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私と壮介にはパパが2人いる。
私の本当のパパは順パパで、ママは悠介パパの妹の悠依ちゃん。
壮介の本当のパパは悠介パパで、ママは順パパのお姉さんの恵伯母さん。
でも悠依ちゃんも恵伯母さんも私達を姪とか甥だと思ってて、それ以上の感情はないみたい。

だから私達にはママはいない。
…はずなんだけど、つくしさんをママって呼んでる。
それは私達を産んで、育ててくれてるから。

つくしママは他の家のママみたいにご飯を作ってくれて、パパたちの帰りが遅いときは一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝てくれたりして育ててくれた。
どちらかのパパが帰ってきたらバトンタッチ。
だけどご飯のことだけはパパたちがいてもママがしてくれる。

ママが本当のママじゃないって聞かされたのは小学校に入る少し前だった。
それがどういうことなのかまだよくわからなかったけど、本当のママじゃないけど、どこにも行かないよって聞かされてそれならいいかって思ったことを覚えてる。

それからだんだんとママが本当のママじゃないっていう意味がわかってきて、うちが他のお家とは違うってこともわかってきた。
他のお家にはパパは一人しかいないし、『パパたちの日』なんてものもない。
それにパパはママとキスするんだって。
うちはパパ同士がしてる。
おやすみ、とか、行ってきます、って言う時なんか。

一度、ママに聞いたことがある。
ママはパパたちとキスしなくて寂しくないか?って。
だってパパたちは私にも壮介にもするのに、ママにだけはしないから。

そしたらママは、寂しくないよ。だってキスしなくても仲良しだもん。って答えた。

それが小学校2年生の時。
4年生になって、10歳の誕生日に、つくしママがママじゃない本当の理由を聞かされた。
パパたちが愛し合ってるから、ママのお腹を借りて私を産んでもらったんだって。
順パパも悠介パパもつくしママも私に会えてとっても幸せだって言ってくれた。
そう言ってもらえてとても嬉しかった。
だから、言ったの。
私も将来、困ってる人がいたら代わりに赤ちゃんを産んであげたい!って。
でもそしたらパパたちもママも困ったような顔になった。
そしてママが言ったの。
「もちろん、それもとってもいいことなんだけど、でも清佳は世界で一番愛してる人の赤ちゃんも産めたらいいね。」って。

そのとき思った。
ママも世界で一番愛してる人の赤ちゃんを産みたかったのかな?って。


そして私が5年生になって、ママが世界で一番愛してた人が現れた。

道明寺さん。

いきなり現れて、次の日にはママの彼氏になっちゃって、その日からこの家で暮らし始めた。
そしてその4ヶ月後には道明寺さんはママと結婚して、ママは道明寺つくしになった。
なぜなら、ママのお腹にはママが世界で一番愛してる人の赤ちゃんができたから。

そしたらいつのまにか道明寺さんを「司パパ」と呼ぶことになっちゃって、正直、戸惑った。
それもこれも、ちょっとお調子者なところがある順パパが司パパを「つかっさんパパ」なんて呼んだせいだ。
それを聞いた壮介まで道明寺さんを「つかっさんパパ」と呼んだのをきっかけに道明寺さんがブチギレちゃって、二人は説教される羽目になった。「似た者親子だな!」って。
それから道明寺さんのことは「司パパ」と呼ぶことが我が家で制定された。






土曜日の今日、学校はお休み。
ゆっくり寝てていいんだけど、私はママを応援するって決めたんだから、できるだけママを助けなきゃ。

ママと一緒に朝ごはんを作ろうとリビングに入った。
そしたら、キッチンで司パパがママにぴったりとくっついてて、私はママに近づけない。
司パパは順パパくらい背が高くて、近くにいると私の視界には入りきらないから顔をよく見たことがなかった。
仕方なくダイニングに座って頬杖をつきながらキッチンの中の二人を眺めた。
ママは最高に優しい顔をしてる。
そして初めてちゃんと見た司パパもカッコいい顔でニコニコしてて、優しそうだった。

二人がとってもお似合いで、幸せそうで、私は・・・・・腹が立った。

ママの一番は司パパじゃないよ。
私と壮介だよ。
教えてあげなきゃ。


「ママ!」

「あ、清佳、おはよ〜!」

「ママ、おはよう。朝ごはん、お手伝いするよ!」

「清佳〜! ありがとう!」

「うん! ママを応援するって決めたもん。女は私だけなんだから何でも言ってね!」

「なんていい子なの〜。清佳、大好き〜」


ママがギュッて抱きしめてくれた。


「司、あっちで座ってて。」


ママが司パパをキッチンから追い出した。
ママの隣は私がキープ。
ふふん、どうだ。



********



入籍して1ヶ月、最近、帰っても部屋につくしがいない。
俺が帰ると、部屋のデスクにメモがある。


『清佳と寝ます。ごめんね。』


11歳にもなって母親と寝るとか赤ん坊かよ。
それを許すつくしもつくしだ。
俺は物心ついた時から一人で寝てたから、気持ちが全くわからない。


清佳が俺に対して対抗意識を燃やしてるのはなんとなく感じてた。

先日のことだ。
いよいよつわりが始まって寝込んでたつくしに何か食べられるものを買ってこようという話になり、5人で近所のスーパーへ。

つくしは何が食べたいだろうか、いや、あいつは何でも美味そうに食うやつだと手当たり次第にカゴにポイポイ入れていたら清佳がいちいちダメ出しをしてきた。
挙句には、


「ママはね、きっとこれが食べたいはずよ。私はママが好きなもの知ってるから。」


と俺に向かって得意げな顔をして見せた。
でもその言葉は悠介によってやんわり否定された。


「つくしは清佳の時はネギがダメになってグレープフルーツばかり食べたがって、壮介の時は飯の匂いがダメになって甘いものばかり食べたがった。今回は何がダメなのか、何が食べたいのかまだわからないからいろいろ買っていこう。」


結局、今回のつくしはコーヒーの匂いがダメになり、肉ばかり食べたがるようになった。
仕方なく家ではコーヒーを控えている。
妊娠て大変だな。

つくしはつわりがひどくなり始めた頃から、清佳といっしょに寝るようになった。
清佳が寂しいから一緒に寝てほしいと言ってくるらしい。
つくしは、


「赤ちゃん返りかも。複雑な家庭だから、寄り添ってあげないと」


って言ってるが、それが甘やかしなんじゃねぇーのか?
付け上がってんだろ。

とにかく、つくし不足だ。
ちょっと体温が高くなってポカポカしてるあいつを抱きしめて寝るのが、俺の秋の夜長の唯一の楽しみなのに。
こう続くとガキだからって容赦しねぇーぞ。


つくしのいない夜は風呂上がりにベランダに出て酒を飲む。
今夜は先客がいる。


「あ、おかえりなさい。」

「よう、珍しいじゃん。お前がこんな時間に起きてるなんて。」


順もグラスを手にベランダから眼下の家並みを眺めてた。


「どうした? なんかあったか?」


順と悠介は俺にとって友達ではない。
かと言って他人てわけでもない。
大切なつくしを長年、預かってもらってた信頼できる隣人って感覚が一番近いか。


「清佳がすみません。司さんに対抗意識燃やしてるでしょ?」

「あー、みたいだな。母親を俺に取られたって感じてるのかもな。」

「でしょうね。この家の中で二人だけの女同士、特別な感情があったんでしょうが、つくしとあなたの強烈なつながりを見て何か危機感が芽生えたんでしょうね。」


順がクッとグラスを傾けた。


「ま、子供のことはよくわかんねぇが、つくしにとっては清佳と壮介が一番だ。俺には入り込めない絆だな。」

「その絆を赤ちゃんに奪われると感じてるのかも。つくしと血の繋がった子供だから。」

「フッ、つくしはそんな女じゃない。俺があいつと一緒にいられたのは再会してからの今日までを含めても1年半に満たない。でもあんたは15年も一緒いるんだ。わかるだろ。」

「ええ、そうですね。つくしはド級のお人好しだ。でもね、司さん、我が子ってのは理屈じゃない。あなたにもわかる時が来る。血ってのは超えられない。あなたの知らなかった幸福の扉を開いてくれる。そうしたらあなたはつくしも子供も独占したくなるでしょうね。ここを出て行きたくなるんじゃないかな。」

「お前も不安になってんのか?」

「はは…そうかもしれません。」

「NYではLGBTのカップルが代理母に子供を産んでもらうって話はよく聞いた。でもほとんどの場合は子供を代理母から引き取ってカップルだけで育ててる。あんたと悠介はなぜそうしなかった?」

「・・・条件だった。“ 産んだ後も共に暮らす ” つくしが出した条件だ。」

「つくしが?」

「つくしからこの15年のことは?」

「まだ。」

「そうですか。あなたに俺たちの15年を知ってもらう時が来たみたいですね。」









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2019.04.13




俺はベランダに立ったまま、つかっさんに俺たちとつくしの歴史を語り始めた。



**



あれは大学2年の初夏だった。
俺は同じ野球部の仲間だった悠介に恋をしてた。
でも、まさか自分がゲイだと打ち明けることもできず、ただの男友達、仲間として過ごしてた。
当時の悠介には彼女がいた。
だから俺は悠介は完全にストレートだと思ってた。


ある日の練習終わりのことだった。
部室で男だけになれば女の話で盛り上がる。
何学部の何とかっていう女が可愛いとか、あの店の店員はソソるとか、バカっ話だ。
その時、悠介が呟いた。
「牧野つくしっていいよな」って。



**



「悠介がつくしを?」

「ええ。本当にボソッと呟いたんです。」



**



それが真に迫ってた。
悠介は牧野って女に本気になってんだと思った。
その時、メラメラと嫉妬の炎が上がった。
じゃあ、俺がその牧野って女をモノにしてやろうと思った。

本意じゃないが、俺は女にモテる。
きっとその牧野も俺が本気になって落としにかかれば落ちると思ってた。
そしたら悠介も俺に一目置くだろって。
それから俺は牧野を探した。
俺がいたのは運動部で活躍する奴が多く在籍する人間総合学部。
悠介は法学部。
対して牧野が在籍してたのは大学の中でも花形の、経済界に多くの著名人を輩出してる経済学部だった。

俺は場違いなその学部内をウロついて、牧野つくしを探した。
悠介が惚れるんだから、きっと華やかな美人だろうと思った。
何人にも牧野を知らないかと尋ねたが、知ってる奴は誰もいない。
本当にここにいるのかよ、って思って最後にカフェスペースに入った。
午後3時。営業は終わってて、談笑してる学生がチラホラ。
その中で一人でポツンと座ってる女がいた。
地味な身なりで、女子大生らしい華やかさなんて微塵もない。
参考書とにらめっこしながらノートに覆いかぶさるように勉強してた。
そいつに牧野のことを聞こうと思って近寄った。
「おい」って、声をかけたら、その女は顔を上げて俺を見た。
その瞬間、俺はそいつの瞳に吸い寄せられた。
女として惹かれたわけじゃない。
ただ、その女の瞳が強かったんだ。
夜の海の底のような闇をたたえながら、同時に、燃えるような光も宿ってた。
強い、強い、瞳だった。


「牧野つくし知らない?」

「あたしだけど。」

「そっか。」

「なんか用?」

「座っていいか?」

「ご勝手に。」


牧野はまた勉強に戻った。
俺はそれから2時間、牧野の勉強が終わるまでじっと座ってた。


「帰るけど、なんの用だったの?」

「俺のニセ彼女になってくんない?」


俺は騙して落としてやろうと思ってた女に、気づけば正直に話してた。
こいつを落とすなんて無理だと悟ったんだと思う。


「なんでニセ?」

「女、無理だから。」

「なんで彼女?」

「必要だから。」

「なんであたし?」

「お前じゃないと意味ないから。」

「女は好きじゃない?」

「ああ、好きじゃないな。」

「わかった。それならいいよ。」


これが俺とつくしの運命の出会いだった。



**



「それからどうした?」

「気になります?」

「ニセでも許せねぇな。」

「すみません。」

「続けろ。」



**



それから俺たちは毎日会った。
牧野は勉強とバイトの日々。
俺は練習の日々。
間隙を縫って俺が牧野に会いに行ってた。
ただの地味な女かと思ってたら、牧野は面白い女だった。
俺をイジってくることも、俺に媚びてくることもない。
俺なんて完全に眼中にないって様子で一生懸命に生きてる。
いつしか、俺は牧野の前で自然体でいられることに気づいた。
女の前で構えなくていいのは初めてだった。

俺が甲斐甲斐しく女のもとに通ってるって話はすぐに仲間内に広まった。
周りは勝手に、俺に彼女ができたんだと思い込んだ。
ある日、悠介が話しかけてきてくれた。
俺に彼女ができたって知って、紹介しろと言ってきた。
紹介することを名目にして、俺は初めて悠介とサシで会った。

昼間は牧野がバイトだと言って、夜に合流することになった。
その日のことは牧野と打ち合わせてた。
お前に会いたいって奴がいるから、遅れて来いよって。
待ち合わせの時間まで悠介と二人で過ごした。
楽しかった。
こんなに楽しかった時間は初めてだった。

待ち合わせ場所は飲み屋だった。
先に入って悠介と飲んでた。
知れば知るほど好きになる。
でも好きになればなるほど、遠くなるような気がした。
悠介にとっては俺はどこまでもダチだったから。

そこに牧野が来た。
彼氏と会う設定なのに、いつもの地味な様子で化粧っ気もなくて、少しは気を遣えよ、お前女だろって舌打ちしたくらいだった。


「よっ!」


牧野は軽快に声をかけてきた。


「よっ! 悪かったな。こっち座れよ。」


一応、俺は彼氏だ。
ストレートのフリしなきゃならない。
上手くできてるか? と思いながら、自分の隣を指して手招きした。
悠介は現れた俺の彼女が牧野だって知って驚いてた。


「お前の彼女って牧野つくしかよ。」

「ああ。どうした? お前も狙ってたか?」

「いや・・・」


悠介は俺から顔を背けた。
その時、チクリと罪悪感が胸を刺した。

牧野は俺の隣に座って、向かい側に座る悠介に頭を下げて挨拶した。


「はじめまして。牧野つくしです。」


その時の悠介を俺は忘れないと思う。
悠介も顔を上げた牧野の瞳に見入ってた。
でもそれはポーッとした男が女に浮かれるような目じゃなく、痛ましいものを見る目だった。


「初めてじゃないよ。会ったことあるよ。」


気を取り直した悠介が牧野に話しかけた。


「え? いつ?」

「去年の学祭。法学部のブースに来た時。」

「あ、そうなんだ。」

「牧野はいつも勉強一筋らしいな。まさか彼氏いるとは思わなかったよ。」

「ああ、まあね。秘密主義だから。」

「で、順のどこがいいわけ?」


悠介の唐突な質問には俺の方がビビった。
そんなこと、打ち合わせてなかったから。
でも牧野はスラスラと答えた。


「苦しんでる姿を見せないとこ。」

「苦しんでる? 順が? プッ」

「おい、牧野!」

「情熱を秘めてるとこ。」

「見せなかったり、秘めたり、順は彼女に隠し事ばっかかよ!」

「牧野、何言ってんだ!」

「人を、心から愛せるところ。」

「牧野!」


牧野はずっと悠介の目を見てた。
悠介も牧野から目を逸らさなかった。



この夜から、悠介は俺に頻繁に牧野に会わせろと言ってくるようになった。
終いには牧野に直接、会いにくるようになった。
俺は嫉妬した。
悠介はそんなに牧野がいいのか、と。
あんな、地味で女らしさも色気もない、ただ強烈な瞳だけを纏ったような女のどこがいいんだって。
でも、俺は結局、そんな牧野を利用するしかなくて、牧野と一緒にいれば悠介とも一緒にいられる。
結果、俺たちはいつも3人でつるむようになった。









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2019.04.14




つくしがベッドにいない夜に始まった順の昔話。
手許のグラスはとっくに空になっている。
でも俺は話の腰を折りたくなかった。
そのまま、順の話の続きを待った。


「で、それから?」

「あれは秋季大会の壮行会が、とあるホテルで開かれた時だった。」



**



それまでの数カ月を3人で過ごすうちに俺と悠介はすっかり仲良くなった。
一緒につくしに会いに行き、バイトだと追い返されて、だったら暇潰しだって二人で過ごすことも増えて、俺は密かにつくしに感謝してた。

そんな時だった。
壮行会が終わっても帰り難くて広いロビーの柱にもたれて悠介と話してた。
そこへエレベーターが到着して、中からパーティー帰りと思しき男女が降りてきた。
男は見たことないほどの美男子。
サラサラとしたストレートの髪で、目は茶色だった。
背も高く、ブラックタイのタキシードがよく似合ってた。
俺はついつい男の方に見惚れた。
そしたら悠介が呟いた。
「つくし…」って。
ハッとして女の方を見た。
そこにいたのは、俺たちが見たことのない美しいつくしだった。

絶句した。
唖然とした。
いつもの地味で色気のないつくしじゃなくて、パーティードレスに華奢な身を包み、普段出さない白くて折れそうな細い腕を出して、初めて見るスカート姿からは綺麗な脚がスラッと伸びてた。
そしていつもは一つに結んでるだけの黒髪を結い上げ、滑らかな肌を彩る化粧は彼女の特徴である瞳をさらに印象付けてた。
とにかく、その美男子ととてもお似合いだった。

通り過ぎるつくしに声をかけていいのか迷ってると、悠介が声をかけた。


「つくし!」


つくしと美男子が振り向く。


「悠介…順も…どうしたの?」


悠介はつくしに歩き寄った。
俺も慌てて追いかけた。


「つくし、お前こそ何でこんなとこにいるんだ!?」


悠介は怒ってた。
好きな女が知らない男といて、しかもすげー綺麗になってるからだと思った。


「あ、えーと、」

「牧野、この人たちは?」


美男子がまるでビー玉みたいに透明感のある瞳で俺たちを見た。
間近で見るとすごい迫力だった。


「あ、大学の、あー…彼氏と友達。鳥飼くんと高山くん。」

「ああ、話してたね。」


俺はヤバイ! と思った。
つくしは俺に気を遣って「彼氏」って紹介してくれたが、この美男子こそつくしの本命なんじゃねーかって。


「あ、二人とも紹介するね。こちら花沢さん。あたしの高校時代の先輩。」

「初めまして。」


花沢さんはクッと笑んだ。
その美男子ぶりに俺はまたポーッとなっちまった。


「つくし、今日は何してたんだ?」


だが、悠介はつくしから目を離すことなく、怒りも収まってなかった。
何故かつくしに攻撃的になってる。


「今日は、」

「僕がパーティーのパートナーをお願いしたんだ。ね、牧野。」


花沢さんがつくしの顔を覗き込んだ。
そしたらつくしが顔を赤くした。
俺はますますマズイと思った。
早くつくしを逃がしてやらなきゃって。


「俺たちは野球部の壮行会だったんだ。じゃ、もう帰るから、つくし、またな!」


俺は悠介の腕を引いて歩き出した。
この時、俺はつくしに俺のニセ彼女を演じてもらってることなんて頭からすっぽり抜けてた。
とにかく、この場を離れなきゃってことだけだった。

ホテルを出て駅に歩き出した。
悠介が腕を振り払って立ち止まった。


「どうした?」

「お前、どうしたじゃないだろ! 自分の女が他の男といるのになんで怒んねぇんだよ!! なんであの男と残してきたんだよ!!」


今度はこっちのヤバさに気づいた。
そっか、本物の彼氏ならああいう時は怒るよな。


「そ、そんなのみっともねーじゃん。ああいう場面では余裕こいてスマートに立ち去るのがオトナのオトコだろ。」


俺は悠介の目を見られずに、やや視線を落とすしかなかった。
その俺の耳に、悠介の低い声が届いた。


「…お前、本当につくしが好きか?」


ギクッ


「なーに言ってんだよ! 好きに決まってるだろ!」


友達として、だけどな。

なんとか取り繕って帰りたかった。
でも悠介はそれでもまだ立ち止まったままだった。


「・・・順、つくしのこと、どこまで知ってる?」

「どこまで?」


それはあれか?
恋のABCのことか?
えーと、キスはしたことあるけど、



**



「おいっ!!」

「え?」

「キスのくだり出てきてねぇーぞ! いつしたんだ!!」


ヤベェ・・・つかっさん、怒りモードだ。


「あ、えーと、試してみるかって。」

「ああ?」

「本当に女がダメか試そうってことになって。」

「つくしで、か?」


ひぇぇ〜〜〜
目が据わってる〜


「は、はい。」

「その話を先にしろ。」

「あー、えー、」



**



あれは付き合って2ヶ月経った夏休み、世間は盆休みってやつだった。
悠介は親の地元に墓参りに帰ってて、久しぶりにつくしと二人で飲んでた。
バーなんだけどクラブっぽくもあって、流行の音楽がなかなかの大音量で流れて後ろでは踊ってるヤツもいる。
そんなに畏まった雰囲気じゃないとこで、カウンターに並んで座ってた。

つくしは結構、酒に強い。
なのにこの日はすぐに酔っ払って、珍しくニヘラニヘラしてた。
そしたら唐突に、本当に唐突に俺の耳元で言った。


「順て恋愛対象が男?」


一瞬で酔いが覚めた。
咄嗟に取り繕う言葉も出なかった。
だって、つくしがそのことに気づいてるなんて思わなかったから。
返事が出来ずに俺が黙ってるとまたつくしが言い出した。


「わかるよ。悠介のことが好きなんでしょ?」



**



「つくしが?」

「はい。」

「あの鈍感が服着て歩いてるみたいなあいつが?」

「はい。」

「ふーん。」



**



いつの間にバレてたんだと焦った。
ニセ彼女はやめるとか、もう会わないとか言われるのかと構えた。


「応援してるから。あたしにできることあったら協力するよ。」


そう言ってつくしはあの大きな瞳を細めて、優しく微笑んだ。

俺は、長年の抑圧状態と夏の暑さと酒の不味さとつくしの眩しさで、意識が朦朧としてた。
もう何が何だか、世界はどうなってんのか、混乱状態だった。


「だったら、俺が本当に女がダメなのか、試させてくれよ。」

「は?」

「キスしていいか?」

「はぁ〜?? 何言ってんの!?」

「協力するって今言ったじゃねーか。」

「試すことになんの意味があるの? 女とキスできたとして、それであんたは女を好きになれんの?」

「芽生えるかもしれねーじゃん。」

「逃げたいんでしょ。」

「ああん?」

「苦しくて苦しくて、逃げ出したいんでしょ。自分じゃない自分になれれば楽になれるんじゃないかと思ってるんでしょ!? 甘えんじゃないわよ! そんな簡単に逃げられたら誰も苦労しないっての!」


カッとした。
この、いつも澄ました女をどうにかやり込めたかった。
俺はつくしの後頭部を引き寄せて、強引にキスをした。



**



・・・・夜風じゃない冷気が隣から漂ってくる。
いやいや、あなたが聞きたがったんでしょ・・・・
うおっ、目が光ってるし! 野獣がいる!



**



暴れるつくしを押さえて、さらに深くしていった。
でも増すのは生理的な嫌悪感ばかりで、最後は俺の方がたまらずに突き飛ばすように離れた。


「「ッハァ、ハァ、ハァ、」」


つくしは怒りでギラギラと燃え上がる瞳で俺を睨んだ。


「下手! この、素人!! その程度で女にキスしようなんて100年早いのよ!! 好きな奴と練習してから出直せ!!!」


そう言ってつくしは店を飛び出していった。



**



「後からわかったけど、あの時、あなたのスキャンダルが日本を騒がせてた。つくしはヤケ酒だったんだ。」

「・・・・・」

「あの日、あなたが初めてうちに来た日、つくしがあなたのキスはプロのキスだって言った。俺の時とは違う、女の顔をしてた。あのつくしのあんな顔見たことなくて、つくしの本物の相手はやっぱりあなたなんだと思った。」

「あいつにあの顔をさせられるのは俺だけだ。」

「ですよね。今ならわかります。」

「…話、戻していいぞ。」



**



悠介につくしのことをどこまで知ってるんだと問い詰められた。


「あー、キスはしたけどな。」


試してダメだったけど。


「そういうことじゃねぇーよ! お前は、つくしの歴史をどれだけ知ってんだって言ってんだ!」

「歴史?」


つくしの歴史??
・・・なんも知らねぇーな。


「その顔は何にも知らないだろ。」

「そう言うお前はなんか知ってんのか?」

「……お前、F4って知ってるか?」

「えふふぉー? なんだ、そりゃ。」

「フッ、お前は中学高校と野球小僧だったからな、知らないか。英徳学園高等部、いや、英徳学園のリーダー集団だ。4人の男子で構成されてて花の4人組で“ F4 ” 。容姿端麗、文武両道、4人とも日本を代表する名士の息子たちだ。」

「なんだそりゃ、そんな男どもがいるのかよ。少女漫画の王子様じゃあるまいし。」

「さっきの花沢さん、あの人もF4の一人だ。あんなのがあと3人いるんだ。」

「マジかよ……でも、そんな派手な集団のメンバーとつくし?……高校の先輩って……つくしも英徳か?」

「ああ、そうだ。あの金持ち学校出身だ。」

「じゃあ、あいつも金持のお嬢なんか? だとしたら何のためにバイトしてんだ?」

「お前…! 彼氏だろ! 本人に聞けよ!」

「悠介、お前はなんでそんなに詳しいんだ?」

「……学部に英徳の奴がいるんだよ。そいつがベラベラと喋って教えてくれた………」

「お前、それでつくしのこと知ってたのか。」

「俺のことはいいんだよ。とにかく、お前は自分の女のことを知らなさすぎだ。もっと話せよ。」


それだけ言うと、悠介は駅に向かって歩き出した。
悠介が何にそんなに怒ってんのか、わからなかった。









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2019.04.15




翌日から悠介は俺を避けるようになった。
もう、つくしのところにも来なくなった。


ある日の昼時、中庭の芝生の上でひとりで弁当を食ってたつくしを見つけて声をかけて隣に座った。


「順、悠介は?」

「わかんね。避けられてる。はぁ…」

「なんで告白しないの?」

「…お前はいっつも唐突なんだよ。告白なんてできるわけねぇーだろ。あっちはストレートだ。」

「でも、順、もうこぼれてるよ。」

「え! ダダ漏れてるか?」

「うん。悠介見る目が優しすぎ。」

「・・・それが原因で避けられてんのか? ハァ…」

「あー、そういえばさ、この前の花沢さんは別に本当の彼氏とか、片思いしてる人とかじゃないからね。友達だから。」

「あそこまでのイイ男を友達と言い切れるお前ってすげーな。あの人、英徳のF4だったんだろ?」

「え、なんで知ってるの!?」

「悠介が教えてくれた。お前って英徳だったんだ。お嬢かよ。」

「お嬢じゃないよ。ど庶民。たまたま紛れ込んじゃったの。分不相応な世界で苦労したよ。」

「ふーん。ま、だろうな。お前見てたらわかるわ。」

「でしょ。」

「だったらなんでF4と知り合いなんだよ。益々、謎じゃん。」

「・・・んと。なんでだろうね。」


つくしは遠い目をした。


「この前、すっげ綺麗だったじゃん。お前は磨けば光る。もったいないよ。もっと磨けよ。」

「フフ、何のためによ。誰のためによ。順も悠介もあたしが綺麗になろうが地味子なままだろうが関係ないでしょ? それがいいんだよ。」

「お前ってさ、好きな男とかいないの? ま、俺が言うのもおかしいけど。」

「・・・いるよ。」

「え! いるのかよ! 誰だよ! ってか、じゃ、なんでニセ彼女なんて引き受けたんだよ! マズいだろ。」

「あたしの好きな人はね、あたしのこと、綺麗さっぱり忘れちゃったの。」

「は? 忘れた? なに? なんで?」

「んー、なんでだろ。わかんない。生死の境を彷徨って、意識が戻ったらあたしのことだけ忘れてた。記憶障害だって。いつか思い出すかもしれないし、一生、忘れたままかもしれない。」

「ちょ…待て、そのお前の好きな男ってまさか恋人だったんじゃねーよな…」

「恋人なんて言葉はくすぐったいね。でもあたしを凄く大切に想ってくれたかな。」

「両想いじゃねーか! なのにそいつはお前のことを忘れたってのか? 何もかも? 全く思い出さなかったのかよ!」

「うん。類の、あ、類って花沢さんね。類の女だと思われて追い返された。挙句は他の子を彼女だと思っちゃった。」


つくしの瞳に宿る闇の正体がやっとわかった。
でも俺はつくしよりつくしを忘れた男が可哀想でならなかった。
奇跡が起きて、悠介が俺を好きになってくれたのに、その悠介を俺が忘れるようなもんだろ?
残酷すぎねーか?
そんなのありかよ。


「……………ありえない…マジ、ありえない…そいつが哀れすぎる…」

「順…?」

「俺はこんな残酷な話は聞いたことがない。すっげぇ愛した恋人を忘れたんだろ? いつか思い出すかもしれないんだろ? でも、いつ思い出すかわかんねーんだろ? やめてくれ、俺なら思い出したくない。そのまま死にたい。思い出した時、あれほど愛した相手が他のヤツのもんになってるかもしれねーんだろ? もしかしたら死んでるかもしれねーんだろ!? 耐えられない…そんなの耐えられない。忘れられたお前も辛いかもしんねーが、でもお前は覚えてんだろ? じゃあ、お前はそれでいいじゃねーか!」


つくしは大きな瞳をさらに見開いて俺に向けてた。
俺も喰い付かんばかりにつくしを見据えてた。
そしたらつくしの目からポロポロと涙がこぼれ落ち始めた。

俺は女の涙に強い。
あんなもんは女の演出方法のひとつだと思ってる。
昔の歌手がスモーク焚くのと変わりない。
だが、この時のつくしの涙だけはキレイで、芝生にこぼれてしまわないように自分の胸に閉じ込めた。


「つくし、つくし、泣け。お前にはそれが足りねーんだ。どんどん、ガンガン、泣け!」

「うっ、うう、わぁーーん、バカバカバカッ! 道明寺のバカ! なんで忘れたのよ! 戻ってきてよ! 早く、戻ってきてよぉ! わぁぁん」


それからつくしはずっと泣いてた。
俺のシャツが涙でビシャビシャになって、鼻を擤むポケットティッシュも底をついて、瞼が腫れて開かなくなるまで、ずっと泣いてた。




「スッキリしたか?」

「ん。ありがと。」

「授業だろ? 大丈夫か?」

「もう今日はフケる。そんな気分じゃなくなっちゃった。なんか、パーッと遊びたい気分。」

「行くか!」

「おう! 悠介も呼ぼうよ。」

「それはいい。」

「なんでよ。」

「もういいんだ。無理やり関わってもいいことなんてない。今くらいの距離が丁度いいんだよ。部で会えるし。」

「ふーん・・・」


それから俺たちは街に出てゲーセンに入ったり、カラオケで絶叫したり、銀座を冷やかしながら歩いたり、その日を伸び伸びと楽しんだ。
お互いにもう秘密はなくて、俺は初めて親友ができたような高揚感があった。
でも、それは側から見ればデートだったと思う。


夜になって飯食おうってことになって、また大学周辺に戻ってきた。
いつも安くて大盛りにしてくれる親爺さんの食堂を目指してた。
そしたら悠介が彼女と腕組んで歩いてるとこに正面から鉢合わせた。


「悠介…!」

「つくし……順…」


好きなヤツが恋人と歩いてるとこ見て嫉妬しない奴なんていんのか?
俺は瞬間的にカッときた。


「はは…友達と会う時間を削って女に費やすとか、お前って案外、軟弱だったんだな。」


俺は自分だって女連れなのに、意味不明な理論で悠介を責めた。
俺にそんな資格はないのに。


「お前こそ、女、連れてんじゃないか。」

「あのさ、悠介、順も、今度でいいからちょっと話せない? 私の話もちゃんとしたいからさ。」


つくしが仲裁に入ったその時だった。
悠介の腕にぶら下がってた女がつくしを蔑むように言った。


「あなたが牧野つくしさん? プッ、噂通り地味なんだ。私の悠介が仲良くさせてもらってるらしいですね。いつもお世話かけちゃってごめんねぇ。でも噂が立ってますよ。野球部の男子を二股かけてるって。地味なくせに体使ってんじゃないかって。あ、私はそんなの否定しときましたけどね。気をつけたほうがいいですよぉ。」


つくしが陰でなんて言われてるかなんて全然知らなかった。
俺のせいなのに、俺のためにこいつは付き合ってくれてんのに。
さっきの嫉妬なんて比じゃないくらいの怒りが湧き上がった。


「テメェ!」

「…帰れ…」

「「「 !? 」」」


悠介が女から腕を抜いて、女の正面に立った。


「聞こえなかったか? 俺の大事な友達を侮辱したんだ。それだけの覚悟だろ? 今別れる。お前みたいな女、俺は大嫌いだ。帰れ!!」


俺もつくしも驚いた。
これまで悠介はフェミニストだった。
女に対して高圧的なとこなんて見たことなかった。

固まる女を残して悠介は歩き出した。
俺たちは悠介を追った。


「悠介! あたしのせいでごめん。彼女、きっとただのヤキモチだよ。ここ最近、あたしたち3人でいることが多かったから。」


早足の悠介を追いかけながらつくしが言った。
こいつはバカが付くお人好しだなって思ったけど、今はそれどころじゃない。
そうしたら悠介は立ち止まって振り向いた。


「お前らこそデートだったんだろ? 俺のことは放っておいてくれ。」


そしてまた立ち去ろうとしたから、俺は悠介に近寄ってその肩を掴んだ。


「待てよ。話があんだよ。一緒に飯食おうぜ。」

「・・・・」

「うん、そう、そうだよ。あたしたち二人とも悠介に話したいことがあるの。ね? 行こ?」


俺たちは行き先を変更して、個室のある居酒屋へ向かった。








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2019.04.16




3人で居酒屋の座敷の個室に入り、注文した酒と料理が運ばれてきた。


「おつかれー」

「おう」

「…ああ」


4人掛けの掘りごたつ式の座卓に俺とつくしが隣り合って座って、目の前に悠介がいた。
掲げるだけの乾杯をして飲み始めて、俺もつくしもどこから何から話していいのか思案してた。
そしたら悠介が口を開いた。


「やっぱ俺、お邪魔だよな。これ飲んだら帰るから。」


俺とつくしは目を見合わせて、俺から先に話すことを通じ合わせた。


「あのさ悠介、俺たち、付き合ってないんだわ。嘘ついててごめん。」


俯き加減だった悠介は顔を上げた。


「は?」

「俺とつくし、最初から友達なんだよ。」


つくしもコクコクと頷いてる。
そんなつくしと俺を見比べるように悠介がキョロキョロとした。


「お前がさ、前に言ったろ。「牧野つくしって良いよな」って。それで興味出てさ、探したんだよ。お前が好きになる女ってどんなかな? って。そしたらこいつ地味だし、勉強とバイトしかしてねーし、ますますわかんなくなって、何度も会いに行ってるうちに周囲から彼女だってことにされててさ。後に引けなくなっちまって・・・。嘘ついててごめん。」


俺は座ったまま頭を下げた。
こいつの好きな女、横取りしたようなもんだもんな。


「…マジかよ…」

「うん! マジマジ。あたしも友達だとしか思ったことないし。でも順だけが悪いんじゃないから。あたしも悠介にわざわざ本当のこと言う必要ないかなって思っちゃったから、だから怒るならあたしにも怒ってよね。」


つくしは、マジでお人好しだった。
全ての元凶は俺なのに、本当なら悠介と一緒に俺に怒っていい立場なのに、俺と一緒に怒られてくれるって、お人好しが過ぎるだろ。

俺たちの告白を聞いた悠介はしばらく固まってたが、おもむろにグラスを置いた。


「・・・・・つくしがF4の道明寺司の彼女だったことは知ってた。」

「えっ!!」

「F4…道明寺って、道明寺ってF4なのかよ? それでお前はこの前「F4って知ってるか」って俺に聞いたのか?」

「ああ、そうだ。順がつくしの彼氏としてつくしのことをどれほど理解してるのかわからなかったから。」

「お前は、どこまで知ってんだ?」


俺もつくしも固唾を飲んだ。


「きっと、全部知ってる。俺は中学の時からF4のファンだったんだ。」

「ファン…て…」


待て、F4って男ばっかだよな?
男の集団のファンだったのか?
ストレートでもそういうことあるんだな。
女が宝塚好きみたいなもんか?
ああ、あれか、オッサンどもが矢沢永吉好きみたいなもんか。
違うか??


「と言っても時々掲載される雑誌を見るくらいだった。あれは俺が高2の時だ。つくしも高2。道明寺司とつくしの記事が世間を騒がせたことあったろ。天草清之介とバトルになったって。あの時だ、つくしのことを初めて知ったのは。」

「ああ、そんなこともあったっけ…」

「F4のリーダー、ひいては英徳学園の王で日本で一二を争う財閥の御曹司。そんな男が惚れる女ってどんなかと思ったら、とんでもない貧乏長屋に住んでてさ。シンデレラガールって騒がれたよな。」

「あー、忘れもしないわ。あの時は本当に迷惑だった。」

「そしたらつくしがティーン・オブ・ジャパンに出てきてびっくりした。」

「お前、ティーン・オブ・ジャパンまで見てたのかよ。」

「あたしの黒歴史だから忘れて欲しいんだけど。」

「・・・・んで、準優勝してさ。二人は順調なのかと思ってた。そしたら道明寺さんが拉致られたって騒動になって、それからのことは知らなかった。学部のヤツが話してるのを聞くまでは。」


“ あの貧乏女さ、道明寺さんに忘れられて棄てられてやんの。身の程知らずだったんだよな。 ”


「んだよ、それっ!」

「順、いいから。」

「同じ大学にいるとは知らなかった。俺も興味が出てつくしのことをちょくちょく見に行った。学祭で初めて会ったってのは嘘。その前から知ってた。」


やっぱり悠介はつくしが好きだったんだ。


「噂通りの、金持ち男に媚びを売る女なのか? そんな女にあの道明寺司が惚れるか? と思いながら探したら、つくしは誰よりも地味で、誰よりも勉強してて、誰よりも一生懸命生きてた。」

「フッ、他にすることがないだけだよ。買いかぶりすぎ。」

「紹介された時、順の彼女がつくしで驚いた。お前はまだ道明寺さんを想ってると思ってたから。いや、そう思いたかった。もしかして忘れるために順を利用してんのかとも思った。」

「悠介、こいつは、」

「順、待って。」


身を乗り出した俺をつくしが制した。


「想ってるよ。今でも好きだよ。だから順と友達になった。順ならあたしを女として見ないと思ったから。」


悠介がつくしのあの強い光の宿る瞳を見た。
二人は見つめ合った。
俺は見てられなくて顔を背けた。


「じゃ、俺とも友達になれるね。」

「ん。」


つくしの穏やかな声が聞こえた。
きっとニッコリと微笑んでんだろう。

悠介はつくしを諦めるつもりだ。
好きなヤツを諦めることなんてできるのか?

俺は顔を背けた先にあった壁紙の模様を目でなぞりながら思った。










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2019.04.17
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