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    ゴォォォ————

ビュオォォォ—————

     ビュオォォォォォォ——————

  ビュォォォォォォォ—————



「牧野————!!!」

     「牧野——————!どこだ————!!!」






        「くっそぉぉ————!!!!」




*****



道明寺家、カナダの別荘で遭難したつくしは見つからなかった。
翌朝、捜索隊が編成されたが、つくしの手がかりは何もなかった。
その後、近くの監視小屋から女性用の靴だけが見つかった。
それはつくしの靴だった。
ただ、あの吹雪の中でつくしが自力で監視小屋までたどり着いた可能性は低く、謎だけが残った。
春になり、雪が溶け、夏になってもつくしは見つからず、秋には葬式がひっそりと執り行われた。

つくしを貶めた浅井百合子、鮎原エリカ、山野美奈子への報復は一族末端に至るまで徹底的に行われた。

司はその場で制裁を加えることはせず、帰国後、まずは3人に赤札を貼った。
確実に登校させるため、朝はF4自ら迎えに行き、3人の家族は我が娘がF4に見初められたと勘違いし、快く送り出した。
実際は、つくしの時以上に学園を上げてのいじめが繰り広げられ、3人は身も心も無残に引き裂かれた。
4日目に3人が入院すると、今度は一族郎党への報復が始まった。
3人それぞれの企業は道明寺、花沢、美作から取引停止を言い渡され、西門流に入門していた3人の遠近縁者は悉く破門となった。
これは日本の経済界と社交界からの追放を意味していた。
一家は地獄の底に叩き落とされ、社会の最底辺まで没落した。







それから9年。
司はNYにいた。







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2018.10.29




NY マンハッタン 6月下旬



プップ————

  パッパッパ———


リムジンは5番街通りグリニッチ・ビレッジを、ソーホーに向けて走っている。


「副社長、この後ソーホーのビルでファッション誌「VOGA」の撮影に臨んでいただきます。椿様からの要請ですので、今回は断れません。よろしくお願いします。」
「チッ、姉ちゃんも無理言いやがる。人を当てにして商売してんじゃねーよ。」

司の姉、椿が重要取引先から司に雑誌のモデルを頼まれたのだ。
勝手に快諾してきて、司には事後報告。
日時と場所だけを指定してきた。
それがソーホーのとある雑居ビルだった。



つくしを失った司はしばらく抜け殻となっていた。
心の闇を薙ぎ払うように暴れるわけでもなく、自暴自棄になるわけでもなかった。
ただ、失ったものの大きさの前に絶望し、もう二度と人生に光は感じられなかった。
高校卒業を待たずにNYに渡った。
学園で感じるつくしの残像に耐えきれなかったし、少しでもつくしの近くに居たかった。
例え彼女がその地で永遠の眠りについていたとしても。



「カメラマンは女性で、最近では「VOGA」の編集長リリー・フォールからも目をかけられています。このカメラマンを使うことも椿様から指定されています。」

司はますます機嫌が悪くなった。
女のカメラマンはいつも無駄なポーズを要求してくる上に、必ずその後を誘ってくるからだ。

「なんて名前だ?」
「えーと、エマ・ホワイトです。」
「アメリカ人か?何系だ?」
「そこまでは。」
「ふん」


西田ならそこまで調べていただろうがな。


司は、最近、自分の第一秘書となった真島にまだ満足していなかった。





そのビルは1階がセレクトショップになっており、摩訶不思議なファッションに身を包んだ店員が、昼間から店内で踊っている。
ショップ裏の狭いエレベーターから4階へ上がった。

エレベーターが開くと、そこはワンフロアがスタジオになっていて、6〜7人のスタッフが立ち働いていた。
その中に小柄で、黒いカットソーに黒いパンツの細身の女性が後ろを向いて立っている。
黒い髪はゆるく結われ、ボールペンが刺さっている。

司はその女性がカメラマンだとすぐにわかった。
自分の顔ほどもある大きさのカメラをテストスタッフに向かって構えていたからだ。
どうやらカメラテストをしているようだ。

司に気づいたひとりのスタッフがその女性に声をかけた。
女性が振り向く。
大きな黒い瞳が司を捉えた。


司の息が止まる。


「ま きの・・・」


黒いUネックの長袖カットソーに同じく黒のスキニーパンツ。
黒いスニーカーを履いて、ウェーブのかかった黒髪をボールペンで止めた女は、牧野つくしと同じ顔をしていた。

『Hi!Mr.道明寺。今日のカメラマンをします。エマ・ホワイトです。エマと呼んでください。どうぞお手柔らかに。』

女は黒く大きな目を細め、右手を差し出して笑顔で挨拶した。

司は茫然としていた。
見開いた目は眼前の女に注がれ、驚きのあまり体が動かない。
今見ているものが信じられなかった。

『あの、よろしくお願いします。わたしは道明寺の秘書の真島です。』

真島は固まっている司を横目にして代わりに握手をした。

『Mr.真島、どうもエマ・ホワイトです。』

エマは司をチラッと見やりながら真島が出した手と握手をした。

『はい!Mr.道明寺も、よろしくお願いしますね!』

エマは再び司に向き合って右手を出した。
エマの顔から視線を外せない司は、右手だけを緩慢に差し出した。
その手をエマは掴んだ。

『あら、あったかい手!』

そう言うとエマはニコッと微笑んだ。


牧野だ。この女は牧野だ。


エマの手を掴んだ司は確信した。







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2018.10.30




カシャッ ピィ    カシャッ ピィ   カシャッ ピィ


『すごい!さすがね〜。ただの副社長じゃないわね〜。うーん、イイ男!!』

カメラを構えて司を狙うエマはずっと司を褒めている。
これが彼女のスタイルなんだろう。
被写体を褒めてノせる。

しかし司は複雑だった。
高校時代、一度としてつくしに容姿を褒められたことはなかった。
なぜなら彼女の好みは類だったから。
この完璧な美貌をもってしてもオトせない女だった。

『おい、気持ち悪いから褒めるのやめろ』
『そお?珍しい人ね。褒められるのが嫌だなんて。』

エマはアシスタントとカメラを交換しながら、視線を司に送りクスッと笑った。

ドキッ!

司の心臓が9年ぶりに跳ねた。


生きてたのか。
こいつは間違いなく、あの牧野だ。
俺の細胞がそう言ってる。


司は再会してからずっとエマを目で追っている。


変わらないが、変わった。
綺麗になってる。
大人になった。


『さっきから私の顔に何かついてる?』
『お前、出身はどこだ?』
『カナダのケベックよ』
『ケベック・・・』

そこは司の別荘から東に3000キロも離れた歴史ある都市だ。


見つからねぇはずだ。


『オリエンタル(東洋人)の一家なんて、珍しかったんじゃないのか』
『一家じゃなかったから。父と私の2人家族。』


カシャッ カシャッ ピィ   カシャッ ピィ


『2人?その父親もオリエンタルか?』
『ちがう。彼はフランス系の白人なの。私は養女よ。』

司はますます確信した。


遭難し、記憶を失くし、男の養女となった。
その男は何者だ?




その時、エレベーター到着の合図が鳴った。
中から秘書を伴った美麗な女性が現れた。

『ああ、来た来た。』
『Ms.ホワイト。今日はよろしくお願いしますわ』

女性がエマに笑顔で手を差し出す。

『ええ、こちらこそ。Mr.道明寺のウォーミングアップは上々ですよ。』

2人の女性は司を見ている。
司は女の方を睨み、エマに問いかけた。

『どういうことだ?』
『あら?聞いてないの?今日はこちらのMiss山神とツーショットの撮影なのよ。お姉さんには伝えたんだけど。』
『ツーショットだと!?』


姉ちゃん、わざと黙ってたな!
いや、待て。
それよりもこいつは姉ちゃんと面識があるのか?


『Ms.ホワイト、うちの姉と知り合いか?』
『いえ、顔合わせの時にお会いしたの。』


そうか!だから強引に俺に引き受けさせたのか。
そして山神のことは伏せて。
じゃないと俺は絶対に来なかった。


『撮影は依頼されたが、女性とツーショットは聞いていない。今日は帰らせてもらう。』

そう言うと、司は衣装を脱ぎ捨て、控え室へ向かった。

「司様!お待ちください。お姉さまとの取引なんですのよ。わたくしとのツーショット撮影を条件にカメリアの土地取得に便宜を図ったのですもの。」
「あ?カメリアのことなんて俺が知るか!写りたきゃお前がその秘書と写ってろ!」

司は冷淡な顔つきになり、蔑むような目を山神圭子に向けた。
エマが2人の視線の間に割って入る。

『ちょっと、ちょっと。何言ってるかわかんないけど、喧嘩はやめてよ!』

!!

日本語もわからないのか!?


司の頭から山神は消え、また晒されたエマの秘密で占められた。

『Mr.道明寺、この女性が嫌なの?それとも女が嫌なの?』
『この女だ。取り引きの材料に俺を使うような女の隣に立てるか。』
『ふむ。それもそうね。』
『Ms.ホワイト!これは契約ですのよ!?』
『オーケイ、じゃ、こうしましょう。Miss山神はMr.道明寺とツーショットが撮りたい。Mr.道明寺はMiss山神の隣には立ちたくない。いいわ。離れて立てばいいじゃない。』
『『 は!? 』』
『いいから、いいから。私も仕事なのよ。リリーに頼まれてるから、写真は上げなきゃならない。じゃ、そういうことで。用意して。』
『ちょっ、おい!』

あっと言う間に司は全身を黒でコーディネートされ、山神は白でコーディネートされた。

『はい、じゃあMr.道明寺はここね。で、Miss山神はここ。はーい、始めましょう。』

と言うと手をパンパンッと打ち鳴らし、スタッフたちに撮影開始を知らせた。




スタジオ内には流行りのポップスがかけられ、司と山神は3mも離れて立っていた。
それを前から横からエマが次々と狙っていく。

『Mr.道明寺!視線ちょうだい!それ!』
『Miss山神!顔、ちょっと右!そうそう。あなたすっごく美しいわ!』

相変わらずエマは被写体を褒めながら撮影していく。
次々に要求されるポーズに2人もついていくのがやっとだ。

しびれを切らせた司が上着を放り投げた。

『もういいだろう。十分だ。あとは勝手にしてくれ。』

そう言うと、今度こそ控え室に入っていった。







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2018.10.31




「真島、今日の予定はキャンセルだ。」
「はい。椿さまからも撮影の日には他の予定は入れないように仰せつかっております。」
「姉ちゃんが?そうか。」

わかってるよな。俺が牧野と会ってどうするか。
逃すわけねぇよ。



着替えを済ませた司が真島とともに控え室から出てきた。
そこではエマが今撮影したばかりのデータをスタッフと見比べている。

『これ、それから、これも。あとは、こっちもいいわね。』

その後ろ姿を司はじっと見つめた。


体にフィットしたカットソーにスキニー。
細く長い手足、華奢な肩、両手に収まりそうな腰、9年前よりメリハリのついたボディ。
そして男を誘う白いうなじ。

これがあの牧野か。
あれから9年。26のはずだ。


その時、エマがパッと振り向いて司と目が合った。

『Mr.道明寺。嫌がってた割にはイイ仕事してくれたわ。ほんと、あなたみたいな美しい男には初めて会ったけど、実物は迫力が違うわね。今日はありがとう。Miss山神はもう帰ったから安心して。』

そう言うと、ニコッと笑い、またデータに戻った。

『ツカサだ。』
『え?』

エマがもう一度振り向いた。

『俺はツカサだ。エマ』

それを聞いたエマは今度はニヤリと笑い、

『オーケイ、ツカサ。これで友達ってわけね。いいじゃない、アッパークラスの友達なんて。じゃ、早速飲みに行く?』
『いいぞ。』

その言葉にエマは髪に刺したボールペンを抜いた。
ウェーブのかかった黒い長い髪がファサッと肩に落ちた。
スタジオの隅に掛けてあった自分のジャケットを着ると、バッグを持って歩き出した。

『エマ!この後はどうするのよ!?』

スタッフが叫んでいる。

『ごめーん。こんなイイ男と飲める機会なんてそうそうないわ。あとはよろしく〜。さっきの写真をリリーに送信しといて。』
『もう!』




2人はリムジンに乗り込んだ。
真島は助手席だ。
パーテーションを閉める。

『仕事、よかったのか?』
『ああ、いつもああだから。良い写真は選んだしあとは任せておけば大丈夫。優秀なスタッフだもの。』
『17時か。早いがディナーといくか。』
『まさかグランド・メープルなんて言わないわよね?私の格好で楽しめるところにしてよ。』

そう言うと、エマは両手を広げて服装を見せた。

『フッ、大丈夫だ。いいとこを知ってる。』



リムジンはミッドタウンの日本料理店に入っていった。







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2018.11.01




『ここ?』
『日本料理だ。食ったことあるか?』
『ええ。リリーにご馳走になったことあるわ。箸が難しかったわ。』

本当に何もかも忘れてしまってるんだな。


司はつくしが生きてここにいることが奇跡に思えて仕方がなかった。





部屋は日本の料亭を模した個室だったが、欧米人向けに座りやすさを重視し、掘りごたつ方式になっていた。

『ワーオ、ここって凄いキレイ。本物の日本って感じ。』

エマはキョロキョロしながら、見るもの全てに驚いて感動している。

『座れよ』

司とエマは向かい合わせに座った。

『お前も日系だろ?だったら自分のルーツなんじゃねぇの?』
『うーん、そうなのかな?ツカサから見て私って日本人ぽいの?アジアンだってことはわかるけど、チャイニーズかもしれないでしょ?』
『自分でわからねぇの?』
『そうねぇ、それがわかればねぇ。』
『どうして?』
『うーん、私ね昔の記憶がないの。気づいたらジェフ、ってこれ養父ね。の家にいて、手当てを受けてた。なんでも、雪の山に捨てられてたって。』
『捨てられてた?』
『うん。ジェフもカメラマンなんだけど、撮影で入った雪山で私を見つけたんだって。ジェフのお陰で手足の指は20本、揃ってるんだよね。』

と言ってエマは両手を司の前で広げて見せた。


誰が捨てられてたってぇ?
あの辺一体はうちの私有地だ。
フリーのカメラマンが勝手に入って、許可もなしに撮影してたってことか。
それで牧野を見つけた、と?


『その後はどうした?』
『うん、ジェフに見つけてもらう前の記憶がないから、仕方なくジェフの養女になって、名前も歳もわからなかったから、ジェフが決めてくれて、セカンダリースクールの10年生に編入した。だから今は24歳。』

セカンダリーの10年生!?
おいおい、15歳の扱いじゃねーか。
日本だと中3か。
24歳って、2歳もサバよんでんのかよ。
東洋人は若く見えるからな。


『ツカサは何歳なの?』
『27だ。』
『へー、3つも年上なんだ。』

ちげーよ!本当は1こしか違わねーよ。


『ケベックはフランス語だろ?フランス語も話せんのか?』
『ええ、そうね。学校はフランス語だった。家でジェフとは英語で話してたけど。』

マジか・・・。
これがあの牧野とはまだ信じられない。
俺がドイツ語を話した時に本気で驚いてたヤツなのに。


料理が運ばれてきた。

『うっわー、キレーイ!美味しそう』

エマは顔を輝かせて美しく盛り付けられた前菜を見つめていた。

『でもさ、この箸がね。』

エマは箸と格闘している。

『こう持つんだ。』

司が自分の箸を持って見せてやる。

『えー、難しい。わかんないよ〜』
『ったく』

司は立ち上がり、エマの横で手を取って箸を持たせた。

『まずはペンを持つようにこう、そしてもう一本をここに差し込んで、薬指で支える。』

エマの細い指に自分の指が絡み、司は胸が高鳴るのを感じた。

『ホントだ!できた!よおっし、これを、こうして。パクっ、モグモグ、おいひ〜〜〜!』

エマは牧野つくしがそうだったように、満面の笑みで美味しそうに食べた。

『美味そうに食うな。』
『うん、美味しい!ツカサ、サンクス!』

エマに、いや、つくしに「ツカサ」と呼ばれる度に、司の鼓動は急速に9年前に引き戻された。


すべてを失ったと思った。
9年前の初恋。
幼かった自分。
彼女をもっと大切にすればよかったと、どれだけ後悔しただろう。
それが戻ってきた。
奇跡を起こして。
もう一度やり直せるならば、今度こそ大切に大切にして、もう絶対に傷つけない。
そして、今度こそ牧野を手に入れる。




『記憶、戻って欲しいか?』

食事を楽しんでいるエマに、司は問いかけた。

『うーん、どうだろう。雪山に捨てられる人生ってどんなだろうって思ったら、今が幸せだから別に思い出さなくてもいいかな。』

エマの言葉に司は何も言えなかった。


もとはと言えば、俺が元凶だ。
俺が牧野に赤札を貼らなければいじめられることはなかった。
よって騙されて遭難することもなかった。

その時、瞬間的に司の背筋がゾっと粟立った。

「あれ」を思い出したら、また元の関係に戻るのか?
俺を嫌っていた牧野に?
そして遭難した真実を知ればきっとさらに俺を憎むだろう。
だとしたら、記憶なんて戻らなくていいじゃないか。
これから新しい関係を築いていけばいい。
真っさらなキャンバスに今度は最初から美しい絵を描いていけば。

司は決めた。
記憶に触れるものからつくしを遠ざけよう。
「エマ・ホワイト」として自分の側に置こう、と。


*****


食事が終わり、2人は再びリムジンに乗り込んだ。

『ツカサ、ご馳走さま。ご馳走になってよかった?』
『ああ、俺が選んだ店だ。気にするな。』
『ふふ、じゃあ次は私が選んだ店で飲みましょう。ご馳走するわよ。』

エマは上機嫌でリムジンの車窓を眺めた。

『家はどこだ?』
『ブルックリンよ。送ってくれるの?』
『ああ。でも稼いでんだろ?マンハッタンに住めよ。』
『私なんてまだまだ。やっとリリーから仕事をもらえるようになったのよ。でも今回のあなたとの仕事はビッグチャンスだわ。これが認められれば、いよいよマンハッタン上陸かもね。』
『俺がモデルをやったんだ。認められるに決まってんだろ。』
『そうかも。ほんと、ビジネスマンなんかにしとくのもったいないわ。』

あはは〜とエマは笑った。

『なぁ、・・・男いんのか?』
『何よ?惚れたの?男いるわよ。一緒に暮らしてる。』

呆気なく言ってのけられて、司は目の前が揺れた気がした。

『へ、へー。エマならいると思ったよ。』
『でしょ?ふふ。ま、ステディって言っても、束縛し合う仲じゃないけどね。お互いに夢があるから恋愛に関しては気楽にしようって。ツカサこそ、いるんでしょ?』

エマがチラッと司を見た。

『今はいない。俺の場合、気楽に付き合いたくても相手がすぐに結婚とか言い出すから、面倒になって遠のいてる。』
『あー、ツカサの立場じゃそういうのあるだろうね。うまくいかないよね。そんだけ美しいのに、自由な恋愛ができないなんて、なんていうか、宝の持ち腐れ?』
『おいっ!別に持ち腐れてないぞ。』

エマはまたあはは〜と笑った。


楽しい。
こんなに楽しいのはいつぶりだ?
やはり9年ぶりか。
牧野といる時が、生きてると感じられる時だ。
この身に血が流れ、この心に人への愛情があると感じられる唯一の相手だ。



楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、リムジンはエマのアパートメントの前に着いた。
司がエスコートしてエマを降ろす。

『ツカサ、ここでいいから。今日はありがとう。新しい友達ができてうれしかった。これ、私の連絡先。次はトライベッカの場末のバーにご招待するわ。じゃ、おやすみ。』

エマはそう言うと、司の首を引き寄せ、その頬に頬を寄せチークキスをした。
フランスの文化圏で過ごしたエマにとっては親しくなった友人同士の当たり前のスキンシップだった。
が、されたほうの司は膝から力が抜け、もう少しで崩折れそうになるところを寸ででリムジンに寄りかかって耐えた。
エマはそんな司には気付かず、さっさと踵を返してアパートメントの中に消えていった。

「っはぁぁぁ〜〜〜」

司は手で顔を撫でると、濃かった1日を思って深く長い息を吐き出した。


とりあえず、姉ちゃんに連絡だ。








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2018.11.02
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