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「真島、今日の予定はキャンセルだ。」
「はい。椿さまからも撮影の日には他の予定は入れないように仰せつかっております。」
「姉ちゃんが?そうか。」

わかってるよな。俺が牧野と会ってどうするか。
逃すわけねぇよ。



着替えを済ませた司が真島とともに控え室から出てきた。
そこではエマが今撮影したばかりのデータをスタッフと見比べている。

『これ、それから、これも。あとは、こっちもいいわね。』

その後ろ姿を司はじっと見つめた。


体にフィットしたカットソーにスキニー。
細く長い手足、華奢な肩、両手に収まりそうな腰、9年前よりメリハリのついたボディ。
そして男を誘う白いうなじ。

これがあの牧野か。
あれから9年。26のはずだ。


その時、エマがパッと振り向いて司と目が合った。

『Mr.道明寺。嫌がってた割にはイイ仕事してくれたわ。ほんと、あなたみたいな美しい男には初めて会ったけど、実物は迫力が違うわね。今日はありがとう。Miss山神はもう帰ったから安心して。』

そう言うと、ニコッと笑い、またデータに戻った。

『ツカサだ。』
『え?』

エマがもう一度振り向いた。

『俺はツカサだ。エマ』

それを聞いたエマは今度はニヤリと笑い、

『オーケイ、ツカサ。これで友達ってわけね。いいじゃない、アッパークラスの友達なんて。じゃ、早速飲みに行く?』
『いいぞ。』

その言葉にエマは髪に刺したボールペンを抜いた。
ウェーブのかかった黒い長い髪がファサッと肩に落ちた。
スタジオの隅に掛けてあった自分のジャケットを着ると、バッグを持って歩き出した。

『エマ!この後はどうするのよ!?』

スタッフが叫んでいる。

『ごめーん。こんなイイ男と飲める機会なんてそうそうないわ。あとはよろしく〜。さっきの写真をリリーに送信しといて。』
『もう!』




2人はリムジンに乗り込んだ。
真島は助手席だ。
パーテーションを閉める。

『仕事、よかったのか?』
『ああ、いつもああだから。良い写真は選んだしあとは任せておけば大丈夫。優秀なスタッフだもの。』
『17時か。早いがディナーといくか。』
『まさかグランド・メープルなんて言わないわよね?私の格好で楽しめるところにしてよ。』

そう言うと、エマは両手を広げて服装を見せた。

『フッ、大丈夫だ。いいとこを知ってる。』



リムジンはミッドタウンの日本料理店に入っていった。







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2018.11.01




『ここ?』
『日本料理だ。食ったことあるか?』
『ええ。リリーにご馳走になったことあるわ。箸が難しかったわ。』

本当に何もかも忘れてしまってるんだな。


司はつくしが生きてここにいることが奇跡に思えて仕方がなかった。





部屋は日本の料亭を模した個室だったが、欧米人向けに座りやすさを重視し、掘りごたつ方式になっていた。

『ワーオ、ここって凄いキレイ。本物の日本って感じ。』

エマはキョロキョロしながら、見るもの全てに驚いて感動している。

『座れよ』

司とエマは向かい合わせに座った。

『お前も日系だろ?だったら自分のルーツなんじゃねぇの?』
『うーん、そうなのかな?ツカサから見て私って日本人ぽいの?アジアンだってことはわかるけど、チャイニーズかもしれないでしょ?』
『自分でわからねぇの?』
『そうねぇ、それがわかればねぇ。』
『どうして?』
『うーん、私ね昔の記憶がないの。気づいたらジェフ、ってこれ養父ね。の家にいて、手当てを受けてた。なんでも、雪の山に捨てられてたって。』
『捨てられてた?』
『うん。ジェフもカメラマンなんだけど、撮影で入った雪山で私を見つけたんだって。ジェフのお陰で手足の指は20本、揃ってるんだよね。』

と言ってエマは両手を司の前で広げて見せた。


誰が捨てられてたってぇ?
あの辺一体はうちの私有地だ。
フリーのカメラマンが勝手に入って、許可もなしに撮影してたってことか。
それで牧野を見つけた、と?


『その後はどうした?』
『うん、ジェフに見つけてもらう前の記憶がないから、仕方なくジェフの養女になって、名前も歳もわからなかったから、ジェフが決めてくれて、セカンダリースクールの10年生に編入した。だから今は24歳。』

セカンダリーの10年生!?
おいおい、15歳の扱いじゃねーか。
日本だと中3か。
24歳って、2歳もサバよんでんのかよ。
東洋人は若く見えるからな。


『ツカサは何歳なの?』
『27だ。』
『へー、3つも年上なんだ。』

ちげーよ!本当は1こしか違わねーよ。


『ケベックはフランス語だろ?フランス語も話せんのか?』
『ええ、そうね。学校はフランス語だった。家でジェフとは英語で話してたけど。』

マジか・・・。
これがあの牧野とはまだ信じられない。
俺がドイツ語を話した時に本気で驚いてたヤツなのに。


料理が運ばれてきた。

『うっわー、キレーイ!美味しそう』

エマは顔を輝かせて美しく盛り付けられた前菜を見つめていた。

『でもさ、この箸がね。』

エマは箸と格闘している。

『こう持つんだ。』

司が自分の箸を持って見せてやる。

『えー、難しい。わかんないよ〜』
『ったく』

司は立ち上がり、エマの横で手を取って箸を持たせた。

『まずはペンを持つようにこう、そしてもう一本をここに差し込んで、薬指で支える。』

エマの細い指に自分の指が絡み、司は胸が高鳴るのを感じた。

『ホントだ!できた!よおっし、これを、こうして。パクっ、モグモグ、おいひ〜〜〜!』

エマは牧野つくしがそうだったように、満面の笑みで美味しそうに食べた。

『美味そうに食うな。』
『うん、美味しい!ツカサ、サンクス!』

エマに、いや、つくしに「ツカサ」と呼ばれる度に、司の鼓動は急速に9年前に引き戻された。


すべてを失ったと思った。
9年前の初恋。
幼かった自分。
彼女をもっと大切にすればよかったと、どれだけ後悔しただろう。
それが戻ってきた。
奇跡を起こして。
もう一度やり直せるならば、今度こそ大切に大切にして、もう絶対に傷つけない。
そして、今度こそ牧野を手に入れる。




『記憶、戻って欲しいか?』

食事を楽しんでいるエマに、司は問いかけた。

『うーん、どうだろう。雪山に捨てられる人生ってどんなだろうって思ったら、今が幸せだから別に思い出さなくてもいいかな。』

エマの言葉に司は何も言えなかった。


もとはと言えば、俺が元凶だ。
俺が牧野に赤札を貼らなければいじめられることはなかった。
よって騙されて遭難することもなかった。

その時、瞬間的に司の背筋がゾっと粟立った。

「あれ」を思い出したら、また元の関係に戻るのか?
俺を嫌っていた牧野に?
そして遭難した真実を知ればきっとさらに俺を憎むだろう。
だとしたら、記憶なんて戻らなくていいじゃないか。
これから新しい関係を築いていけばいい。
真っさらなキャンバスに今度は最初から美しい絵を描いていけば。

司は決めた。
記憶に触れるものからつくしを遠ざけよう。
「エマ・ホワイト」として自分の側に置こう、と。


*****


食事が終わり、2人は再びリムジンに乗り込んだ。

『ツカサ、ご馳走さま。ご馳走になってよかった?』
『ああ、俺が選んだ店だ。気にするな。』
『ふふ、じゃあ次は私が選んだ店で飲みましょう。ご馳走するわよ。』

エマは上機嫌でリムジンの車窓を眺めた。

『家はどこだ?』
『ブルックリンよ。送ってくれるの?』
『ああ。でも稼いでんだろ?マンハッタンに住めよ。』
『私なんてまだまだ。やっとリリーから仕事をもらえるようになったのよ。でも今回のあなたとの仕事はビッグチャンスだわ。これが認められれば、いよいよマンハッタン上陸かもね。』
『俺がモデルをやったんだ。認められるに決まってんだろ。』
『そうかも。ほんと、ビジネスマンなんかにしとくのもったいないわ。』

あはは〜とエマは笑った。

『なぁ、・・・男いんのか?』
『何よ?惚れたの?男いるわよ。一緒に暮らしてる。』

呆気なく言ってのけられて、司は目の前が揺れた気がした。

『へ、へー。エマならいると思ったよ。』
『でしょ?ふふ。ま、ステディって言っても、束縛し合う仲じゃないけどね。お互いに夢があるから恋愛に関しては気楽にしようって。ツカサこそ、いるんでしょ?』

エマがチラッと司を見た。

『今はいない。俺の場合、気楽に付き合いたくても相手がすぐに結婚とか言い出すから、面倒になって遠のいてる。』
『あー、ツカサの立場じゃそういうのあるだろうね。うまくいかないよね。そんだけ美しいのに、自由な恋愛ができないなんて、なんていうか、宝の持ち腐れ?』
『おいっ!別に持ち腐れてないぞ。』

エマはまたあはは〜と笑った。


楽しい。
こんなに楽しいのはいつぶりだ?
やはり9年ぶりか。
牧野といる時が、生きてると感じられる時だ。
この身に血が流れ、この心に人への愛情があると感じられる唯一の相手だ。



楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、リムジンはエマのアパートメントの前に着いた。
司がエスコートしてエマを降ろす。

『ツカサ、ここでいいから。今日はありがとう。新しい友達ができてうれしかった。これ、私の連絡先。次はトライベッカの場末のバーにご招待するわ。じゃ、おやすみ。』

エマはそう言うと、司の首を引き寄せ、その頬に頬を寄せチークキスをした。
フランスの文化圏で過ごしたエマにとっては親しくなった友人同士の当たり前のスキンシップだった。
が、されたほうの司は膝から力が抜け、もう少しで崩折れそうになるところを寸ででリムジンに寄りかかって耐えた。
エマはそんな司には気付かず、さっさと踵を返してアパートメントの中に消えていった。

「っはぁぁぁ〜〜〜」

司は手で顔を撫でると、濃かった1日を思って深く長い息を吐き出した。


とりあえず、姉ちゃんに連絡だ。








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2018.11.02




『ただいまぁ〜』

カバンをソファにボンと投げ、上着をバサッとソファの背にかけた。

『ウィリー?ウィリアム?いないの〜?』

エマはキッチンに入り、冷蔵庫から1ガロンはあるミルクを取り出すと、コップになみなみと注いだ。
ミルクを持ち、ウィリアムの部屋をノックする。

コンコン

『ウィリー?』
『ああ、おかえり』

エマはウィリアムに軽いキスをして、ただいまの挨拶に代えた。

『飲んだ?』
『ええ。今日友達になった人に日本料理の店に連れて行ってもらったの。そこでSAKE(酒:日本酒)をご馳走になったわ。』
『へー。SAKEを出す日本料理店なら高級なんじゃないの?』
『その人、日本人なの。だからそういう店を知ってたんだと思う。』
『どこで知り合ったんだい?』
『撮影よ。今日、モデルをしてくれた人。』
『ふふ。またエマの魔力に引き込まれたか。男だろ?』
『なによ!魔力って。人を魔女みたいに。そうよ、男よ。それも最高のハンサム。』
『そうやって、俺にヤキモチを妬かせて燃え上がらせようって?だからエマは魔性の女なんだよ。』
『ちょっと、ミルクがこぼれるわ。あんっ!』

エマとウィリアムはそのままベッドに潜り込んだ。



*****



ウィリアムとの情事の後、エマはバスルームでお湯を溜めながらツカサのことを思い出していた。


リリーの依頼で、これまで何人ものメンズモデルを撮影してきたけど、あんなに美しい男は本当に初めて見た。
あれで本職はビジネスマンだって言うんだから、神様は不公平よね。
最初は無愛想な人だと思ったけど、話してみたら楽しかったわ。
掴んだ手が思いのほか暖かかったし。
それに、最後にチークキスしたときに感じたあの香り。
一瞬、本当に一瞬だったけど、なんだか懐かしかった。
懐かしい・・・・痛み?
胸の奥がズキッと痛んだ気がした。
ウィリアムには言えないわね。


エマはバスタブに浸かりながら目を閉じた。



*****



「姉ちゃん、いつから知ってた?」

司は自室にもどり、即座に椿に連絡を取った。

〈山神に紹介された時よ。あの「VOGA」のリリー・フォールが目をかけている新進のカメラマンで、ぜひ彼女にって紹介されたのよ。驚いたわよ。つくしちゃんの顔してるんだもの。でも確証がなかったから話さなかったの。あんたならわかるんじゃないかって。やっぱりあれはつくしちゃんなのね。それにしても何も覚えてないみたいね。〉
「ああ、自分が誰かってことはもちろんのこと、日本人であることも、日本語も、箸の持ち方も覚えてねぇよ。」
〈そこまで!?深刻だわね。で、あんた、どうするつもり?〉
「あ?もちろん捕まえるに決まってんだろ。今度は逃さねぇ。でも姉ちゃんに頼みがあんだよ。」
〈なによ?〉
「俺は牧野じゃなく、エマ・ホワイトとして落としにいく。牧野の記憶は戻らなくていい。」
〈ちょっとあんた!なに言ってんのよ!!〉
「牧野が記憶を戻したら、何もかも振り出しだ。俺がガキだったってのは認める。この俺がどんだけ後悔したか知れねぇ。だが今度は間違わねぇ。だから姉ちゃんもエマに牧野を思い出させるようなマネはやめてくれ。」
〈・・・・わかったわよ。あんた、今度こそ本当につくしちゃんを幸せにできるんでしょうね!?〉
「つくしじゃねぇよ。エマだ。ああ、任せとけ。」
〈でも、覚悟も必要よ。F3に会わせたら思い出すかも。ずっと秘密にはできないんだから。〉
「・・・わかってる。」


少なくともエマを手に入れるまで、あの親友たち、とりわけ類には絶対に会わせるわけにはいかなかった。








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2018.11.03




5番街 道明寺本社ビル AM9:00


司は道明寺の副社長として新規事業のマネージメントを担っていた。
あの日、つくしを失くした司からは表情が消えた。
その上、常人離れした美貌と正確無比なビジネス手腕、ワーカーホリックな勤務ぶりが加味され「5番街のアンドロイド」や「氷の貴公子」などと影で囁かれていた。


オフィスで司は第一秘書の真島に命じた。

「エマ・ホワイトを調べろ。それとその養父のジェフ・ホワイトもだ。」
「かしこまりました。」

命じられた真島は急ぎ足でオフィスを出て行った。




司は昨夜渡されたエマの連絡先をコールした。


RRRR. RRRR. RR…


《yes?》
『エマ、俺だ。司だ。』
《 Hi!ツカサ。昨日はありがとう!で?何の用?》
『おい、用がなきゃ連絡しちゃいけねぇのか?』
《そうじゃないけど。 ・・・ちょ、ダメ、やめて・・・ウィル!!・・・ゴソゴソ、バタン。はぁ、ごめん。で、なんだっけ?》
『・・・ウィルって昨日言ってた男か?』
《ああ、そうそう。彼もカメラマンなの。報道志望だけどね。》
『ふーん、そうか。』

司の心のうちに、かつて翻弄された嫉妬という名の隣人が再び住み着いた。
この厄介な隣人を、今度は上手くコントロールしなければならない。

『なぁ、ランチでもどうだ?』
《いいわよ。ツカサはどこにいるの?》
『5番街の道明寺ビルだ。』
《オーケイ、じゃまたミッドタウンでどう?メトロで向かうから2時間後にグランドセントラル42丁目で。》
『わかった。』
《じゃ。》

通話は切られた。


「ふうぅ」

司は自身の熱を逃すように息を吐いた。

今度は慎重にと思っても、どうしても嫉妬が渦巻く。
牧野のそばに男がいる。
あの様子だともちろん体の関係もあるだろう。
大切にすると誓ったばかりなのに、すぐにでも強引に奪ってしまいたい衝動が体内を暴れまわる。

9年間、失っていた恋。
なのに、この激情はもうあの頃と寸分違わぬほど高まっていて、結局、彼女のことを忘れたことなど一時もなかったのだと、司は思い知らされた。

司は内線で法務部を呼び出した。

『契約したい人間がいる。カメラマンだ。名前はエマ・ホワイト。早急に契約書を作成してくれ。』



*****



真島にエマ・ホワイトならびにジェフ・ホワイトの調査を指示してから1時間後、調査書が提出された。

【エマ・ホワイトに関する調査報告書】
〜14歳 来歴不明
15歳 セカンダリースクール10年生に編入
17歳 カレッジ課程・大学進学準備コース入学
19歳 ニューヨーク大学 芸術学部写真学科 入学
22歳 ニューヨーク ファッション協会 MGTフォトコンテスト 優秀賞 受賞
現在、ウィリアム・ターナー(25歳)と同棲中

ニューヨーク大学?
行方不明になってから4年後に入学してる。
俺と入れ違いか。

「チッ」

司は渡米後、全米でも屈指のビジネススクールのあるニューヨーク大学経済学部に在籍し、3年で大学卒業、その後の1年は同大学のビジネススクールでMBAを取得していた。
つくしとはちょうど入れ違いで卒業したことになる。

こんなにも早くから、こんなにも近くにいたのか。
もっと早く再会したかった。

5年もの時を、同じNYで過ごしていたことが悔やまれた。



【ジェフリー・ホワイトに関する調査報告書】
職業:カメラマン
ケベック在住
主に自然を対象とした撮影活動。
離婚歴あり。現在、独身
36歳のときにエマ・ホワイトを養女とする。


この男が牧野を救い、同時に俺から奪った。
果たして恩人なのか、それとも敵なのか。


司は再び内線をコールした。

「真島、ケベックへの出張を組んでくれ。滞在時間は3時間でかまわない。ああ、出来るだけ早い日時で。・・・わかった。それでいい。」

次に外線をコールする。

『はじめまして。私は道明寺司と申します。あなたにぜひ、お会いしたい。エマ・ホワイトの件で。
はい、はい・・・ええ。では明後日の15時はいかがですか。はい、よろしくお願いします。』







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2018.11.04




グランド・セントラル42丁目駅の北側、人と車が行き交う路上にリムジンが横付けされた。
窓を5cmほど下げ、待ち人を探す。
男は目だけを車窓から覗かせているが、それでもその全身が美麗であることは容易にわかった。

地下からひとりの女が階段を登ってきた。

ウェーブのかかった髪を1つに束ね、ノーカラーブラウスのボタンは上2つが外され胸元のキャミソールを見せている。
バッグは肩に掛け、手にはジャケットを持ち、細身のデニムに黒のエナメルパンプスでリムジンを見つけて駆けてくる。
9年前の貧しかった少女はもういない。
今は世界的なファッション雑誌で才能を発揮するカメラマンで、男を知って美しく開花した大人の女だ。

どんな人混みに紛れても彼女を見つけられる自信があったのに、このNYで5年もすれ違いながら、その姿に気づくことはなかった。

女はリムジンから目だけを出す男に向かって笑顔を放った。

『ツカサ!待たせてごめんなさい。』
『いや、大丈夫だ。そんなに待ってない。』
『そう?よかった。』

運転手がドアを開け、女はリムジンに乗り込むと司の向かい側に座った。

『何か飲むか?』

少々、息が上がっている女に備え付けの冷蔵庫を示す。

『いいえ、これからランチでしょ。お腹いっぱいになりたくないの。』
『食い意地か。クククッ』
『いいの!日本の言葉にあるんでしょ?” モッタイナイ “ だっけ?』
『ああ、その言葉が好きな奴が昔いたな。』
『へー、彼女?』
『・・・いいや、友人だ。』

一瞬、司は” 牧野つくし “を想った。

『「大切な」友人だったんでしょ?顔に書いてあるわ。』
『古い話だよ。』
『誰でも人生に何人かはいるわよ。ま、私にはまだ1人しかいないけど。』
『誰だ?』

司は少しムッとした。
ああ、これが嫉妬なのだ。

『ジェフよ。私を救ってくれた人。他にはまだいないわ。』
『歴代の男は?』
『プッ、歴代って、私ってそんなに悪女に見える?』
『見えるな。』
『じゃあ、何人なら悪女に入らないのかしら?』
『一人だ。』
『うそ!冗談でしょ!?わかったわ。それなら私は悪女ね。』

ふふふ〜とエマは意味深に答えた。

『本気になったヤツは何人だ?』
『ちょっと〜、過去にこだわる男なの?やめてよ。道明寺司ともあろう人が。あなたこそ、本気になったことあるの?』
『ああ、あるさ。一人だけ、だ。』
『そう、幸運な女がいるのね。』

エマはニヤリと笑って見せた。そして視線を窓の外に向けた。

『私はいないわ。』
『あ?』
『男に本気になったこと、ないわ。』
『一度も、か?』
『そう、一度も。誰にも。そもそも本気かそうじゃないか、どうやってわかるの?ずっと不思議だったわ。』
『それは本気になってみなきゃわからないことだな。』


俺もそうだった。
「女に本気」の意味はこいつに出会うまで知らなかった。
でも出会ってしまったら、止められない。
どんなに抗おうとも、絶対に逃れられない。

牧野、俺が教えてやる。
本気になるのがどんな想いか。
俺がお前に教えてやるよ。







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2018.11.05




リムジンはミッドタウンのエンパイヤ・ステートビルにほど近いステーキハウスに到着した。

『肉、好きだろ?』
『よくわかったわね。そんなに肉食顔してた?』
『ああ、してた。』
『もう!』

バシッとエマの平手が司の腕に落ちる。
こんなやり取りが懐かしくて嬉しい。
いつのまにか司も笑顔になっていた。



貸切だった。
店内にいるのは司とエマ、そしてSPたち。

『なぁーに?あなたとランチするときは店を貸し切らなきゃいけないの?』
『仕方ない。こんなSP連れてたら一般客と同席する方が迷惑になる。』
『それもそうだけど。あなたも大変ね。』
『最近はパパラッチも多い。会話に聞き耳でも立てられちゃ堪らねぇからな。』

エマの体が一瞬、ビクンと揺れた。

『そう言えば、ウィルだっけ?報道写真家志望の。何してるんだ?』
『あー、やっぱそうよね。そうなるわよね。えーと、まあ、その、それよ。』
『食うためにパパラッチか?』
『あはは〜、あ〜。そう、です。はい。』

エマの目がキョロキョロと動いた。

『パパラッチって言葉の意味、知ってるか?「蝿」だぞ。彼氏に蝿をさせとくのか?』
『そう言われちゃうと身も蓋もないんだけど、でも互いに干渉しないってのが暗黙のルールだから。だからあなたのことは言ってないわよ!私はウィルの仕事の手伝いはしてないから。』
『わかってるよ。』

だが、もし気づいたらエマにレコーダーを仕込むことくらいは平気でする連中だ。

司はウィルの存在を早めにどうにかしなければならないと思った。


『おいしーーい!!』

ニコニコしながら次々と肉を口に入れていくエマを見て、食べているときだけは、エマはつくしにもどると思った。

『ツカサは小食なのね。』
『食べることに興味がないんだ。』
『そんなに大きな体、どうやって維持してるの?お菓子が好きとか?』
『まさか。甘いものは大嫌いだ。』
『ふーん。やっぱり宝の持ち腐れじゃない。あなたほどの財力があったら、私なら全財産、食べ物に使っちゃうかも。』
『一生あっても食いきれねーよ。』
『言うわね。』
『事実だ。』

フフンと司がいたずらっ子の顔で笑うと、エマも釣られてフフと笑った。


心地いい。
この時間が永遠に続いて欲しい。



*****



ランチを終え、VOGA本社で打ち合わせだと言うエマをタイムズスクエアの手前まで送っていく。

『目立つからツカサは降りないで。今日もご馳走になっちゃってありがとう。』
『今日はしてくれないのか?』
『え?何を?』
『チークキス』
『…甘えんぼなの?』

そう言うと、エマは司にチークキスをした。
みぞおちから甘い痺れが登ってくる。
が、次のエマの言葉にその痺れは消え去った。

『・・・あなたのその香り、』
『え?』
『あなたの香り。昨日も感じたけど、なんだか懐かしいの。変でしょ?初めて会った人なのに。それに今まで嗅いだことがない香りなのに。』

司の顔から血の気が引く。

『…同じ香りのやつなんて他にもいるさ。エマの大勢の過去の男にいたんじゃないのか?』
『失礼ね!そんなにいないわよ』
『じゃ今度、何人なのか教えてもらうよ。』
『フン、だ!私に惚れるんじゃないわよ!』

そう言うと、エマはリムジンを降りて、笑顔で『バイ!またね。』と言って歩き去った。


「・・もう遅い・・・・」

エマの後ろ姿を見ながら、司は呟いた。



*****



オフィスに戻った司は、先ほどのエマの言葉を思い出していた。

” あなたの香り・・・・懐かしいの。 ”

人間の嗅覚は記憶をつかさどる脳の領域に接続していて、密接に結びついていると何かで読んだ。
とすれば、俺自身が一番危険な記憶の誘導体ということになる。

記憶は戻させない。


司は世界に一つしかない自分だけのパルファンを封印した。
全てはつくしを手に入れるために。







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2018.11.06




2日後、司は真島を伴い、ジェフリー・ホワイトに会うためにケベックに降り立った。

空港から直接出向いたその家は、ケベックの街から5キロほど離れた森の入り口にあった。
ログハウス風になっていて、いかにも自然と共に生きるという家主の意思が感じられた。

呼び鈴を鳴らすと、家の中から髭面の中年の男が出てきた。
真島が先に行こうとするのを制止し、司自ら挨拶をする。

『はじめまして、私は道明寺司です。お会いできて光栄です。』

見たこともない美しさの東洋の男が、そのまた感じたことのない威圧感で手を差し出した。
ただ者ではない。
すべてを被写体として捉えてしまう職業病を長く患っている男は、目を細めて司を見た。

『こちらこそ、私はジェフリー・ホワイトです。こんな遠くまで来ていただいてありがとうございます。さあ、中へどうぞ。』

握手をしながら、司たち一行を招き入れた。

『こちらは秘書の真島です。あとの二人はSPです。同席をお許しください。』

司はいつにない慇懃さで中年男の様子を探った。




『それで、エマに関する話というのは?』

リビングに通された司たちはノルディック柄のキルトカバーのかかったソファを勧められた。

マントルピースの上にはエマの写真が飾ってある。
司の知る、つくしの面影がまだ濃い写真もいくつかあった。
その上の壁面には十字架に磔にされたキリストが掲げられていた。
どうやら敬虔なカトリック信者のようだ。

ジェフはコーヒーを人数分出したが、SPは座る気はないようだ。窓の外を警戒している。

『私は最近エマと知り合い友人になり、あなたが9年前にエマを雪山で救ったという話を聞かされましてね。
その雪山というのは、うちの、道明寺の私有地ではありませんでしたか?』

いきなり核心を突かれ、白髪混じりの長く伸びた髪を無造作に1つに束ね、くたびれたTシャツを着たジェフリー・ホワイトはたじろいだ。

『・・・・・・その通りです。私はあの時、あそこで冬の動物たちを追っていました。
いつのまにかお宅の土地に入り込んでいましたが、見つからないだろうという思いの方が強くて、つい監視小屋に滞在してしまったんです。』

『それで、エマをみつけたのは?』

『吹雪の夜でした。時間を忘れて雪うさぎを追っていて、気づけば日没。降雪がだんだん強くなり吹雪になりました。これはまずいと急いでスノーモービルで監視小屋に帰る途中に彼女が倒れていたんです。薄手のニットとコットンのパンツのみで、こんな雪山に一体どこから来たんだろうと思いました。でも考えている猶予はなかった。彼女は息をしてなかった。
私は人工呼吸を繰り返しました。やっと息を吹き返しましたが、それでも意識は戻らなかった。
監視小屋で温めて一晩過ごし、夜明けを待ってすぐに病院に運びました。』

つくしが息をしていなかった。
それを聞いて、司は血が凍る思いがした。
もし、この男が見つけなければ、自分は見つけていただろうか。
この男にも、自分にも見つけられなかったら。
もう二度と、つくしが死んだことなど考えたくなかった。




ジェフリー・ホワイトは話し続けた。

『彼女が目覚めたのはそれから1週間後でした。呼吸停止による脳の損傷が危ぶまれましたが、不幸中の幸いで低体温での仮死状態だったため、身体的な機能には後遺症はありませんでした。』
『でも、記憶は失われた。』
『そうです。身体的機能の保持と引き換えにするように、全ての記憶を失くしていました。全生活史健忘という診断でした。医師によれば、心因性ならカウンセリングなどで記憶が少しずつ戻る可能性もあるが、エマの場合は酸素不足による脳の損傷が原因だから、戻る可能性はほぼないだろう、ということでした。』

記憶は戻らない…
こんな時に、込み上がる安堵をどうしようもない。
自分の浅ましさに司は小さく自嘲を漏らした。

『そんな彼女をよく面倒見ましたね。警察には届けなかったんですか?』

届けていればもっと早く俺の元に戻ったのに。

『道明寺の土地で見つけたので、説明できませんでした。それに報復が怖かったんです。道明寺の鉄の女の噂は私程度の人間にも聞こえていましたから。
彼女は記憶を失っているし、誘拐犯などと騒がれるのも厄介だった。』
『しかし、全てを忘れている彼女と暮らすのは容易ではなかったのでは?』
『そうですね。最初は言葉も分からなかった。アジア人だと思って、アジアのいろんな言語も聞かせましたが、何にも反応しませんでした。産まれたばかりの無垢な赤ん坊みたいなものですよ。トイレのしつけの出来た赤ん坊。本当にそんな感じでした。
年齢は14歳か15歳くらいだろうと考え、セカンダリースクールの10年生に編入する8月まで、英語とフランス語、マナーなどのあらゆる生活習慣を教えました。幸い賢い子で、教えたことは一度で覚えましたし、言語もどんどん吸収して、編入時には若干の不安が残る程度でした。それからは快進撃というか、編入して一年で成績は上位1%でした。』

途中からジェフの表情は我が子を自慢する父親の顔になっていた。
司は自分の知らないつくしのことが知りたくて、相槌を打つだけであとは黙って聞いていた。

『11年生に進級してもその勢いは衰えず、学校長から大学進学のためのカレッジ課程を勧められたんです。私も彼女にならできると判断し、本人とも相談して大学を目指すことにしました。』

牧野はもともと頭が良かった。
英徳の外部生は偏差値72の難関を突破してくる。
英徳1学年時は上位5番に入っていた牧野だ。
しかも日本で高校2年までをほぼ終えていたわけだから、言語の壁があったとしても驚きはない。

『ただ彼女には勉強ができる以上の才能があった。』
『才能?それはカメラマンとしてですか?』
『ああ、ええ。それもあります。でももっと人が羨む才能です。彼女は人たらしなんです。』
『人たらし?』
『はい。男女を問わず、とにかくモテる。私が彼女を雪山で見つけたのが12月30日だったので、その日を彼女の誕生日に決めたのですが、毎年その日には友人達が訪ねてきて、バレンタインには家中が男の子たちからもらった花で埋まりました。』

12月30日は牧野の両親が牧野の命日に決めた日だ。
そんな日がエマには誕生日か。
皮肉なもんだ。

それに、俺たちF4の心を掴んだ牧野だ。
記憶を失くした牧野は、エマとなって前より素直になった。
赤ん坊のように無垢。
あの黒い瞳に無垢な心が映って、相手の心さえも無垢にさせるのかもしれない。

『エマがニューヨークの大学に入ったのはあなたの勧めですか?』
『はい。私の仕事を見ているうちに、エマも写真に興味を持って、もっと学びたいと言い出しました。それならバンクーバーよりも近いニューヨークが彼女には向いてるんじゃないかと。幸いにもニューヨーク大学に合格できました。
在学中も聡明さと人たらしを武器に教授陣にも気に入られました。
そしてファッションカメラマンの登竜門、MGTフォトコンテストでグランプリを受賞したんです。
その写真が「VOGA」のリリー・フォールの目にとまり、今では引っ張りだこみたいですね。』

ジェフは最後は自慢の娘に向ける笑顔を見せた。
しかし、その笑顔が急激に曇った。

『あの、それで、私はどうなるんでしょうか。』
『どうなるとは?』
『不法侵入で訴えられる、とか?』
『フッ、まさか。どうもしませんよ。私の土地で死人が出なかったんだ。あなたには感謝しないと。それに今やエマはもう私の友人だ。あなたは友人の父親でしょう?これからはあなたも私を頼ってくださっていいんですよ。
何かあればこの秘書に連絡をください。』

そう言って司は真島に名刺を差し出させた。

『エマはあなたに見つけられてラッキーだった。ニューヨークでは私がエマを見守っていますから、ご安心ください。』
『ありがとう。その言葉に安心しました。』

ジェフリー・ホワイトとの面談は和やかに終了した。
司はジェフの家を出ると、リムジンに乗り、そのまま空港へ直行した。

******


「司様、あの、差し出がましいようですが、エマ・ホワイトをどうなさるおつもりで?」

この日の予定の組み替えを余儀なくされた秘書は、ここ数日の上司の豹変ぶりに困惑していた。

ビジネスにおける獅子奮迅ぶりとは対照的に、女性に対しては淡白というか、達観しているというか、無感動というか。
来る者にも去る者にも一瞥もくれない、てなスタンスで付き合ってこられた。
なのにエマ・ホワイトと出会ってから人が変わった。
こんなにも一人の女性に執着するなど、考えられなかったのに。
ましてや、女性のためにスケジュールを変更するなど、天変地異の前触れかと本気で心配になった。

「別にどうもしねぇ。」

司は真島を信頼していなかった。
去年まで司の第一秘書だった西田は会長である父親付きとなった。
3年前に倒れた会長が復帰するにあたり、秘書課最強の西田がその補佐に選ばれたのだ。

西田なら全てを知っている。
今さら何かを告げる必要もなかっただろう。
言わずとも察して動いただろうが、真島は何も知らない。

それに真島はお袋の犬だ。
俺の動向を報告してることは知ってる。
こいつに何かを教える必要はない。







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2018.11.07




エマから連絡が来たのはジェフリー・ホワイトを訪ねた翌日の土曜日、21時も過ぎたころだった。

《ツカサ!ジェフに会ったって!?》

挨拶もそこそこに、いきなり本題を突きつけてきた。

『ああ、会いに行った。いけなかったか?』
《何のつもりなのよ!道明寺の重役と友達になるには身元調査が必要だってわけ!?》
『落ち着け。そんなわけないだろ。詳しい話は会ってしよう。これから空いてるか?今どこだ?』
《いいわ。そっちに行くわよ。5番街でしょ?セント・パトリックの前で待ってる!!》

それだけ言うと通話は一方的に切られた。

やべぇ。相当怒ってるな。

怒られているのに、何故かワクワクしてしまう。
生き生きとしたつくしに接して、司は久しぶりの高揚感を抱いた。



*****



エマは後悔していた。

こんなとこに呼び出すんじゃなかった。

セント・パトリック教会周辺は5番街57丁目に近く、有名ショップが立ち並ぶ繁華街だ。
いくら営業は終了していても、まだ人通りは多い。
そんな場所にこの男を呼び出すなんて、自殺行為だった。

『エマ!』

リムジンから降りて走り寄ってきた男は、その秀麗さで一瞬にして周囲の視線の全てを集めていた。

マズイ。

司をモデルと勘違いした人々が、一斉にiPhoneのシャッターを切る音がする。

ひぇぇぇーー

『ちょ、ちょっと、リムジン乗せて!』

エマは司に捕まる前に、うつむいて自分から司の腕を掴むと、リムジンに乗り込んだ。
リムジンは司の指示で適当に動き出した。





『はぁぁー、ごめん。』

司の向かい、運転席側に座り、リムジンの背もたれに体を預けて謝ったのはエマだった。

『なんで謝るんだよ?』
『いや、あんなとこに呼び出して。ツカサを晒し者にした気分。』
『フン、慣れてるよ。』
『今日はあの近くで仕事だったから、つい。今度から気をつける。』

“ 今度 ”と言われて、司は思わず頬が緩む。
次があることが嬉しい。

『で?言いたいことがあったんだろ?』

その言葉にエマがハッとした。
みるみるうちにその目には怒りが宿り、黒い大きな瞳がキラキラと輝いた。
それは9年前に見た、牧野つくしの目だった。
ある種の感動が司を包んだ。

『そうだった!ツカサ!どうしてジェフに会いに行ったりしたのよ!私がどこの馬の骨とも知れないから育てた人を見てみたくなったわけ!?』
『ちがう。そうじゃなくて、お前が見つかった土地が道明寺の別荘地だったんだ。』
『・・・は?・・うっそ・・・』
『本当だ。9年前、うちのバンクーバー郊外にある別荘地の監視小屋から女性用の靴が見つかったんだ。でも誰のものかは分からなかった。この前エマの話を聞いて、もしやと思って調べたらビンゴだったわけだ。それでジェフに会いに行った。真相を知りたくて。』
『・・・そ、そんなことがあるんだ・・』

エマは気が抜けたように呆然とした。

『じゃあさ、私が何者かもわかったの?』
『・・・いや、それはわからない。』

司にチクっとした罪悪感がよぎった。

『そっか。ま、それはいいや。それで?ジェフに余計なことは言ってないわよね?』
『余計なことって?』
『その、男と暮らしてる、とか。』
『秘密かよ。』
『心配かけたくないから。ジェフは都会が嫌いだからNYには来ないのよ。だから言わなきゃバレないでしょ?』
『大丈夫だ、言ってない。ったく、とんだ不良娘だな。』
『不良にならないために男と暮らしてるのよ。』
『どういうことだよ?』
『ウィルは大学時代の同級生なんだけどね。私に近寄る男がいちいち寝たがってうるさいから相談したら、「だったら男と住んでるってことにしたらいい」って言われて。それで暮らし始めたの。お陰でウザいお誘いはなくなったわけ。』
『で、ミイラ取りがミイラになったんだろ?』
『あはは、まあそうだね。』
『チッ、そろそろプロポーズか?』
『は?ウィルが?まさか、ありえないっ!わはは〜』
『部屋がバラでいっぱいになってたり、サプライズで指輪をくれたり、そういうことはなかったのかよ?』
『・・・・え?あれ、プロポーズなの?』
『・・・・』

鈍感は相変わらずか。
ウィル、甘いぞ。
そんなもんでこいつが気づくわけねーだろ。

『えぇぇぇーーーー!!!』
『うるせぇ・・・』
『うっそ!マジで!?えー、どうしよう。』
『どうするんだ?結婚するのか?』

なんでこんなことを俺が聞いてんだよっ!

『するわけないでしょ!愛してないもの。』
『愛してない男と同棲なんてするからだ。今すぐ別れて家を出ろ。』
『・・・・今、ウィルが応募してるコンテストで優秀賞取ったら大きな家に引っ越そうって。もしかしてあれもプロポーズ?』
『だろうな。鈍感だな。』
『あーー、それよく言われる。そっか、私って鈍感なんだぁ。』

鈍感だって気づいてくれただけマシかもな。

『どうしよう、どうしたらいい?』
『俺に聞くな。』
『だよねー。ああー、合わせる顔がないわ。』
『お前はどうしたいんだよ?結婚しないならハッキリ言ってやれよ。相手の時間を無駄にさせちゃ可哀想だろ。ウィルの運命の相手が待ってるぞ。』

こいつは人に迷惑をかけるのを極端に嫌うから、本質が変わってなけりゃこの攻略法で合ってるはずだ。

『そっか、そうだよね。わかった!別れる。』

よっしゃーーー!!

『こういうことは早い方がいいぞ。』
『わかった。今夜、話す。』
『あのアパートメントを出るのか?今夜からどこに行くんだ?』
『うん、あそこはウィルの部屋だから。今夜はモーテルかな。明日になったら適当に探すよ。』
『・・・部屋なら余ってるぞ。』
『ツカサのとこの物件?ムリムリ!道明寺が扱う物件なんて、私に払えるわけないでしょ。』
『男除けのために男と暮らしてたんだろ?だったら次もそうすりゃいいだろ。俺の部屋には部屋が余ってる。お前の言う“ 持ち腐れ ”ってやつだ。』
『は?私、ツカサと暮らすの??』
『そうだ。セキュリティも万全だし、リリーんとこのVOGAも近いぞ。』
『近いってどこよ?』
『アッパーイースト』
『ア、ア、ア、アッパーイーストォォォ???』
『だから、うるせぇって。』
『そ、そんな超!高級住宅街に暮らせるわけないでしょぉぉ!?』
『なんでだよ?部屋が無駄に余ってるんだぜ?』
『いや、無駄って、だって』
『友達、なんだろ? 友達が困ってたら、お前ならどうするよ? 助けるだろ? それとも、放って置くのか? 』
『いや、そんなことしないわよ! そりゃ、私にできることならなんでも協力したいわよ! 』

ニヤリ。
司はもう勝利を確信した。

『だったら決まりだ。俺のとこに来い。俺はウィルみたいなミイラ取りにはならないから安心して来い。』
『ハァ、はなっから疑ってないわよ。』

エマは片手で頭を抱えながら、自分はどこをどう間違ってツカサと暮らす話になったんだろうか?と狐につままれたような気分だった。



*****



リムジンはブルックリンのエマのアパートメントの前に到着した。
エスコートして降ろす。

『待ってなくていいから。タクシーで向かうわよ。それに今夜、出るとは限らないし。』
『土曜のこんな時間にタクシーなんて捕まるかよ。夜道は危ないし。お前、明日の朝にはセントラルパークで全裸なんて嫌だろ。』
『だから今夜、部屋を出るとは限らないでしょ!いいから帰って。明日には必ず連絡するから。』
『・・・・わかった。何時でもいいから、揉めたら連絡しろよ。』
『ウィルは優しい人だから大丈夫よ。』

フン!相変わらずのお人好しか。
ウィルがそんな簡単にお前を離すわけねーだろうが。

『じゃ、今夜はありがとう。』

そう言ってエマは司にチークキスをした。

『・・・香り、変えたの?』
『ああ。昔の男を思い出されちゃたまんねぇからな。』
『もう!こんな時に冗談ばっか!じゃーね!』

エマはアパートメントに入っていった。



…冗談なんかじゃねーよ。
昔の俺を思い出されちゃ困るんだよ。
お前には今の俺だけ見て欲しいんだ。



司は付き従っていたSPにエマの部屋を見張るように命じた。

『少しでも争うような声が聞こえたら俺を呼べ。』
『はい。』








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2018.11.08




『ただいま』

内心、寝ててくれたら、と思いながらエマはゆっくりと部屋に入った。
時刻は0時を回ったところ。
部屋に入るとすぐに居間が見える。
テレビがついていて、その前にあるソファでウィルがうたた寝をしていた。

待っててくれたんだ。

エマの良心が痛んだ。

悪い人じゃない。いや、良い人だ。
容姿だって普通以上だし、セックスの相性もいい。
同じカメラマンとして、分野は違えど話も合う。
私は何が不満なんだろう。

ウィルの寝顔を見つめながらエマは考えていた。

一緒に居て楽しいけど、結婚したいか?って問われたら完全にNO!だ。
この人と一生一緒とかは考えられない。

ウィルのために仕事を犠牲にしても子供を産み育てたいか?

NO

ウィルに「愛してる」って毎日囁ける?

NO

あー、ダメだ。
どう考えてもウィルと結婚なんて無理。
だったらやっぱり別れるしかないよね?

” ウィルの運命の相手が待ってるぞ “

ツカサの言う通りだわ。
人生は短いの。
私なんて死にかけたし。(覚えてないけど)
一刻も無駄にはできないわ。
そうとなれば、ウィルを早く運命の人のところに送り出さないと。

『ウィル、ウィリー、ねぇ、起きて。大事な話があるの。』

エマはウィリアムを揺り起した。

『う、ん、、エマ、おかえり。遅かったね。』
『ええ、ごめんなさい。ちょっと友達と会ってたの。』
『友達ってツカサかい?』
『ええ。勝手にジェフに会いに行ったって聞いて、叱りに行ったのよ。』
『で、叱れた?』
『ううん、叱るようなことじゃなかったの。そっちは片がついたから大丈夫。ウィルに話があるのよ。』
『何?・・・・別れ話?』
『えっ、どうして?』
『最近、ツカサの話ばかりだから、惚れちゃったかと思って。』
『そんな!そんなわけないでしょ。ツカサはあくまでも友達よ。』
『俺も?俺もあくまでも友達なわけ?』
『それは・・・ごめんなさい。ウィルと結婚とか考えられない。私にはできない。』
『じゃあ、結婚しなくていいから、このままずっと一緒にいようよ。エマ、大好きなんだ。』

ウィリアムが腕を伸ばして、エマを抱きしめようとした。
エマは咄嗟に逃げた。
別れると決めたからには、もう触れられることに耐えられなかった。

『ウィリアム、ごめんなさい。あなたとはもう一緒にはいられないの。あなたにはあなたの運命の人が待ってるわ。』
『どっかの誰かなんていらない。エマがいいんだ。君を愛してるんだ。』

ウィリアムは立ち上がってエマを壁に追い詰めた。

『なぁ、大丈夫だよ。俺たちは同じ夢に向かって歩く同志だろ?同じ世界の人間のほうが絶対にうまくいくよ。ツカサってツカサ・ドウミョウジだろ? 知ってるよ。彼は違う世界の人間だ。ヤツが巷でなんて呼ばれてるか知ってるのか? エマが傷つくだけだよ。きっと苦しむよ。』
『だからツカサは関係ないって!!』
『エマ、し———。静かに。』

そう言うと、ウィリアムは人差し指をエマの唇に押し当てた。
それさえも耐えられなかった。嫌悪感で鳥肌が立つ。

『やめて!触らないで!!』
『エマ、今夜は気が立ってるんだ。明日の朝、ゆっくり話し合おう。ね?』

そう言うと、ウィリアムはエマの細い手首を掴み、ゆっくりとエマに顔を近づけた。

『やめて!!!』


ドカーーン!!


突然、部屋の扉を誰かが力任せに蹴っている音がした。


ドカーーーン!!!

メリメリ……バターン!!!


2度目の衝撃で扉は外れて内側に倒れた。
すると体格のいい男たちがドカドカと入ってきた。

『ツ、ツカサ!?』
『エマ、助けに来たぞ。』

司はエマに近づくと、ウィリアムを引き離し、SPに放り投げた。

『イッテーー!あんたたちなんだよ!!?』

エマを背中で庇う。

『おい、ウィリアム・ターナー、報道写真家志望なんだろ?恋人間のDVなんかでポリスに連れていかれたら、経歴に傷がついちまうぞ。』

司の目は凶暴に黒光りし、言葉が脅しではないことを物語っている。

『うっ』
『エマはあんたとは別れる。今夜、この家も出て行く。そしてあんたは新しい生活を始めるんだ。いいな?』

司は無表情に告げた。
“ 5番街の氷の貴公子 ”との異名を持つ目の前の人物に逆らうことが何を意味するか、知らないウィルではない。

『・・・わかった。』

ウィリアムの同意を得ると、司はエマの肩を抱いて部屋の出口へ向かった。

『エマ、行くぞ。』
『え、で、でも、ウィル、、』

ウィリアムはうなだれたまま、エマを見ることも出来ずに別れを受け入れた。

『あ、あの、今までありがとう。成功を祈ってる。』

司に肩を抱かれたエマは、足早に部屋を出て行った。



*****



2人はまたリムジンに乗っている。

『・・・・・』
『エマ、大丈夫か?』
『・・・・・』
『エマ?』

司はやり過ぎてしまったのかと心配になった。
でもあの時、助けに入らなければ、エマが襲われていたかもしれない。
これでよかったんだ。と、自分を納得させた。
しかしエマは車窓に顔を向けたまま、一言も発しない。

その内、エマの瞳から涙がポロポロと落ち始めた。

『おい、どうした?』
『なんでいつもこうなの?』
『いつも?』
『最初は友達だったのに、途中から男と女になって、好きだとか愛してるとか言われて、離れたくても離さないとか言われて、私にはわかんないよ。』

エマは呟きながら、涙が止まらない。

『愛ってなに?恋ってなんなの?相手が恋したらこっちも恋しなきゃいけないの?同じ重さの気持ちでなきゃいけないの?そんなの無理だよ。』

エマは自分を抱きしめて、座席に座ったままうずくまった。



司はエマを複雑な思いで見ていた。

まだ人を愛したことがないエマ。
牧野つくしだったころ、確かに類に恋していたはずだが、エマとして生まれ変わってからは恋もしたことがないと言うのか。
人たらしと言われて、相手から与えられる愛ばかりで、自分からは誰にも与えたことがないのか。
俺はどうしたらいい?
俺は牧野の愛がほしい。
でもそれを気取られれば今までの男と同列にされる。
エマの体だけを先に求めて、心を置き去りにした男たちと同類にはされたくない。絶対に。

側にいるには友人を貫くしかないのか。
牧野が気づいてくれるまで、いつまで?
こんなに近くにいるのに、俺の忍耐がいつまでもつのか。



司はエマに手を伸ばした。
その腕をつかむと、エマはビクッと震え顔を上げて司を見た。
黒い大きな瞳が涙で潤み、本人の意思を無視して見る者を溺れさせる光を放っている。
司はその瞳を見ないように注意深くエマを引き寄せた。
そして抱きしめると、耳元で話しかけた。

『大丈夫だ。俺がいる。俺はまだ友達だろ?』
『…ツカサ。ツカサは友達のままでいて。私を愛さないで。そうすればずっと側にいられるから。』
『・・・・ああ。』


司はこの時、自分が選んだ道の途方もない険しさを痛いほどに自覚していた。











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2018.11.09




リムジンの中で司に抱きしめられて眠ってしまったエマは、翌朝、司のペントハウスで目を覚ました。

『ん・・・』

フワフワ、ボヨンボヨン、気持ちいーい。
雲の上で寝てるのかな?
クスッ、楽しい夢だなぁ。

その時、大きな温かい手がエマの頭を撫でた。
エマは目をパチっと開けると、手の主の方を見た。

『ツ、ツカサ!?』
『よう、起きたか?』
『え?え?ここ、どこ?』
『俺んち』
『・・・・・』

エマは部屋の中を見回した。
ウィルと住んでいたアパートメントのリビングがすっぽり収まってもまだ余る広さの部屋が、個室になっている。
キングサイズのベッドと、サイドテーブル、ドレッサー、ライティングデスクにスタンドライト。
どれもすっきりとしたデザインで統一され、まるでモデルルームの一室と言われても納得してしまうほどだった。

『俺んち?ツカサの部屋?』
『俺のマンションの部屋。で、その中の一室。今日からエマの部屋。』

エマは大きな窓に気がついた。
ベッドから飛び起きて、窓に近づく。
その窓の向こうには広大なセントラルパークが一望できた。

『うっわ———!なんなの、ここ?これ、セントラルパーク?え…もしかして、ここって5番街通り?それにこんなに眺めがいいなんて、ここ何階なの?』
『最上階だから、20階か。』
『最上階・・・』

最上階にある部屋=ペントハウスであることはエマも知っていた。

『えええぇぇぇぇ—————!!!』
『うるせぇ・・・』
『ってことは、ペントハウス!?』
『ああ、そうだ。』
『ひえぇぇ・・・』

自分が一夜にしてアッパーイーストサイド、それもセントラルパークを臨む5番街通り沿いのペントハウスの住人になってしまったことにエマはまだついていけていない。

『マンハッタンで一番家賃が高い場所でしょ?ツカサの世界って、すごいね。』
『俺にはフツー』
『あはは、だよね。』

ハッとエマは自分を見下ろした。
昨日の格好のまま寝てしまったため、着ている服はシワだらけだった。
ひぇぇ、なんちゅう格好してんのよ。
は、恥ずかしい。

『ごめん、寝ちゃったんだ。運んでくれてありがとう。シャワー借りていい?』
『もうお前んちだ。こっちがお前のバスルーム。好きに使え。』
『あ、ありがとう。』

そう言うと、エマはバスルームに消えた。




「はぁ」

残された司はため息を吐いて髪をかきあげた。
昨夜の「友達宣言」が心に重くのしかかって眠れなかった。

誰よりも深くつくしを愛していながら、それを隠さねばならない。
今となっては同じ屋根の下で暮らすことが完全に裏目に出ていた。

しかし、やるしかない。
いつまで耐えられるかわからないが、とにかくこの友達ごっこを続けなければ、つくしはまた他の男のものになってしまう。

司は決心した。



*****



エマがシャワーを浴びている間、書斎に戻った司は真島に連絡を入れた。

「ああ、俺だ。ウィリアム・ターナーがエントリーしているフォトコンテストわかるか?あ?うちがスポンサーになってるあれか?よし、ターナーを入賞させろ。ああ、なんでもいい。副賞は海外留学だ。好きな土地へ送り出せ。」






リビングに戻り、タブレットで市場をチェックしながらコーヒーを飲んでいると、エマがバスローブで部屋から出てきた。

『ふわぁ〜、なにここ。すっごぉぉい!』

ペントハウス内がメゾネットタイプになっている。
そのため、リビングは2フロア分10m以上の天井高があり、上から下までガラス張りだった。
エマの部屋は西向きでセントラルパークが一望できるがリビングは南向きで南と西がガラス張りのため摩天楼とセントラルパークが一望できた。

口を開けてキョロキョロと部屋を眺めているエマは、髪はタオルでまとめて頭の上で結んである。
白い首筋が丸見えで、バスローブの合わせからは胸元がのぞいており、前合わせの裾からは柔らかそうな腿がチラチラと見えている。

司はギョッとした。

『おい!そういうところだろ!』
『え?』
『そういう隙だらけなお前も悪いんだぞ!』
『え?え?』
『着替えはクローゼットに入ってる。ちゃんと着替えてこい!』
『あ、ああ。ごめん。』

エマは部屋に帰っていった

「ったく、自覚なしかよ。鈍感は始末に終えねーな。」

エマ自身が無自覚に餌を撒いていることが一番の問題だと司は早々に気づいた。



着替えたエマが再びリビングに入ってきた。
しかしその顔は膨れている。

『ちょっと、ツカサ、なんなのよこの服は!』

エマが来ているのは淑女ブランドの新作ワンピース。
袖はノースリーブで襟元はスクエアネックになっており、膝上のスカート部分はフンワリと膨らんでいる。

『さっきのバスローブはだめで、このワンピースはいいの?そんなに違うかな?』
『似合うぞ。髪、乾かしてやる。』

いつのまにかドライヤーを片手に持った司はエマにおいでおいでをした。
素直に司の足元のラグに座ったエマは、熱風を受け目を閉じた。




不思議だ。
牧野が生きてて、いま俺の目の前に座ってて、その髪を手で梳いてる。
俺の前で無防備なこいつは初めてで、この俺が振り回されっぱなしだ。


司はエマのウェーブのかかった髪を手で揺らしながら、白いうなじがチラチラと視界に入るのが気になっていた。
ともすれば吸い寄せられてしまいそうだ。


『そう言えばさ、』

ギクッ

『あ?なんだ?』
『ツカサの髪ってすっごいちゃんとした巻き毛よね?日本人で珍しくない?ヘアメイク、じゃないわよね?』
『ああ、癖毛だ。』
『普通の人なら笑っちゃうくらいの癖なのに、ツカサだと似合っちゃうって、ズルイわよね。』
『・・・エマは本当はストレートだろ?』
『よくわかったね。でも扱いにくくて。それでウェーブにしてるの。』
『ふーん。』
『ツカサはどっちが好き?巻き毛女子とストレート女子。』
『俺はどっちでもいい。』
『じゃあさ、その本気になった女性はどっちだったの?』
『彼女は・・・ストレートだったな。』
『ふーん。』

司は牧野つくしを思い出していた。

その気性を表すかのような黒く真っ直ぐな髪。
あいつの何もかもに触れたかった。
髪にも手にも唇にも肌にも。

生きてたじゃないか。
目の前にいるじゃないか。
いま俺はその髪に触れてる。
これから大切にすればいい。
チャンスはいくらでもある。

『終わったぞ。』

エマは立ち上がりクルリと振り向くと、牧野つくしと同じ笑顔を見せた。








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2018.11.10
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