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2019.03.30
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2019.09.19




 恋人がサンタクロース
  本当はサンタクロース
  つむじ風追い越して
  恋人がサンタクロース
  背の高いサンタクロース
  雪の街から来た


  あれからいくつ冬がめぐり来たでしょう
  今も彼女を思い出すけど
  ある日 遠い街へとサンタがつれて行ったきり



いつもママは機嫌が良いとキッチンで明日のお弁当のおかずを作りながら歌を歌う。
美声というわけじゃないけど、ママの歌はいつもどこか私を安心させてくれる。

私、道明寺瀬里、10歳。
小学4年生。
家族はパパとママ、それと、

「ねえちゃん!」「ちゃん!」
「えっ」

キッチンのママが見えるダイニングテーブルで宿題をしてた私の背後からヒョコッと顔を出したのは一卵性双生児の弟たち、誠と実。
5歳の2人は幼稚舎の年中さんだ。

「恋人ってなんだ?」「なんだ?」
「恋人ってのは好き同士で付き合ってる人のことよ。」
「好きどうし?」「好き?」
「そう。パパとママみたいにいつも相手を大好きって思ってる人たちのこと。」
「マコトとママとか?」「ミノルとママとか?」
「それは親子。恋人は他人だけど好きな人なの。」
「ふーん。」「ふーん。」

それだけ言うと2人はリビングを出て廊下を駆けて行った。
そこに内線がかかった。

「はい。」

ママが出る。

「はーい」

高い声はパパがもうすぐ帰ってくる知らせの証拠だ。

「瀬里、」
「うん、行く。」

パパが帰ってくる時は使用人も含めて一家総出でお出迎えする。
エントランスに並んで、みんなで「おかえりなさい」って迎えると、車から難しい顔をして降りてきた時もパパは笑顔になってくれる。

「誠と実は?」
「廊下に出てったからあっちで揃うと思うよ。」

私の言葉通り、並び始めた使用人の列の中に二人も混ざっていた。
そのうちにポーチに車が入ってきて、パパが降りてきた。
執事が開け放った扉からエントランスに入ってきて、私たちを確認したらほらね、笑顔になった。

「「「おかえりなさいませ」」」

居並ぶ全員で挨拶をする。
そしたらパパはまず最初にママに歩み寄ってその額にキス。
そして次に私の頭にもキスをしてくれて、誠と実には頭をクシャッと撫でる。

「パパ、俺にもチューして!」「して!」
「男にはしねぇよ!」

こうしていつも2人のガキンチョに纏わり付かれながら部屋に向かうのがパパの日課だ。

パパは本当は忙しいんだけど、家族の時間も大切にしたいからって私たちに合わせて帰ってきてくれる。
そして私たちが寝てから書斎で仕事をしてるんだって。

パパが帰るとダイニングで夕食。
お弁当はママが部屋のキッチンで作るけど、普段の食事は邸のシェフが作ってくれる。
それを8人掛けのテーブルに5人で座っていろんな話をしながら食事をする。

「それで、3人はサンタに何を頼むのか決めたのか?」

もうすぐクリスマス。
この時期になるといつもパパは尋ねてくる。
だけどママにパパには前日にならないと話しちゃダメって言われてる。
パパに話したらサンタさんより前にパパがプレゼントしてくれちゃうから。
そしたら用意してくれてたサンタさんが困っちゃうからって。
同じものを2つはいらないものね。

「ううん、まだ。ギリギリまで悩むんだ。」
「悩まなくてもいいだろ。欲しいものは全部頼めばいい。」

これもママからはひとつだけって言われてる。
じゃないと、世界中の子供達にプレゼントを配るサンタさんのソリがいっぱいになっちゃうからって。

「うん、サンタさんに頼めなかったものはパパにお願いするね。いいでしょ?ママ。」

ママを見ると困った顔をしてる。
でもパパと一緒にお願いって顔をして見せるとため息をついた。
ママは私とパパの『仔犬みたいな表情』に弱い。
もともとはパパがこの技を編み出したんだけど、パパ似の私でも通用する。

「ハァ…わかったわよ。だけどひとつだけよ。」
「うん! ありがとう、ママ、パパ。」

クリスマスにはNYのおじいちゃまやお祖母さま、そしてLAの椿伯母さまや牧野のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、進叔父さんからもプレゼントが届く。
そしてクリスマス当日はパパやママの親友家族も含めて皆でパーティーをして、そこでもプレゼント交換をするのが毎年恒例なの。
だからサンタさんには何を頼むか迷うんだよね。

「お前らは?」

パパが双子にも尋ねた。
あの2人の欲しいもの、知ってる。
確か、サンタが乗ってるソリ(トナカイ付き)だったよね。
それで空を飛びたいって2人でヒソヒソ話してたんだよ。
なんて考え事をしていたら誠がとんでもないことを言い出した。

「サンタってパパ?」
「「は?」」

パパとママが同時に顔を上げて振り向いた。

「パパはサンタさんなの?」

実まで言い出した。

「な、何言ってんだ! パパがサンタなわけないだろうがっ」
「そうよっ! サ、サンタさんは遠い北の国に住んでるのよ。パパがサンタさんなわけないから!」

誠と実が突拍子もないこと言うから、パパもママも驚いてアワアワしちゃってる。
そりゃそうよ。
サンタさんがパパだなんていう子もいるけど、それは嘘。
サンタさんは信じてる子のところに来てくれるの。
パパだなんて言う子はきっと信じてなかったからパパからしかプレゼントをもらえなかったのよ。
だから自分のパパがサンタだなんて思い込むんだわ。

こういうときは私の出番。

「誠、実、幼稚舎で何か言われたの? サンタさんはいないとか?」
「言われてない。」「ない。」
「サンタさんはね信じてないと来てくれないのよ? 来てくれなくてもいいの?」
「いい!」「いい!」
「じゃ、プレゼントもらえないわよ? いいの?」
「やだ!」「やだ!」
「だったら来なくていいなんて言わないの。信じてないとプレゼントもらえないんだからね。」

私の言葉に誠と実が顔を見合わせてシューンと俯いた。

「わかったらいい。ほら飯終わったんなら風呂入るぞ。」
「「はーい!」」

食事を終えたパパが双子を連れてダイニングを出て行った。









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2019.12.22




つくしと結婚して11年。
つい先日、結婚記念日を祝ったばかりだ。

瀬里が生まれて、クリスマスは別の意味を持つ日になった。
それは俺がサンタになる日。
イブの夜、寝静まった子供たちの枕元に忍び足で近づき、プレゼントを置く。
瀬里が3歳で始めた時は置くだけなら俺じゃなくてもいいじゃんと思ったが、翌朝、目覚めた瀬里は大喜びで、その顔を見ればサンタ役は他のヤツには譲れねぇって気持ちになった。

俺にはサンタの思い出はなかったけど、つくしによると庶民の子供はみんなサンタクロースって存在を信じてて、クリスマスイブの夜、注文した品をそのサンタが届けてくれるんだとさ。
だったら執事でいいじゃん。
年に一度なんて言わずに、欲しいものはいつでもなんでも執事に言いつければいい。
そうすれば翌朝には届いてる。

なんて言ったらつくしに叱られた。
子供にサンタって夢を見させるのも親の役目なんだと。
それにいつでもなんでも欲しいものを与えたりもしないって。
なんでだよ。
欲しいものは手に入る。
それこそが道明寺家の子供の特権なのに。

俺はそうだった。
一瞬でも欲しいと思ったものは何でもすぐに手に入れてきた。
その代わり、飽きるのも秒だったけどな。

だからだったのか。
本当に欲しいものが見えなかった。
自分が何を渇望してるのか、何に飢えてるのか、いや、飢えていることにさえ気づいてなかった。

つくしに出逢うまで。

今思えば俺は、あいつに出逢った瞬間に理解したんだ。
俺が本当に欲しかったのはこいつだったんだって。

つくしが持つ、本物の輝き。
俺の周りにあるイミテーションの鈍重な乱反射じゃなく、強烈な閃光が俺を貫いた。
今でも思い出せる。
あいつが俺に「カエルの大将!」って言い放ったときの瞳の強さを。
初めて本当の意味で俺は人に見つめられたんだ。

そのつくしの瞳が移ろう様を見てきた。
敵意だった視線が寛容を表し始めて、それが困惑に変わり、そしていつからか愛しさを宿してくれた。
「道明寺!」と俺を呼ぶ声も様々に変化した。
怒声だったのが囁きに変わり、その声だけで俺を昂らせるようになったのはあいつが大人になってすぐの頃。

結婚して「司」と呼んでくれるようになって、瀬里が生まれて誠と実を授かって。
幸せってのはこういうもんかと思った。
つまりは俺の幸せはいつもつくしが運んでくれるってことだ。
あいつがいなきゃ、俺に幸せは訪れない。

俺は強欲で貪欲な人間だ。
欲しいと思ったものは明日の朝にはもう欲しい。
だから俺が幸せを欲し続ける限り、つくしはいつでも俺の横にいなきゃダメなんだ。
夜毎あの強い光を甘く蕩けさせて、吐息とともに「司」と呼ばせたい。
自主自立がモットーみたいなあの女を俺に縋りつかせて、あいつにも俺がいなきゃダメなんだと感じさせたい。

でも今はとりあえず、目の前のタスクをこなすことだ。
こいつらが寝ないとつくしとの夜が来ないからな。

「流すぞ。目をつぶって口で息をしろよ。」

子供を風呂に入れるのが瀬里が生まれてからの俺の日課だ。
瀬里が8歳までは誠と実と4人で入ったりもしたんだが、さすがに女の子の瀬里は去年から俺とは入らない。
「みんなで入るのは今日が最後だ」って夜はのぼせるまで風呂場で遊んでたっけ。
子供の成長ってのは早くて、いつまでも小さなままではいてくれないってことを実感した日だった。

今は俺に纏わり付いてるこの坊主たちだって間もなく反抗とかし始めるんだろうな。
それを思えばこの時間の貴重さが身に染みる。

「誠、湯に浸かれ。実、お前の番だ。」

誠はブルッと頭を一振りしてバスに入り、風呂用のおもちゃで遊び始めた。
代わりに出てきた実にシャンプーしてやる。
瀬里は俺に似て癖毛だが、こいつらはつくしに似てストレートだ。
一卵性だから見分けがつかないことがあって、時々、間違うのは男親だから仕方ない。

「ねぇ、パパ、」

背後の誠が話しかけてきた。
なんだ?
もう出たいのか?

「んー? どうした?」
「ママには恋人がいるんだって。」
「……は?」

実の頭をマッサージしていた手を思わず止めて誠に振り向いた。
つくしによく似た丸い瞳が俺をジッと見据えていた。

「誠、今なんつった?」
「だから、ママには背の高い恋人がいて、そいつは雪が降るところに住んでて、クリスマスが来たらママを遠い街に連れて行くんだよ。」

何言ってんだ?
絵本かなんかの話か?

「は…ははっ、ンなこと誰が言ったんだよ。」
「ママだよ。」
「つくしが!?」

つくしが?
恋人がいるだと?

「誠、」

また実に向き直って止まっていた手を動かしながら俺は背後の誠に問いかけた。
怖がらせないように慎重に。

「ママの恋人は背が高くて雪の降るとこに住んでるのか?」
「うん。」
「それで、ママを遠い街に連れて行くって?」
「うんそう。クリスマスになったらサンタになって連れて行くって。だからサンタはパパかと思ったのに違うんでしょ?」
「…違うな。それ、いつ言ってた?」
「今日だよ。ね、実。」
「うん、俺も聞いたー。」

雪が降るとこってどこだ?
北海道…北欧?
俺からつくしを奪う奴がいるのか?
恋人……?
あいつは俺の妻なんだから恋人とは言わねぇだろ。
愛人…浮気相手?
つくしが俺を裏切ってそいつと遠い街へ?

ザワッと鳥肌が立った。

許さねぇ…
許さねぇ 許さねぇ 許さねぇ!!!

全部洗い流して双子を両腕に抱えて風呂を出た。

「まだ遊びたかったぁ〜」「かったぁ〜」

うるせぇぞ。
今夜はもうお前らに構ってる暇はない。
双子をバスローブで包み、バスルームを出て寝室を横切り、リビングに入って内線を掛け、程なくして現れたシッターに双子を預けた。






俺はどうにかして冷静さを取り戻そうとキッチンの冷蔵庫からどっかの谷底から汲み上げたとかいう水の入った瓶を取り出し、そのまま飲み干した。

あいつに付けてるSPから不審な行動の報告は上がってなかった。
つまり庇ってるってことか?
俺一人が何にも知らないで楽しい家族ごっこをやってたってわけかよ。

「ハッ…」

自嘲が漏れて、しかしそれもすぐに引っ込んだ。
結局、あいつにとって俺はその程度ってことなのか?
未だに俺の方があいつに惚れてて、あいつは俺の1/10にも達してないってことかよ。

SPを吊し上げりゃ事実なんてすぐに割れる。
なのに俺はそれをしたくなかった。
あいつに嘘だと言って欲しい。
そんな相手はいないと言って欲しい。

つくし、お前の言うことなら信じるから、だから頼むから違うと言ってくれ。




***




パパや弟たちと一緒にお風呂に入らなくなってから、私はママとお風呂に入ることが多くなった。
もう10歳なんだから一人で入らせろってパパは言うけど、ママは「うちのお風呂は広くて大きくて深いから心配だ」って言って一緒に入ってくれる。
今夜も私の部屋のバスルームで一緒に入って、パジャマに着替えたら髪を乾かしてもらった。
ママはサラサラなストレートのロングヘア。
でも私はパパに似たから天然パーマなの。
誠と実はママ似でサラサラストレート。
いいなぁ。
私もストレートがよかったな。
ママは巻毛って可愛いくて羨ましいって言ってくれるけど、私はサラッて流れるように揺れる長い髪に憧れる。
ママは昔みたいに短い髪型にもしてみたいらしいけど、パパが切らせないんだって。

ママとお喋りしながら私たちの居住空間であるリビングに入った。
その瞬間、部屋の空気が違うことにママも私も気づいた。
部屋の真ん中で、ローテーブルの上に置いた水の瓶を前にして、バスローブ姿のパパがソファの背もたれに両腕を伸ばして座って、じっと私たちを睨んでる。

パパが怒ってる?
なんで?
わからないけど、この静けさはかなり怒ってる証拠だと私ももう知ってる。
ゴクリ…と唾を飲んだのはママと同時だったかもしれない。

「瀬里、自分の部屋に戻れ。」
「えっ…」
「聞こえただろ。行け。」

お風呂上がりにはいつもママがホットミルクを出してくれて、それを飲んでから眠るのが日課だってパパも知ってるのに、その低く冷たい声は今夜はもう終わりだって告げていた。

「…誠と実は?」

問いかけたママの声も少し低くて、パパの発する怒りのオーラにママでさえも緊張しているのがわかった。

「あいつらはシッターと子供部屋だ。瀬里!」

パパの声が大きくなり私は思わず肩を震わせた。

「はい…パパ、ママ、おやすみなさい。」

私は2人に頭を下げて挨拶をしてリビングを出て、自分の部屋じゃなく双子のいる子供部屋に向かった。









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2019.12.23




瀬里とお風呂に入って出てきたら司の機嫌がめちゃくちゃ悪くなってた。

なに?

夕食までにこやかで、和やかにしてたのに。
仕事のこと?
何か悪い知らせがあった?

…でも、彼の怒りはそんなことじゃなくて、何かとか誰かじゃなくてあたしに注がれてるような気がする。

なぜ?

心当たりは全くない。
全くないんだから第一声は大事よね。

「どうしたの? 何かあった?」

お風呂から上がってナイトウェアにガウンを羽織って、瀬里と入った時は先に髪を乾かし、その後いつもなら自分のクローゼットのドレッサーでスキンケアをする。
でも今夜のこの異様な空気の中で、司を置いて別室に移ることは得策ではないと判断し、リビング続きのキッチンに入った。

「コーヒーでも飲む?」

あたしの問いかけに返事もせずに依然としてジッと睨みつけてくる司に、何事もないように声を掛ける。
返事を待たずにあたしはサイフォンを取り出し、冷蔵庫からコーヒー専用の水を取り出した。

「ぅわっ!」

振り向くと音もなく司が背後に移動していて、超至近距離に立っていた。
バスローブから覗く厚くて硬い胸に思わず鼻をぶつけそうになってあたしは仰け反った。

「びっくりしたぁ……な…に…?」

見上げたところにある顔は記憶にないくらい冷たい表情で、彼の心理状態が尋常ではないことを物語っていた。
それでもこの顔を見たことがある。
いつだったか…
あたしは脳内の警報音を聴きながら記憶のページを過去に向けて繰っていく。

そうだ、あの時だ。
はるか昔、まだ司と敵対してた頃、夏休み明けの放課後、非常階段、そして廊下……
あの時と同じ昏い瞳だ。

司はあたしの手から水を奪うとカウンターに置き、あたしの背後のキッチンカウンターに、あたしを囲むように手を着いた。
そして被さるようにして上からあたしを見下ろした。
あたしはこれからなにが起こるのか予測がつかないことに怖気て眉根を寄せたけど、でもそれを悟られないように目に力をこめた。

「お前の恋人は背が高いんだって?」
「……は?」

司から発せられ言葉の意外さに、思わず強張っていた顔の筋肉が緩んだ。
なんて言った?
恋人っつった?

「雪の降る街に住んでて、クリスマスにはサンタになるって?」

司が何のことを言ってるのか理解して、カッと瞬間的に顔が熱くなるのがわかった。
居た堪れなくて思わず視線も顔も逸らした。

「本当…なんだな?」

ギャーー! やめてよ!

「誰に聞いたの?」
「…双子」
「そ、そっか。だから夕食の時にあんたに「パパはサンタか」って聞いたんだ。」

あの2人ぃ〜!
余計なことを告げ口してくれちゃって!

「あの、それは昔のことで、そりゃそんなことを思ったことも何度かあったけど、わ、若気の至りって言うか、いや、違うな。若さ故の妄想とでも言おうか。あの、だからその、もしそうだったら会えるのになーなんて思ったことがあったってことで、もう昔の話だから忘れて!」

あたしは焦るあまり、司の顔も見ずにいつもの癖で目を泳がせながら早口で言い訳を並べた。
だってあたしらしくない乙女チックな思い出を今更蒸し返されたくない。

「昔から何度かだと……いつからだ。」
「え、だから遠距離だったとき…だよ。今はもうそんなこと考えてないよ? さすがに瀬里が生まれてからはないから。」

だってサンタは子供のもんじゃん。
って言おうとあたしはやっと司の表情を伺った。

「っ!?」

な、なんで??
さっきよりさらに凶悪な表情になってる。
青筋が見たことないくらいピクピクと浮かんで、弓形の眉が思い切り眉間に寄って、目は据わって三白眼になっちゃってる。
どうしちゃったの??

「そんなに怒らなくても…」
「昔の話だから? だから俺が許すとでも思ってんのか? まさか瀬里が生まれるまで続いてたとはな…お前それでも母親か? 恥ずかしくねぇのかよ!!」
「なっ…酷い…」

なんでそんな言われ方しなきゃならないの!?
そりゃ日本に残るって決めたのはあたしだけど、だからってちょっとした想像や空想もダメなの?

「だって、さ、寂しかったんだもん。周りはみんなカップルで楽しく過ごしててさ。そんな時に…ちょっとくらいいいじゃない!」

司がなんでこんなことにこんなに怒るのかわからない。
なのに、司はますます顔色を悪くしてカウンターに着いた手がワナワナと震え始めた。
その右手を司がスッと上げたのが視界に映って、殴られる!と思って瞼を強く閉じたその時だった。

ドンドンッ!
   ガチャッ!

「パパ! 誤解なの!!」

飛び込んできたのは瀬里だった。




***




「ねえちゃん!」「ねえちゃん!」

子供部屋に入ると誠と実が駆け寄ってきた。
寝かし付けの最中だったみたいでシッターの久保さんが苦笑してる。

でも双子は私と遊びたくて駆け寄ったんじゃない。
その証拠に2人のママ似の眉が下がってる。

「ね、パパがすごく怒ってたけど、あなたたち、理由知ってる?」
「…………」「………知らない。」

こういう時、誠は黙り込む。実は嘘をつく。
だから2人はパパが怒ってる理由を知ってるんだ。

「何があったの? 言わなきゃクローゼットで遊んでたこと、ママに言うわよ?」

この広い屋敷で双子の今一番ホットな遊び場がパパのクローゼットだ。
パパの服を引っ張り出してはファッションショーさながらに着て練り歩いてる。
パパはやらせとけって言うけど、腕時計のコレクションを触った時はママに激怒されたんだ。

私の脅しに2人は顔を見合わせた。
言うか言わないか迷ってる。

「パパはママに怒ってるのよね? ママが出て行っちゃってもいいの?」
「やだっ!」「だめっ!」
「だったら話して!」

私は双子を部屋の窓辺のソファに誘って3人で座った。
久保さんはそっと隣にあるシッター専用の控え室に入って行った。

「で?」
「ねえちゃん、ママ、遠い街に行っちゃうんだろ?」
「はぁ?? いつよ?」
「クリスマスになったらママの恋人がサンタになって来て、ママを遠い街に連れて行っちゃうんだろ?」

私を挟んで右の誠と左の実が交互に話してくれた。

「あんたたち、それをパパに言ったの?」
「うん。だってママがいなくなっちゃうもん。」「もん!」
「このおバカたち! んもう、それじゃパパは怒るわよ! 大変、止めなきゃ!」

私は2人を残して子供部屋を飛び出して廊下を駆け、リビングのドアを力強くノックした。




***




「パパ! 誤解なの!」

突然聞こえた瀬里の叫び声に、あたしは強く閉じていた瞼を開けた。
見えたのはリビングの扉を開け放ったまま、こちらを見つめている瀬里だった。
飛び込んできた瀬里は自分の部屋から長い廊下を走ってきたのか息を切らしている。
なのにさらにキッチンまで駆け寄り、下された司の腕を取った。

「パパ、違うの! あれは歌なの。ただの歌!」
「瀬里、ママを庇わなくていい。」
「違うんだって! ほら、ママ、歌って!」
「へっ!? 歌?」
「ほらあの、♫恋人がサンタクロースっての!」
「えっ! 今!?」
「照れてる場合じゃない! パパは誤解してるんだから!」
「え?……ええぇ〜〜!!!」

あたしは目の前の夫をマジマジと見上げた。
困惑も露わにあたしと瀬里を見比べている男は、まさかあの歌を知らず、あの歌詞をあたしの浮気だとでも思ったのだろうか。

「え、待って。何が何なの??」
「ママの歌を聴いてた双子が、ママには恋人がいてその恋人がクリスマスにはサンタになってママを遠い街に連れていくってパパに話しちゃったの!」
「はあぁぁぁ!???」

・・・・

「プッ! あははははっ! マジで!?」
「テメェ、何笑ってんだよ!!」

ようやく事態が飲み込めたあたしたち夫婦。
あたしは可笑しくて仕方ないし、司はとんだ誤解に赤面してる。

「ねぇ、パパ、ママが浮気なんてするわけないでしょ? ずっとパパのことが好きなママなんだから。」
「ちょっと、瀬里!」
「ママもさ、歌ってるばかりじゃなくて、たまにはちゃんとパパに気持ちを言わないとダメだよ。」
「だとよ!」
「ぐっ…」
「じゃ、私は寝るね。パパ、ママ、おやすみなさい。」

あたしは司と顔を見合わせた。
ほら、言わなくても顔を見ればわかるじゃない?

「瀬里、待て。ホットミルクがまだだろ?」
「そうよ。双子たちも呼んでみんなでいっしょに飲も?」

ドアに向かいかけた瀬里が振り向いた。
その顔がパッと明るくなって「うん!」と言ってあたしたちの間に飛び込んできた。

瀬里も誠も実も、あたしたちの大切な宝物。
恋人がサンタクロース…本当だったね。
だって、こんなに素敵な宝物を授けてくれたんだから。







「なぁ、つくし、」

誠と実にあたしはどこにも行かないと誤解を解いて、5人でホットミルクを飲んだ。
そして子供たちを寝かし付けた後の夫婦の寝室。
クローゼットで遅まきのスキンケアをして出てきたあたしに、既にベッドに横たわり、片肘をついた夫が声をかけてきた。
あたしはベッドサイドのランプだけを残して部屋の明かりを消して、ベッドに乗り上げた。

「なに?」
「俺がいなくて寂しくて、俺がサンタクロースになってお前をさらいに行くって歌を歌ってたのか?」
「…NYは雪が降るでしょ? 遠い街だし。いつかあんたが迎えにきてくれるんだからって慰めてたわけ。もういいでしょ! おやすみっ」

背を向けて冬の上掛けに潜り込んだあたしを大人しく寝かせてくれるわけがないのはわかってる。
…わかってるし、ちょっと期待してるあたしはあれから十数年が経つのに意地っ張りで天邪鬼なとこは変わらない。

「つくし、寝かせるわけないのわかってて背を向けるなよ。んっとにお前は強がりで意地っ張りだな。」

天邪鬼が抜けてるわよ。
あたしはクルリと寝返りを打って夫に向いた。
ランプの温かな灯りに照らされる男の瞳に先程見た昏さはもうない。
でも普段の優しさもない。
そこに今夜宿るのは、欲深いオスがメスを誘う淫靡な光。

でも欲深はダメだよ?
欲しいものはひとつだけ。
…そう、ひとつだけ。
     ただ、あなただけ。






Music Collaboration
「恋人がサンタクロース」【完】







・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
 メリークリスマス!
 聖なる夜にあなたにもサンタクロースが訪れますように。


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2019.12.24