ。』
『そんなもん、俺が許すわけねーだろ!』

そう言って司はザッと泡を掻き分けエマを抱き寄せると、その肩にキスマークをつけた。

『ちょっと!ダメだって。やめて!』
『やめねぇ。服なんて一枚も脱げないようにしてやる。』

司は次々とエマにキスマークをつけていった。




*****




コンコン


『どうぞ』
『リリー、Mr.道明寺がお越しです。』
『お招きして』
『Mr.道明寺、こちらです。』


2日後、司はリリー・フォールのオフィスにいた。
エマのセルフポートレートをやめさせるために。


『はじめまして、道明寺司です。司と呼んでください。』

司は右手を差し出した。

通常なら司から握手を求めることなどない。
だが相手はVOGAのリリー・フォールだ。
彼女の一言でファッション界から消えた人間は枚挙に暇がない。
ファッションに関係しない業界の人間でも、彼女に“ ダサい ”の烙印を押されれば社交界からは消える運命だ。
そのリリーがエマを気に入っているということは、それだけでエマのカメラマンとしての将来は約束されたも同然だった。
司の言動でエマがリリーの不興を買えば、エマはもうファッションカメラマンとしては終わりだった。


オート・クチュールに身を包んだリリーが司の手を取り、握手をする。
まずは第1段階クリアだ。

『あなたがエマのホットな恋人ね。お会いできて光栄だわ。リリーよ。』

白で統一されたオフィスには、ル・ゴルビジェのソファセットが置かれている。
リリーに促され、そのひとつに腰をかけ、長い脚を組んだ。

『エマの恋の扉を開けたのはどんな男だって、話題になってるのよ。』
『光栄ですね。』

リリーは値踏みするように目を眇めて司を見た。

『噂通りね。』
『どんな噂ですか?』
『5番街の氷の貴公子。それともアンドロイドかしら? 』
『私の氷もエマの前では役立たずですがね。』
『言うわね。あの子がそんなにいい? 』
『彼女しかいらない。』
『あの肌に舌を這わせたい男はたくさんいるのよ。後ろから撃たれないようにするのね。』
『ご忠告、ありがとうございます。』

リリーがフと笑みをこぼす。
これは、とりあえず今日は無事に帰れる合図だ。


『それで、その氷の貴公子が私に何の用かしら。』
『エマのセルフポートレートをやめさせたい。』
『・・・なぜ? 』
『彼女はいずれ私と結婚し道明寺グループCEO夫人となる女性です。でもまだ顔を世間に知られるには早い。守りきれません。』
『ふーん、それがオモテの理由ね。ウラの理由も聞かせてもらえるのかしら? 』
『フッ、リリーに建前は通用しませんか。』
『事と次第によるわね。』
『実は、私は嫉妬深い男でして。これ以上、彼女を他人に見せたくないんです。箱に閉じ込めておきたいくらいなのに、全世界に公開するなど、気が狂いそうだ。』

司は、長年、多くの美麗なモデルたちを見てきたリリーでさえ見たこともない最上の美貌を欲望に染め、リリーを睥睨した。

『どうやらアンドロイドではなさそうね。あなたが人間臭くて安心したわ。あなただったら、ファッションの世界でも頂点に立てるのに。惜しいわね。』
『興味ありません。』
『そうね、私は今年のクリスマス休暇にスペインに行こうと思ってるの。どこかいい場所、ご存知?』

今度はリリーが司を睥睨する番だ。
司はフッと口元を緩めて言った。

『…うちのリゾートホテルがマヨルカ島にあります。あなたのためならそこのスイートをいつでもご用意させましょう。』
『…エマには別の企画を用意するわ。それにしても、恋人のキャリアを邪魔する男なんて最低ね。』

リリーはニヤリと笑みを見せた。








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2018.12.01





『っはぁぁ〜〜』
『どうした?』

いつものバスタイム。

今日はなんだか元気が出なくて、ノリ気じゃなかった。
そしたらツカサに『真面目にヤれ!』って言われた。
なによ!真面目にヤるって、ナニをどうすることよ!?

『っはぁぁ〜〜』
『だから、どうしたんだ?』
『セルフポートレートがなくなっちゃった。』
『ふーん。』
『あーあ、いろいろ考えてたんだけどなぁ。』
『いろいろって例えば? 』
『そうだなぁ、オールヌードとか、顔のドアップとか、カナダの雪山に女を捨てた人、求む!とか。』
『…おい』
『やりたかったなぁ』

泡から目だけを出し、ブクブクと拗ねている。

「プッ可愛いヤツ」
『あ!いま“ kawaii ”って言った?それって“ 可愛い ”って意味だよね?』
『知ってるのか?』
『うん、“ kawaii ”は有名な日本語。ねぇねぇ、もっと日本語教えて!』
『何を知りたい?』
『そうね、じゃ、バスは? 』
『「ふろ」だな』
『 “ huro ” ? 』
『ああ』
『じゃ、泡は?』
「あわ」
『じゃあねぇ、』


牧野に日本語を教えてるなんて変な感じだな。
昔は俺の方が牧野に日本語を訂正されてたのに。


『 “ makino ” は英語でなんて意味なの?』
『!』
『ツカサもルイも私に初めて会った時に言ってたよね? “ makino ” って。どういう意味なの? 美人だねーとか? いい女だなーとか? 』


エマは無邪気な顔をしている。
司はどう取り繕おうか、懸命に頭を回転させていた


『んなわけねーだろ。誰のことだよ、いい女って。』
『ツカサが惚れてる女よ!』

と言ってエマは泡を飛ばした。
そのまま2人はじゃれ合って、バスルームを出た。




*****






ビュォォォ―――――

    ビュォォォォォ―――――――――

  ビュォォォォ――――――――




ここは、あの雪山だ。
誰かが呼んでる・・・?


「・・・寒い。寒いよ。道明寺」
「牧野!」


振り向くと、雪の上であの日の牧野がうずくまっている。
近づこうと走る。
でもその距離は縮まらない。
牧野が真っ白な顔を上げた。


「あんたはいいね。エマと幸せになれて。」
「牧野、違う! お前を探したんだ! 」
「嘘。あたしなんて見つかって欲しくないんでしょ? 帰ってきてほしくないんでしょ? 」
「そうじゃない! 牧野! 」
「・・・いいよ、もう。あたしは永遠にここにいるよ。この寒い雪山に。あんたの望み通りに・・・」


つくしが去っていく
真っ暗な雪原へ


「道明寺、さよなら・・・」
「牧野! 牧野―――――!!!」











「牧野!!!」

司はペントハウスの自分のベッドで目覚めた。
腕を天井に向けて伸ばしている。
汗をかいて、髪の癖が緩くなっている。
その額に細い手が伸びた。

『ツカサ? 大丈夫? 』
『・・・エマ』
『すごくうなされてたよ? 酷い夢だったの? 』

隣にいるのは牧野つくしの顔をしたエマ・ホワイトだ。

顔をした?
牧野じゃないのか?
エマって誰だ?


途端に司は泣きたいような感情に襲われて、エマを強く抱き寄せた。

『ちょ、ちょっと、』
「愛してる。ずっとずっと好きだった。お前だけをずっと。」
『???ツカサ?なんて言ったの?』
『…愛してる』
『う、うん。私もだよ。』


エマは子供のように縋り付く司の背中をトントンと撫でた。








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2018.12.02




エマは違和感を覚えていた。


何かがおかしい。

“ makino ”

昨夜もツカサが叫んだ言葉だ。
どんな意味なんだろう。


オフだったエマは図書館に行った。
Japanese–English Dictionary
つまり、和英辞書で “ makino ” を調べた。

ない

図書館で一番大きな和英辞典を取り出した。

ない

辞書にない?
ということは、人名?


“ あなたが私の古い友人にあまりにも似ていたので驚いてしまって。 ”


ルイの言葉。
私が彼の古い友人に似てるって・・・


“「大切な」友人だったんでしょ? ”
“ 古い話だ ”


エマの表情が歪んだ。
エマはある疑念をもって類をコールした。


RRRR. RRRR. RRRR. RRRR. ......


出ない。そっか時差がプラス6時間だから、今パリは夕方の4時だわ。
ガッツリ仕事してるわよね。


ビクッ!


RRRR. RRRR. RRRR. .....


エマの携帯が鳴った。
相手は類だった。


『Hello』
《エマ?ごめん。どうしたの?》
『いえ、私こそごめんなさい。いま仕事中でしょ?また掛け直すわ。』
《いや、大丈夫だ、もうオフィスに戻ったから。いまは誰もいない。話して。》
『うん、あのね、聞きたいことがあって。』
《司のこと?》
『そうだけど、そうじゃないっていうか。』
《プッ、どうしたのさ?》
『あのね、正直に答えてね。私に気を遣わないで。』
《・・・何があったの?》

エマはためらわないで言おうと思った。
探らずにズバッと聞こうと思った。

『ツカサが愛してた人ってMiss マキノ?』

類がハッと息を呑むのがわかった。
疑念が確信に変わった。

《・・・・・司が何か話した?》
『いいえ。でもそうなんでしょ?』
《…そうだよ。》
『私がそのMiss マキノに似てるのね。』
《・・・・・・》

類は、迷った。

なんと答えるのがベストなのだろう?
いや、ベストもなにもない。だって本人なんだから。
“ 似てるんじゃない、君だよ。 ”
それしか言うべきベストはない。
だとしたら、ベターは?

迷っている間にエマがまた話し始めた。

『Miss マキノはどうしたの? いなくなったってツカサは言ってたけど。』
《…ああ、行方不明になったんだ。》
『行方不明……』
《…エマ? エマ! 大丈夫か? 》
『ええ、大丈夫。わかったわ。教えてくれてありがとう。』
《エマ、司を信じるんだ。何があっても司は君を愛してる。》
『わかってる。ありがとう、ルイ』








エマは自分の世界がバラバラと剥がれ落ちていくような感覚を味わった。

自分はツカサがかつて愛した、いや、今でも愛している女性に似ている。
しかもツカサもルイも自分を見て驚きで動きを止めるほどに。


身代わり?


実らなかった恋を私で満たしているの?
私の向こうにMiss マキノを見ながら?
私を抱きながら、心は別の女を抱いている?

瞬間的にエマは強い嫌悪感に襲われた。

いや!そんな!
愛されてない
私を愛してるんじゃない
私の姿を愛してるだけ
似ているから
彼女に

Miss マキノに!!




顔面蒼白になりながら、エマは部屋に戻った。
まだ時刻は昼を過ぎたところで、部屋の窓からは紅葉が見頃になった11月中旬のセントラルパークが見渡せた。

『うっ…うう…ぅ〜』

涙が伝う。

あの温かな手も、あの微笑みも、あの優しさも、全部、最初から私のものじゃなかった
身代わりに授けられただけだった
心は彼女のもの
心がなければ、肉体なんて器に過ぎない
私が欲しいのはツカサの心
心からの愛だけ



あとからあとから、拭っても拭っても涙の雨は止まなかった。








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2018.12.03




司の元にエマのSPから連絡が来たのは15時を過ぎたころだった。
NYはあと1時間ほどで日没だ。


『どうした? 』
《エマ様が大きな荷物を持ってマンションを出られました。》
『荷物? 』
《はい。ご旅行でも行かれるような大きなトランクです。》
『旅行の予定なんてなかったはずだ。それで、どこに向かってる? 』
《空港です。》
『空港だと!? 』
《はい。ラ・ガーディアです。》
『わかった。すぐに向かう。引止めろ。』
《かしこまりました。》


どういうことだ?
旅行なんて聞いてねぇぞ
それとも仕事か?
だとしても俺に黙ってなんておかしい


その時、司の携帯がまた鳴った。
画面表示は類だ。

「チッ」

こんな時になんだよ


「類、後にしてくれ。」
〈エマに何かあったのか? 〉
「…なぜ知ってる? 」
〈司、エマは気づいた。牧野に。〉
「!」
〈昼間、エマから連絡が来て「Miss マキノは司が愛してた人か? 」って。〉
「それで、何て答えた? 」
〈「そうだよ。」って答えた。それ以上のことは言ってない。〉
「わかった。」
〈司、〉
「なんだ? 」
〈時が来た。わかってるだろ? 〉
「…ああ。」
〈牧野をよろしく。〉
「・・・・・」


そのまま通話は切られた。


牧野つくしと対峙する時が来た。
司はついに来たその時に慄いた。




*****




ついひと月前、ここにエマを追いかけた。
自分には決して手に入らないと思っていた愛を手に入れて、燃えるような心でただ一人の女を追いかけた。

そして今、俺は恐怖に打ち震えながら、やっぱりただ一人の女を追っている。

牧野、俺たちはなんて遠くまで来ちまったんだろうな
俺たちがまだ高校生で、2人ともガキで
顔を合わせれば喧嘩して、そして時々は笑い合って、単純にお前のことだけを考えていたあの頃が懐かしい

でも俺は、あの時に戻りたいとは思わない
お前がエマとなって俺を愛してくれている今が、最高に幸せだから

また言われちまうな

“ あんたそれでも男なの? やることが卑劣なんだよ! ”

フッ、ああ、俺は卑劣な男だ
何があってもエマを手放すわけにはいかない
悪いな牧野
エマは俺のもんだ








エマはSPの巧みな作戦によって手荷物カウンターで足止めを食らっていた。

『だから、どうしてダメなのよ! 』
『何度も申し上げておりますが、こちらはお預かりできません。』
『いや、だから理由を聞いているの! 』
『申し訳ありません。業務上の機密で申し上げられません。』
『はぁ!? 機密? 私の手荷物が機密!? 』

エマは自分が何処かの国のスパイとでも勘違いされているんじゃないだろうかと困惑した。


早く、早く出て行きたいのに
ツカサのいるNYにもう一刻もいたくないのに
ケベックに帰るんだ
ジェフのところに
そしてもう2度と恋なんてしない


『エマ!』

エマは弾かれたように振り返った。

『ツカサ、なんで・・・』

司が自分を睨みながら歩いて近づいてくる。

『いや、いや!来ないで!』

手荷物カウンターに背を押しつけるようにジリジリと後ずさりするが、逃げ場がない。

『エマ、帰るぞ。』
『帰らない。あそこへはもう帰らない。』

司はこのままでエマが話せる状態ではないと判断し、エマの腕を掴んで引き寄せると、軽々と肩に担いだ。
そして踵を返して空港を出ようと歩き出した。
エマの荷物は司に従っていたSPが持った。

『ちょっと!下ろしてよ!下ろしなさい!!』

興奮状態の牧野つくしに何を言っても無駄なことは経験済みだ。
司は無言でリムジンに乗り込んだ。



ドサッ

『痛っ』
『大丈夫か? 』
『大丈夫か? あなたこそ頭は大丈夫なの? こんなことしてポリスが黙ってないわよ? 面前で誘拐なんて! 今頃、通報されてるわ。』
『ああ、そっちは問題ない。』

平然と話す司に、NYのアッパーがどんな人種か知っているエマは怒りをこめて司を見た。

『ねえ、なんで追いかけてきたの? 女一人いなくなったってあなたには痛くも痒くもないでしょ? 身代わりなんていくらでもいるじゃない。』

自嘲がこもっていた。


なぜ今まで考えなかったのか
私なんかが道明寺司の恋人だなんて、チャンチャラおかしいってことに
この人はこのNYの貴公子で、社交界の華で、世界一美しい人で
その上、あの道明寺に君臨する一族のプリンス

釣り合うと思ってたの? エマ
本気だと?


『お前の身代わりなんていない。』
『ハッ!そうよね。私自身が身代わりだものね。Missマキノの! 』
『・・・それも違う。』
『違わないわ。なぜ嘘をつくの? もうわかってる。あなたが愛してるのは昔も今もMiss マキノだけ。私は似てるから身代わりにされただけ。単純だわ。下ろして。』
『ああ、俺は今も牧野を愛してる。だからお前を愛してる。』

リムジンの対面に座った司の目は爛々とこちらを見ている。
怒りではない、悲しみでもない、得体の知れない不安をたたえていた

『バカにしないで! 彼女を愛してるから身代わりのお前も愛してるって? 酷いことを平気で言うのね。信じられないわ。』

エマは呆れ返った。


こんな男だったとは
酷すぎてなんだか力が抜けてきた
もうどうでもいい 
なにもかもどうでも
今日はケベックに帰れないかもしれない
ま、いいか、明日もあさってもチャンスはある


エマはリムジンの背にもたれ、脚を組み、腕も組み、視線を車窓に向けた。
冬に入ろうとするマンハッタンに日没が訪れていた。
ビル群で夕陽を見ることはできない。
そこにある燃えるような太陽を感じられるのは、空に浮かぶ雲に映し出される光に目を向けた時だけだった。

『お前は身代わりじゃない。』
『まだ言うの? あー、はいはい、わかりましたっ。バカバカしい。話すだけ無駄だわ。』
『・・・・お前が牧野なんだ。』


・・・・・・


司の言った言葉を聞き取って理解するのに数秒を要した。
エマは緩慢な動きで首を司に向けた。

『…今なんて言ったの? 』

『エマ、お前自身が牧野なんだ。9年前に行方不明になった牧野は、お前だ。』








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2018.12.04




司とエマはペントハウスに戻った。
リムジンの中の告白を聞いて、呆けてしまったエマを司が抱き上げ、そのまま部屋へ入った。
リビングのソファに下ろして、水を差し出す。
エマの前にひざまづいて目線を合わせた。

『大丈夫か? 』

司はエマの前髪を梳きながらまた聞いた。
やっと我に返ったエマは口を開いた。

『ちょっと待って。意味がわからない。私が誰だって? 』

司を見ているようで、見ていない。
司を通り抜けて壁を見ている。

『お前の本当の名前は、牧野つくし。そして本当の年齢は26歳だ。日本人で、高校生だった。』
『ツクシ・・・? 』

エマは司の言葉が半分も理解できなかった。


Miss マキノが私?
ツカサがずっと愛してた女性は私だった?


エマは眉間にしわを寄せ、首を傾げて司を見た。

『日本人? でも日本語、わからないわよ? 』
『それも記憶喪失のせいだ。日本語も話せたし、箸だって使ってた。お前は日本人なんだ。』
『……い、意味がわからないわ。理解不能な言語を9年前には理解してたって? 高校生? 日本の? 』
『ああ、そうだ。』
『でも私が見つかったのはカナダの雪山よ!? 日本の高校生がどうしてカナダにっ・・・!! 』

そこまで言って、エマはハッとして司の顔をマジマジと見た。
その目には涙が浮かび始めている。

『・・・カナダの道明寺の土地だって・・・ツカサ、知ってた。知ってたのよね? いつから? 最初から? 最初から知ってて、言わなかった・・? 』

信じられないものを見る目つきで、エマは司を見た。
司はエマの怒りと悲しみを正面から受け止めなければならないと覚悟を決めたが、それでも恐怖を感じてたじろいだ。
何に対する恐怖だろうか。
それはエマを失う恐怖だった。

『エマ・・・』

司は自身も苦痛に顔を歪めながら、エマの頬に手を伸ばした。

『いやっ!!』

持っていたグラスを司に投げつけ、エマはソファの背を飛び越え、司と対峙した。

『なんなの? 人の人生をなんだと思ってるの? 私がどんなに苦しんでたか、知ってたでしょ? 知らなかった? 』
『…知ってたよ。』
『……いいえ、知らなかったわ。わかるわけないわ。自分を失ってる人間の苦しみなんて、あなたなんかにわかるわけないのよっ!!! 』

エマは駆け出した。
リビングの続きはダイニング、その先には間仕切られたキッチンがあった。

『エマッ!』

エマは咄嗟にそこにあったナイフを取り出した。

『エマ・・・』

司はそっと立ち上がり、エマに近づこうとソファを周り、一歩踏み出した。

『バカにしてた? 遊んでやろうと思ったの? 』
『ちがうっ! 落ち着け、ナイフを置いて、エマ! 』
『落ち着け? 面白いこと言うわね。今更落ち着け? バカじゃないの? 私がMiss マキノ? あなたが愛してた? 』
『そうだ。ずっと愛してた。だから見つけた時に、友達になった。』
『…そんなに愛してたなら、あなたからMiss マキノを奪ったら面白いことになりそうね。』

そう言うとエマは自分の首筋にナイフの刃先を当てがった。

『やめろっ!! 』

司は目を見開いて顔を歪めている。
血の気が引いて真っ青だ。

『あなたのそんな顔が見られて嬉しいわ。なぜ私はあの雪山にいたの? 知ってるんでしょ? 』
『…うちの別荘に来てたんだ。友達もいっしょに。…牧野の友達が吹雪の中、ナイタースキーに行ったかもしれないって、それで別荘を飛び出して探しに行ってしまったんだ。俺たちは牧野を捜したが、見つからなかった。』
『それで、その友達は? 』
『別荘にいた。』
『無事だった? 』
『…ああ。』
『なんで会って最初に言わなかったの? 』
『それは・・・』
『言わないなら、死ぬわ。』

エマがグッとナイフに力を込める。

『話す。話すから、ナイフを置け。』
『あなたの指図は受けない。私に指図しないで!! 』

エマはさらにナイフを押し付けた。
血潮が一筋の涙のようにエマの白い首筋に流れる。

『わかった。・・・・あの撮影の日、驚いた。死んだと思ってたから。それで記憶喪失だとわかって、しかも日本語も何もかも忘れていることにも驚いた。牧野だったころの何もかも、一欠片も覚えていないことに驚いた。』

司はエマから目を離さずに話を続けた。

『俺たちは同じ高校に通ってた。俺は牧野が好きだったが、牧野は違った。お前が好きだったのは類だ。だからこれはチャンスだと思った。すべてを忘れたお前に自分を愛してもらうチャンスだと。』
『ルイ? 私はルイが好きだったの? 』
『…そうだ。だから出会わせないようにした。パリの仕事をキャンセルに持ち込んだのは俺だ。ガブリエラの仕事に代えた。パリに行って類に出会えば、お前はまた類に惚れると思ったから。』

男としてのプライドを投げ打って、司は心の内をさらけ出した。

『愛して欲しかった。今度こそ俺を。だから明かさなかった。明かせば、お前は俺を愛さない。ただ、愛して欲しかっただけだ。』

泣きたいのは自分なのに、なのに司が泣いているような気がして、エマはたまらなかった。

『愛したじゃない! 愛したのに、なぜよ!! 』


ガシャン


ナイフは下ろされ、緩んだ手から滑り落ちた。
そのままエマは床に崩折れた。
すかさず司が駆け寄り、エマを抱き止める。

『エマ、エマ、すまなかった。愛してる。』
『…ツカサ………』


エマはそのまま意識を失った。








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2018.12.05




【不慣れすぎて何度も終了しちゃいます。再々掲です。すみません】



突然ですが、クリスマス短編のリクエストを募集します。
「マンハッタン・ラプソディ」の連載は休まずに更新しますが、nonaサンタからも日頃の感謝を込めて何かお届けできればと思っています。

そこで、アンケートを取らせてください。




☆ Music Collaboration 「トリセツ」(クリスマスに関係ないです^^;)

☆ マンハッタン・ラプソディ - 恋 - 最終話直後の2人

☆ その他。お題をリクエストしてください。(50文字以内) 




*お一人様、1回までです。ご注意ください。








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2018.12.06




エマは司のベッドで眠っている。
司は医師を呼びエマの傷の手当てをさせた。

司はベッドの端に腰掛けてエマの額を撫でながら、この期に及んでまだ自分が覆い隠している真実がある罪悪感を振り払った。


今さら罪悪感を抱くような偽善者になってなんになる
エマには伝える必要がないことだ
記憶が戻らなきゃ永遠に露呈することはない
エマはこのまま、俺のそばで生きていく
クリスマスにはプロポーズをして、年明け俺の誕生日に婚約を発表し、そして結婚する
このまま、このまま

あと少しでエマも牧野も俺のものに!



『う、ん、』
『エマ?』

エマがゆっくりと目を開けた。
司を確認する。

『エマ、大丈夫か?』
『…クスッ、ツカサ、それ聞くの今日何度目? 』
『ごめん。』
『もういいよ。怒るのは疲れた。首も痛いし。それに誰かのせいで遭難したんじゃないってわかってよかった。自分がバカなせいだった。人を憎むことをやめられるわ。』

結局、つくしのお人好しに一番救われているのは司だ。

『・・・・・これから俺は何て呼べばいい?』
『これまで通り、エマって呼んで。ツクシ…だっけ?そう呼ばれても自分のことだと思えない。・・・それに、ツカサはツクシとは呼んでなかったんでしょ?』
『ああ、ファミリーネームで呼んでた。「牧野」って。』
『・・ねぇ、私たちは高校で出会ったのよね? 高校でも友達だった? 』

司は迷った。
つくしと友達だったことはない。
結局、なんだったのか、自分でも答えは出なかった。

『・・・・そうだな。友達だったよ。』
『9年後に再会して、また友達から始めた? 』
『ああ・・・』
『私はツカサをなんて呼んでた? 』
『お前も俺のことはファミリーネームで呼んでた。』
『ファミリーネーム・・・』

エマはベッドに起き上がった。
そして当時と変わらない大きな瞳で司を見つめると、おもむろにその名を呼んだ。

「・・・ドウミョウジ」

!!

司は目の前の女を見た。
女の澄んだ双眸が不安げにこちらを見ている。

「ドウミョウジ……?」

司は女に近づくと吸い寄せられるようにその瞳を覗き込んだ。
互いの視線が絡む。
司は女の顎に指を添え、そっとキスをした。
一度  二度  三度目は深く。
司は女を抱きしめた。
女もまた白い腕を出して司を抱きしめた。


女を抱きしめながら、司は自分の罪深さを心の奥底へ閉じ込めた。
そして女から伝わる温もりが、凍りついていた全身の血流を再び溶かし始めるのを感じた。

『愛してる。』

それは、牧野つくしに言ったのか、エマ・ホワイトに言ったのか。

司にもわからなかった。




*****




2人はダイニングでメイドの作った夜食を食べている。
エマは若い単身のニューヨーカーらしく、ほとんど料理はしなかった

『ね、ツカサ?』
『ん?』
『私のパパとママって日本にいるの?』
『…ああ。エマには弟もいるぞ。』
『弟!? 私に弟がいるの? 』
『ああ。会いたいか? 』
『・・・会いたい・・かなぁ。』
『どうした? 会いたくないのか? 』
『会っても話せない。』
『・・・・』
『私のことは死んだと思ってるの? 』
『そうだ。』

つくしの父と母は、つくしが雪山で遭難し、帰ってこなかった段になって初めて、英徳での経緯を知った。
英徳に進学させたことを後悔し、司との縁に有頂天になっていた自分たちを恥じた。
浅井家、鮎原家、山野家からそれぞれ1億、計3億の慰謝料が支払われたが、娘の命を売り渡したようで、かつての軽薄さはなかった。

『じゃあ、生きてることを知らせた方がいいよね? 』
『そうかもしれないな。エマはどうしたいんだ? 』
『会いたいけど…私はこのままエマ・ホワイトとしてNYで生きていきたい。仕事もあるし、ツカサもいる。パパとママが元気ならそれでいいわ。』

そうは言ってもエマの顔は晴れなかった。



『ツカサ、今夜は自分の部屋で休むわね。…おやすみなさい。』
『…ああ、おやすみ。』






エマはバスルームに入った。
今日、起きたこと何もかもすべて、洗い流してしまえたらどんなにいいだろう。
ツカサが他の女性を愛してると思った。
自分は似てるだけの身代わりだって。
でも、その女性こそが私だった。
ツカサが昔、恋した女が私?
今でも信じられない。


“ 彼女は媚びない女だった。彼女だけが司をひとりの男として認識し、宣戦布告したんだ。 “


ルイの言葉が蘇る。

私がそんな立派な女なの?
大それた女なの?
あのツカサに宣戦布告?
そしてルイに恋してた?
初めての恋じゃなかったんだ


バスルームから出たエマは、自分の部屋のデスクの壁に貼られた写真たちを見た。
そこには司の笑顔の写真と、王子様のような類の写真もあった。
タイプの違う2人の男


昔、愛したのはルイで、今、愛してるのはツカサ
どちらの私が私なの?



エマの苦しみはまだ終わらない。








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2018.12.06




眠れなかったエマは、いつもより早い時間に起きて、ダイニングでコーヒーを淹れていた。
そこに司も起きてきた。


『おはよう』
『眠れたか?』
『・・・あまり。コーヒー飲む?』
『ああ。…仕事は?』

ダイニングに座った司にコーヒーを差し出したエマは、自分も司の対面に座った。
テーブルの上にはメイドが届けた朝食が並んでいる。

『11時にVOGAよ。セルフポートレートがなくなって、別の仕事を受けることになってる。』
『へー、どんな?』
『・・・・・』
『エマ?』
『・・・日本の仕事。セルフポートレートはなくなったけど、「VOGA Japan」の仕事はなくなってないの。トーキョーは世界一のストリートファッション都市だから、ストリートに出て撮影するの。』
『東京…大丈夫か? 』
『いい機会だから、日本を楽しむわ。私の母国でしょ? パパとママに会おうと思う。』
『俺も行こうか? 』
『忙しいでしょ? 大丈夫。来なくていいわ。住所がわかれば教えてほしい。』
『東京はいつから? 』
『10日後。サンクスギビングデイにNYにはいられないわ。ツカサは? ファミリーで集まるの? 』
『うちはそういうことはしない。家族で集まるなんて年に1回あるかないかだ。』
『近くにいるのに、そういう人もいるんだね。』
『……なぁ、本当に大丈夫か? 』

エマは司の問いには答えずに、両手で持ったカップに口を付けて話を続けた。

『・・・ねぇ、私って、あなたとも日本語で話してたの? ルイとも? 』
『ああ、そうだ。』
『英語は? こんなに話してた? 』
『いいや。その時は話せなかった。』

司はTOJのステージ上でイギリスの貴婦人の話を「?」マークで聞くつくしを思い出した。

『フフ、人体の不思議ってやつ? 』
『牧野はもともと頭が良かった。通ってた俺たちの高校はレベルの高い学校だったし、記憶をなくして無になったお前はスポンジが水を吸うように吸収したんだろ。』
『昔の私と今の私、どこか違う? どう違う? 』
『・・・簡単に比べられない。環境が違うし、年齢も違う。日本の高校生とNYのカメラマンだ。何もかも違って当たり前だろ。』

コーヒーに目を落としていたエマは、顔を上げて司を見た。

『…なぜ、私はあなたを最初から愛さなかったの? なぜ、ルイを愛したの? 今の私にとってルイは最高の友達だけど、それ以上にはなり得ないわ。なぜ9年前、10年前か。そのころには彼の方が私に近かったの? 』

エマの目を見つめる
司は答えられない
答えは持っている
でも答えられない

『そんなこと、俺に聞くな。俺だって聞きたいよ。』
『フッ、そうよね。ごめんなさい。』
『類は最高の友達か? 』
『そう。噴水で会った時、前世でも友達だったかもね、なんて話してたけど、もっと近い過去で知っていたのね。…ルイも知ってたのね。』

エマは堪らなくなった。
考えないようにしても、思考はすぐに戻された。

『ごめん。部屋に戻るわ。』

立ち上がり、ダイニングを出ようとした。
エマの前に司が立ちふさがり、エマを抱き寄せた。

『エマ・・・』
『・・・・・うっふうぅ』
『泣いていい。泣いていいほどのことなんだから。』
『うううぅぅ…』

エマは司のシャツを掴み、泣き続けた。


いつまでだ。
いつまで俺は牧野を苦しめれば終わるんだ。
俺がこいつと出会ったことが、こいつの運の尽きだったのかもしれない。
でも、離せない。





しばらくエマは泣いていた。
心の澱を吐き出すように。

エマは司から体を離して見上げた。

『…忙しいのにごめんなさい。』
『そんなこと気にするな。』
『もう行って。私は大丈夫だから。』
『……なぁ、今夜は俺の部屋に戻ってくれるな? 』
『クスッ。寂しかった? 』
『ああ。いっしょにいたいんだ。』
『わかった・・・』

司は不安だった。
たった一晩、寝室を別にしただけでエマとの間に少しずつ、本当に微かにだが少しずつ、冷気が入り込んでくるようで不安だった。
それがかつてのつくしとの関係のように、決定的な隔てになることを恐れた。

『ルイにも話を聞こうと思う。TELしてみるわ。』
『ああ…』

司はもう一度エマを引き寄せ、強く抱きしめ、その艶やかな黒髪に頬を寄せた。

『ツカサ?』
『愛してる。お前だけを愛してる。10年前からずっと。出会った時からずっと。・・・どこにも行くなよ。』
『ありがとう。私もあなたを愛してるわ。エマとして出会ってからずっと。』


“ エマとして出会ってから ”


そうだ、“ エマ ” は愛してくれた。
では “ 牧野 ” は?


正義感に溢れた、強い意志を持つ、生命力ほとばしる女。
俺の魂を震わせた唯一の存在。

俺の腕の中にいるのは牧野だ。
牧野、お前は俺を愛してる。
エマはお前なんだから。




*****




自分の部屋に戻ったエマは、類をコールした。
パリはランチどきだ。


RRRR. RRRR. RR......


《Yes》
『ルイ』
《エマ》
『いま、話していい?』
《ああ、いいよ。》
『昨日はありがとう。』
《あれからどうしたか、心配してたんだ。》
『うん、そうだね。…ツカサになにか聞いた?』
《…いいや。》
『私がMiss マキノだって。ツカサが恋してた女性は私だって。』
《うん。》
『ルイもわかってたんでしょ? 初めて会った時に「makino」って言ってたし。』
《ごめん。》
『ツカサに口止めされてた? 』
《そうじゃないけど、君が受け止められるかわからなくて話せなかった。》
『そっか。』
《ツカサとは?》
『大丈夫。』
《怒ってない?》
『最初は怒ったわよ、もう大騒ぎ。でも愛してくれてるから……ねぇ、私はルイに恋してたんでしょ? ルイも言ってたよね? 彼女は別の男を好きだったって。』
《ああ。》
『昔はルイを愛してたのに、今はツカサを愛してる。どっちの私が本当の私なの? 』
《エマ、君が昔、俺を好きだったのは愛とは違うよ。あれは憧れだったと思う。そういう種類の想いだったと思う。》
『憧れ・・・? 』
《そう。まだ少女だったんだ。牧野は恋をした事がなかった。だから俺が初恋だったけど、でも愛とは違う。君が今、司を愛してるものとは違う、恋だよ。》
『じゃ、私はルイに初恋をして、ツカサには初めての愛だっていうの? 』
《きっとそうだよ。》
『そう…ルイとは前世で友達だったって言ったけど、そんな遠い過去のことじゃなかったのね。』
《ああ、君は俺を変えてくれた人だ。この前言ったよね? 「好きなら追いかけろ」って。あれは牧野が俺に言ってくれた言葉なんだ。「それでも男か」って叱られたよ。》
『私、そんなに強い女じゃないわ。』
《今の君はそうかもしれない。でも君の本質は変わらない。君の中に眠っている牧野は強い女だよ。》
『ツカサはどっちの私を愛してるのか、な? 』
《どっちもなにもないよ。君は君だ。司は牧野の君も、エマの君も全部を愛してるはずだよ。言っただろ? 信じろって。》
『……ええ、そうね。』
《大切なことは司がどうかじゃない。君だ。君はどうしたいんだい? 誰を愛してるんだ? それだけを考えるんだよ。》
『ルイ…いつもありがとう。そしてごめんなさい。』
《なんのごめん?》
『心配かけて。仕事中なのに話してくれて。』
《親友だろ? いつでも歓迎だよ。》


エマは類と話して心を決めた。

過去がどうとか、どっちがどうとか、もう考えるのはやめよう。
私はツカサを愛してる。
だたそれだけが今は真実。




*****




あれからツカサが罪滅ぼしみたいにショッピングに誘ってくれて、服だ、靴だ、ジュエリーだってたくさん買ってくれた。
私が「もういい」て言っても「俺の金だ。好きに使う。」って止まらないし。
まあ、もちろんサンクスギビングマンスなのもあって、町中がセールだったけど、でもツカサが入るお店はセールなんて無縁なメゾンばかり。
ニット1枚で、私の普段着なら何枚買える!?
ツカサがあれもこれもって勧めてくるから、店員さんも調子に乗っちゃって。
そりゃそうよね、あんな上客、ほくほくしちゃうでしょうね。

だから私の部屋のクローゼットは冬物でいっぱい。
そしたらLAのツバキさんからもたくさんの品が届いて、隣の部屋のクローゼットまで埋まることになった。
この姉弟なんなの!?

ツバキさんからのプレゼントにはメッセージカードが挟まってた。

“ エマちゃん、自分がつくしちゃんだって知ったんでしょう?でもあなたはエマでもつくしでもどっちでもとびきりステキな女の子だから心配しないで。“

みんな知ってたんだ。

もう考えるのはやめよう。
今はエマ・ホワイトとして生きてる。
たくさんの人に支えられて、愛されて、幸せ。
それで十分。

さあ、仕事仕事!!








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2018.12.07




皆様、こんばんは!


昨日は右往左往する投票におつきあいいただき、ありがとうございました!!
投票が終わり、結果が出ましたのでここで発表させていただきます。


総投票数  191



1位 マンハッタン・ラプソディ - 恋 - 最終話直後の2人 …157票

2位 Music Collaboration 「トリセツ」 …23票

3位 その他 …11票


というわけで、nonaサンタがお届けするのは

「マンハッタン・ラプソディ 恋 +LOVE (仮題)」

です。
すっごい後出しで申し訳ないんですが、Rです。すみません><
(Rだったら投票を取り下げたいという方がいらっしゃいましたらコメントください)

24日の深夜に更新したいと思います。
パス制です。

(その前に− 愛 −でRの回(パス制)がきますけど。)

あー、ひとつお断りしておきたいのですが、マジでRは下手だと思います。
他のブログ主さんみたいな甘々なRにはならないかも…と、予防線…

期待はずれだったらごめんなさいっ
先に謝っときます。
(逆に満足いただけたら拍手おねがいします!!)

Music Collaboration「トリセツ」はマンハッタン・ラプソディが終わったらアップしようかな。

その他でいただいたネタも今後、できるだけ実現していけたらと思っています。


ご協力くださった皆様、誠にありがとうございました!!!





                  nona









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2018.12.07




11月下旬、エマは1週間の東京出張に出かけることになっていた。

2人はまた仲睦まじい恋人関係に戻っている。




夜、エマは冬用のモコモコした素材のパーカーとショートパンツのルームウェアを着て、リビングのソファでPCを操る司の膝を枕代わりに寝そべり、日本のガイドブックを開いている。
あちこちのページをドッグイヤーにして、熱心に読み込んでいた。


『ねぇ、"シブヤのハチ公は忠犬で、その銅像はランドマークになっている"って。ツカサ、見たことある?』

さっきからエマはガイドブックに載っている観光スポットを挙げては、司に「行ったことがあるか、見たことがあるか」と尋ねている。

『はぁ、エマ、そんなもん大したことないぞ。すっげちっせぇから行くだけ損。』


本音では日本に行かせたくなかった司だが、リリーとの取り引きは「セルフポートレートはさせない」であって、「日本に関わらせない」ではない。
それにエマ自身が訪日を楽しみにしていた。
母国だと知った日本。
家族のいる日本。
何か発見があるかもしれないと、意気揚々と準備をしていた。


『"道玄坂はラブホテル街で、日本独自のそのホテルは面白い仕掛けのある部屋も多い。一度は体験してみたい。" だって。ラブホテルって何?? ツカサ、ここは行ったことある? 』
『おいっ、お前、何読んでんだよ? ほんとにそんなこと書いてあんのかよ!?』

司はギョッとなってエマからガイドブックを奪った。

『ホテルなんでしょ? 泊まってみようかな。』
『ひとりじゃ泊まれない。相手がいる。』
『相手? なんの相手? 友達? 』

ガイドブックを取り上げられたエマは起き上がり、ソファに座ると司を見上げた。
司はガイドブックとPCをローテーブルに置くと、エマに向き直りその肩を押して倒した。
キョトンとするエマを見下ろしながら、司の瞳にはいつかの危険な光が宿っていた。

『ラブホテルってのはな、専用のホテルだ。』
『専用って…』

司はエマに覆い被さり深いキスを始めると、手も進撃を開始した。

『ちょっ!ンンッ!』

キスをしながら手は露わになっている太腿を撫で上がり、ショートパンツの裾から侵入し、ショーツを撫でた。

『ンーー!!ッハァ、ツカサ!何してんのよ!あっ』

パーカーとキャミソールをずり上げ、ブラのレースのカップごと口に含んだ。
ほとんどパッドの入っていないブラはレースに肌が透けていた。
すぐにレース越しにも中の頂が立ち上がるのがわかった。

『ああんっ、ンン、ツカサ、やめてぇ』

司は顔を上げてエマの潤んできた瞳を確認した。

『ラブホテルってのはこういうことをする専用のホテルだ。俺は行ったことねぇよ!』
『わかった、わかったからどいて!』
『どいて欲しかったら約束しろ。東京ではうちの邸を使え。』
『ちょっ!なんなのよ!ホテルで……ちゃんとしたホテルをとってくれるからそこでいいよ。』
『いや、ダメだ。約束しないならここで最後までするぞ。』
『どうせ止める気なんてないくせにぃ〜〜っ!!』
『フッ、まぁな。』

司の進撃は止まらなかった。





結局はベッドに場所を移した。
司の中の危険な光は鎮まり、今はエマを胸に抱いている。

エマはまた日本の話を始めた。

『ね、私たちの思い出の場所とかないの? 出会った学校は? 行ってみたい!』

ギクッ

学校・・・英徳か。
こいつにとっちゃいい思い出なんてない場所だ。

『あそこはプレップスクールだ。セキュリティが厳しくて部外者は入れない。塀に囲まれてるから外から覗くこともできない。それに、お前は2年もいなかった場所だ。行ったって何もないぞ。』
『日本は銃の規制が厳しいんでしょ?犯罪も少ないってガイドブックに書いてあったわ。なのになんでそんなにセキュリティを厳しくする必要があるの? 』
『良家の子女が通う学校だ。テロの標的になるかもしれないっていう時代を反映してんだろ。』
『ふーん、残念。』

司は自分の胸に頭を預けているエマをチラリと伺った。

『さっきの話だが、滞在はうちの邸な。決まりだ。』
『ねえ、ツカサ、私は大人よ? そりゃ日本は初めて…今はね。だけど私って26なんでしょ?いきなり2歳も歳とちゃってすんごく損した気分だけど。しかもツカサとは1つ違い? ああ、神よ!………もう立派な大人なんだから、そんなに過保護になるのはやめてよ。』
『俺の親友を邸に招く。お前のことも知ってる。会いたいだろ? 』
『それってF4? 』
『類に聞いたのか? 』
『ええ。ハンサムな親友があと2人いるって。』
『俺には劣るがな。』
『わかってる。ツカサは世界一だよ。』

エマはなんの思惑もなく、純粋に思ったことを口に出した。
司の方がうろたえる。

『お、お前、そこはツッコむとこだろ。』
『えー? 照れてんの? 相変わらず可愛いね。歳が近くなったらなんかさらに可愛くなった気がする。』
『可愛いとか言うな。』
『フフフ、「可愛い」は「大好き」ってことよ。ツカサ、好きだよ。』

エマは司の首に腕を回した。
しばらく離れる寂しさはエマが払ってくれた。
司もエマを抱きしめる腕に力をこめながら、この宝だけは絶対に手放せないと思った。



エマは結局、司の言を取り入れ、日本では世田谷の道明寺邸に滞在することになった。




*****




RRRR. RRRR. RRRR. R……


〈もしもし〉
「あきら」
〈司、やっと連絡してきたか。〉
「類に聞いてるか?」
〈聞いたよ。腰が抜けたかと思った。〉
「ああ。牧野は生きてた。俺も会った時は驚きでしばらく動けなかったくらいだ。」
〈お前は特にそうだろうな。〉
「今はエマ・ホワイトと名乗ってる。今度、日本に行く。VOGA Japanの仕事だ。」
〈日本に?自分が牧野つくしだって知ってるのか?〉
「ああ。この前話した。」
〈…どうだった?〉
「驚いてたな。混乱してた。」
〈無理もない。記憶がないんだろ?いきなり「あなたは違う人間よ」なんて言われて、「はー、そうですか。」とはならないだろ。〉
「遭難した経緯を聞かれた。」
〈…なんて答えた?〉
「騙されたことは話してない。ただ勘違いして友達を探しに出た、としか。」
〈…お前は赤札のことを隠しておきたいんだな?昔の関係を思い出させたくないんだろ?〉
「ああ・・・・」
〈司・・・今、幸せか?〉
「ああ・・・だな。」
〈だが俺たちが考えなきゃいけないのは一番に牧野の幸せだ。わかってるよな?〉
「・・・わかってる。」
〈そのためなら俺はなんでもする。お前のことも伏せるし、日本ではうちのSPをつける。VOGA Japanにも潜入させるよ。〉
「頼む。エマがつまらない人間と接触しないようにしてくれ。」
〈フッ、つまらない、か。男だろ? ああ、わかった。〉
「それから日本では世田谷に滞在する。一度、訪ねてくれないか。」
〈わかった。総二郎も誘ってみるよ。会いたいと思う。〉
「そうしてくれ。」
〈三条にはどうする? 伝えるか? つってもあいつ今ドイツだけどな。〉
「いや、三条に伝えたら必ず会いにくる。まだ早い。」
〈そうか、わかった。他には漏らさない。〉
「ああ。」



エマと俺でいけるところまで行こう。
牧野、お前にとってもその方が幸せなんだ。









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2018.12.08
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